日本エイズ学会が『濾紙検体を用いた HIV 検査の適正な提供に関する声明』 エイズと社会ウェブ版557

 日本エイズ学会が3月25日付で『濾紙検体を用いた HIV 検査の適正な提供に関する声明』を発表しました。エイズ学会の公式サイトには、3月26日のニュース欄で紹介されています。

jaids.jp

 

 全国の保健所が新型コロナウイルス感染症の対応に追われていることもあって、保健所などで実施しているHIV検査の受検者数は昨年来、大きく減少しています。保健所自体が多忙につき、HIV検査は休止状態になってしまうところが多く、検査を受ける側の人も、いまはちょっと・・・と受けることをためらってしまうという事情もあるのでしょう。

 「検査を受けようかなあ」「でも、どうしようかなあ」と迷っている人がいたとして、「不要不急の外出は避けてください」などというメッセージが伝えられれば、「不急と言えば、不急だしなあ、たぶん」と背中を押す・・・じゃなかった、背中を引っ張られちゃうことにもなります。

 早期診断から治療の開始と継続、そして体内のウイルス量抑制へとつながる予防対策の入り口としても郵送による検査がいま改めて注目されているのは、そんな世の中の事情があるからかもしれません。

 『濾紙検体』というのは、その郵送検査などで使われている方法です。私は医学的な検査や治療にはまったくの素人だし、郵送検査というものの利用者であったこともないので、あまりよく知らないのですが、平たく言えば濾紙に血液をしみこませて送れば検査して、その結果を通知してくれるということでしょうか。人と会う必要がない分、心理的な負担は小さくなり、受けやすい検査とされています。

 日本エイズ学会の声明は、検査を必要とする人が検査を受けられない(あるいは検査をためらってしまう)現状を「看過できる状況ではありません」として、検査の機会を増やす選択肢としての郵送検査の普及を肯定的に評価したうえで、「濾紙血による郵送検査を実施する場合の適正な提供に関して、下記のような提言」を行っています。

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1.濾紙血による郵送検査は、スクリーニング検査の前段階の検査と位置づけられるの

で、陽性となった場合には、必ず保健所もしくは医療機関での再検査を受けるよう利用者に周知すること。

2.濾紙血による検査は、血漿を利用する通常の検査に比べ感染初期の検出感度が劣ることから、感染機会があった時期から 3 ヶ月以上期間をあけた後に検査するよう周知すること。

3.濾紙血による郵送検査で陰性となった場合にも、感染リスクのある場合には、後日再検査を受けるよう周知すること。

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 予防の必要性、重要性を強調しようとする思いが強いからなのでしょうが、声明には「いきなりエイズ」だとか「検査難民」だとか、無神経な用語が相変わらず平気で使われています。その感覚には、本当にうんざりします。何とかならないものかとも思います。それでも、上記3点の提言事項については賛同します。

 検査は基本的に、医療を必要とする人が、自らの感染を認識し、その必要な医療を受けられるようにするために行うものだろうと素人考えながら私は思います。「かかってなくてよかった」と安心するためのものではありません(安心したい気持ちは分かるけど)。

 その意味で、1番目の提言で指摘されているように「スクリーニング検査の前段階」として位置づけることは、郵送検査が「安心したい」という需要に対応する役割を担い、一連の検査の流れの中で、他の機関の負担を軽減することにもつながります。

 同時に数は少ないかもしれけれど「陽性になった場合」の対応も大切です。

 じゃ、どうしたらいいのか。ここは保健所や医療機関だけでなく、相談やサポートの機能を担う全国のNPOやコミュニティセンターの機能を高め、活用できるようにしてほしい。個人的には常々、そう考えていました。

 国際的なHIV/エイズ対策ではDifferentiated Care(またはDifferentiated  Service )の重要性が指摘されることが最近はよくあります。日本語にしにくい用語ですが、一応「受け手の事情に応えられる分化型のケア(あるいはサービス)」などと訳しています。

 受け手にとって、病院や保健所がサービス提供の主体である場合もあれば、その他の担い手が対応した方がはるかに使い勝手がいい場合もあります。医療の資源を疲弊させないという意味でも、全国のNPOやコミュニティセンターがその機能を担えるよう足腰を強くしていく必要がある。項目1には、コロナの現状もにらみつつ、そこまで読み込んだ対応を期待したいところです。

 もう一つ、提言では取り上げられていない郵送検査の課題として、検査の結果は必ず検査を受けた本人が伝えるという大原則が守られていないのではないかという危惧があります。この点は以前から指摘されてきたことなのですが、いまなお懸念は払しょくされていないように思います。上記3点に加え、目配りをお願いしたい課題なので、付け加えておきます。