UNAIDSはどうなるのか TOP-HAT News 第133号(2019年9月)

 空席になっていた国連合同エイズ計画(UNAIDS)の事務局長にオクスファム事務局長のウィニー・ビヤニマ氏を任命することが発表されたのは8月14日でした。あれからもう2カ月近くが過ぎていますが、就任はまだのようですね。国際組織の現職事務局長なので、その職を去るにあたっては、何かと時間がかかるのかもしれませんね。

 就任すれば、UNAIDSとしては初の女性事務局長になります。

 12月1日が世界エイズデーなので、それより前には新体制が動き出してほしい。勝手な想像ですが、そんなことも考えると、正式就任は11月1日あたりかな。

 TOP-HAT News 第133号(2019年9月)では、UNAIDS新事務局長決定を巻頭で取り上げました。

 『シディベ前事務局長の辞任を求める動きの中で、国連関係者や研究者の一部ではHIV/エイズという個別の疾病に特化した国連機関の存在理由はすでになく、世界保健機関(WHO)に統合すべきではないかといったUNAIDS解体論がくすぶっていました』

 そんな指摘もある難しい時期です。

 『英医学誌ランセットのリチャード・ホートン編集長は今年7月6日付の同誌上で「UNAIDSを閉じるための指導者を選ぶ時が来たのか」と問いかけ、即座に「いつかはその時が来るだろう。ただし、いまじゃない」と断言しています』

 気を持たせるようで恐縮ですが、詳しくは以下をご覧ください。 

 

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        第133号(2019年9月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

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1  はじめに UNAIDS新事務局長にウィニー・ビヤニマ氏 

2  国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数が2年連続で減少

3 はばたき福祉事業団がホームページをリニューアル 

4  「手話と字幕で分かるHIV/エイズ予防啓発動画」 

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1 はじめに  UNAIDS新事務局長にウィニー・ビヤニマ氏

 国連のアントニオ・グテーレス事務総長は8月14日、空席になっていた国連合同エイズ計画(UNAIDS)の新事務局長(兼国連事務次長)に国際NGOオクスファム・インターナショナルの事務局長、ウィニー・ビヤニマ氏を任命することを決定しました。地球規模のHIV/エイズの流行と闘う国連機関として1995年に発足したUNAIDSにとっては初の女性事務局長となります。今年の世界エイズデー(12月1日)までには、新事務局長を迎えることになるUNAIDSは、同日付でさっそくビヤニマ氏の任命を歓迎するプレス声明を発表しています。

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2019/august/20190814_unaids-exd

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 ビヤニマ氏はウガンダの国会議員やアフリカ連合委員会の女性と開発局長などを務めたアフリカの著名女性指導者の一人であり、国連開発計画(UNDP)のジェンダーと開発局長を経て、2013年からオックスファム・インターナショナルの事務局長を務めてきました。

 UNAIDSのプレス声明によると、ビヤニマ氏は「公衆衛生上の危機としてのエイズを2030年までに終結に導くことは世界にとって到達可能な目標ではありますが、そのためにこれから取り組まなければならない課題を軽視することはできません」と現状を厳しく認識したうえで、「すべてのパートナーと協力してUNAIDSは取り残された人たちのために声を上げ、人権こそが流行を終結に導く唯一の道であることを先頭に立って示し続けなければならないのです」と新たな職務に強い意欲を示しています。

 UNAIDSでは、前任のミシェル・シディベ氏が、職員のセクハラスキャンダルへの対応と組織運営の私物化などを批判され、5月に事務局長を退任しています。それに先立って設けられていた新事務局長候補者選任委員会では、公募を経て最終候補者が5人に絞られ、グテーレス国連事務総長がその中からビヤニマ氏を選任しました。

 5人の候補者のうち、HIV/エイズの流行が最も深刻なサハラ以南のアフリカ出身者は4人、女性は1人だったということです。

 シディベ前事務局長の辞任を求める動きの中で、国連関係者や研究者の一部ではHIV/エイズという個別の疾病に特化した国連機関の存在理由はすでになく、世界保健機関(WHO)に統合すべきではないかといったUNAIDS解体論がくすぶっていました。

 これに対し、英医学誌ランセットのリチャード・ホートン編集長は今年7月6日付の同誌上で「UNAIDSを閉じるための指導者を選ぶ時が来たのか」と問いかけ、即座に「いつかはその時が来るだろう。ただし、いまじゃない」と断言しています

 『Who should lead UNAIDS?』

 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(19)31563-6/fulltext

 ホートン氏はさらに世界疾病負担研究(the Global Burden of Disease Study)の2017年報告をもとに、エイズによる死者は年間100万人近く、そのうち67万6100人は15~49歳で亡くなっていること、世界のHIV陽性者は3700万人、新規感染は年間190万人と依然、ショッキングなまでに多いことなどをあげ、「いま政治的にUNAIDSの消滅を宣言することは、致命的な失策になるだろう」と述べています。

 こうした議論が渦巻く中で、ビヤニマ氏はUNAIDSに対する国際的な信頼を取り戻すための組織改革を進めつつ、「公衆衛生上の危機としてのエイズ流行」を2030年までに終結に導くという困難な課題に取り組むことになります。

 

 

2  国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数が2年連続で減少

 厚労省エイズ動向委員会が8月29日、昨年(2018年)の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の確定値を発表しました。

 

 ・新規HIV感染者報告数  940件(過去13位)

 ・新規エイズ患者報告数 377件(過去14位)

 ・合計新規報告数    1317件(過去13位)

 

 報告数は2年連続の減少で、2017年に続き新規HIV感染報告は1000件以下、エイズ患者と合わせた合計報告件数が1400件以下となりました。

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 動向委員会終了後の記者会見で、白阪琢磨委員長は「HIV感染症は予防が可能な感染症である。HIVに感染していない者においては、適切な予防策をとること、HIVに感染した可能性がある者においては、まずは自分の感染を知ることが、個人においては早期治療に、社会においては感染の拡大防止に結びつくことから、重要となる。国民の皆様には、性感染症を含め、保健所の無料・匿名での相談や検査の機会を積極的に利用いただきたい」とのコメントを発表しています。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/2018/18nenpo/coment.pdf

 

 

3  はばたき福祉事業団がホームページをリニューアル

 薬害エイズ被害者の救済事業を被害者自らが推進し、その成果を公共の福祉に還元することを目指す社会福祉法人はばたき福祉事業団がホームページをリニューアルしました。

https://www.habatakifukushi.jp/ 

 新しいバナーには、枝にとまった鳥がはばたく姿とともに「患者が変われば、医療は変わる。」というメッセージが書き込まれています。

 

 

4  「手話と字幕で分かるHIV/エイズ予防啓発動画」

 クラウドファンディングで完成した、ろう者のためのHIV啓発ビデオです。昨年(2018年)の世界エイズデー(12月1日)に公開されました。

 聞こえる人、聞こえない人どちらにも伝わるHIV/エイズ予防啓発動画として、研修や授業、学習会などで、誰でも利用することができるよう公開されています。

 詳細はTOKYO AIDS WEEKS(東京エイズウィークス)公式サイトのニュース欄でご覧ください。動画のダウンロードもできます。

aidsweeks.tokyo