世界エイズデーに向けたUNAIDS事務局長メッセージ エイズと社会ウェッブ版528

 12月1日の世界エイズデーに向けて、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・ビヤニマ事務局長がメッセージを発表しました。11月23日付けで公式サイトにプレス声明として発表され、You tubeのビデオも合わせて掲載されています。

www.youtube.com

 プレス声明については、私家版の日本語仮訳を作成し、このブログの末尾に載せてあるので、関心がおありの方はご覧ください。

 メッセージの中でビヤニマ事務局長は『過去20年にわたって積み上げてきた成果がCOVID-19によって脅かされています』と現状に強い危機感を表明し、世界エイズデー2020キャンペーンのテーマ「Global solidarity, shared responsibility( グローバルな連帯、共有の責任)」について説明しています。

 メッセージはとくにCOVID-19の流行により、以前から存在していた『ジェンダーや人種、そして社会的および経済的な不平等』が拡大していることを指摘し、「HIVとCOVID-19の流行が同時に進行する現状」を克服するには共有の責任を認め合う必要があるとして、HIVアクティビストやHIVに影響を受けているコミュニティにもこれまで以上の協力を呼びかけました。

 また、『グローバルな問題にはグローバルな連帯が必要』と述べ、開発が進むCOVID-19ワクチンについて『公平なアクセスの確保』の重要性を強調したうえで、ワクチン開発に取り組む企業に対しては、技術とノウハウを公開し、知的財産権を放棄するよう求めています。

 こういうことは言っても無駄なのかもしれませんが、それでもことあるごとに指摘しておく必要はあります。HIV治療に関しては命を救う治療薬がありながら、途上国の何百万という人たちは治療を受けることができないまま亡くなっていった。過去の話ではなく、いまも亡くなっている。このことを『世界がHIVとの闘いで経験した過ち』ととらえるビヤニマ事務局長にとって、それは譲れない一線と言うべきでしょう。

 コロナウイルスのワクチンについては、個人的にあまり過大な期待はできないと思いつつ、それでもある程度の安全性が確認できるのなら打てるものは打っておきたいという気持ちも一方にはある。国民全員分のワクチンを確保するなどと(大損するのは分かっているのに)豪語する政府のもとで、死亡や重症化のリスクが比較的、高いとされる高齢層の国民としては、微妙に切ない立場でもあります。

 以下、プレス声明の日本語仮訳です。

 

 

 

世界エイズデー2020に向けたウィニー・ビヤニマ国連合同エイズ計画(UNAIDS)事務局長メッセ-ジ 2020年11月23日、UNAIDSプレス声明

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2020/november/world-aids-day-2020-message-from-executive-director-winnie-byanyima

 

 2020年の世界エイズデーはこれまでにないものになります。

 過去20年にわたり保健と開発の分野で積み上げてきた世界の成果がCOVID-19によって脅かされています。そこにはHIV対策の成果も含まれています。

他のすべての疾病の流行と同じように、COVID-19の流行もすでに存在している不平等を拡大するものなのです。

ジェンダーや人種、そして社会的および経済的な不平等です。 私たちはいま、格差がさらに拡大する世界に向かおうとしています。

HIV運動はこの1年、私たちが獲得してきた成果をまもってきました。HIV陽性者や社会的に弱い立場に置かれた人たちをまもり、コロナウイルスの流行を押し戻そうとしてきた皆さんのことを私は誇りに思います。

HIVアクティビストやHIVに影響を受けているコミュニティは、HIV治療薬の複数月調剤キャンペーン、医薬品宅配への手配、危機に直面している人たちへの財政支援や食糧、避難所の提供などの対策の中心を担ってきました。皆さんに敬意を表します!

私たちがHIVに打ち勝つことができたのは、互いに共有の責任を認め合い、コミュニティが大きな力を発揮して貢献してきたからです。

そしていま、HIVとCOVID-19の流行が同時に進行する現状を克服するには、これまで以上にその力が必要となっています。

皆さん、COVID-19対策では、世界がHIVとの闘いで経験した過ちを繰り返すことはできません。HIVには治療法があります。それなのに、途上国ではその治療を受けられないまま何百万もの人が亡くなっていきました。

いまもなおHIV治療を必要としている人のうち、1200万人以上が治療を受けられずにいます。2019年には年間で170万人が新たにHIVに感染しました。必要なサービスを利用することができないからです。

コロナウイルスに対する人びとのワクチンの実現をUNAIDSが強く支持しているのもこのためです。

グローバルな問題にはグローバルな連帯が必要です。

COVID-19ワクチン候補の効果と安全性が初めて証明されつつあり、さらに多くのワクチン候補がこれに続くことも期待されています。ただし、公平なアクセスの確保に関しては重大な懸念が残されたままの状態です。ワクチン開発に取り組む企業に対し、私たちは技術とノウハウを公開して共有できるようにすること、そして知的財産権を放棄して、世界中のすべての人をまもるために必要なワクチンを大規模かつ迅速に生産できるようにすることを求めています。そうしなければ世界経済を回復させることはできません。

エイズ流行終結という私たちの目標は、COVID-19以前にすでに軌道から外れていました。HIV感染のリスクを高める社会的不公正をなくさなければなりません。健康への権利をまもるために闘わなければなりません。健康へのユニバーサル・アクセスに必要な投資を政府が怠っていることに言い訳はできません。医療費の利用者負担金など、人びとを保健医療サービスから締め出す障壁は取り除かなければなりません。

女性・女児の人権を完全に尊重しなければなりません。ゲイ男性、トランスジェンダーの人たち、セックスワーカー、薬物使用者を犯罪者とみなし、社会から排除することをやめなければなりません。

2020年も終わろうとしています。世界は危険の真っただ中にあり、これからの数カ月は容易なものではありません。

グローバルな連帯と共有の責任がなければ、コロナウイルスに打ち勝ち、エイズ流行を終結に導き、すべての人に健康の権利を保障することはできないのです。

ありがとうございます。

 

ウィニー・ビヤニマ

UNAIDS事務局長、国連事務次長

 

 

 

World AIDS Day 2020 message from UNAIDS Executive Director Winnie Byanyima

 

World AIDS Day 2020 will be like no other.

COVID-19 is threatening the progress that the world has made in health and development over the past 20 years, including the gains we have made against HIV.

Like all epidemics, it is widening the inequalities that already existed.

Gender inequality, racial inequality, social and economic inequalities. We are becoming a more unequal world.

I am proud that over the past year the HIV movement has mobilized to defend our progress, to protect people living with HIV and other vulnerable groups and to push the coronavirus back.

Whether campaigning for multimonth dispensing of HIV treatment, organizing home deliveries of medicines or providing financial assistance, food and shelter to at-risk groups, HIV activists and affected communities have again shown they are the mainstay of the HIV response. I salute you!

It is the strength within communities, inspired by a shared responsibility to each other, that has contributed in great part to our victories over HIV.

Today, we need that strength more than ever to beat the colliding epidemics of HIV and COVID-19.

Friends, in responding to COVID-19, the world cannot make the same mistakes it made in the fight against HIV, when millions in developing countries died waiting for treatment.

Even today, more than 12 million people are still waiting to get on HIV treatment and 1.7 million people became infected with HIV in 2019 because they could not access essential services.

That is why UNAIDS has been a leading advocate for a People’s Vaccine against the coronavirus.

Global problems need global solidarity.

As the first COVID-19 vaccine candidates have proven effective and safe, there is hope that more will follow, but there are serious threats to ensuring equitable access. We are calling on companies to openly share their technology and know-how and to wave their intellectual property rights so that the world can produce the successful vaccines at the huge scale and speed required to protect everyone and so that we can get the global economy back on track.

Our goal of ending the AIDS epidemic was already off track before COVID-19. We must put people first to get the AIDS response back on track. We must end the social injustices that put people at risk of contracting HIV. And we must fight for the right to health. There is no excuse for governments to not invest fully for universal access to health. Barriers such as up-front user fees that lock people out of health must come down.

Women and girls must have their human rights fully respected, and the criminalization and marginalization of gay men, transgender people, sex workers and people who use drugs must stop.

As we approach the end of 2020, the world is in a dangerous place and the months ahead will not be easy.

Only global solidarity and shared responsibility will help us beat the coronavirus, end the AIDS epidemic and guarantee the right to health for all.

Thank you.

 

Winnie Byanyima

Executive Director of UNAIDS

 

Under-Secretary-General of the United Nations