東京都の委託を受けてエイズ&ソサエティ研究会議が毎月発行しているTOP-HAT Newsの第115号です。内閣府の世論調査でHIV/エイズが取り上げられました。
治療の進歩を実際の感染予防につなげるにはどうしたらいいのか。HIV/エイズをめぐる社会的な差別や偏見に取り組まない限り、検査の普及も早期の治療開始も難しいのではないか。そうした認識は現在、世界共通のものであり、同時に日本のHIV/エイズ対策にも不可欠の視点です。
調査の結果は予想通りと言えば、予想通りでしたが、その分、うかうかはしていられないぞという思いを新たにした現場の方たちも多かったのではないでしょうか。知識だけでは行動変容につながらない。それは確かですが、だから知識は不必要という話ではありません。ぼちぼちでもとにかく、必要と思われる情報の提供は続けていこう。
UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長が、ねぎし内科診療所を訪れ、主に首都圏で活動する医療関係者やHIV啓発・支援活動の現場の人たちと交流の機会を持ちました。ま、来日時の定番とはいえ、励ましにはなります。小さなことの積み重ねをおろそかにするなかれ・・・とでも言わにゃ、やっとられんわ的な気分も少しあります(あっ、これは聞き流しておいてね)。
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第115号(2018年3月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 改めて「まずは知識」の重要性
2 ミシェル・シディベUNAIDS事務局長が ねぎし内科診療所を訪問
3 自分でカンタン HIVチェックが再始動
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1 はじめに 改めて「まずは知識」の重要性
『HIV感染症・エイズに関する世論調査』の結果を内閣府が発表しました。18歳以上の日本国籍を有する3000人を対象にして、2018年1月11日~22日に個別面接聴取方式で行われた調査です。
https://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/tindex-all.html
有効回収数は1671人でした。回収率は55.1%となります。他のテーマの内閣府調査と比べるとやや低めで、こんなところにもHIV/エイズの流行に対する社会的関心の低下が表れているのかもしれません。
調査の目的は《HIV 感染症・エイズに関する国民の意識を把握し、今後の施策の参考とする》ということです。国のエイズ対策の基本となるエイズ予防指針が今年1月に改正されているので、その改正に合わせて実施された調査ですね。
厚生科学審議会感染症部会のエイズ・性感染症小委員会で進められた予防指針見直しの議論の中では「治療の進歩でHIVに感染した人が長く生きていけるようになっているのに、そうした変化に対する理解が国民に浸透していない」「エイズをめぐる差別や偏見がいまなお社会に強く残り、検査や治療の普及を妨げている」といった指摘がありました。
実際にはどうなのか、調査では以下の資料を示したうえで質問が行われています。
【資料】HIV(エイチ・アイ・ブイ)とはエイズの原因となるウイルスの名前のことで、エイズとは、HIV (エイチ・アイ・ブイ)に感染したことで免疫力が低下して病気を発症した状態のことをいいます。
質問は以下の7問です。
Q2 あなたはエイズについてどのような印象をお持ちですか。
Q3 HIV感染者から、HIVが感染する原因は何だと思いますか。
Q4 HIVやエイズの治療方法は急速に進歩していますが、あなたはHIV・エイズに 関する最新の情報を知っていますか。
Q5 もし仮に、あなたご自身がHIVに感染したかもしれないと思った場合、どのような 行動をとると思いますか。
Q6 HIV検査は全国の保健所において、匿名でまた、無料で受けることが できますが、あなたはこのことを知っていますか。
Q7 あなたは、保健所でのHIV検査をより受けやすくするためにどのような ことが重要だと思いますか。
設問によって1つだけ答えるものも、複数回答のものもあります。内閣府の公式サイトには調査結果の概略版(PDF方式)が載っているので、全体はそちらをみていただくとして、ここではQ2とQ4について、回答の上位項目だけ紹介しておきましょう(どちらも複数回答です)。
Q2(上位5項目)
・死に至る病である 52.1%
・原因不明で治療法がない 33.6%
・特定の人達にだけ関係のある病気である 19.9%
・どれにもあてはまらず、不治の特別な病だとは思っていない 15.7%
・毎日大量の薬を飲まなければならない 13.8%
Q4(上位3項目)
・適切に治療することにより、他の人へ感染させる危険性を減らすことができる 33.3%
・適切な治療を行えば、HIVに感染しても、感染していない人とほぼ同じ寿命を生きることができる 26.5%
・治療方法は進歩しているが、完治させることはできず、飲み続けなければならない 22.0%
ただし、Q4については実は、「すべて知らない」という回答が35.1%で最も多くなっています。
あくまで調査結果からの推測ですが、日本国内では半分以上の人がいまなお「エイズは死に至る病である」と思っていて、適切な治療の継続により他の人への感染のリスクがほぼなくなることを知っている人は3人に1人でした。HIVに感染している人が治療によって感染していない人と同じくらい長く生きていけるようになっていることを知っている人は4人に1人程度にとどまっています。
HIV感染の予防対策では、知識があっても、その知識が行動につながらなければ予防にはつながらないということが、たびたび指摘されてきました。
その通りではありますが、しかし、それは「知識は重要ではない」ということではありません。まずは知識、そこから行動へということで、息の長い努力が引き続き必要になります。
2 ミシェル・シディベUNAIDS事務局長が ねぎし内科診療所を訪問
国連合同エイズ計画(UNAIDS)のミシェル・シディベ事務局長が来日し、2月21日夜、東京・四谷三丁目の「ねぎし内科診療所」を訪れました。日本のHIV/エイズ対策の現場で活動する人たちと直接、交流したいというシディベ事務局長の強い希望により、実現した訪問です。
ねぎし内科診療所の根岸昌功院長は1980年代から都立駒込病院でHIV診療に携わり、日本で最も経験豊かなHIV/エイズ医療の専門家です。駒込病院感染症科の部長を退任後も自ら診療所を開設し、働きながら治療を続けるHIV陽性者が受診しやすいよう休日や夜間の診療も行っています。
当日は休診日で、シディベ事務局長は根岸院長やスタッフから診療施設を案内してもらいつつ、わが国のHIV診療の現状や課題などについて説明を受けました。また、診療所の多目的室でHIV/エイズ分野のNPOやHIV陽性者組織のメンバー約15人と1時間余りにわたって意見交換を行いました。シディベ事務局長の来日は8年ぶりで、前回は新宿2丁目のコミュニティセンターaktaを訪れています。
3 自分でカンタン HIVチェックが再始動
簡易な検査キットで自ら採血してHIVのスクリーニング検査を受けるHIVcheckが2月26日(月)から、東京・新宿2丁目のコミュニティセンターaktaを拠点に再スタートしました。簡単に仕組みを説明しましょう。
20歳以上のゲイ・バイセクシュアル男性を対象に毎週月曜日の夜にaktaで検査キットを配布します。検査を希望する人はそのキットを使って血液サンプルを自分で採取し、そのサンプルを郵送すれば、無料匿名で検査が受けられるようになっています。検査結果はウェブサイトでIDとパスワードを使って匿名のまま見ることができます。
サンプルの検査は国立国際医療研究センター内のエイズ治療・研究開発センターが担当しています。以前は国立国際医療研究センターの研究班が実施していたのですが、研究期間が終了し、一時中断していました。
今回は厚労省の「MSMに対する有効なHIV検査提供とハイリスク層への介入方法の開発に関する研究」という研究班によって2019年12月末まで実施される予定です。
詳しくはHIVcheckのウェブサイトをご覧ください。
世界中で流行する感染症の中で、いま最も多くの人の生命を奪っているのは結核です。世界保健機関(WHO)のファクトシートによると、2016年には1年間で推定170万人が結核で死亡し、そのうちの40万人はHIV陽性者です。
ニューヨークでは今年9月に国連総会結核ハイレベル会合が開かれます。国際保健およびHIV/エイズ対策の観点からも重要な会議で、その事前協議の共同議長には日本の別所浩郎大使とアンティグア・バーブーダのウォルトン・アルフォンソ・ウェブソン大使が指名されました。
一方、モスクワで開かれた昨年11月の「結核に関する終結に向けた第1回WHO閣僚級会合議」ではモスクワ宣言が採択されていて、この宣言が結核ハイレベル会合の事前協議でも議論の土台となります。宣言の日本語仮訳はエイズ&ソサエティ研究会議のHATプロジェクトのブログに4回に分けて掲載しましたので参考までにご覧ください。
http://asajp.at.webry.info/theme/048c3cc77a.html