エイズに関するハイレベル会合に向けた国連事務総長報告 エイズと社会ウェブ版563  

 

 世界中どこに行っても(自粛中で行ってないけど)、関心と不安はコロナに集中している印象です。エイズまで心配していられないよという気分になるのもまあ、分からないことはありません。ただし、これは実は40年の歴史の中で何回も経験してきたことでもあります。不安の一点豪華主義と言いますか、人間の心のキャパシティというものが関係しているのかもしれません。

 もちろん、そうした事情をウイルスに説明して、ひとつおてやわらかに・・・などとお願いしてみてもしょうがないのでしょうね。こういう時期にこそ、パンデミック対策の相乗効果を重視しつつ、持続可能性を追求していく戦略眼が必要になります。

 エイズ流行40年の節目となる今年6月、ニューヨークではエイズに関する国連総会ハイレベル会合(8-10日)が開かれる予定です。

 会合に先立ち、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が3月31日付の報告書『不平等の解消に取り組み、2030年のエイズ終結に向けた軌道に戻る』を総会に提出しました。なかなか見つからなかったのですが、つい先日、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトでも掲載されたので紹介しておきましょう。 

 f:id:miyatak:20210430095127p:plain

hlm2021aids.unaids.org

 ただし、報告書は英語、フランス語、スペイン語、中国語、ロシア語、アラビア語版です。残念ながら日本語版はありません。せめて・・・ということで、UNAIDSのサイトに掲載された短い紹介文だけ日本語に訳してみました。

 また、報告書の中心的な内容である10項目の事務総長勧告については、UNAIDS『エイズに関する国連総会ハイレベル会合 ブローシュア』の日本語仮訳版がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に載っています。そちらで比較的、詳しく紹介してあるので、よかったらご覧ください。

api-net.jfap.or.jp

 

 以下は、事務総長報告の紹介文の日本語仮訳です。

   ◇

不平等の解消に取り組み、2030年のエイズ終結に向けた軌道に戻る

 国連事務総長報告

  HIV対策は、一定の地域や人口集団で大きな成果をあげてきたものの、他の場所では十分な行動をとることができなかったことから、結果として流行の拡大を許し、死者が増加する事態を招いています。国連総会が全加盟国の一致で2030年のエイズ終結という野心的な目標を設定してから6年が経過し、その勢いは失われつつあります。2016年のエイズ終結に関する政治宣言で合意した世界の2020年ターゲット(中間目標)は達成できずに終わりました。

 分野によっては目覚ましい成功をおさめながら、他の分野では失敗に終わるという際立った明暗は、HIVが依然として不平等のパンデミックであることを示しています。グローバルなエイズコミュニティとUNAIDSは、新たな、そして大胆な戦略を打ち出すために、不平等に焦点を当てました。新ターゲットは、必要な支援から最も遠ざけられてきた人たちに、その支援が真っ先に届けられるようにするため、野心的であると同時に、きめ細かなものになっています。6月のエイズに関するハイレベル会合では、野心的かつ新たな2025年ターゲットを含む戦略を進めるための重要な機会です。一連のターゲットの達成には、不平等を解消するための緊急かつ革新的な行動、およびHIV、保健、社会的保護、人道支援パンデミックへの備えと管理に向けた国内資金および国際的な投資を増やす必要があります。

 

 

ADDRESSING INEQUALITIES AND GETTING BACK ON TRACK TO END AIDS BY 2030

Report of the Secretary-General

 

There has been intensive action and progress against HIV in some places and population groups, while inaction in other places has allowed HIV epidemics to expand and deaths to mount. Six years after the United Nations General Assembly set an ambitious global goal to end AIDS by 2030, momentum is being lost. Global targets for 2020, agreed in the 2016 Political Declaration on Ending AIDS, were missed.

 

The stark contrast of successes in some areas and failures in others confirms that HIV remains a pandemic of inequalities. The global AIDS community and UNAIDS have used an inequalities lens to develop a bold new strategy, with new targets that are ambitious, granular and tailored to reach the furthest behind first. The upcoming High-Level Meeting on AIDS provides a critical opportunity to advance this strategy, which includes new, ambitious global targets for 2025. Achieving these targets will require urgent, transformative action to reduce and end inequalities, as well as increased domestic and international investment in HIV, health, social protection, humanitarian responses and pandemic preparedness and control systems.

 

UNAIDSブローシュア『エイズに関するハイレベル会合:不平等に終止符を、そしてエイズ終結を』 エイズと社会ウェブ版562

 エイズに関する2021年国連総会ハイレベル会合(6月8~10日)に向けて、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が概要をコンパクトにまとめたブローシュアを作成しました。翻訳に少し時間がかかりましたが、なんとか連休前に日本語仮訳版を作成したので、参考までにご覧ください。
 API-Net(エイズ予防情報ネット)で日本語PDF版をダウンロードできます。タイトルは『エイズに関するハイレベル会合:不平等に終止符を、そしてエイズ終結を』です。

  f:id:miyatak:20210427213548j:plain

api-net.jfap.or.jp

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響でバーチャル中心の開催になりそうですが、エイズの流行開始から40周年、2001年の国連エイズ特別総会から20周年の節目の会合です。
 ブローシュアには、アントニオ・グテーレス国連事務総長による10項目の勧告を中心にして、2030年のエイズ終結に向けた世界の現状、および2025年を達成年とする新たなターゲット(中間目標)などが説明されています。
 国際社会はこれまで、2020年を達成年とする90-90-90ターゲットを目指していましたが、実現には至りませんでした。なおかつその最終年である2020年にはCOVID-19の流行という新たなパンデミックが登場し、世界はいまなお厳しい試練に直面しています。
 その試練はまた、HIV/エイズ対策にとっての大きな危機であり、同時に転機でもあるということが苦い経験とともに明らかになってきました。
 ただし、それはいままでの努力はご破算ですねという意味での転換を迫るものではありません。逆にこれまでの経験を踏まえ、粘り強く積み上げてきたHIV/エイズ対策の成果を継続させることができるかどうか、そして同時にその経験を他のパンデミック対策(とりあえずCOVID-19ですが)に生かすことができるかどうかが問われるという意味での転機です。
 一般向けには少々、理屈っぽい印象は免れない感じもしますが、ある程度、理念的な領域に踏み込まざるを得ない切迫感といったものも含め、ブローシュアはハイレベル会合の観戦ガイドとして役立ててもらえるのではないかと思います。
 API-Netにはほかに『UNAIDS 2025年エイズターゲット』『UNAIDS 世界エイズ戦略2021~2026 序文と報告書要旨(executive summary)』という関連2文書の日本語仮訳も掲載されています。 

api-net.jfap.or.jp

 api-net.jfap.or.jp

 ざっくり説明すると、2025年に向けた新ターゲット(2025年エイズターゲット)があり、その達成を中心になって担う立場のUNAIDSがその実現に向けた戦略を発表し、さらに国連総会のハイレベル会合で政治宣言が採択されれば、新ターゲットがHIV/エイズ分野における2025年までの国連全加盟国、つまり国際社会の共通目標になるという段取りです。
 内容的に重なっている部分もありますが、並べてみると「ああ、そういうことですか」と分かってくることもありそうです。この冬から春にかけて外出は極力、散歩程度に抑え、一心不乱に翻訳に取り組みました。参考にしていただければ幸いです。

 

『ありがとう、幸せだった』 エイズと社会ウェブ版561

 ぷれいす東京の理事で、同性婚訴訟の原告でもあった佐藤郁夫さんが亡くなったのは今年1月18日です。もう3カ月が過ぎました。2月7日にはオンラインで佐藤さんを偲ぶ会が開催され、「常時約300人が視聴し、のべ1566回の再生があった」ということです。
 遅くなって恐縮ですが、連載コラム One Side/No Side48「ありがとう、幸せだった」は改めて佐藤さんとパートナーの義さんについて書きました。現代性教育研究ジャーナルNo.121(2021年4月15日)の11ページに載っています。

f:id:miyatak:20210419145742j:plain

 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202104.pdf

 《義さんは偲ぶ会の最後のあいさつで「行動を共にしてたくさんの人と出会ったことは幸せだった。バトンを引き継いでいただけると思うと、うれしくもあり、パートナーとして HIV のことも、同性婚訴訟も引き続きがんばってやっていきたい」と語っている》
 同性婚に関し、佐藤さんには無念の思いもあったかもしれません。それでもきっと、義さんには「ありがとう、幸せだった」と言っているのではないかと私は思います。

 

“LIFE WITH VIRUS”:ニューヨークの古橋悌二 エイズと社会ウェブ版560

 ウイルスがいるのは、いまに始まったわけじゃないよ・・・というごくごく当たり前の指摘をしたいわけでもないのでしょうが、2日ほど前から“LIFE WITH VIRUS”: Teiji Furuhashi in New York というイベントのお知らせをFacebookでみかけるようになりました。旧知の皆さんからの紹介でもあり、非常に心惹かれるイベントのようではあるけれど、何があるのかちょっと分かりにくい。

 この際、ニューヨークのVisual AIDSのサイトにある大元のUPCOMING EVENTを見てみましょう。 

visualaids.org

 当然ながら、英文です。したがって、英語に不自由なおじさんとしては、どうもまだ分かりにくいですね。もう、この際ついでに・・・ということで、勝手に日本語仮訳を作成しました。

 ああ、なるほど、4月30日にトークのイベントがあって、それを中心に4月26日から5月30日までは、『S / N』のビデオが公開されるということのようです。

 顔ぶれからしても、トークイベントは日本語と英語が飛び交うことになりそうですが、ちゃんと日本語、英語両方の逐次通訳が付いていますね。ありがたい。

 おそらく自宅蟄居の時期でしょうから、観てみようかな。Free(無料)って書いてあるし。

 以下、くどくど説明するより、勝手に訳したお知らせをご覧いただきましょう。

 (仮訳で紹介されている日時はおそらく米東部時間であり、しかも今はサマータイム中です。日本からトークイベントに参加しようと考えておられる方は時差を計算してください)

 

“LIFE WITH VIRUS”:ニューヨークの古橋悌二

ビデオ上映とオンラインZOOMイベント

 ZOOMイベント:2021年4月30日午後8時~10時(注:たぶん米東部時間)

 ビデオ上映:2021年4月26日(火)~5月9日(月)(注:こちらもたぶん米東部時間)

 

 日本のアーティストであり、エイズ活動家でもあった古橋悌二(1960–1995)について、ビジュアルエイズ(Visual AIDS)の国際研究員である日本人キュレーター、秋田翔がオンラインで話をします。古橋はパフォーマンス集団ダムタイプの創設メンバーです。

 ニューヨークと京都で古橋悌二が進めた文化交流に光を当て、秋田翔の司会により、有名なアーティストでセックスワーカーのアドボケートであるブブ・ド・ラ・マドレーヌ、作曲家の山中徹(別名DJララ)、ニューヨーク近代美術館で古橋の作品を集めたキュレーターのバーバラ・ロンドンらが会話に参加します。(参加者略歴は上のタブを参照)

 

また、ビジュアルエイズは4月26日から5月9日まで、ダムタイプの1994年のパフォーマンスS / Nの特別上映をオンラインで実施します。S / Nは日本のエイズ危機に大きな刺激を与えた作品です。90分のビデオを見るには、イベントの出欠確認を行ってください。参加者に電子メールでリンクを送信します。このドキュメントがオンラインで公開されるのは今回が初となります。

登録はこちらで。 https://www.eventbrite.com/e/life-with-virus-teiji-furuhashi-in-new-york-tickets-148996569751

 

 ダムタイプ1984年、京都と大阪で活動する15人の芸術専攻学生らが創設。ダンスとパフォーマンスをマルチメディアインスタレーションと組み合わせた実験的な劇場プロジェクトを展開しました。グループの中心である古橋悌二は、たびたびニューヨークを訪れ、 ジョン・ケリー、リプシンカといったアーティストとともに、ピラミッドクラブでドラァグパフォーマンスを行っています。古橋はイーストビレッジのナイトライフの精神を京都にも持ち込み「Diamonds Are Forever」と呼ばれるドラァグパーティーを毎月、開催。そのパーティは今も続いています。

 ニューヨークで遭遇したエイズアクティビズムにも触発され、古橋は日本のエイズアクティビズムの第一人者となりました。 1992年にはニューヨークで数カ月を過ごした後で、京都に戻り、古橋は友人らに「LIFE WITH VIRUS」という手紙を送っています。HIVに感染していることを明らかにし、エイズを取り巻くスティグマと道徳規範について考えるためでした。この手紙は、ダムタイプが日本のエイズ危機に対峙する新たなパフォーマンスの制作を促し、S / Nが生まれました。「シグナル(信号)」と「ノイズ(雑音)」を構造化のメタファーとし、ゲイのアイデンティティスティグマセックスワーク、border politics(政治の境界領域)について議論することで、エイズに沈黙を続ける日本の状況に挑戦したのです。2つのレベルのセット、精巧な振り付け、ライブビデオとプロジェクションを組み込んだパフォーマンスは、世界20都市以上でツアーを行い、絶賛されました。

 

 アクセスノート:会話には英語と日本語の両方の逐次通訳があります。また、英語のライブキャプションも入ります。

 

 このプログラムは、ビジュアルエイズの国際キュレーター研究員プログラムの一環として、日本のキュレーター秋田翔と共同で開催します。翔はバーチャル滞在期間中に中に、ニュートークにおける古橋の足跡を調査し、古橋が日米間で進めた交流活動のアーカイブ作りに取り組んでいます。翔の研究についてはビジュアルエイズのブログでおランください。

 https://visualaids.org/blog/introducing-sho-akita

ビジュアルエイズのキュレーター研究員制度は、Residency Unlimitedと共同で開発され、一部は国際交流基金ニューヨーク日本文化センターの助成を受けています。また、本プロジェクトの実現を可能にしたDumbTypeとNormalScreenに感謝します。

 

 

“LIFE WITH VIRUS”: Teiji Furuhashi in New York

VIDEO SCREENING AND ONLINE ZOOM EVENT

 

For our International Curatorial Residency with Japanese curator Sho Akita, Visual AIDS presents an online conversation about the work and activism of Japanese artist Teiji Furuhashi (1960–1995), a founding member of the performance collective Dumb Type and an outspoken AIDS activist in Japan.

This program brings together friends of Teiji Furuhashi from Japan and the US to shed light on the cultural exchange that he facilitated between New York and Kyoto. Participants include the renowned artist and sex worker advocate Bubu de la Madeleine, composer Toru Yamanaka (aka DJ Lala), and the curator Barbara London, who acquired Furuhashi’s work for the Museum of Modern Art. Moderated by Sho Akita. (Please see the tab above for participant biographies.)

From April 26 to May 9, Visual AIDS will host a special online presentation of Dumb Type's 1994 performance S/N, a provocative response to the AIDS crisis in Japan. A private screening link for the 90 minute video will be emailed to attendees who RSVP for this event. This is the first time that documentation of S/N has been presented online.

Please RSVP to receive the screening and event links.

Founded in 1984 by fifteen art students working in Kyoto and Osaka, Dumb Type’s experimental theater projects combine dance and performance with ambitious multimedia installations. Teiji Furuhashi, a central figure in the group, visited New York frequently, performing in drag at the Pyramid Club alongside artists like John Kelly and Lypsinka. He brought the ethos of East Village nightlife to Kyoto, starting a monthly drag party called “Diamonds Are Forever” that continues to this day.

Inspired in part by the AIDS activism he encountered in New York, Furuhashi became a leading voice in Japanese AIDS activism. In 1992, after spending several months in New York, Furuhashi returned to Kyoto and sent a letter to his friends and collaborators titled "LIFE WITH VIRUS," sharing his HIV status and reflecting on the stigma and morality surrounding AIDS. The letter prompted Dumb Type to develop a major new performance responding to the AIDS crisis in Japan. Titled S/N, the performance used the the notion of a “signal to noise” ratio as a structuring metaphor, challenging Japan’s silence about AIDS with explicit discussion of gay identity, stigma, sex work, and border politics. Incorporating a two-level set, elaborate choreography, live video, and projection, the performance was critically acclaimed and toured to more than twenty cities around the world.

 

Access Note: The conversation will include live, consecutive interpretation in both English and Japanese. Live captioning will also be available in English.

 

This program is organized with Japanese curator Sho Akita as part of Visual AIDS’ International Curatorial Residency program. During his virtual residency, Sho will research Furuhashi’s time in New York, building an archive of the creative exchange that Furuhashi facilitated between Japan and the United States. Read more about Sho's research on the Visual AIDS blog.

Visual AIDS’ curatorial residency was developed in partnership with Residency Unlimited and is supported in part by a grant from the Japan Foundation, New York. Visual AIDS thanks Dumb Type and Normal Screen for making this project possible.

自分が良貨であるなどとは言わないけれど

 午後10時からテレビのニュースを見ていたら、コロナ対策に関連して、キャスターもコメンテーターも、検査に力を入れ、無症状の感染者の「あぶりだし」を急げなどと繰り返していました。
 少なくともご本人は、それなりのジャーナリストであることを自負されている方々なのだと思いますが、政治家か無神経な専門家と称する方たちの説明をそっくりそのままいただいて得々と語られているのでしょうね。言葉のプロがワーディングに意を用いることがなくなれば世も末であります。

 少なくとも私は、あなたにあぶりだされたくはないよ。 
 最近は「Ending AIDS」を当然のようにして「エイズ撲滅」と訳す人もいる。げっ。まあ、前からいることはいたけれど。あぶりだされ、撲滅の対象にされ・・・いちいち説明するのも疲れてきました。

 

世界エイズ戦略2021~2026『不平等に終止符を、そしてエイズ終結を』(要旨だけでも日本語で) エイズと社会ウェブ版559

 ちょっと前の話になりますが、3月25日に開かれた国連合同エイズ計画(UNAIDS)のプログラム調整理事会(PCB)で、世界エイズ戦略2021~2026『不平等に終止符を、そしてエイズ終結を』が採択されています。今後5年間の世界のHIV/エイズ対策の指針になる文書です。

 100ページもあるので、とても全部は訳せませんが、せめて序文と要旨(executive summary)だけでも・・・ということで、10ページちょっとの日本語仮訳PDF版を作成しました。API-Net(エイズ予防情報ネット)でご覧ください。 

api-net.jfap.or.jp

 f:id:miyatak:20210412215513j:plain

《世界のエイズ対策は「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を2030年までに達成することが大目標なのですが、現状は残念ながらその達成軌道を外れています。したがって新戦略は、エイズ流行の最大の拡大要因である「不平等」の解消に焦点を当て、世界をエイズ終結の軌道に戻すことを目指しています。また、HIVとCOVID-19の2つのパンデミック対策の相乗効果を高めることの重要性も強調しています》

 UNAIDSは昨年11月26日、世界エイズデーに向けて発表した報告書『人びとを中心にすえ、パンデミックに打ち勝つ(Prevailing against pandemics by putting people at the centre)』の中ですでに、2021年から2025年までの5年間の中間目標であるエイズターゲット2025を明らかにしています。

 2020年を達成年としていた90-90-90ターゲットにかわる新たな目標ということですが、ここでまたさらに新しいエイズ戦略が出てくると、2025年までのターゲットがあって、1年違いの2026年までの戦略があって・・・。もう、何が何だか、おじさんは混乱して訳が分からなくなっちゃうぞ。いったい、どうなっているの? と例によって心の中で愚痴を言いながら訳していると、(注5)に次のような説明がありました(日本語版は3ページをご覧ください)。

 『世界エイズ戦略は2021年から2026年までの期間をカバーしているが、2025年末までに達成すべき目標とコミットメントが中心となる。2026年にはその結果を検証し、2030年までの次期戦略の開発を行う必要がある』

 早い話が、戦略の中身は基本的にエイズターゲット2025です。なんだ、訳して損したという気がしないこともありませんが、戦略を読むと、どういう考え方でターゲットがつくられるに至ったのかということが、だんだん分かってきます。それなりの役割分担はできている。無駄ではなかった。ま、そう受け止めておきましょうしょう。

 ここで改めて整理しておくと、エイズターゲット2025は、2025年までに達成すべきターゲットで、6月8-10日に開催される国連総会ハイレベル会合で政治宣言が採択されれば、2030年のエイズ終結に向けて、国連全加盟国(ということはつまり国際社会が一致して)取り組むべき5年間の中間目標となります。

 UNAIDSの世界エイズ戦略は、そのエイズターゲット2025の実現をはかることが目的であり、同時に2025年までの成果を検証し、次の(2030年までの)新ターゲットにつなげる役割も担っているので1年間のずれを用意しておかなければならないということのようですね。

 6月に政治宣言が採択されれば、おそらく夏の間にその内容を簡潔に説明した冊子やグラフィックがUNAIDSから公表されるのではないかと思います。 

プレゼンにも使えそう アニメーションビデオ『世界三大感染症?』 エイズと社会ウェブ版558

 コロナウイルス感染症COVID-19について報道されない日はありませんが、最近は世界三大感染症といわれても、え?なんだっけ・・・とついつい忘れてしまいそうになります。これはまずいよね。感染症対策は1点豪華主義的な発想では対応していけません。
 共通する課題をうまくつなげていかなければ・・・。
 そう思っていたら、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)の国内応援団として活動するグローバルファンド日本委員会(FGFJ)が、グローバルファンドと共同でアニメーションビデオ『世界三大感染症?』を制作しました。
 

fgfj.jcie.or.jp

 フルカット版(3分24秒)と30秒版の2バージョンがあり、それぞれJCIE YouTubeチャンネルでみることができます(JCIEはグローバルファンド日本委員会の運営主体「日本国際交流センター」の略称です)。
 そもそも、世界三大感染症とはエイズ結核マラリアのことでありまして、この3つの感染症に焦点をあてたグローバルファンドができたのはどうしてなのかといいますと・・・といったことは、フルバージョン版で分かりやすく、そしてきっちりと説明されています。
 はぁ~、仕事きっちり・・・。
 相変わらず、おじさんのギャグが滑るのはお見逃しいただくとして、ここは内容をくどくどと説明するより、ビデオを観てもらった方が早いですね。 

www.youtube.com


 『グローバルファンドをご紹介いただくときなどの動画資料としてもご活用いただけます』ということです。これは、助かりますね。

 『また、グローバルファンドが活動を通して得たノウハウやネットワークが、新型コロナウイルスのような新たな感染症の対策にどのように生かされているのかなどについても少し触れています』
 その少し触れている部分で紹介されているのが、『サプライチェーン』『情報システム』『人材』の3つです。改めて日本国内のコロナワクチン供給体制にも思いを巡らせてみましょう。こうした課題は実は、途上国のみが抱えているわけではなかったということが、はしなくも、そしてひしひしと感じられます。

 時節柄、リモート会議などで、世界の(そして国内の)感染症対策について話し合う機会も多いのではないかと思います。ちょっと悪知恵をつけるようで恐縮ですが、プレゼンの際には30秒バージョンを紹介し、その後で(実はフルバージョンで仕入れた)背景情報でうんちくを傾けるみたいな使い方もありかもしれません。
 かゆいところに手が届くようなグッジョブというべきでしょう。