日本エイズ学会が『濾紙検体を用いた HIV 検査の適正な提供に関する声明』 エイズと社会ウェブ版557

 日本エイズ学会が3月25日付で『濾紙検体を用いた HIV 検査の適正な提供に関する声明』を発表しました。エイズ学会の公式サイトには、3月26日のニュース欄で紹介されています。

jaids.jp

 

 全国の保健所が新型コロナウイルス感染症の対応に追われていることもあって、保健所などで実施しているHIV検査の受検者数は昨年来、大きく減少しています。保健所自体が多忙につき、HIV検査は休止状態になってしまうところが多く、検査を受ける側の人も、いまはちょっと・・・と受けることをためらってしまうという事情もあるのでしょう。

 「検査を受けようかなあ」「でも、どうしようかなあ」と迷っている人がいたとして、「不要不急の外出は避けてください」などというメッセージが伝えられれば、「不急と言えば、不急だしなあ、たぶん」と背中を押す・・・じゃなかった、背中を引っ張られちゃうことにもなります。

 早期診断から治療の開始と継続、そして体内のウイルス量抑制へとつながる予防対策の入り口としても郵送による検査がいま改めて注目されているのは、そんな世の中の事情があるからかもしれません。

 『濾紙検体』というのは、その郵送検査などで使われている方法です。私は医学的な検査や治療にはまったくの素人だし、郵送検査というものの利用者であったこともないので、あまりよく知らないのですが、平たく言えば濾紙に血液をしみこませて送れば検査して、その結果を通知してくれるということでしょうか。人と会う必要がない分、心理的な負担は小さくなり、受けやすい検査とされています。

 日本エイズ学会の声明は、検査を必要とする人が検査を受けられない(あるいは検査をためらってしまう)現状を「看過できる状況ではありません」として、検査の機会を増やす選択肢としての郵送検査の普及を肯定的に評価したうえで、「濾紙血による郵送検査を実施する場合の適正な提供に関して、下記のような提言」を行っています。

   ◇

1.濾紙血による郵送検査は、スクリーニング検査の前段階の検査と位置づけられるの

で、陽性となった場合には、必ず保健所もしくは医療機関での再検査を受けるよう利用者に周知すること。

2.濾紙血による検査は、血漿を利用する通常の検査に比べ感染初期の検出感度が劣ることから、感染機会があった時期から 3 ヶ月以上期間をあけた後に検査するよう周知すること。

3.濾紙血による郵送検査で陰性となった場合にも、感染リスクのある場合には、後日再検査を受けるよう周知すること。

   ◇

 予防の必要性、重要性を強調しようとする思いが強いからなのでしょうが、声明には「いきなりエイズ」だとか「検査難民」だとか、無神経な用語が相変わらず平気で使われています。その感覚には、本当にうんざりします。何とかならないものかとも思います。それでも、上記3点の提言事項については賛同します。

 検査は基本的に、医療を必要とする人が、自らの感染を認識し、その必要な医療を受けられるようにするために行うものだろうと素人考えながら私は思います。「かかってなくてよかった」と安心するためのものではありません(安心したい気持ちは分かるけど)。

 その意味で、1番目の提言で指摘されているように「スクリーニング検査の前段階」として位置づけることは、郵送検査が「安心したい」という需要に対応する役割を担い、一連の検査の流れの中で、他の機関の負担を軽減することにもつながります。

 同時に数は少ないかもしれけれど「陽性になった場合」の対応も大切です。

 じゃ、どうしたらいいのか。ここは保健所や医療機関だけでなく、相談やサポートの機能を担う全国のNPOやコミュニティセンターの機能を高め、活用できるようにしてほしい。個人的には常々、そう考えていました。

 国際的なHIV/エイズ対策ではDifferentiated Care(またはDifferentiated  Service )の重要性が指摘されることが最近はよくあります。日本語にしにくい用語ですが、一応「受け手の事情に応えられる分化型のケア(あるいはサービス)」などと訳しています。

 受け手にとって、病院や保健所がサービス提供の主体である場合もあれば、その他の担い手が対応した方がはるかに使い勝手がいい場合もあります。医療の資源を疲弊させないという意味でも、全国のNPOやコミュニティセンターがその機能を担えるよう足腰を強くしていく必要がある。項目1には、コロナの現状もにらみつつ、そこまで読み込んだ対応を期待したいところです。

 もう一つ、提言では取り上げられていない郵送検査の課題として、検査の結果は必ず検査を受けた本人が伝えるという大原則が守られていないのではないかという危惧があります。この点は以前から指摘されてきたことなのですが、いまなお懸念は払しょくされていないように思います。上記3点に加え、目配りをお願いしたい課題なので、付け加えておきます。

 

 

『40年前の教訓を生かす』 TOP-HAT News第151号(2021年3­月) エイズと社会ウェブ版556

 2021年はエイズ流行から40周年の節目の年であり、6月8~10日にはHIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合が予定されています。この会合も2001年6月に国連エイズ特別総会が開かれ、コミットメント宣言が採択されてから20年の節目になります。

 国連総会は2001年のコミットメント宣言の採択以来、そのコミットメント(約束)がどこまで果たされているか(あるいは果たされていないか)を5年ごとに検証する機会を設けてきました。5年に1度なので、今回が4回目ということになります。

 会議の名称はその時々で異なりますが、最近はハイレベル会合と呼ばれています。ニューヨークの国連本部に各国の指導者が集まってこれまでのHIV/エイズ対策の成果を総括し、新たな対策の方向性を示す宣言が採択されるのが通例です。今回も政治宣言の採択に向けて準備が進められているようですね。4月中にはおそらく、その宣言に様々な立場の関係者の意見を反映できるようにするためのヒアリング(公聴会)も開かれる予定です。

 10年後の2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結」を果たせるかどうか、そのために2025年までの5年間は何をしたらいいのか。2020年末時点での総括は、世界がエイズ終結の軌道からは大きく外れてしまっているという苦い結論になりました。その外れた軌道を5年間で何とか達成軌道に戻せるかどうかということですね。

 そして、その中で新たな新興感染症パンデミックであるCOVID-19への対応をどう位置付けていくか。この点もHIV/エイズに関する政治宣言2025に向けた議論のもう一つの焦点になりそうです。

 新型コロナウイルスの世界的流行という困難な事態に直面する中で、新たな道筋を探るにはエイズ対策の40年の経験をいまこそ生かす必要がある・・・ということで、TOP-HAT News第151号(2021年3月)の巻頭は『40年前の教訓を生かす』としました。ちょっと遠回しの書き方になってしまい、歯切れはよくないかもしれませんが、こういう時期には逆に歯切れと威勢ばかりよさそうな議論(たとえば、言うことを聞かなきゃ罰則だ、感染者は取り締まれみたいな・・・)には要注意という教訓もおそらく付け加えておく必要があるでしょう。

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第151号(2021年3­月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 40年前の教訓を生かす 

2  6月8~10日に開催、HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合 

3 Living Together オンライン 

4  IAS2021もバーチャル開催に  

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1 はじめに 40年前の教訓は生かせるのか

 エイズの流行は今年6月で40周年を迎えます。米疾病対策センター(CDC)が発行する死亡疾病週報(MMWR)は1981年6月5日号で、ロサンゼルスの5人のゲイ男性が、ニューモシスティス肺炎(当時はカリニ肺炎と呼ばれていた)という若い男性には極めて珍しい肺炎に罹患したことを報告しています。

その時点で報告があったということは、ロサンゼルスでゲイ男性の診療にあたるお医者さんが「ちょっと変だぞ」気が付かなければなりません。つまり、少なくともロサンゼルスでは6月5日より前にニューモシスティス肺炎が広がっていたということでもあります。

また、その肺炎を含むいくつかの病気が著しい免疫機能の低下によって引き起こされることが推定され、いくつかの症状を総称してAIDS(後天性免疫不全症候群)と呼ぶようになるのは、報告から1年余りたってからでした。

したがって、エイズの流行の「開始」をいつにするのかは微妙です。それでも、どこかに線を引かなければならないということなのでしょうね。国際的には一応、最初の症例報告があった1981年6月5日を起点としましょうということになっています。

米国政府のHIV/エイズ情報サイトHIV.govには、詳細な『HIVエイズ年表』(英文)が掲載されていますが、この年表の記述も1981年6月5日のMMWR報告から始まっています。

www.hiv.gov

 HIV.govの年表によると、報告された5人のうち2人は報告時点ですでに死亡しており、残る3人も報告のすぐ後で亡くなりました。

 参考までにもう少し年表をみてみると、6月5~6日にはAP通信やロサンゼルスタイムス紙、サンフランシスコクロニクル紙がMMWR報告について報道し、CDCには全米各地からゲイ男性のニューモシスティス肺炎、カポジ肉腫、およびその他の日和見感染症例が集まっています。ニューヨークでも、若い人には珍しい皮膚がんであるカポジ肉腫の症例がその前年から増え始めていたようです。

 CDCは最初の症例報告から3日後の6月8日、ニューモシスティス肺炎・カポジ肉腫・その他の日和見感染症に関するタスクフォース(専門委員会)を発足させ、まだ名前もついていなかった謎の病気のサーベイランスを行うために症例定義の作業を開始しています。

 エイズ対策の初期には、当時のレーガン米政権の動きが鈍く、対応が遅れたと批判されることもしばしばありました。実際にレーガン大統領が公式の場で初めて「エイズ」について言及したのは1985年9月17日の記者会見です。その2週間後にはハリウッドスターのロック・ハドソンエイズで亡くなっています。流行の開始、つまり最初の症例報告からは実に4年以上もたっていました。

 政権トップのキャラクターや言動とは別に、現場のお医者さんや担当セクションの専門家らは懸命に動いていたのですが、それでも流行の拡大を抑えることはできなかった。40年の時を経て、いまはどうでしょうか。あくまで米国内の政策に限った話で言えば、COVID-19対策の最初の1年間とよく似ている。そんな印象を受けないこともありません。

 新興感染症の流行は未知との遭遇の連続です。とりわけ初期対応は難しい。HIV.gov年表によると、1981年末までに337件の厳しい免疫不全症例の報告があり、このうち130人はすでに亡くなっていました。

 そしてCDCのタスクフォースは翌1982年4月13日、すでに数万人がこの謎の病気に罹患しているとの推定を明らかにしています。最初の症例報告から10カ月、まだAIDSという名前もついていない段階での推計でした。 

 

2  6月8~10日に開催、HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合

 エイズ40周年の節目に開かれる『HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合』の日程が6月8~10日に決まりました。2001年6月の国連エイズ特別総会の後、ほぼ5年に1度の間隔で開かれているフォローアップの会合は、20年後のいまもなお、開催の意義を失っていません。

 これまではニューヨークの国連本部に各国代表団が集まって開かれていましたが、今年は新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響でオンラインによるバーチャル会議になる可能性もあります。一方で、各国の討議を通じHIV/エイズの教訓をCOVID-19対策に生かすことも期待されています。開催決定を歓迎する国連合同エイズ計画(UNAIDS)は国連総会で開催日程が確定した2月25日付けで歓迎のプレス声明を発表しています。エイズソサエティ研究会議のHATプロジェクトのブログに声明の日本語仮訳が掲載されています。こちらでご覧ください。

https://asajp.at.webry.info/202103/article_2.html

 

3 You Tubeで逢いましょう Living Togetherオンライン

 新型コロナウイルス感染症の流行で、2006年から新宿二丁目で続けられてきた『Living Together のど自慢』の開催が困難になっていることから、NPO法人aktaがYou Tubeチャンネルを活用した新企画『手記リーディングLiving Togetherオンライン』をスタートさせました。

 Living TogetherはHIV陽性者やその周囲の人の手記を他の人が朗読するイベントです(実は手記を書いた人が朗読していることもサプライズであります)。『Living Together のど自慢』はその手記リーディングと読んだ人のコメント、そしてカラオケ(手記を読んだ人が自ら選んだ曲を歌う)を合体させた参加型イベントです。

 のど自慢がなかなか開けない現状は残念ですが、致し方ありません。ただし、新企画は密を避け、オンラインで手記リーディング、および読んだ人の感想や体験をじっくり聞ける時間を確保しています。歌とは異なる魅力を発掘する機会になるかもしれません。aktaの公式サイトから、オンラインリーディングにアクセスしてください。

 https://akta.jp/

 

 4 第11回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2021)もバーチャル開催に

 国際エイズ学会(IAS)が主催するHIV科学会議(IAS Conference on HIV Science)は2年に1回、国際エイズ会議の間の年に開かれています。第11回となる今年の会議(IAS2021)は7月18-21日の4日間、ベルリンで開催される予定でしたが、新型コロナ感染症COVID-19の流行を考慮し、バーチャル開催に変更されました。

 昨年の第23回国際エイズ会議(AIDS2020)に続き、IASの主要会議は2年連続してバーチャル開催となります。会議の公式サイト(英文)はこちらです。

 https://www.ias2021.org/

 

 

 

それでも扉は開いている 東京都エイズ通信第163号

 東京都エイズ通信第163号(2021年3月30日)が配信されました。新規HIV感染者・エイズ患者の報告数は減少の傾向が続いています。

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● 令和3年1月1日から令和3年3月21日までの感染者報告数(東京都)
  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者  53件    (70件)

AIDS患者   16件    (17件)

  合計   69件   (87件)

HIV感染者数及びAIDS患者は昨年度よりも減少している。

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 参考までに、前回の報告数(1月1日~2月21日)はHIV感染者34件、エイズ患者11件でした。つまりこの1カ月でHIV感染者19件、エイズ患者5件の新規報告が確認されたことになります。感染の確認は治療や支援の入り口であり、それが結局は感染拡大の防止にもつながります。
 この時期にHIV検査の機会がまがりなりにも確保されている。この点をまず評価すべきでしょう。

『2つのパンデミックに対応する米国の大胆な支援を歓迎』(UNAIDS) エイズと社会ウェブ版555

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行に対応するための米国救済計画法(American Rescue Plan Act 2021)は3月11日、議会可決を経てバイデン大統領が署名して成立しました。総額1.9兆ドルの予算は、すでに報じられているように米国内の追加経済対策が中心ですが、国際的な感染症対策への投資も含まれています。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月18日付けで歓迎のプレス声明を発表したのもそのためですね。

www.unaids.org

 『法律には110億ドル近いCOVID-19対策の国際投資が含まれ、多くの命を救うことになります。米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)に2億5000万ドル、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)には35億ドルが割り当てられています』

 UNAIDSによると、この資金により『HIV結核マラリア対策で苦労して獲得してきた成果の喪失が防げる』ということです。

 HIVに焦点を当てていえば、「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を2030年までに達成するという国際社会の共通目標に向けて、検査や治療の普及はかなり進み、一定の成果はあがっています。

 21世紀が始まったころには、途上国で抗レトロウイルス治療を受けられる人は30万人か40万人程度でした。2003年12月にスタートした3by5計画では、2005年末までに300万人が治療を受けられるようになっていることが目標でしたが、当時は「とても実現できない」と思われていました。

 プレス声明によると、それがいまは『世界の3800万人のHIV陽性者のうち2600万人はすでに生命を救うことができる治療を受けています』ということです。「一定」どころか、信じがたいほどの成果をあげてきたわけですが、それでも2020年末に締め切りが設定されていた中間目標(90-90-90ターゲット)には到達できませんでした。

 頑張ったけれど、本当の勝負はいよいよこれからだ。そんな状態のときにコロナのパンデミックが発生し、これからどころか、いままでの成果も一挙に失われてしまいかねない状態です。

 したがって、米国による今回の・・・といったことが、プレス声明には書かれています。日本語仮訳を作成したので、ここでくどくどと説明するよりも、以下の仮訳をお読みいただいた方が速そうですね。

 

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エイズ終結に向けて構築された対策の基盤を強化、活用することで、COVID-19対策も健康の維持に向けた成果の最適化をはかることができます。2019年11月、ジンバブエ。Credit: UNAIDS/Cynthia Matonhodze

 

『2つのパンデミックに対応する米国の大胆な支援を歓迎』 UNAIDSプレス声明

 

ジュネーブ 2021年3月18日 総額1.9兆ドルの米国救済計画法が成立したことを国連合同エイズ計画(UNAIDS)は心から歓迎します。この歴史的な法律により、米国および世界中がCOVID-19に対応するために強く望んでいた救済策の提供が可能になります。

 法案には110億米ドル近いCOVID-19対策の国際投資が含まれ、多くの命を救うことになります。米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)に2億5000万ドル、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)には35億ドルが割り当てられています。この投資によりHIV結核マラリア対策で苦労して獲得してきた成果の喪失が防げることになります。

 「米国はいま、国内でもCOVID-19がもたらす壊滅的な打撃に対応しています。その中で国際的な対策への支援を行うことは、とりわけ称賛に値します」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長はいう。「米国救済計画法により、エイズをはじめとする世界的な大流行との闘いにしっかりと関与していくことを改めて証明したのです。エイズ終結とCOVID-19の克服という共通の目標に向け、米国と緊密に協力できることを期待しています」

 米国の超党派による寛大な支援は、エイズパンデミック対策に大きな成果をあげてきました。過去18年にわたり、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)とグローバルファンドを通じて続けてきた投資が変革をもたらし、何百万、何千万件のHIV感染を防ぎ、たくさんの人命を救ってきました。抗レトロウイルス治療を受けているHIV陽性者は、長く健康的な生活を送れるようになり、HIVの新規感染とエイズ関連の死者数は減少しています。ただし、その減少のペースはまだゆっくりとしたものです。

 「大きな成果をあげてきたにもかかわらず、流行は終わっていません。エイズは依然として世界的な保健に関する緊急事態です」とビヤニマ事務局長は語っています。

 世界全体ではまだ、あまりにも多くの人が取り残されています。それでも平均の数字では現実が隠されてしまうのです。UNAIDSの2016–2021年戦略、および国連総会のエイズ終結に関する2016年政治宣言では、HIVの予防と治療に関する2020年までの高速対応目標を掲げてきましたが、目標は達成できませんでした。多くの国とコミュニティが、2030年までのエイズ終結に向けた軌道に乗っていないのが現状です。

 世界の3800万人のHIV陽性者のうち2600万人はすでに生命を救うことができる治療を受けています。治療を続けていればHIVが広がることも抑えられるので、予防対策としても有効です。しかし、残る1200万人はその治療を受けられずにいます。HIVの新規感染率は、とりわけサハラ以南のアフリカで暮らす思春期の少女と若い女性、およびキーポピュレーションの人たちの間では高いままです。2019年には、世界中で170万人が新たにHIVに感染し、69万人がエイズ関連の病気で亡くなっています。対策が届きにくい人たちの間でとりわけ新規HIV感染とエイズ関連の死亡の割合が高いことは、さらに対策の集中力を高めていかなければならないことを示しています。COVID-19の影響でHIV対策への負担がさらに大きくなる中で、このことは二重の意味で大切です。

 「世界のエイズ対策は、COVID-19以前から軌道に乗ってはいませんでした。 COVID-19の脅威がどこまで広がるのか、まだ検証されているわけではありませんが、これまでのHIV対策の貴重な成果を逆転させてしまう恐れがあります。この複合的パンデミックに対しては、HIVの検査・予防・治療のギャップを埋める努力を加速させつつ、同時にCOVID-19の拡大を抑えていかなければなりません」とビヤニマ・事務局長は述べています。「HIV対策の改善が、どこで、どうして、誰のために必要なのかを把握することによって、HIVの流行拡大を促す各国間および各国内の不平等が明らかになりました。対策が成果をあげている場所や集団と失敗している場所や集団とのコントラストは、HIVがいまなお不平等のパンデミックであることを示しています。取り残されている人びとに到達するための新たな目標がグローバルエイズ戦略2021〜2026に含まれているのもそのためです」

 幸いにも、HIV対策を加速させるための投資が、COVID-19対策を犠牲にすることにはなりません。むしろ、その最も重要な部分を支えています。COVID-19と闘っている国々は、HIV対策の20年以上にわたる経験を通して構築されたシステムや人的資源、ノウハウ、研究機関を活用し、HIVの教訓をコロナ対策にも適用しているのです。

 エイズ終結に向けて構築された対策の基盤を強化、活用することで、COVID-19対策も健康の維持に向けた成果の最適化をはかることができます。HIV対策の経験をてこにしてCOVID-19の影響からも回復をはかることができるのです。

 「COVID-19に対する米国の新たな投資は、低中所得国に住む多くの人の命を救い、HIVやCOVID-19、その他の健康緊急事態においてケアの提供を可能にする医療システムの強化に役立つのです」とビヤニマ事務局長は付け加えました。

 

 

 

UNAIDS welcomes bold support from the United States of America in response to colliding pandemics

 

GENEVA, 18 March 2021—UNAIDS warmly welcomes the passing of the US$ 1.9 trillion American Rescue Plan Act. The historic legislation will deliver much-needed relief in the light of COVID-19, both in the United States of America and around the world.

The bill’s inclusion of nearly US$ 11 billion for global investments in COVID-19 will help to save many lives. The allocation of US$ 250 million for the United States President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR) and US$ 3.5 billion for the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria (Global Fund) will help to prevent hard-won progress against HIV, tuberculosis and malaria from being reversed.

“The support of the United States for the global response to COVID-19 is highly commendable, particularly as it grapples with the devastating impact of COVID-19 at home,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “With the American Rescue Plan Act the United States proves again its steadfast commitment to the AIDS response and to fighting other global pandemics. We look forward to continuing our strong partnership with the United States in our shared commitment to end AIDS and to overcome COVID-19,” said Ms Byanyima.

Generous bipartisan support from the United States has allowed great strides to be made against the AIDS pandemic. Investments made by the United States over the past 18 years through PEPFAR and the Global Fund have proved transformational—they have prevented millions of HIV infections and saved the lives of millions of people. People living with HIV who are on antiretroviral therapy can now enjoy long, healthy lives and the number of new HIV infections and AIDS-related deaths are on the decline, although the rate of decline is still far too slow.

“Despite the tremendous successes, the work is unfinished. AIDS remains an urgent global health crisis,” said Ms Byanyima.

Global averages conceal the reality that too many people are still being left behind. The world did not reach the 2020 Fast-Track prevention and treatment targets committed to in the UNAIDS 2016–2021 Strategy and the United Nations Political Declaration on Ending AIDS. Many countries and communities are not currently on track to end AIDS by 2030.

While 26 million of the 38 million people living with HIV are accessing life-saving treatment, which doubles as prevention by stopping the spread of the virus, another 12 million remain without. The rate of new HIV infections, especially for adolescent girls and young women in sub-Saharan Africa and members of key populations, remains high. In 2019, a further 1.7 million people worldwide were newly infected with HIV and 690 000 people died of AIDS-related illnesses. The rate of new HIV infections and deaths, especially among the hardest to reach populations, means that continued success requires greater effort, focus and commitments. This is doubly true as COVID-19’s impact puts added pressure on the HIV response.

“The global response to AIDS was off track prior to COVID-19. Unchecked, COVID-19 threatens to reverse valuable progress made against HIV. This confluence of pandemics requires an acceleration of efforts to close the gaps in HIV testing, prevention and treatment while working to stop COVID-19’s spread,” said Ms Byanyima. “Identifying where, why and for whom the HIV response could be improved has illuminated the inequalities, within and between countries, that contribute to the spread of HIV. The stark contrast of success in some places and among some groups of people and the failure in others confirms that HIV remains a pandemic of inequalities. That is why the new global AIDS strategy 2021–2026 contains new targets to help us reach those who are being left behind.”

Fortunately, investments in accelerating the HIV response do not come at the expense of the COVID-19 response, but rather support many of its most critical requirements. Nations combatting COVID-19 are already applying lessons learned from the HIV response, using the systems, human resources, know-how and laboratories built over the past two decades.

Efforts to reinforce and leverage the infrastructure built to end AIDS can optimize the health impact and sustainability of the response to COVID-19. Leveraging the experience of the HIV response offers a unique opportunity to build back better from COVID-19.

“These new investments from the United States in COVID-19 will save many lives in low- and middle-income countries and help strengthen the health systems that deliver care for HIV, COVID-19 and other health emergencies,” added Ms Byanyima.

 

 

HIV感染報告が大きく減少・・・エイズ動向委員会報告 2020年速報値 エイズと社会ウェブ版554

 厚生労働省の第156回エイズ動向委員会が3月16日(火)、オンラインで開催され、2020年の新規HIV感染者・エイズ患者報告の年間速報値が明らかになりました。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

 

 新規HIV感染者報告数 740件(過去20年で17番目)

 新規エイズ患者報告数  336件(過去20年で16番目)

  合計        1076件(過去20年で17番目)

 

 2000年以降の報告の推移をグラフにすると次にようになります。

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 夏の終わりには確定値が発表される予定です。今回の速報値より少し増えるでしょうが、それでも年間報告の合計は前年(1999件)よりも大幅に減って、1100件を下回りそうです。2003年以来のことですね。感染者報告は700件台でしょう。前年の確定値は合計が1236件、感染者報告は903件でした。

 エイズ患者報告数はほぼ横ばいなので、結果として、エイズを発症するまで、感染に気付かなかった人の割合は高くなります。参考までに、HIV感染者報告数とエイズ患者報告数の合計が1500件に達した2007年以降の報告数の一覧表も観ていただきましょう。

 

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 合計報告数に占めるエイズ患者報告の割合は2019年までかなり下がってきていましたが、昨年はリバウンドしています。

 それにしても・・・と思います。エイズを発症したことでHIV感染が分かる人の割合が31%を超えてしまいましたか。保健所などでのHIV検査の件数もHIV相談の件数も大幅に減少しました。

 正直なところ、HIV検査や予防啓発を担当する現場の皆さんの工夫で、感染報告の減少も、よくこの程度で抑えられたと個人的には思います。それでも、コロナの流行の影響は顕著だと考えざるをえません。

 

 

 

おじさん閑居して、火に油を注ぐ・・・

 新型コロナウイルス感染症の流行に対する緊急事態宣言の解除を菅首相が発表しました。その首相記者会見の席で、若者に情報をどう伝えるかといった内容の質問が紋切型であり、首相の答えも、SNSを使って・・・みたいな紋切型でした。
 私ならどう答えるか、考えてみました。
 例えば・・・、ずいぶん前の、しかも内輪のアイデア出しの段階とはいえ、渡辺直美さんに対する心ない演出のアイデアが批判を受け、辞職した東京オリンピックパラリンピックの開会式・閉会式の責任者がいらっしゃいます。この方にコロナ対策のプロモーション動画の制作指揮を依頼し、渡辺直美さんにはご本人から直接、しっかりとお詫びをしたうえで、メインキャラクターとして渡辺さんに登場していただくというのはいかがでしょうか。

 何かと評判の悪い高齢のおじさん層による場当たり的な提案なので、顰蹙を買うのは覚悟の上。それでも、首相より1歳年下なので、1年分は若者の感覚に近いかもしれないと思ったのですが、あまり変わらないか。

 それにしても、このところ、どうも後味のよくない話題が多い。もう少し、のびのびやってもいいのではないでしょうか・・・と思ってしまうのも、おじさん的感性のなせる業かもしれません。最近は肩身が狭いよ。

 

『就任初日の署名文書』 エイズと社会ウェブ版553

 世の中に心配事の種が尽きないせいでしょうか。米国のバイデン政権が発足してからまだ、2カ月足らずですが、随分、昔のことのように感じられます。それなりに安定した政権運営で最初の100日を進めているということかもしれません。
 ジョー・バイデン大統領は政権発足の初日に17本の行政文書(大統領令、覚書)に署名しています。あれも変えなきゃ、これも戻さないと・・・ということで、大忙しだったんでしょうね。現代性教育研究ジャーナルの連載コラムOneside/Nosideの第47回では、その17本の中でもとくに『性自認性的指向に基づく差別防止および差別との闘いに関する大統領令』に注目しました。
 No.120(2021年3月15日発行)の19ページに載っています。 

www.jase.faje.or.jp


 『誰であるか、誰を愛しているかに関わりなく、すべての人が尊敬と尊厳を持って扱われ、恐れることなく暮らせなければならない』

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 新政権の初日はニュースが盛りだくさんで、マスメディアも報じるべきことがたくさんあるのでしょうね。この大統領令が大きく報道されることはなかったようですが、政権の発足時点でセクシュアリティをめぐる基本的な考え方を示すことの意味は小さくありません。

 ステレオタイプの書き方になってしまいますが、日本の指導者、ちょっと辛いなあ・・・と改めて思う。これもトランプさんがいなくなったことの副次効果というものでしょうか。