『ウガンダの2023年反同性愛法に対するグローバルファンド、UNAIDS、PEPFAR指導者による共同声明』 エイズと社会ウェブ版649 

 

 ウガンダのムセベニ大統領が5月29日、議会を通過していた2023年反同性愛法案に署名し、法律として成立することになりました。ウガンダではこれまでも同性愛行為は違法とされていましたが、新たに成立した法律は、HIV陽性者による同性間の性行為など「悪質な行為」には死刑もあり得るなど、一段と厳罰化を強めた内容です。

 法成立を防ぐため、大統領に署名拒否を求めていたHIV/エイズ対策分野の国際組織の指導者3人は同日付で直ちに、成立したばかりの法律の見直しを求める共同プレス声明を発表しました。

 声明は世界エイズ結核マラリア対策基金のピーター・サンズ事務局長、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・ビヤニマ事務局長、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)を統括するジョン・ヌケンガソン米国大使(地球規模エイズ調整官)の3人の連名です。

 ウガンダはこれまで、エイズ対策で大きな成果をあげてきた国の一つですが、共同声明では、今回の法律により「医療サービスへの公平なアクセスの確保、および公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」が不可能になることに強い懸念を表明しています。

 

ウガンダの2023年反同性愛法に対するグローバルファンド、UNAIDS、PEPFAR指導者による共同声明(プレス声明)』

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2023/may/20230529_uganda-anti-homosexuality-act (英文、日本語仮訳はこの記事の最後に掲載しておきます。参考までにご覧ください)。

 これまでの経緯を少し説明しておくと、ウガンダ議会は今年3月、反同性愛法案をいったん可決しています。ただし、この時は国際的に強い反対があったことから、大統領が署名をせず、議会に再検討を求めています。

このため、議会は4月に内容を一部手直しした新法案を可決し、大統領も今回は国際社会の反対を押し切って署名に踏み切るかたちになりました。その経緯については5月5日付の当ブログで少し紹介したので、合わせて参考にしてください。

ウガンダの新反同性愛者法案は公衆衛生に有害 UNAIDSが重ねてプレス声明』

 https://miyatak.hatenablog.com/entry/2023/05/05/175338

 

 大統領としては、一回差し戻したことで一応、国際社会の顔も立てたし・・・という印象でしょうか。ただし、今回は3者の共同声明というかたちでより強い懸念が表明されています。事態はむしろ深刻化しているというべきでしょう。

 

 グローバルファンド日本委員会(FGFJ)の公式サイトにも、5月30日付けで 《ウガンダ「反同性愛法」成立を受け、エイズ対策支援の三機関トップが声明を発表》という特集記事が組まれています。

https://fgfj.jcie.or.jp/news/2023-05-30_jointstatement_gf_unaids_pepfar_statement_anti-homosexuality_act/

《どのような病気であっても、人々が医療にアクセスするためには、信頼がおけ、秘密がまもられ、差別のない環境が必要です。ウガンダはこれまで、HIVの予防と治療で顕著な成果を上げてきた国ですが、この法律によりLGBTQI+の人々に対する差別と偏見が拡大することで、攻撃や罰、さらなる疎外を恐れて、医療サービスを受けることを躊躇する人が増えることが懸念されます》

 性的少数者を含め、当事者の人権を守ることがエイズ対策にとってなぜ重要なのかという観点から、特集では、過去のFGFJサイトに掲載された関連記事も紹介しています。大きな流れを把握するうえで参考になると思いますので、こちらも是非ご覧ください。

 

以下、2023年5月29日付け共同声明の日本語仮訳です。

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ウガンダの2023年反同性愛法に対するグローバルファンド、UNAIDS、PEPFAR指導者による共同声明(プレス声明)

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2023/may/20230529_uganda-anti-homosexuality-act

 

ジュネーブ・ワシントンDC 2023年5月29日 世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、2023年ウガンダ反同性愛法が国民の健康に悪影響を及ぼし、これまで大きな成功を収めてきたウガンダエイズ対策に打撃を与えることを深く憂慮している。

 

公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結に向けたウガンダのリーダーシップ

ウガンダおよび同国のヨウェリ・ムセベニ大統領は、エイズ終結に向けた闘いのリーダーでした。医療を必要とするすべての人が、偏見や差別を心配せずに医療を受けられるようにするという原則に基づいて、大規模な予防、診断、治療、ケアのプログラムを実施してきたのです。このアプローチで多くの命が救われました。エイズ対策を通して構築された医療システムが、ウガンダのすべての人たちにサービスを提供してきたのです。エイズ対策のために育成されたコミュニティのヘルスワーカーと保健システムが、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)やその他の病気の脅威に対応するうえでも重要な役割を果たし、高い効果を明らかにしています。こうした成果を維持することは極めて重要です。HIV分野において失敗があれば、それは公衆衛生のシステム全体の打撃となり、すべての人に負の影響を与えるおそれがあります。

 

目標達成は可能

HIVに感染している人の95%が自らの感染を知り、感染を知った人の95%が治療を受け、さらに治療を受けている人の95%が体内のウイルス量を抑えることができれば、この公衆衛生上の脅威を克服できることは分かっています。ウガンダにはそれが可能なのです。2021年までに、ウガンダ国内では、HIV陽性者の89%が自らの感染を知り、そのうちの92%以上が抗レトロウイルス治療を受け、さらに治療を受けている人の95%がウイルスの抑制を果たしています。この成果を維持していけば、UNAIDSが設定したHIV治療目標は順調に達成できるのです。

 

差別がエイズ対策の成果を脅かす

その成果がいま、重大な危機に直面しています。2023年反同性愛法は、公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結に必要な保健教育と支援活動を阻むことになります。法案の可決に伴う偏見と差別により、すでに予防サービスや治療サービスの利用が減少しています。信頼と個人情報の保護、そして偏見を持たない対応が、医療を求めるすべての人にとって大切です。ウガンダのLGBTQI+の人たちは、自分たちの安全と安心が脅かされることへの不安を強めています。攻撃を受け、処罰され、さらに疎外されることを恐れて、重要な医療サービスを受けることを思いとどまる人が増えているのです。 

ウガンダエイズ終結に向けたリーダーシップを繰り返し示してきました。誰一人取り残さないことを約束し大きな成果をあげてきました。ウガンダが医療サービスへの公平なアクセスを確保し、公衆衛生上の脅威としてのエイズを2030年までに終結に導く道を歩み続けることができるよう、私たちは一丸となって、この法律の見直しを求めます。

 

ピーター・サンズ グローバルファンド事務局長

ウィニー・ビヤニマ UNAIDS事務局長兼国連事務次長

ジョン・ヌケンガソン 米国大使、地球規模エイズ調整官、グローバルヘルス外交特別代表、米国務省

 

 

 

PRESS STATEMENT

Joint Statement by the Leaders of the Global Fund, UNAIDS and PEPFAR on Uganda’s Anti-Homosexuality Act 2023

GENEVA | WASHINGTON, D.C., 29 May 2023— The Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria (the Global Fund), the Joint United Nations Programme on HIV/AIDS (UNAIDS), and the U.S. President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR) are deeply concerned about the harmful impact of the Ugandan Anti-Homosexuality Act 2023 on the health of its citizens and its impact on the AIDS response that has been so successful up to now.

 

Uganda’s Leadership Towards Ending the AIDS Pandemic as a Public Health Threat

Uganda and President Yoweri Museveni have been leaders in the fight to end AIDS. Progress has been made thanks to the implementation of large-scale prevention, diagnosis, treatment and care programs, all provided on the principle of access to health care for all who need it, without stigma or discrimination. This approach has saved lives. The strong health systems built to support the AIDS response serve the entire population of Uganda. This was evident as community health workers and health systems developed for the AIDS response played a key role in tackling COVID-19 and other disease threats. Maintaining this is vital: Failures in the HIV public health response will have system-wide impacts that could negatively affect everyone.

 

Success Is Possible

We know that we will be able to overcome this public health threat when we ensure that 95% of people living with HIV know their status, 95% of them are on treatment, and 95% of those on treatment have achieved viral suppression. Uganda can reach that. By 2021, 89% of people living with HIV in Uganda knew their status, more than 92% of people who knew their HIV status were receiving antiretroviral therapy, and 95% of those on treatment were virally suppressed.  Uganda is well on track to achieve the UNAIDS HIV treatment targets if progress can be maintained.

 

Discrimination Threatens Progress in the AIDS Response

Uganda’s progress on its HIV response is now in grave jeopardy. The Anti-Homosexuality Act 2023 will obstruct health education and the outreach that can help end AIDS as a public health threat. The stigma and discrimination associated with the passage of the Act has already led to reduced access to prevention as well as treatment services. Trust, confidentiality, and stigma-free engagement are essential for anyone seeking health care. LGBTQI+ people in Uganda increasingly fear for their safety and security, and increasing numbers of people are being discouraged from seeking vital health services for fear of attack, punishment and further marginalization.

Uganda has repeatedly demonstrated leadership and commitment to ending AIDS – and has achieved great success – by leaving no one behind. Together as one, we call for the Act to be reconsidered so that Uganda may continue on its path to ensure equitable access to health services and end AIDS as a public health threat by 2030. 

Peter Sands, Executive Director, The Global Fund

Winnie Byanyima, Executive Director, UNAIDS, and Under-Secretary General of the United Nations

Ambassador John Nkengasong, U.S. Global AIDS Coordinator and Special Representative for Global Health Diplomacy, U.S. Department of State