『SARSで延期された会議』 エイズと社会ウエブ版584

 COVID-19は新型コロナウイルス感染症という病気につけられた名前です。昔だったら、スペイン風邪の流行・・・みたいに、もうちょっと通りのよさそうな名前がついていましたね。最近は特定の地名や集団と容易に結びついてしまうような名称は避けるのが最低限の条件になっています。アルファベットと数字の羅列になってしまうのもそのためですね。

 おまけにアルファ型だとか、デルタ型だとか、ますます不気味感が増していくような印象も受けますが、致し方ないか。

 では、COVID-19の原因となるウイルスの名前は・・・SARS-CoV2です。つまりSARSコロナウイルス第2号という位置づけですね。じゃあ、第1号はというと、2003年に流行したSARS重症急性呼吸器症候群)の原因ウイルスです。ただし、SARSの流行は2003年の前半でおさまり、原因ウイルスもなぜか消えてしまいました。(このあたりは素人の聞きかじりなので、正確さに欠けるかもしれません。間違っていたらごめんなさい)

 医学的な根拠があって言っているわけではないのですが、個人的には「今回もそうならないかな」という淡い期待もないことはなかったのですが、COVID-19はそういうわけにはいかなかった。じっくり対応していくしかありません。

 現代性教育研究ジャーナル(2021年9月15日発行)の連載コラム One side / No side 第53回『SARSで延期された会議』は、その2003年当時のお話です。10ページに掲載されています。

 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202109.pdf

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 《会場を出て、東京に帰ろうとすると、シトシトと雨が降り出した。それほど寒くはない。これならウイルスは広がりにくいだろうし、会議も開けたのではないか。そんなことを思うと、お天気までもが恨めしくなってくる》

 いまにして思えば、流行が消えてしまったので、基本的にはよかったのだけど、それでも、けっこう悲しかったなあ、あの時は。

UNAIDS『人権ファクトシートシリーズ2021』 エイズと社会ウェブ版583

 コロナ流行の不安が大きかったせいか、国内ではあまり注目されていませんが、エイズ流行40周年を迎えた今年6月、ニューヨークでエイズに関する国連総会ハイレベル会合が開かれ、新たな政治宣言が採択されました。2025年まで5年間の国際的なHIV/エイズ対策の方向性を示す重要な宣言です。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)はこの会合に先立って、2025エイズターゲットおよびその実現の道筋を示す世界エイズ戦略2021-2026を発表しており、政治宣言にはその内容が全面的に取り入れられました。ハイレベル会合ではロシアなど数カ国が異論を唱えたものの、日本も含む圧倒的多数の加盟国が政治宣言の採択に賛成しています。

 「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を2030年までに達成するという国際社会の大目標の実現に向け、今後5年間の国際的な中間目標が決まりました。しつこいようですが、あえて繰り返すと、日本も含む加盟国が賛成しています。国内ではどうも関心がなさそうだし、政局にも影響しないようだから、もう忘れちゃおう・・・というわけにはいきません。

 おっと、例によって前置きが長くなりましたね。すいません。本題に入りましょう。

 こうした一連の動きを踏まえ、UNAIDSの公式サイトには、人権ファクトシートシリーズという7種類の文書が、これも6月に紹介されています。

 翻訳にやや時間がかかったので遅くなりましたが、公益財団法人エイズ予防財団の翻訳チームによるその日本語仮訳PDF版が出来上がり、API-Net(エイズ予防情報ネット)に昨日(9月8日)、掲載しました。こちらでご覧ください。 

api-net.jfap.or.jp

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 『エイズ終結の妨げとなっている社会的障壁を克服するため、さまざまな分野の人権課題とその対応策を分かりやすく説明した人権ファクトシートシリーズ』です。以下の7分野に分かれており、各巻とも5~6ページの短いシリーズです。

 『HIVと犯罪化』

 『HIVと薬物使用者』

 『HIVとゲイ男性など男性とセックスをする男性』

 『HIVトランスジェンダーおよび多様なジェンダーの人たち』

 『HIVセックスワーク

 『HIVと刑務所など閉鎖された環境にいる人たち』

 『HIVスティグマ、差別』

 内容は、各分野の人権課題に関するデータ、人権の視点をどうやって健康上の成果につなげるか、関連する2025年エイズターゲットや国際的な人権に関する義務・基準・勧告の紹介などで構成されています。UNAIDSの公式サイトによると、今年の末にはさらに4種類が追加されるようなので、発表されたらそちらも鋭意、翻訳にかかりたいと思います。乞う、ご期待。

 ビジュアル的な工夫も凝らし、それなりに親しみやすくする努力はうかがえますが、訳してみた印象では、やや硬いかなあという感じです。

 もちろん、各分野の入門編としてこの程度の硬さはかみ砕いて読んでほしいとも一方では思う。コンパクトにまとめてあるので、各巻ともざっと目を通すのに、それほど時間はかかりません。あまり敬遠しないでね。

 末尾には参考資料や引用文献が豊富に紹介されています。各分野の研究を志す学生さんやHIV/エイズ関連のコミュニティワーカー、アクティビスト、さらにはコロナの流行で感染症対策と人権の課題をもう少し掘り下げて考えてみたいなと思っている人、何か書きたいなと思っている人にとっては、とくに有効に活用できるのではないかと思います。

 

レッドリボン30周年 TOP-HAT News156号(2021年8月) エイズと社会ウェブ版582

 12月1日の世界エイズデーを中心にした国内啓発キャンペーンのテーマが発表されました。今年はエイズ流行40周年であると同時に、レッドリボンが登場してから30年の節目でもあるので『レッドリボン30周年 ~Think Together Again~』です。

 コロナの流行で社会は不安と動揺に包まれ、政権が一つ吹っ飛んじゃうという意味での節目の年でもあるので、TOP-HAT News第156号(2021年8月)でさっそくレッドリボンを紹介しました。

 政治にはまったく詳しくないし、コロナ対策の専門家でもないので、外野席の勝手な感想ですが、菅首相はどうも、追いつめられて焦ってしまったようですね。さすがに握手は自粛していたのでしょうが、それでもこのところ悪手続きでした。もう少し辛抱していたらコロナの感染拡大もピークを越える時期だったのに、政治家としてはそういうわけにもいかなかったのでしょうね。連帯も信頼も自ら断ち切ってしまった・・・。

 無観客開催で、オリンピックもパラリンピックも開くことができたし、強権的なロックダウンをあろうことかマスメディアから求められてもグッとこらえてきた。自ら明かりが見え始めてきたとも語っていた。

 それでも、解散をちらつかせたり、人事に手を付けようとしたり・・・政局的にじたばたしてしまった。これは残念。

 菅政権に対しては、誕生の経緯からして、すっきりしない印象でもあったので、あまり長期にはなってほしくないと個人的には思っていました。恣意的で容赦のない人事をあえて操って見せることで、周囲を恐怖と不安で疑心暗鬼に追い込み、それを権力の糧にする。例えば企業でも、そんな手法を好む経営者がいるとしたら(実際にいたんだけど)、あまりはかばかしい結果はもたらさなかったような気がします。

 したがって、政治家としての菅さんのスタイルは政権の発足当初からあまり好ましいものには感じられなかったのですが、それでもオリンピック、パラリンピックを無観客で開催し、コロナ対策もそれなりによく持ちこたえてきたと思う。この点は、実はひそかに評価していたので、この時期の政権投げ出しは残念です。党首が顔にならなければ選挙に勝てない若手議員には、もともと当選したのがおかしかった方もたくさんいらっしゃるのだろうに・・・。

 あと数週間で、なんとか危機を乗り切った宰相(これもめぐりあわせに過ぎませんが)になり得たかもしれなかった。こわもてだけどコミュニケーション能力はそれほど高くない政治家と自己保身で危機感しか語らなくなった専門家とのマッチアップもあまりよくなかったのかもしれません。

 おっと話が脱線しました。なぜこの時期にレッドリボンなのか。30周年というだけにとどまらない含意もあるのではないか。TOP-HAT News 第156号の巻頭ではそのあたりのことにも少し触れています。

 ま、首相には、せっかくここまで決断されたのだから、ご本人も話されているようにコロナ対策に集中して残り少ない任期をまっとうしていただきましょう。

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第156号(2021年8月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに レッドリボン30周年

 

2 ウェビナー「HIV陽性者と新型コロナワクチン」 動画を公開

 

3  IAS2021の公式ニュースレポートを日本語で紹介

 

4  グローバルファンド ファクトシート最新版(2021年7月)を発行

 

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに レッドリボン30周年

 世界エイズデー(12月1日)を中心にした2021年国内啓発キャンペーンのテーマが『レッドリボン30周年 ~Think Together Again~』に決まりました。

 厚生労働省と公益財団法人エイズ予防財団が主唱するこのキャンペーンは、毎年のテーマを設定し、全国の自治体やエイズ関連のNPOなどがテーマを踏まえつつ、それぞれの立場で12月1日前後の約1カ月を中心に啓発活動を展開しています。

 2020、21年には新型コロナウイルス感染症COVID-19という新たなパンデミックが拡大し、我が国も大きな混乱と試練に直面してきました。その中で「レッドリボン」を2021年キャンペーンの中心に据えるのはどうしてなのか。Think Together Againはそのことを改めて考えてみましょうというメッセージです。

 帯状の赤い布を短く切り、逆V字型にくるっと巻いてピンでとめる。そのリボンを胸や襟に着けることで、エイズで亡くなった人を偲び、厳しい病と闘う人やケアに当たる人への励ましと思いやりの気持ちを示す。

国際的なエイズ対策のシンボルとなっているレッドリボンが生まれたのは1991年の春でした。全米でエイズの影響が最も深刻だった米国東海岸のニューヨークで、Visual AIDS(ビジュアルエイズ)という美術系の団体のアーティストたちが十数人規模の小さな会合を開いたのがきっかけです。

ニューヨークでは当時、数多くの舞台関係者やアーティストがエイズで亡くなっています。しかも、町の中では、致死的な感染症への恐怖と不安から、エイズの原因となるHIV(ヒト免疫不全ウイルス)に感染している人を遠ざけ、エイズについて話題にすることを避けるような雰囲気も広がっていました。

会合に参加したアーティストたちは、そうした状態を克服するにはどうしたらいいのかを話し合い、まずエイズについて話題にするきっかけ生み出すようなシンボルが必要なのではないかと考えたのです。

それがレッドリボンになったのは、簡単に作れて誰もが身に着けられるからでした。血液はHIVの主要感染経路の一つなので、赤い色にはどこか、まがまがしいイメージも付きまとってもいましたが、それを超えた愛や情熱を表す色として選ばれました。

 2021年は、レッドリボン30周年であると同時に、エイズの最初の公式症例が報告された1981年を起点とするとエイズ流行40周年でもあります。

つまり、致死率が極めて高く、当時はまだ、有効な治療法もなかったエイズという新興感染症の流行に直面し、感染の恐怖と不安と混乱を克服するためには、10年の歳月が必要でした。

HIV/エイズ分野の3つのNPOエイズ予防財団が中心となって運営する情報共有型サイト『Community Action on AIDS(コミュニティアクション)』には、今年のキャンペーンテーマについて次のような説明があります。

 『さらにその節目の年に奇しくも、新型コロナウイルス感染症COVID-19というもう一つ新興感染症パンデミックが拡大し、世界も、そして日本も、動揺を続けてきました。40年にわたって蓄積されてきたHIV/エイズの経験を新たな危機への対応にどう生かしていくのか。このこともいま、エイズ対策の新たな、そして喫緊の課題となっています』

 エイズがもたらした恐怖と不安の中でレッドリボンが生まれたのは30年も前のことでした。しかし、それは決して過去のシンボルではなく、終わった話でもありません。

 『ウイルスによって隔てられた人と人との距離を物理的には受け止めつつ、その分断を乗り越え、信頼のきずなを取り戻していくにはどうしたらいいのか。もう一度、一緒に考えたい。2021年世界エイズデーは、レッドリボンの30年に焦点を当て、新たな困難を乗り越える力を取り戻す機会にしましょう』

 詳しくはコミュニティアクションのサイトでご覧ください。

  http://www.ca-aids.jp/

また、API-Net(エイズ予防情報ネット)には、令和3年度「世界エイズデー」キャンペーンについて、厚労省による「テーマの趣旨」が紹介されています。

 https://api-net.jfap.or.jp/edification/aids/camp2021.html

 

 

2  ウェビナー「HIV陽性者と新型コロナワクチン」 動画を公開

  ぷれいす東京の「ネスト・プログラム」が7月14日にオンライン開催したウェビナー『感染症の専門家と話そう~HIV陽性者と新型コロナワクチン』の動画が公開されています。講師はHIV診療を長く続けてこられた医師の高田昇さんです。

 ぷれいす東京公式サイトの下記お知らせページから画像をクリックすると動画を見ることができます。

 https://ptokyo.org/news/13917

 豊富なスライドデータもあります。高田さんからはウェビナー終了後、「新型コロナをめぐっては早い展開をしているので、講演の時点の内容が、今後わかる最新知見とは食い違っているかもしれません」とのコメントも寄せられています。誠実かつ親切ですね。この点も了解したうえでご覧ください。

 

 

3  IAS2021の公式ニュースレポートを日本語で紹介

 第11回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2021)が7月18日から21日まで、オンラインで開催されました。

 この会議のオフィシャル・メディアパートナーであるNAMのIAS2021公式ニュースレポートがPractice Updates : HIV Management(HIVの治療戦略)のサイトに日本語訳で掲載されています。

 https://www.mncs.co.jp/news/cco/

 公益財団法人エイズ予防財団の公式サイトからも「HIVの治療戦略」のバナーをクリックすればリンクできます。

 https://www.jfap.or.jp/

 NAMは英国に拠点を置く独立のチャリティ組織で、HIVエイズに関する正確で信頼できる情報の提供を目的としています。

 

 

4 グローバルファンド ファクトシート最新版(2021年7月)を発行

 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)の概要を紹介したファクトシートが、グローバルファンド日本委員会の公式サイトに掲載されています。

 http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2021_07_02_fact_sheet_july2021

《ファクトシートには、資金の調達と供与状況、成果など、最新のグローバルファンド情報を盛り込み、ビジュアルコンテンツを多用してお届けしています》

 

ここであせらず 東京都エイズ通信第168号

 メルマガ東京都エイズ通信第168号が発行されました。私のメールに配信されたのは8月31日のしかも午後4時でした。ぎりぎり8月中に間に合ったという感じですね。コロナの緊急事態下で、東京都の感染症担当部門の皆さんの超多忙ぶりが、しのばれます。忘れずに出していただいたことにまずは感謝したい。

 

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令和3年1月1日から令和3年8月22日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者      194件     (193件)

AIDS患者        40件      (55件)

合計           234件      (248件)

HIV感染者数は昨年度より増加しているが、AIDS患者は昨年度よりも減少している。

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 感染報告は1カ月前とほぼ同じ傾向です。去年も今年もコロナの影響がHIV検査に影響しているので、HIV感染者の報告数はほとんど同数(1件違い)です。正直に言って、昨年の段階で、ここまでコロナの流行が長引くとは思いませんでした。長期戦の構えということになると、HIV/エイズの経験を生かす場面がこれからも出てきそうです。腹をくくってHIV/エイズ対策とコロナ対策の共通点と相違点を把握し、相乗効果を生かせる道を探すことがますます大切になっています。

 ま、いまはそういうことを言っても、あまり関心は持たれないでしょうが、それでも何かを用意しておきたい。それが何かはまだ、おぼろげにしか分かりません。せっかくの自粛の日々であります。亀の甲より年の功といいますか、高齢者もワクチンを打ったからといってあまりはしゃぐことなく、考える時間を持つことにしましょう。

 

東京都エイズ通信の配信登録はこちらから。

https://www.mag2.com/m/0001002629

 

 

読初感想文『愛と差別と友情とLGBTQ+』  エイズと社会ウェブ版581  

 新聞記者時代のよきライバルであり、同時に友人でもある北丸雄二さんの新著『愛と差別と友情とLGBTQ+』を読み始めています。・・・とはいえ、450ページ近い大著です。しかも、個人的に読書のスピードが遅いという事情もあります。さらに付け加えれば、小さいころから、おいしいものはなるべく最後まで手を付けず、ちびちびと楽しむというせこい性格でもあります。人ごとのようで恐縮ですが、読み終わるのはずいぶん先になるかもしれません。

 

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 当ブログには「読後感想文」というタイトルで、文字通りの感想を載せることがあります。一応、最後まで読んでから書く。これが基本方針です。

 ただし、今回は最初の100ページ足らずまで読んだ段階で、頼まれもしないのに「ねえ、ねえ、こんな本が出たよ」と教えまくりたくなってしまい、とりあえず読後ではなく、読初感想文を書くに至りました(あえてルビをふるとしたら、読初は「どくしょ」ではなく「よみはじめ」です)。

 前置きが長くてすいません。

 本書によると、北丸さんが新聞社の特派員としてニューヨークに赴任したのは1993年2月23日でした。私の赴任は2月28日です。同時期に、ほぼ同じ対象を取材する期間が3年ほど続きました。

 ニューヨークで最初にお会いしたのは3月の初めに日本政府の国連代表部で大使会見が行われた時だったと思います。いま考えれば私よりわずか5日前に赴任した人なのに、もう何年もニューヨークで取材を続けているような印象でした。水があっていたというか、北丸さんにとって、ニューヨークは最初から、出会うべくして出会った町だったのでしょうね。

 第1部『愛と差別と 言葉で闘うアメリカの記録』はその特派員赴任のシーンから始まります。そして、北丸さんは『エイズ問題を通じて、私はおびただしい量、おびただしい分野、おびただしい人間のゲイ関連情報に触れることになりました』と振り返っています。

 まだ、最初の3章(第1章 ロック・ハドソンという爆弾、第2章 エイズ禍からの反撃、第3章 エイズ禍への反撃)を読んだだけですが、ロック・ハドソンエイズによる死の意味をもう一度読み解き、『ゲイ・コミュニティは社会の危機としてのエイズ対策を大義名分として「戦闘」していきます』と書く。そしてラリー・クレイマーの戯曲から、エイズの蔓延を止めるために「ゲイ男性にセックスをやめろといってほしい」と頼む医師に対し、エイズにかかった患者が「先生、それってちょっと非現実的じゃないですか」と反論する場面を紹介する。

 戯曲の舞台はエイズの症例が確認されたばかりの1981年の設定です。この段階では、「セーファーセックス」などというメッセージはまだなかっただろうし、どちらの発言が非現実的なのか、おそらく判断は現在とは逆転しているのではないか・・・。

 いや、そう思っていたのは、つい昨日までのことで、現在を狭く規定すれば、医療の専門家が「あれもするな、これもするな」と言い募ることが良識とされる点で、いまの世の中はむしろ先祖がえりを経験しているような奇妙な親和性が「あのころ」との間に生まれているのかもしれません。

 おっと、現状に対する個人的な感想を間に挟むと混乱が生じてきそうなので、話をもとに戻しましょう。北丸さんはこう書いています。

 『セックスを諦めることはできません。かといってエイズの“隠喩”を暴走させておくわけにもいかない。夜戦をしかけてくるHIVに対して、欧米社会は真昼の決闘を挑むことになります。クローゼットから出て、太陽の下に顔を晒す。それはゲイ男性たちに限りませんでした』

 しびれるような序盤の展開です。HIV/エイズを抜きにして性的少数者の権利をめぐる課題を語ることはできない。個人的にもずっと思っていながら、うまく言葉にして示せなかったことを北丸さんは本書で鮮やかに表現しています。まいったね。

 これまでに読んだのは100ページ足らず・・・ということは、これから読む分が、4倍近く残っていることになります。どう展開していくのか。

 本書のプロローグには次のような辛口の指摘もあります。

『仕事柄、日本のさまざまな分野で功成り名遂げた人々にもあってきました。そういう実に知的で理想的な人たちであっても、こと同性愛者やトランスジェンダーの人々のことに関してはとんでもなくひどいことを言う場面に遭遇してきました』

 まずいなあ。私は功成らず、名も遂げなかった人々の一人ではありますが、北丸さんの前でとんでもなくひどいことを言う場面は数多く提供してきました。残念ながらこのことは否定できないと思う。したがって、本書の展開に対しては、期待が膨らむとともに、読むのがつらいという気持ちも実はあります。

 でも、ちゃんと最後まで読もう。硬軟自在の北丸節の魅力にも抗しがたく、やっぱり読みたいという気持ちの方が圧倒的に強いかなあ。時間はかかるかもしれませんが、読み終わったらまた、どこかで報告します。 

 

 

データが伝えるひそかな危機 エイズ動向委員会報告確定値から エイズと社会ウェブ版580

 厚生労働省エイズ動向委員会が8月24日、新規HIV感染者報告数と新規エイズ患者報告数について発表しました。API-Net(エイズ予防情報ネット)にその概要が載っています。 

api-net.jfap.or.jp

 あいまいな書き方ですいません。現役の新聞記者ではなくなり、なおかつこの夏は政府のお達しに従い、鎌倉から不要不急の用事(なんだろうなあ、やっぱり)で、都県境どころか、市境を越えることすら自粛しているもので、同行委員会がリモート開催なのか、対面で開かれたのか、あるいは資料を回覧して持ち回り開催だったのか、よく分からないもので(委員の誰かに聞けば教えてくれるかもしれないけれど、自粛慣れでそれもおっくうになってしまって)・・・。

 エイズ動向委員会は年2回開催されており、前回(3月16日)は2020年の第3、第4四半期の報告数と年間報告の速報値が発表されています。

 そして、今回は2021年第1、第2四半期の報告数と2020年の年間確定値が発表されました。一括して取り上げると混乱しそうなので、四半期ベースの報告はAPI-Netで見てください。ここでは昨年の年間確定値に関する委員長コメントを紹介します。

こちらですね。 

https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/data/2020/nenpo/coment.pdf

 新規HIV感染者報告数  750件(過去20年間で17番目)

 新規エイズ患者報告数 340件(過去20年間で17番目)

  合計報告数     1095件(過去20年間で16番目)

 

 3月に発表された速報値と比べると、新規HIV感染者報告数は10件、新規エイズ患者報告数は4件増えています。小幅ではありますが合計で14件増加しました。

 グラフは2000年以降の報告数の推移です。

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 2013年の1590件をピークにして、年間の合計報告数は減少傾向が続いてきました。年間の報告数は1500人時代から1000人時代へと移行したようにも見えます。

 ただし、気になるデータもあります。2020年の報告数全体に占めるエイズ患者報告数の割合を計算してみると31.5%でした。この割合が高くなるということは、エイズを発症するまで自分のHIV感染に気付かなかった人が多いことを示します。

 最近は抗レトロウイルス治療の進歩により、HIVに感染しても長く生きていくことができる時代になりました。そのように指摘されることがしばしばあります。素晴らしい成果です。

 ただし、早期に治療を開始することができなければ、治療が成果を上げることはその分、厳しくなります(私は医療の専門家ではないので、治療に関しては、お医者さんの言うことのまた聞きに過ぎませんが、信頼のできる複数のお医者さんからそういう話を聞きました)。

 一方で、感染に気付かないでいる期間が長くなれば、あるいはエイズを発症するまで感染に気付かなければ、その人から他の人にHIVが感染する機会も増えることになると考えられます。

 早期治療の必要性が強調されるのは、感染した人自身の健康状態を維持する観点からも、予防対策の面からも、高い効果が期待できるからです。どちらか一方ではなく、予防と治療の両面から、動向委員会で集約される報告数全体に占めるエイズ患者報告数の割合を下げることは、現在のエイズ対策の成否をはかる重要な指標になっています。

 その割合が2020年は30%を超えました。2016年以来4年ぶりのことです。

 そして、過去をさかのぼってみると、31%を超えたのは、2004年の33.0%以来、実に16年ぶりとなります。時計の針がぐるぐると巻き戻され、15年以上にわたって営々と積み重ねてきたエイズ対策の成果が一気に失われる・・・ことはないと思いたいのですが、それでもめまいがするような気分です。

 国内のHIV/エイズの流行の観点からすると、2004年前後はどんな状態だったのか。そして、今は何が起きているのか、改めて確認しておく必要がありそうです。

 

『長谷川さん、大いに語る』 エイズと社会ウェブ版579

 日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の前代表である長谷川博史さんが、コミュニティセンターaktaのYoutubeチャンネルに登場したトークショー『長谷川さんが語る「HIVとゲイコミュニティ」』を観ました。聞き手のインタビュー陣が充実していることもあって、長谷川さんの魅力をうまく引き出しています。

 個人的には、現代性教育研究ジャーナルの連載コラム One side / No side でも、前々から長谷川さんのことを取り上げたいと思いつつ果たせずにいました。そんなこともあって、さっそく・・・というか、かなり遅くなりましたが、2021年8月号(コラムとしては第52回)で、ようやく、それでも気分としてはさっそく、紹介させていただきました。

 題して『長谷川さん、大いに語る』。

 何の工夫もないタイトルで恐縮です。どうも、長谷川さんについて書こうとすると萎縮してしまって・・・。

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 なお、同じ2021年8月号には、ジャーナリストで作家の北丸雄二さんによる巻頭報告『トランスジェンダー恐怖を利用する トランプ政権の4年とその残滓』が掲載されています。

    https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202108.pdf

 こちらは力のこもったレポートです。それでいて、複雑に絡み合った要素を丁寧に解きほぐし、分かりやすく説明しているのはさすが。煮え切らない解説調に流れることなく、歯切れがいいので、「ああ、そうなのか。そうだよね」と納得できます。北丸節はますます快調。近々、刊行されるというご著書も楽しみですね。ぜひ、お読みいただくことをお勧めします。あ、新著はまだ読んでいないので、とりあえず巻頭報告の方をどうぞ。