『40年前の教訓を生かす』 TOP-HAT News第151号(2021年3­月) エイズと社会ウェブ版556

 2021年はエイズ流行から40周年の節目の年であり、6月8~10日にはHIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合が予定されています。この会合も2001年6月に国連エイズ特別総会が開かれ、コミットメント宣言が採択されてから20年の節目になります。

 国連総会は2001年のコミットメント宣言の採択以来、そのコミットメント(約束)がどこまで果たされているか(あるいは果たされていないか)を5年ごとに検証する機会を設けてきました。5年に1度なので、今回が4回目ということになります。

 会議の名称はその時々で異なりますが、最近はハイレベル会合と呼ばれています。ニューヨークの国連本部に各国の指導者が集まってこれまでのHIV/エイズ対策の成果を総括し、新たな対策の方向性を示す宣言が採択されるのが通例です。今回も政治宣言の採択に向けて準備が進められているようですね。4月中にはおそらく、その宣言に様々な立場の関係者の意見を反映できるようにするためのヒアリング(公聴会)も開かれる予定です。

 10年後の2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結」を果たせるかどうか、そのために2025年までの5年間は何をしたらいいのか。2020年末時点での総括は、世界がエイズ終結の軌道からは大きく外れてしまっているという苦い結論になりました。その外れた軌道を5年間で何とか達成軌道に戻せるかどうかということですね。

 そして、その中で新たな新興感染症パンデミックであるCOVID-19への対応をどう位置付けていくか。この点もHIV/エイズに関する政治宣言2025に向けた議論のもう一つの焦点になりそうです。

 新型コロナウイルスの世界的流行という困難な事態に直面する中で、新たな道筋を探るにはエイズ対策の40年の経験をいまこそ生かす必要がある・・・ということで、TOP-HAT News第151号(2021年3月)の巻頭は『40年前の教訓を生かす』としました。ちょっと遠回しの書き方になってしまい、歯切れはよくないかもしれませんが、こういう時期には逆に歯切れと威勢ばかりよさそうな議論(たとえば、言うことを聞かなきゃ罰則だ、感染者は取り締まれみたいな・・・)には要注意という教訓もおそらく付け加えておく必要があるでしょう。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第151号(2021年3­月)

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 40年前の教訓を生かす 

2  6月8~10日に開催、HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合 

3 Living Together オンライン 

4  IAS2021もバーチャル開催に  

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 40年前の教訓は生かせるのか

 エイズの流行は今年6月で40周年を迎えます。米疾病対策センター(CDC)が発行する死亡疾病週報(MMWR)は1981年6月5日号で、ロサンゼルスの5人のゲイ男性が、ニューモシスティス肺炎(当時はカリニ肺炎と呼ばれていた)という若い男性には極めて珍しい肺炎に罹患したことを報告しています。

その時点で報告があったということは、ロサンゼルスでゲイ男性の診療にあたるお医者さんが「ちょっと変だぞ」気が付かなければなりません。つまり、少なくともロサンゼルスでは6月5日より前にニューモシスティス肺炎が広がっていたということでもあります。

また、その肺炎を含むいくつかの病気が著しい免疫機能の低下によって引き起こされることが推定され、いくつかの症状を総称してAIDS(後天性免疫不全症候群)と呼ぶようになるのは、報告から1年余りたってからでした。

したがって、エイズの流行の「開始」をいつにするのかは微妙です。それでも、どこかに線を引かなければならないということなのでしょうね。国際的には一応、最初の症例報告があった1981年6月5日を起点としましょうということになっています。

米国政府のHIV/エイズ情報サイトHIV.govには、詳細な『HIVエイズ年表』(英文)が掲載されていますが、この年表の記述も1981年6月5日のMMWR報告から始まっています。

www.hiv.gov

 HIV.govの年表によると、報告された5人のうち2人は報告時点ですでに死亡しており、残る3人も報告のすぐ後で亡くなりました。

 参考までにもう少し年表をみてみると、6月5~6日にはAP通信やロサンゼルスタイムス紙、サンフランシスコクロニクル紙がMMWR報告について報道し、CDCには全米各地からゲイ男性のニューモシスティス肺炎、カポジ肉腫、およびその他の日和見感染症例が集まっています。ニューヨークでも、若い人には珍しい皮膚がんであるカポジ肉腫の症例がその前年から増え始めていたようです。

 CDCは最初の症例報告から3日後の6月8日、ニューモシスティス肺炎・カポジ肉腫・その他の日和見感染症に関するタスクフォース(専門委員会)を発足させ、まだ名前もついていなかった謎の病気のサーベイランスを行うために症例定義の作業を開始しています。

 エイズ対策の初期には、当時のレーガン米政権の動きが鈍く、対応が遅れたと批判されることもしばしばありました。実際にレーガン大統領が公式の場で初めて「エイズ」について言及したのは1985年9月17日の記者会見です。その2週間後にはハリウッドスターのロック・ハドソンエイズで亡くなっています。流行の開始、つまり最初の症例報告からは実に4年以上もたっていました。

 政権トップのキャラクターや言動とは別に、現場のお医者さんや担当セクションの専門家らは懸命に動いていたのですが、それでも流行の拡大を抑えることはできなかった。40年の時を経て、いまはどうでしょうか。あくまで米国内の政策に限った話で言えば、COVID-19対策の最初の1年間とよく似ている。そんな印象を受けないこともありません。

 新興感染症の流行は未知との遭遇の連続です。とりわけ初期対応は難しい。HIV.gov年表によると、1981年末までに337件の厳しい免疫不全症例の報告があり、このうち130人はすでに亡くなっていました。

 そしてCDCのタスクフォースは翌1982年4月13日、すでに数万人がこの謎の病気に罹患しているとの推定を明らかにしています。最初の症例報告から10カ月、まだAIDSという名前もついていない段階での推計でした。 

 

2  6月8~10日に開催、HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合

 エイズ40周年の節目に開かれる『HIVエイズに関する国連総会ハイレベル会合』の日程が6月8~10日に決まりました。2001年6月の国連エイズ特別総会の後、ほぼ5年に1度の間隔で開かれているフォローアップの会合は、20年後のいまもなお、開催の意義を失っていません。

 これまではニューヨークの国連本部に各国代表団が集まって開かれていましたが、今年は新型コロナウイルス感染症COVID-19の影響でオンラインによるバーチャル会議になる可能性もあります。一方で、各国の討議を通じHIV/エイズの教訓をCOVID-19対策に生かすことも期待されています。開催決定を歓迎する国連合同エイズ計画(UNAIDS)は国連総会で開催日程が確定した2月25日付けで歓迎のプレス声明を発表しています。エイズソサエティ研究会議のHATプロジェクトのブログに声明の日本語仮訳が掲載されています。こちらでご覧ください。

https://asajp.at.webry.info/202103/article_2.html

 

3 You Tubeで逢いましょう Living Togetherオンライン

 新型コロナウイルス感染症の流行で、2006年から新宿二丁目で続けられてきた『Living Together のど自慢』の開催が困難になっていることから、NPO法人aktaがYou Tubeチャンネルを活用した新企画『手記リーディングLiving Togetherオンライン』をスタートさせました。

 Living TogetherはHIV陽性者やその周囲の人の手記を他の人が朗読するイベントです(実は手記を書いた人が朗読していることもサプライズであります)。『Living Together のど自慢』はその手記リーディングと読んだ人のコメント、そしてカラオケ(手記を読んだ人が自ら選んだ曲を歌う)を合体させた参加型イベントです。

 のど自慢がなかなか開けない現状は残念ですが、致し方ありません。ただし、新企画は密を避け、オンラインで手記リーディング、および読んだ人の感想や体験をじっくり聞ける時間を確保しています。歌とは異なる魅力を発掘する機会になるかもしれません。aktaの公式サイトから、オンラインリーディングにアクセスしてください。

 https://akta.jp/

 

 4 第11回国際エイズ学会HIV科学会議(IAS2021)もバーチャル開催に

 国際エイズ学会(IAS)が主催するHIV科学会議(IAS Conference on HIV Science)は2年に1回、国際エイズ会議の間の年に開かれています。第11回となる今年の会議(IAS2021)は7月18-21日の4日間、ベルリンで開催される予定でしたが、新型コロナ感染症COVID-19の流行を考慮し、バーチャル開催に変更されました。

 昨年の第23回国際エイズ会議(AIDS2020)に続き、IASの主要会議は2年連続してバーチャル開催となります。会議の公式サイト(英文)はこちらです。

 https://www.ias2021.org/