UNAIDSがツツ大主教追悼のプレスリリース エイズと社会ウェブ版592

 南アフリカデズモンド・ツツ大主教が12月26日、ケープタウンで亡くなりました。90歳でした。ツツ大主教は南アのアパルトヘイト(人種隔離)撤廃に尽力し、1984年にはノーベル平和賞を受賞しています。また、HIV/エイズ対策については、南ア国内だけでなく、世界の主導的な役割を果たしてきました。国連合同エイズ計画(UNAIDS)はツツ大主教が亡くなった当日である26日、『世界のエイズ対策は偉大なチャンピオンを失う』という見出しのプレスリリースを発表しました。

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www.unaids.org

 その中でUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は『他のほとんどの人ができない方法で、不当な現実に世界の注意を喚起する先導的な光であり、HIV陽性者、エイズに影響を受けている人たちの権利の擁護者でした。彼が示した道、彼がこの世界にもたらした希望のおかげで、何百万もの人がいま、自由に生きていられるのです』と述べています。

 また、リリースはツツ大主教の重要な貢献の一つとして「南アフリカにおけるエイズ否認主義に終止符を打つよう呼びかけました。彼は生命を救う治療薬へのアクセスを確保するために闘いました」と指摘しています。

 エイズ否認主義とはおそらく、1990年代後半から2000年代前半にかけて南アのムベキ政権が、HIVエイズの原因ではないという見解を取り、抗レトロウイルス薬(HIV治療薬)の導入に消極的な政策をとっていたことを指しているのではないかと思います。こうした政策に対し、南アのNGOであるTAC(治療アクセスキャンペーン)などが激しい抗議行動を展開し、治療へのアクセス確保を実現してきました。また、南ア政府の姿勢だけでなく、医薬品の知的財産権が障壁となり、途上国ではHIV治療薬のアクセスが実質的に閉ざされている状態でしたが、この特許の障壁に対しても、TACやツツ大主教の活動と発言が打開の大きな力になりました。

 まだ、道半ばとはいえ、途上国における治療アクセスの拡大は、HIV/エイズ対策の重要な成果のひとつであり、COVID-19ワクチンにおける公平性の確保という極めて今日的、かつ悩ましい課題にもつながっています。

 蛇足ながら付け加えれば、コロナウイルスのオミクロン株が世界中で広がる中で、個人的には3回目のワクチン(ブースター接種)を早く・・・と、どうしても思ってしまう。途上国の人たちの平等なアクセス確保の重要性は認識しつつも、「私の3回目は後回しでいいから」という気持ちにまではなかなかなれない。「悩ましい」と書いたのは、個人的な内面のそういう事情もあるからです。

 以下、UNAIDSプレスリリースの私家版日本語仮訳です。

 

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世界のエイズ対策は偉大なチャンピオンを失う

 デズモンド・ツツ大主教の訃報に接し、UNAIDSは深い悲しみに沈んでいます

 

ジュネーブ12月26日 南アフリカアパルトヘイトと戦い、世界の人種差別や不公正と闘い続けたデズモンド・ツツ大主教が亡くなりました。UNAIDSはいま深い悲しみの中にいます。大主教エイズとの闘いにおいても強力な声であり続けました。拒絶と闘い、すべての人が治療を受けられるよう求め続け、HIV陽性者への差別に反対し、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの人たち、女性、子供たちの人権を擁護したのです。その功績がHIV結核の予防と治療について世界的な考え方を大きく変え、多くの人の命を救うことになりました。

 「巨星墜つ。ツツ大主教は自由の闘士であり、聖人であり、アフリカ解放の歴史を作る偉大な英雄でした」と国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「他のほとんどの人ができない方法で、不当な現実に世界の注意を喚起する先導的な光であり、HIV陽性者、エイズに影響を受けている人たちの権利の擁護者でした。彼が示した道、彼がこの世界にもたらした希望のおかげで、何百万もの人がいま、自由に生きていられるのです」

 ツツ大主教は、南アフリカにおけるエイズ否認主義に終止符を打つよう呼びかけました。彼は生命を救う治療薬へのアクセスを確保するために闘いました。製薬会社に対し「医薬品特許法は利益でなく、人びとを中心にしなければならない」と語り、エイズ治療薬を入手しやすくするよう呼びかけたのです。彼はまた、同性愛者の権利擁護の先頭にも立ちました。人間の愛のかたちを犯罪として扱う法律をアパルトヘイトになぞらえ、「明らかに間違っている」と語っています。

デズモンド・ツツ大主教は、思春期の少年少女および若者のHIV感染予防の重要性を擁護してきました。2011年にはHIV予防に関するUNAIDS委員会の共同議長を務め、HIV予防の大胆な世界目標を設定しました。彼はエイズ対策のリーダーシップをとる若者たちを称えました。ロベン島で若いリーダーたちとHIV予防に関する会合を開いたときには「大胆かつまっすぐな行動が必要です。次の世代のリーダーたちが、その態度と行動に前向きな変化をもたらすことを期待しています」と語っています。

「UNAIDSは友人であり、指導役であり、先生である人物を失いました」とビヤニマ事務局長は述べています。「私たちの思いはいま、彼の家族、南アフリカの人びと、そして彼が触れあい、より良い人生を得た世界中の多くの人びとと共にあります」

 

 

 

The global AIDS response has lost a great champion

UNAIDS is deeply saddened at the passing of Archbishop Emeritus Desmond Tutu

 

GENEVA, 26 December 2021—UNAIDS is deeply saddened at the passing of Archbishop Desmond Tutu who fought against apartheid in South Africa and combated racism and injustice worldwide. He was a powerful voice in the fight against AIDS, combating denial, demanding access to treatment for all, calling out against discrimination of people living with HIV, and championing the human rights of lesbian, gay, bisexual and transgender people, women, and children. His work on HIV and tuberculosis prevention and treatment changed global paradigms and saved many lives.

“A giant has fallen. Archbishop Tutu was a freedom fighter, a holy man, a great hero who played a history-shaping role in the liberation of Africa,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “He was a leading light who brought global attention to injustice in a way few others could and a champion for the rights of all people living with and affected by AIDS. Millions are alive and free today because of the path he charted and the hope he brought to this world.”

Archbishop Tutu was outspoken in calling for an end to AIDS denialism in South Africa.  He fought for access to lifesaving medicines. "People, not profits, must be at the centre of patent law for medicines," he said while calling on pharmaceutical companies to make AIDS medicines accessible. He was also a champion of rights of gay people. He likened laws that criminalize forms of human love as apartheid laws—”so obviously wrong”

Archbishop Desmond Tutu was an advocate for preventing HIV infection in adolescents and young people. He co-chaired the UNAIDS commission on HIV prevention in 2011 that led to setting bold global targets for HIV prevention. He extolled on young people to take on the leadership on AIDS. “Bold and honest actions are needed, and we look to the next generation of leaders to bring about positive change in attitudes and actions,” said Archbishop Tutu while speaking with young leaders in Robben Island on HIV prevention.

“UNAIDS has lost a friend, guide and mentor,” said Ms Byanyima. “Our thoughts are with his family, the people of South Africa, and many around the world whose lives he touched and changed for the better.”

 

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