『HIVの教訓を生かしCOVID-19のパンデミックへの関与強める』 UNAIDS エイズと社会ウェブ版488

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の最高議決機関であるプログラム調整理事会(PCB)の第47回会合が6月23日から3日間にわたって開かれました。・・・といっても今回は、新型コロナウイルス感染症COVID-19パンデミックの影響で初のバーチャル会議となり、初日の23日にウィニー・ビヤニマ事務局長が開会演説を行っています。  

www.unaids.org

 UNAIDSの公式サイトに掲載されたプレスリリースによると、ビヤニマ事務局長は世界のHIV/エイズ対策について「COVID-19以前でも、2020年段階の目標達成軌道には乗っていません。COVID-19が出現したことで、私たちはいま、そのコースから吹き飛ばされるリスクを抱えています」と述べ、「UNAIDSは合同プログラムとして2つのパンデミックを克服し、安全かつ公平で復元力のある社会を育むという困難な課題に取り組まなければなりません」と呼びかけています。

 「合同プログラム」についてちょっと説明しておきましょう。UNAIDSは1994年の国連経済社会理事会の決議に基づき、複数の国連機関が共同スポンサーになった合同プログラムとして活動を開始しています。決議段階では6機関だったと思いますが、その後、数が増えていき、現在は11の国連機関が共同スポンサーになっています。

 国連機関には活動領域をめぐる縄張り争いのようなものがあり、新しい組織ができることを既存の国連機関が望まなかった。その結果として生まれた変則体制だったようですが、そもそも感染症パンデミックには、保健だけでなく、開発や性に関わる課題、教育、食糧確保、人道支援など様々な分野のエキスパートが協力して取り組む必要があります。同機はともかくとして、寄り合い所帯的なあいまいさを克服できれば、悪くない体制でもあったように私などは思います。

 プログラム調整理事会(PCB)という意味が分かりにくい名称が理事会につけられたのもきっと、そのためなんでしょうが、せっかくのその枠組みをCOVID-19対策に生かさない手はありません。

 PCBは世界の各地域から任期付きで選ばれた22カ国政府、共同スポンサーの11国連機関、HIV陽性者のネットワークを含む5つのNGOの代表で構成されています。ただし、NGO代表には議決権はありません。

 会合は通常、年2回開かれます。ほかに特別会合が開かれることもあります。今回はCOVID-19の流行という特別な事態のもとでの開催となりましたが、あくまで通常の会合ですね。

 ビヤニマ事務局長演説は、HIV対策の現状やUNAIDSの組織改革など幅広い課題に言及していますが、その中でもとくに注目されるのは、多分野にまたがる合同プログラムとしての特性を踏まえ、COVID-19対策への関与も強めていく姿勢を示していることです。HIVというパンデミックに対応する中で蓄積してきた経験と教訓には、COVID-19対策にも生かせる知恵がたくさん含まれています。このことは国際的にも、日本国内でも多くの(ではないかもしれませんが、それなりの)人がすでに指摘していることであり、当然の判断というべきでしょうね。

 (追加情報) PCBは25日に閉幕しましたが、その中では2022年からのUNAIDSの戦略計画について、事務局が現在進めている内部検証の結果を2020年10月末までにPCBに報告し、その報告をもとに2020年12月の次期PCB会合で戦略草案が検討されることが決まりました。新戦略の決定は来年(2021年)3月のPCB特別会合で決まることになりそうです。

 以下プレスリリースの日本語仮訳です。

 

 

HIVとCOVID-19の概況をプログラム調整理事会で報告 ビヤニマ事務局長開会演説

 UNAIDSプレスリリース

 

ジュネーブ 2020年6月25日 UNAIDSの第46回プログラム調整理事会が2020年6月23日に始まった。COVID-19の流行に伴う初のバーチャル会合となり、3日間にわたってHIV対策、HIVとCOVID-19という2つのパンデミックへの対応、事務局改革と合同プログラムの機能などが議論される。

 開会演説を行ったUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は、2020年半ば時点でのHIV/COVID-19の概要を示し、バーチャル参加者に向けて、HIVの流行がいまなお終わっていないことを強調した。

 「COVID-19以前でも、2020年段階の目標達成軌道には乗っていません。COVID-19が出現したことで、私たちはいま、そのコースから吹き飛ばされるリスクを抱えています」とビヤニマ事務局長は警告する。「合同プログラムとして2つのパンデミックを克服し、安全かつ公平で復元力のある社会を育むという困難な課題に取り組まなければなりません」と彼女は付け加えた。

 ビヤニマ事務局長は各国に対し、HIVサービスへの不平等なアクセスと闘う歴史から得た教訓に学び、COVID-19との闘いにも生かすよう求めた。生命を救う薬がありながら、途上国の人々には手の出ない価格を製薬会社が維持し、エイズ関連の疾病で何百万という人が亡くなってきたことに注意を促している。

 同じ文脈で、ビヤニマ事務局長は、人びとのためのCOVID-19ワクチンの必要性も繰り返し強調した。そのためには、COVID-19に関するいかなるワクチンも治療法も、開発されたらすべての国で入手できるようにする国際合意が必要になる。「価格のために、途上国が排除されるようなことがあってはなりません」と彼女はいう。

 事務局長はUNAIDSが新たなパンデミックへの関与を強めていることに言及し、HIV対策の生きた教訓である経験と専門性とのユニークな組み合わせが、COVID-19対策への投資の活用にも有効なことを強調した。

 HIV治療と予防への支援、最前線の現場におけるコミュニティとの協力、人権とジェンダーの平等の促進、スティグマと差別の解消に向けたキャンペーン。これらはUNAIDSの核となる使命である、と彼女は語った。UNAIDSはこの使命の実現を引き続き目指し、最も遠く取り残された人たちに届くようにしたい。だが、同時にグローバル政策の変化を促し、COVID-19とHIVの両方のリスクを高める不平等と闘う、と彼女は述べた。

 UNAIDSの次期戦略については、HIV対策の改善をはかり、PCBや世界のエイズコミュニティからの提案を広く反映させた重要な新規戦略にすることをビヤニマ事務局長は約束した。2020年12月に開くPCBの第47回会合で野心的な戦略草案を提案し、2021 年3月のPCBで最終案の採択を目指すという。

 ビヤニマ事務局長は、UNAIDSの内部改革についても報告し、組織文化の変革に向け、フェミニストリーダーシップの原則をどのように導入するかを説明した。改革が続いていることを示す、他の一連の方策 - パフォーマンス管理制度の見直し、独立の倫理機能など -も発表した。

 ビヤニマ事務局長は、UNAIDSへの投資が極めて大きなリターンをもたらしていることに念を押して演説を終えた。世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)などの資金源とともに、UNAIDSが必要とする資金を保障することが極めて重要であると述べた。

 「COVID-19が出現したことで、HIVの原則とアプローチ、インフラストラクチャー、専門性への投資は、エイズ対策を超えて存在感を発揮することができるようになっています」と彼女は語った。

 

 

 

 

PRESS RELEASE

UNAIDS Executive Director sets out HIV/COVID-19 landscape at opening of PCB meeting

 

GENEVA, 24 June 2020—The 46th meeting of the UNAIDS Programme Coordinating Board commenced on 23 June 2020. Held for the first time as a virtual meeting, as a result of the COVID-19 pandemic, the meeting will see three days of discussion and reflection on the HIV response, the interconnectedness between the twin pandemics of HIV and COVID-19 and the work of the Secretariat and the Joint Programme.

In her opening address to the PCB meeting, Winnie Byanyima, the Executive Director of UNAIDS, presented an overview of the HIV/COVID-19 landscape in mid-2020 and told the online audience that the HIV epidemic is still urgent, unfinished business.

“Even before COVID-19 we were not on track to meet our targets for 2020. Now the COVID-19 crisis risks blowing us way off course,” warned Ms Byanyima. “As a Joint Programme, we must address the deeper challenges to recover from this crisis to beat both pandemics and foster safe, equitable and resilient societies,” she added.

Ms Byanyima urged countries to learn the lessons from a history of unequal access to HIV services and apply them to the fight against COVID-19. She noted that millions of people died from AIDS-related illnesses while there were medicines available that could have saved their lives—leaving access to medicines to pharmaceutical companies resulted in prices that were too high for people in developing countries.

In the same vein, Ms Byanyima reiterated her call for a People’s Vaccine for COVID-19, with an international agreement that any vaccines and treatments discovered for COVID-19 be made available to all countries. “Developing countries must not be priced out,” she said.

The Executive Director also spoke about the increasing relevance of UNAIDS during a new pandemic and how it has a unique combination of experience and expertise that can help ensure that investments in the COVID-19 response reflect the vital lessons learned from the HIV response.

Supporting HIV treatment and prevention, working on the front line with communities, supporting human rights and gender equality and campaigning against stigma and discrimination—these are part of UNAIDS’ core mandate, she told the meeting. UNAIDS will continue to deliver on that mandate and reach the people who are left the furthest behind, but will also move the global policy needle and tackle the inequalities that place people at greater risk of both HIV and COVID-19, she said.

Turning to the next global UNAIDS strategy, Ms Byanyima committed that the critical new strategy, designed to shape an improved HIV response, will reflect the widest possible input and engagement—from the PCB, its constituencies and the global AIDS community. She suggested that an ambitious draft strategy be presented to the 47th meeting of the PCB in December 2020, with a final version to be reviewed and adopted by the PCB in March 2021.

Ms Byanyima updated the PCB on the internal transformation of UNAIDS, outlining how she will bring feminist leadership principles to help change the culture of the organization. A series of other steps—including a revised performance management system and an independent ethics function—that will ensure that the transformation continues to be on course were announced.

Ms Byanyima ended her address with a reminder of the huge returns that are seen from investing in UNAIDS. She said that it is vital that UNAIDS, along with funding sources such as the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria and the United States President’s Emergency Plan for AIDS Relief, be fully funded.

“As COVID-19 has shown, investments in HIV principles, approaches and infrastructure and expertise extend far beyond the AIDS response,” she said.