初日に政治宣言を採択 エイズに関する国連総会ハイレベル会合 エイズと社会ウェブ版573

 いささか旧文に属するのかもしれませんが、安全安心・・・じゃなかった、記憶と記録のために書いておきましょう。5年に1度のエイズに関する国連総会ハイレベル会合が6月8-10日にニューヨークの国連本部で開かれ、初日8日の全体会議で政治宣言が採択されました。

 これまではHIV/エイズ分野の政治宣言はコンセンサス(国連全加盟国が投票を行わずに賛成)で決まることが多かったのですが、今回はロシアがハームリダクションに関する部分など3カ所の修正を求めたことから、投票による採択となりました。

 コロナの影響でバーチャルとのハイブリッド開催だったのに加え、今回はちょっと異例の展開ですね。反対は結局、4カ国(ロシア、ベラルーシ、シリア、ニカラグア)だけで、圧倒的多数の賛成で政治宣言は採択はされています。内容や文言に関しては、総会の開幕以前に、加盟国だけでなく様々なステークホルダー(関係者)による議論が何カ月にもわたって重ねられ、3次にわたる草案が示されていただけに、ロシアの対応に対しては「何をいまさら」という感じだったようです。

 冷戦の終結からしばらく、そして天安門事件からもしばらくの間とは異なり、保健や人の命にかかわる問題に関しても、世界は再びコンセンサスですんなりまとまるわけにはいかない時代に入っているようですね。

 それはともかくとして、HIV/エイズの困難なパンデミックに対し、世界は今後、少なくとも2025年までの5年間、この新たな政治宣言によって承認された2025年エイズターゲット、およびその実現を支える世界エイズ戦略2021-2026に沿って進められることになりました。

 2025年エイズターゲット、および世界エイズ戦略2021-2026の報告書要旨はAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に日本語仮訳で紹介してあります。

 

api-net.jfap.or.jp

  

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 政治宣言そのものについては、持って回った表現の多い国連の採択文書を訳すのは少々、面倒だなあと思っていたら、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が当日、プレスリリースを発表しています。渡りに舟ということで、こちらも日本語仮訳を作成し、PDF版でAPI-Netに載せていただきました。上記2文書に加え、このリリースがあれば、だいたい感じがつかめるのではないかと思います。少々、手抜きの感もあり、恐縮ですがよろしく。

api-net.jfap.or.jp

 

 個人的には、リリースの中の次の指摘に注目しました。

『また、HIV陽性者やHIV感染のリスクに直面している人たち、HIVに影響を受けている人たちの間でスティグマと差別を受ける人の割合を10%未満に減らすこと、そのためにundetectable = untransmittable(U-U、ウイルス量が検出限界値未満ならHIVは感染しない)という考え方を広げることも約束しています』

 文章自体が、また・・・で始まる追加的な言い方ではあるのだけれど、HIVに関連した「スティグマと差別を受ける人を減らす」ことを目的に『U=U』の考え方の普及をはかる。そのことの重要性が政治宣言により国連加盟国の共通の了解事項となりました。もちろん、日本政府もこの宣言に賛成しています。

 個人的な話に戻って恐縮ですが、私はU=Uの考え方について全面的に賛成しているわけではありません。医療の分野の人たちがU=Uを語るときの語り口に同床異夢のような居心地の悪さを感じることがあるからです。また、U=Uなんだから、治療薬があれば、もうコンドームでもないだろうと、あからさまには言わないまでも、示唆するような言動にもしばしば接することがあります。この辺りは、宣言ではコンビネーション予防の大切さを強調することでカバーしていますが、違和感は残ります。

 それでも、なぜU=Uなのかを明確にし、U=Uを提唱することの限界も認識したうえでなら、もう一歩、U=Uの考え方の普及に踏み込むべきかなあと、いまは思っています。

 

 

『40年の節目に発表されたUNAIDS報告書で、エイズ終結が可能なエビデンスを提示』 エイズと社会ウェブ版572  

 

 今日はエイズの最初の症例報告が米疾病管理予防センター(CDC)の死亡疾病週報(MMWR)に掲載されてから40周年の節目になります。国連合同エイズ計画(UNAIDS)はその2日前の6月3日に年次報告書を発表し、エイズ流行40年の歴史を振り返るとともに、コロナというもう一つのパンデミックがパラレル(同時並行的)に進行する中で、2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を目指すうえでの課題についても言及しています。www.unaids.org

 

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 報告書の主要部分は現在、翻訳作業中ですが、なにせ私の翻訳能力と気まぐれな性格を考えると、訳し終わるまでにはかなり時間がかかりそうです。

 しばしの間、お待ちいただくとして、つなぎといいますか、とりあえず・・・プレスリリースの日本語仮訳を作成しました。末尾に載せておきます。報告書の方向性はある程度、つかんでいただけるのではないかと思います。

 リリースの見出しをみると「40年が過ぎました。エイズ終結が可能なエビデンスを報告書は示しています」ということなのですが、どうかなあ。

 個人的には、国際的にも、国内でも、「エイズはもういいだろう感覚」が、がんがん広がっている感じがするので「可能ではあるかもしれないけれど、厳しいかなあ」と思います。

 『懲罰的な法律がある国々、懲罰や無視、差別、スティグマに対し人権に基づく保健アプローチを採用していない国々が、世界の新規HIV感染の62%を占めるキーポピュレーションを置き去りにし、社会から疎外してHIVサービスを届けられないようにしている』

 リリースによると、報告書はこの点を強調しています。90-90-90ターゲットという数値目標を掲げて、後は医療に任せろと大見得を切ったところで、問題は解決しない。社会的な課題に取り組むことの大切さは改めて指摘しておく必要があります。

 しごく当然な認識に回帰した印象ですね。医療を軽視しているわけではありません。感染症対策における医療の重要性は改めて指摘するまでもなく、極めて重要なのだけど、それぞれの専門性を尊重したうえで、その重要性をいかんなく発揮してほしいといったところでしょうか。コロナの流行以前から分かっていたことではありますが、そうした認識のもとで、エイズとコロナという2つのパンデミックが同時進行する事態への対応を考え、シナジー(相乗効果)を高めていく必要がありそうです。

 UNAIDSの年次報告特設サイトには、プレスリリースとともに『エイズ流行、世界の現状2020』というパワーポイント資料も紹介されています。その一部も日本語仮訳で紹介しておきましょう。

   ◇

世界のHIV陽性者数   3760人 (3020万~4500万人)

    成人       3590万人(2890万~4300万人)

       女性(15歳以上) 1920万人(1550万~2300万人)

       子供(15歳未満)  170万人 (120万~ 220万人)

 

年間新規HIV感染者数   150万人(110万~210万人)

     成人        130万人( 94万~180万人)

       女性(15歳以上)  67万人(46万~94万人)

       子供(15歳未満)  16万人(10万~2万4000人)

 

エイズ関連の死亡者数   69万人(48万~100万人)

      成人             59万人(40万~88万人)

       女性(15歳以上)  25万人(17万~37万人)

       子供(15歳未満)  10万人(6万9000~16万人)

 

新規感染者数は1日平均4100人

・ 58%がサハラ以南のアフリカ地域

・ 10%は15歳未満の子供

・ 90%は15歳以上の成人、このうち:

   - 50%は女性

  - 30%は若者(15~24歳)

  - 19%は若い女性(15~24歳) 

 

    ◇

 コロナの流行の影響はこれまでのところ限定的な印象を受けます。ただし、死者数も新規感染者数も減少のスピードが遅くなっているかもしれません。世の中のいまの雰囲気だと、これからの数年間でエイズ終結に向かうどころか、流行再拡大という事態に直面する可能性も低くはなさそうです。

 

 以下、プレスリリースの日本語仮訳です。

 

 

40年の節目に発表されたUNAIDSの新たな報告書で、エイズ終結が可能なエビデンスを提示

 UNAIDSは、国連総会ハイレベル会合における大胆な政治宣言の採択を世界の指導者に要請。会合は来週、ニューヨークおよびオンラインで開催され、2025年エイズターゲット達成と2030年のエイズ終結を約束する

 

ニューヨーク/ジュネーブ 2021年6月3日 エイズの最初の公式症例が報告から40年、UNAIDS の新たなデータによると、すでに何十もの国が2016 年に設定された国連総会ターゲット(2020年までの中間目標)を達成、または上回っています。このことは、目標が単に野心的なだけでなく、世界全体で達成可能でもあることを示すものです。

報告書によると、革新的な法律と政策、そして強力かつ包摂的な保健システムを備えた国が最も高いHIV対策の成果を上げてきました。これらの国では、HIV 陽性者やHIVに影響を受けている人たちにとって、HIV検査や曝露前予防服薬(HIV感染を防ぐ薬)、ハームリダクション、HIV治療薬の複数月処方、質の高いケアの継続といった効果的なHIVサービスが利用しやすくなっています。

 「高い成果を上げた国の経験は、他の国の参考になります」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「適切な資金を投じコミュニティが本当に関与できるようにすること、人権を基本にして多部門のアプローチを行うこと、科学的なエビデンスに基づき戦略の焦点を定めることが、流行を拡大から縮小へと転じ、多くの人の命を救ったのです。こうしたことは、パンデミックへの備えにも、HIVやCOVID-19その他数多くの病気に対応するためにも、非常に大切な教訓になります」

報告書によると、世界中で治療を受けている人の数は、2010年当時と比べ3倍以上に増えています。2020年には、HIV陽性者3760万人のうち2740 万人が治療を受けているのです。2010年には780 万人でした。手頃な価格で質の高い治療が普及したことで、2001年以降に推定1620万人の死亡が回避されてきました。

死亡者数は抗レトロウイルス治療の導入により大きく減少しています。 2020年のエイズ関連死亡者数は69万人で、2010年当時より43%減です。HIVの新規感染数も減っていますが、そのペースは遅れています。2010年の210 万人に対し、2020年は150万人でした。

懲罰的な法律がある国々、懲罰や無視、差別、スティグマに対し人権に基づく保健アプローチを採用していない国々が、世界の新規HIV感染の62%を占めるキーポピュレーションを置き去りにし、社会から疎外してHIVサービスを届けられないようにしている。報告書はこの点を強調しています。たとえば、世界の70カ国近くが同性間の性関係を犯罪とみなしています。ゲイ男性など男性とセックスをする男性、セックスワーカートランスジェンダーの人たち、受刑者、注射薬物使用者は、医療や社会サービスへのアクセスがほとんどないか、まったくない状態に置かれ、社会で最も弱い立場に置かれた人びとの間でHIV感染が広がる結果を招いているのです。

サハラ以南のアフリカに住む若い女性も取り残されたままです。この地域の15-19歳の若者の新規HIV感染は7件中6件が女性で占められています。サハラ以南のアフリカでは15-49歳の女性の最も大きな死亡原因はエイズ関連の病気なのです。

 COVID-19は過去数十年の間に得られた保健、開発分野の成果が脆弱な基盤の上に成り立っていたこと、そして世界がまぎれもなく不平等であることを明らかにしました。世界が2030年のエイズ終結を目指す軌道に戻るために、グローバルなエイズ コミュニティとUNAIDSは不平等に焦点を当て、2025年までに新たなターゲットの達成を目指す、野心的で実現可能な戦略を打ち出しています。不平等に終止符を打つには、いま取り残されている人たちにサービスを届けられるHIV対策が必要です。

 それができれば、このターゲットは、2025年までにHIVサービスを必要とする人の95%にそのサービスを提供し、年間の新規HIV感染者数を37 万人未満、そしてエイズ関連の死亡者数を年間25万人未満に減らすことになります。2025年までに必要な投資は年間290億ドルです。世界エイズ戦略の実施に1ドルの投資があれば、健康上のリターンは7ドルを超えます。

UNAIDSは、エイズに関する第5回国連総会ハイレベル会合(2021年6月8-10日)の政治宣言で、このターゲットの達成を約束するよう国連総会に要請します。

パンデミックへの備えと対策への投資を減らしている余裕は世界にはありません」とビヤニマ事務局長は述べています。「いま、この瞬間を捉え、エイズ終結に必要な行動を取る。国連総会がその約束をするよう私は強く求めます」

 

 

 

Forty years on and new UNAIDS report gives evidence that we can end AIDS

 

UNAIDS urges world leaders to adopt a bold political declaration on HIV at the United Nations General Assembly High-Level Meeting on AIDS, being held in New York and online next week, and to commit to achieving a new set of targets for 2025 to end AIDS by 2030

 

 

NEW YORK/GENEVA, 3 June 2021—Four decades after the first cases of AIDS were reported, new data from UNAIDS show that dozens of countries achieved or exceed the 2020 targets set by the United Nations General Assembly in 2016—evidence that the targets were not just aspirational but achievable.

The report shows that countries with progressive laws and policies and strong and inclusive health systems have had the best outcomes against HIV. In those countries, people living with and affected by HIV are more likely to have access to effective HIV services, including HIV testing, pre-exposure prophylaxis (medicine to prevent HIV), harm reduction, multimonth supplies of HIV treatment and consistent, quality follow-up and care.

“High-performing countries have provided paths for others to follow,” said Winnie Byanyima, the Executive Director of UNAIDS. “Their adequate funding, genuine community engagement, rights-based and multisectoral approaches and the use of scientific evidence to guide focused strategies have reversed their epidemics and saved lives. These elements are invaluable for pandemic preparedness and responses against HIV, COVID-19 and many other diseases.” 

Globally, the report shows that the number of people on treatment has more than tripled since 2010. In 2020, 27.4 million of the 37.6 million people living with HIV were on treatment, up from just 7.8 million in 2010. The roll-out of affordable, quality treatment is estimated to have averted 16.2 million deaths since 2001.

Deaths have fallen in large part due to the roll-out of antiretroviral therapy. AIDS-related deaths have fallen by 43% since 2010, to 690 000 in 2020. Progress in reducing new HIV infections has also been made, but has been markedly slower—a 30% reduction since 2010, with 1.5 million people newly infected with the virus in 2020 compared to 2.1 million in 2010.

The report underscores that countries with punitive laws and that do not take a rights-based approach to health punish, ignore, stigmatize and leave key populations—which make up 62% of new HIV infections worldwide—on the margins and out of reach of HIV services. For example, almost 70 countries worldwide criminalize same-sex sexual relationships. Gay men and other men who have sex with men, sex workers, transgender people, people in prison and people who inject drugs are left with little or no access to health or social services, allowing HIV to spread among the most vulnerable in society.

Young women in sub-Saharan Africa also continue to be left behind. Six out of seven new HIV infections among adolescents aged 15–19 years in the region are among girls. AIDS-related illnesses remain the leading cause of death among women aged 15–49 years in sub-Saharan Africa.

COVID-19 has shown the fragility of the health and development gains made over the past decades and has exposed glaring inequalities. To get the world on track to end AIDS by 2030, the global AIDS community and UNAIDS have used an inequalities lens to develop an ambitious and achievable strategy with new targets to reach by 2025. Ending inequalities requires HIV responses that can reach the populations currently being left behind.

If reached, the targets will bring HIV services to 95% of the people who need them, reduce annual HIV infections to fewer than 370 000 and AIDS-related deaths to fewer than 250 000 by 2025. This will require an investment of US$ 29 billion a year by 2025. Each additional US$ 1 of investment in implementing the global AIDS strategy will bring a return of more than US$ 7 in health benefits.

UNAIDS urges the United Nations General Assembly to commit to the targets in a new political declaration on HIV at the fifth United Nations General Assembly High-Level Meeting on AIDS, taking place from 8 to 10 June 2021.

“The world cannot afford to underinvest in pandemic preparedness and responses,” said Ms Byanyima. “I strongly urge the United Nations General Assembly to seize the moment and commit to taking the actions needed to end AIDS.”

 

『HIV検査相談マップ』リニューアル TOP-HAT News 第153号(2021年5月) エイズと社会ウェブ版571

 あまり目立ちませんが6月の最初の1週間はHIV検査普及週間であり、6月1日から30日までは、東京都のHIV検査・相談月間です。 

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 コロナが流行っているから、HIVは感染するのを遠慮しておこうという考えは、おそらくウイルスの側にはないでしょうから、コロナの流行は、他の感染症に対する関心の低下を招くという意味でHIVのひそかな感染拡大要因になり得ます。

 一方で、コロナ対策に伴う行動変容が、HIV感染の機会を減らす結果になれば、流行の抑止効果も期待できないわけではありません。ただし、短期的にはともかく、長期的な視点に立てば、抑止効果はあまり期待しない方がいいのではないかと思います。

 普及週間や検査・相談月間とは時期的に少し先行するかたちになりましたが、今年は厚労省の研究班(「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」)が運営するウェブサイト『HIV検査相談マップ』もリニューアルされました。 

www.hivkensa.com

 TOP-HAT News第153号(2021年5月)は、巻頭でそのリニューアルについて紹介しています。梅毒など他の性感染症の情報提供も充実しているようなので、まずは上記サイトをご覧ください。

 HIV検査と梅毒の検査の相乗効果という点では、東京都南新宿検査・相談室が3月6日に移転し、名称も新宿東口検査・相談室に改められたこともここで再度、お知らせしておく必要がありそうですね。 

www.tmsks.jp

 東京都HIV検査・相談月間中(6月1~30日)に新宿東口検査・相談室でHIV検査を受ける人は、希望があれば梅毒だけでなく、性器クラミジア・淋菌検査も無料で受けられるということです。

 若い人たちに必要な情報を伝えるにはどうしたらいいのか。これはいま、コロナ対策でも大きな課題となっています。

 この点は、支援を必要とする人たちに最も近い場所で地道な努力を積み重ねてきたHIV対策のノウハウとインフラから(あるいはうまくいかなかった経験からも)、その大きなヒントを得ることができそうです。なにしろ40年にわたるパンデミック対策の経験が蓄積されています。感染経路や症状の違いにより、同列には論じられないことももちろんありますが、社会的な対応に関しては驚くほど共通する部分もあります。

 そうした仕分けには、専門家の知見と政治の関与が大きな力になることもHIV/エイズ対策の中でしばしば指摘されてきました。

 ただし、コロナ対策の現状は、政治の関与に専門家があおられ、政治はその意見をつまみ食いしているような傾向もまた、無きにしもあらず、なのではないか。外野席から見ていると、そんな印象も受けます。

 もちろん、外野席(あるいは大スタジアムの客席の隅っこ)に座っているだけでも、周囲の環境によって、コロナウイルスの感染リスクが高まることはありそうなので、早くワクチンを打ちたいのだけど・・・ということで、最後はついつい高齢者の発想に戻って、焦り始める。

 もうちょっと落ち着けないものか・・・自らを省みて、この点がやや残念ではあります。

 

 

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第153号(2021年5月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆ 

1 はじめに 『HIV検査相談マップ』がリニューアル 

2 『梅毒にご用心2021 』 

3 第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集 

4 国連ハイレベル会合の解説ブローシュア日本語仮訳版 

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1 はじめに 『HIV検査相談マップ』がリニューアル

 HIV検査の普及をはかるため厚生労働省の研究班(「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」)が運営しているウェブサイト『HIV検査相談マップ』がリニューアルされました。

 https://www.hivkensa.com/

  全国のHIV検査・相談のための施設や検査イベントの紹介、HIVの基礎知識などの情報に加え、梅毒などHIV感染症以外の性感染症情報も大幅に追加されているのがリニューアルサイトの特徴です。

 『これって性感染症?』『梅毒って、なに?』の2つのバナーを設け、専門医が分かりやすく解説するYou Tubeの動画も掲載されています。

 HIV対策の観点からいえば、検査の普及はHIVに感染している人が自らの感染を知るという意味で、治療の出発点になり、HIV陽性者が健康と社会生活を長く保つためにも不可欠です。また、体内のウイルス量を低く抑えることで、他の人への性感染のリスクもなくなります。治療の進歩が可能にしたこうした成果を強調し、HIV陽性者やHIV感染の高いリスクに曝されている人たちへの差別や偏見をなくすために、最近はU=U(Undetectable = Untransmittable、検出限界値未満なら感染はしない)というキャンペーンが、国内でも国際的にも展開されています。

 まず検査。治療も予防も、話はそこから広がっていくというわけですね。

 ただし、HIV検査を受けましょうということだけを強調しても、なかなか普及は進まないという少々、悩ましい事情もあります。「あの手、この手」という言い方は誤解を招きやすいので控えるとしても、検査を必要とする人たちが、「やっぱり受けてみようかな」と自らその必要性を認識し、安心して検査を受けられるようにする。そうした条件を整える工夫は大切です。

 また、最近は代表的な性感染症の一つである梅毒が国内で急速に広がっていることもしばしば指摘されています。『HIV検査相談マップ』の『梅毒ってなに?』のページにも「梅毒報告の年次推移(2014→2019)」「2019年梅毒 性別・年齢階層別報告数」の2つのグラフが紹介されているので、ご覧ください。

 https://www.hivkensa.com/syphilis/

  若い人たちに情報を伝えるにはどうしたらいいのか。HIV感染症対策として蓄積されてきた検査普及のノウハウとインフラの活用はその有力な選択肢の一つです。梅毒に限らず、他の性感染症の検査や治療、そしてその検査や治療を受ける人たちへの支援の体制を構築するには、支援を必要とする人たちに最も近い場所で地道な努力を積み重ねてきたHIV対策の蓄積が活用できます。

 一方で、梅毒など他の性感染症に関心を持ってもらえば、その検査や治療がきっかけになってHIV検査の機会も広がるかもしれません。

 これはおそらく、国連合同エイズ計画(UNAIDS)などが世界規模の重要性を指摘している他の疾病対策や社会課題とのインテグレーション(統合)政策の見本の一つでしょう。HIV/エイズ対策の成果を他分野で生かし、同時にそのフィードバック効果をHIV対策にも活用できるようにしていく。途上国の結核HIV、さらに広げれば貧困とHIV、教育とHIVジェンダーの不平等とHIVなど様々な課題解決にインテグレーション政策の成果が期待されています。

 より差し迫った対応としては、新型コロナウイルス感染症COVID-19とHIV感染症の2つのパンデミックに対応するための相乗効果をどのように生み出していくのか。これは世界が直面する課題であると同時に、国内のHIV/エイズ対策の重要課題でもあります。

 

 

2 『梅毒にご用心2021』

 東京・新宿2丁目のコミュニティセンターaktaが、梅毒に関する基本情報を分かりやすく伝えるウェッブサイトを公開しました。

 『近年、梅毒の感染報告が増加しています。2019年の累積届出数は6639件。5年前(2014年)の報告数の約4倍。男性とセックスをする男性(MSM)の報告も増えています』

 詳しくはこちらで。

    梅毒にご用心2021

『免疫はできず何度でも感染する。また感染力が強く、他の性感染症HIVに重複感染する可能性を上昇させる。時に無症状になりながら進行するため、治ったと思いうっかり感染させやすい』(梅毒とは? から)

 

 3 第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集

 『SCB to the future -未来統合型社会・臨床・基礎連携-』をテーマにした第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集しています。募集期間は6月30日(水)正午までです。詳細は公式サイトでご覧ください。 

www.c-linkage.co.jp

 なお、第35回学術集会・総会は今年11月21日(日)~ 23日(火・祝)、会場はグランドプリンスホテル高輪(東京都港区高輪3-13-1)の予定です。

 

 

4 ハイレベル会合の解説ブローシュア日本語仮訳版

 エイズに関する国連総会ハイレベル会合が6月8日から10日まで、ニューヨークで開かれます。5年おきに国連加盟国や関係機関、市民社会組織などの代表が国連本部に集まり、開かれている会合なのですが、今回はCOVID-19の影響を考慮して、かなりの部分がバーチャルとの併用開催になりそうです。

このため、多様な関係者の間で事前情報の共有をはかることができるよう国連合同エイズ計画(UNAIDS)が解説ブローシュアを作成しました。

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 アントニオ・グテーレス国連事務総長が今年3月末付で、総会に提出した報告書をベースにして、HIV/エイズ対策の現状と課題、会合の焦点などが分かりやすくまとめられた冊子で、公益財団法人エイズ予防財団による日本語PDF版がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)でダウンロードできます。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet048.html

 

AIDS2022はモントリオールでハイブリッド開催 エイズと社会ウェブ版570

 1996年以降、隔年開催となっている国際エイズ会議。今年はお休みの年ですが、早くも来年のAIDS2022(第24回国際エイズ会議)の開催日と開催都市が国際エイズ学会(IAS)から発表されました。

 期間は2022年7月29日から8月2日まで。開催都市はカナダのモントリオールですが、バーチャルと併用のハイブリッド会議になります。

 コロナの流行の先が見えない現状では致し方ありませんね・・・といいますか、これからはハイブリッド開催が国際エイズ会議の標準になるのかもしれません。

 対面での議論や交流が大切であることは尊重しつつも、世界中から何万もの人を集めて会議の規模を誇ったり、競い合ったりする必然性もまたありません。情報と交流のストライクゾーンはどのあたりに落ち着くのか、その時々の条件もあるし、テクノロジーや医学の進歩もあるので、これから先の何年かは会議のあり方をめぐる試行錯誤が続きそうです。

 なお、プレカンファレンスの会合は開幕2日前の7月27日開始の予定です。

 英文ですが、IASの発表は公式サイトのニュース欄をご覧ください。こちらです。www.iasociety.org

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 ということで終わりにしたのでは、ちょっとそっけないので、個人的な部分訳で得た情報を少し補足しておきましょう。不正確かもしれないので、確認したい方は上記サイトで英文に当たってください。

 5月25日の発表に際し、地元カナダのパティ・ハイドゥ保健相は「HIVエイズの闘いはまだ長い道のりの途中です」と語っています。当然の認識ですが、最近は目先の困難に関心が集中して「エイズはもういいだろう」感覚がますます広がっている印象もあります。致し方ない面もありますが、「まだ終わっていない」ということは折に触れて、繰り返し、指摘しておく必要があります。保健相コメントの続きです。

 「先住民との和解、そしてスティグマと差別の解消に向けて、95-95-95ターゲットの達成に引き続き取り組んでいきます」

 ハードルは90-90-90ターゲットから一段あがって95-95-95ターゲットになりました。

 会議の国際共同議長であるアディーバ・カマルザマンIAS理事長は「世界のHIVコミュニティはCOVID-19に直面し、何十年もの間、パンデミックに対応してきた教訓を生かすために団結しました」と話しています。その団結(連帯と訳した方がいいかな)によって「HIV対策を軌道に戻さなければならない」というのが発言の趣旨です。

 「AIDS2022は、科学と政治とアクティビストのコミュニティを再び活性化させ、対策を前に進める極めて重要な機会です。何十万もの人が毎年、エイズ関連の病気で亡くなっている中で、私たちにはその責任があります」

 国際エイズ会議は国際部門と地元部門の二人共同議長体制を取っています。その地元共同議長であるマクギル大学医学部のジャン-ピエール・ルーティ教授は「COVID-19ワクチンの開発により、効果的なHIVワクチンの開発、さらには治癒への道にも、これまで以上に展望が開けています」と語っています。

 「HIVに最も大きな影響を受けているコミュニティへの包摂性をこれまで以上に高め、説明責任を果たす必要があります。HIVの研究、政策、プログラムにとって、真にエキサイティングな時期に世界の仲間を迎えることをモントリオールは心から歓迎します」

 やる気十分ですね。

 直近3回の国際エイズ会議を振り返ってみると、開催都市は以下の通りです。

 2016年 ダーバン(南アフリカ

 2018 アムステルダム(オランダ)

 2020  サンフランシスコ・オークランドアメリカ)→バーチャル開催に

 ダーバンは2000年にアフリカ初の国際エイズ会議が開かれた都市。その2週間後に開かれた九州・沖縄サミットとともに途上国への治療の普及の扉を開いた会議でもあります。

 アムステルダムは1992年、米国のHIV陽性者に対する入国規制が撤廃されなかったため、ボストン開催の予定だった会議が急遽、開催都市を変更して開かれました。

 そしてサンフランシスコは1990年、その米国の入国規制のため大荒れの会議となり、当時の米厚生長官は閉会式で演説もできずに終わりました。

 では、モントリオールは・・・というと、大荒れのサンフランシスコ会議の前年の1989年に第5回国際エイズ会議が開催され、閉会式で初めてHIV陽性者が登壇して演説を行っています。つまり、それまでの4回の会議はHIV陽性者が登壇することも、話をすることもなかった。会議の性質が大きく変わる契機となったのが1989年のモントリオール会議でした。

 昔の名前で出ています・・・などと言ったら、たちまち厳しい叱責を受けそうですが、国際エイズ会議は2022年のモントリオールも含め、エイズ対策史に大きなインパクトを与えたこれまでの開催都市で再び開かれるケースが多くなっています。その流れで行くと、いずれ横浜でももう一度・・・などと自分の首を絞めるような言動は極力避け、モントリオールのハイブリッド開催が成功することを微力ながら応援したいですね。

 

 

6月はHIV検査・相談月間だけど 東京都エイズ通信第165号

 メルマガ東京都エイズ通信の第165号(2021年5月28日)が配信されました。今年に入ってから5月23日までの新規HIV感染者・エイズ患者告数は以下の通りです。

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● 令和3年1月1日から令和3年5月23日までの感染者報告数(東京都)
  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者  113件     (114件)
AIDS患者   26件      (35件)
    合計   139件        (149件)

HIV感染者数及びAIDS患者は昨年度よりも減少している。

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 前年同時期と比べると新規HIV感染者報告数は1件減なので、ほぼ同数ですね。エイズ患者報告は減少傾向がさらに続いています。6月は新型コロナウイルス感染症の緊急事態宣言が続く中で、東京都HIV検査・相談月間になります。テーマは《大切なのは、「正しく知ること」》。大切だけど、この時期、関心を持ってもらえるかどうか。ま、地道に続けましょう。

 

エイズに関する国連総会ハイレベル会合スケジュール概要 エイズと社会ウェブ版569

 6月8-10日にニューヨークの国連本部で開催定の『エイズに関するハイレベル会合』のスケジュール概要が国連合同エイズ計画(UNAIDS)の特設サイトで公開されています。2016年のHIVエイズに関するハイレベル会合と国連総会で国連の全加盟国が約束した高速対応目標の達成状況を検証し、今後の対策の方向性を示す新たな政治宣言の採択を目指しています。

残念ながら2020年末までの高速対応目標(90-90-90ターゲット)を世界全体で達成することはできませんでした。それはどうしてなのか。準備の過程でその要因を探り、今回のハイレベル会合は『不平等を解消し、HIVの流行を助長する社会的決定要因をなくすための「行動の10年」の出発点』と位置付けられています。

 スケジュール概要の日本語仮訳がPDF版でAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されているのでご覧ください。

api-net.jfap.or.jp

  3日間の日程の初日は、開会式と全体会合、2日目と3日目は以下の5つのテーマ別委員会が開かれる予定です。政治宣言の採択は常識的には会合の最終日ということになりますが、5年ごとに開かれているこれまでの会合では、初日に宣言を採択し、その後で、どうやってその宣言を実行していくかという議論に入っていったこともあります。どちらになるのか。残念ながら、日本から遠距離観戦している私には分かりません。

 

【2021年6月9日】

10:00-11:30 テーマ別委員会1エイズ終結に向けた不平等への対応:2030年までの10

11:30-13:00 テーマ別委員会2:人びととコミュニティをエイズ対策の中心に

15:00 - 16:30 テーマ別委員会3:効果的なエイズ対策への資金確保

 

【2021年6月10日】

10:00 - 11:30 テーマ別委員会4エイズ対策におけるジェンダー平等の推進、女性と女児の地位向上

11:30 - 13:00 テーマ別委員会5エイズ対策に与えるCOVID-19パンデミックの影響への対応、および新たなパンデミックへの準備強化

 

会場はニューヨークの国連本部ですが、インタープリファイ(遠隔同時通訳装置)や国連ウェブテレビのライブ放送により、オンライン参加も可能なハイブリッド開催となります。UNAIDSは『最高レベルの政府首脳の参加、および準備過程での合意に従い、市民社会などすべての利害関係者のあらゆる方法による完全な関与』を強く求めていますが、全体会合や各テーマ別委員会に入れるのは代表団ごとに1人ということなので、実質的にはオンライン中心になりそうです。

 

『大観衆はどこにいる』 エイズと社会ウェブ版568

 東京オリンピックパラリンピックの開催(あるいは中止)をめぐる議論が煮詰まってきましたが、まだ公式な結論は出ていません。
 個人的には私は無観客開催を目指してほしいと思っています・・・ということで、現代性教育研究ジャーナルの連載 Oneside/Noside 第49回『大観衆はどこにいる』は、五輪のレガシーをめぐるコラムです。PDF版の13ページに掲載されています。

https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202105.pdf

 

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『国家主導にしても商業五輪にしても、そのパワーの源はスタンドを埋め尽くす大観衆とメディアだった。だが、6万、7万という大観衆はスポーツ観戦に適したものだろうか。正直なところ選手の細かい動きは客席から確認できない。観衆は結局、会場に特設された巨大スクリーンの映像を追うことになる』

 開催の有無もはっきりしていないのに、そして、仮に開催が決定するとしても開催前からレガシーだなんて・・・そうおっしゃる方もいるかもしれません。でも、もうレガシーは生まれています。
 そして、できればもう一つのレガシーも実現してほしい。あくまで個人的な希望だけど。