東部アフリカのウガンダで反同性愛法の修正新法案が5月2日、可決されました。これに対し、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は3月の原案可決時と同様、「法律が成立すれば、2030年のエイズ終結を目指すウガンダの努力は損なわれ、健康や生命への権利を含む基本的人権が侵害される」とのプレス声明を再度発表し、法成立を防ぐため、ムセベニ大統領に法案への署名拒否を重ねて求めています。
再度だとか、重ねてだとか、少し補足が必要ですね。これまでの報道などから大慌てで仕入れた知識で恐縮ですが、背景説明を試みます。また、最後にUNAIDSの5月3日付けプレス声明(3月の声明をほぼ丸写しにした内容ですが)の日本語仮訳も掲載しておきます。
付け焼刃の解説なので、現地の事情に詳しい方がいらしたら「それは実はこういうことだよ」とご指摘いただければ幸いです。
ウガンダ議会は今年(2023年)3月21日、同性愛者であることを自ら認めるだけでも犯罪となるなど、厳罰化に拍車をかける反同性愛法案を可決しました。
ムセベニ大統領がこの法案に署名すれば、法律として成立してしまうので、UNAIDSは翌22日、『HIV陽性者や社会的に弱い立場の人たちの人権を制限し、多くの人の命を奪うことになる』と強い懸念を表明し、ムセベニ大統領に署名拒否を求めるプレス声明を発表しています。
また、国際エイズ学会(IAS)も同じく3月22日、『LGBTQ+コミュニティに対するスティグマと差別を助長し、医療サービスへの安全なアクセスの確保を妨げる結果しかもたらさない』としてUNAIDSと同趣旨の声明を発表しました。2つの声明の日本語仮訳はHATプロジェクトのブログに載っているので参考にしてください。
公衆衛生を脅かす有害な法律の制定阻止をウガンダ政府に要請 UNAIDSプレス声明
https://hatproject.seesaa.net/index-2.html
https://hatproject.seesaa.net/article/498806385.html
こうした国際社会からの強い批判もあり、ムセベニ大統領は4月20日、この法案に署名しないことを明らかにしました。
議会が5月2日に可決したのは、大統領が拒否した元の法案を部分的に修正した内容で、主な変更点(あるいは変えようとしなかった点)は以下の通りです。
- 同性愛行為が違法なことは修正案でも変わっていないが、同性愛者であることを自ら認めるだけでも違法になるという部分は削除されている。つまり、修正はLGBTQ+であることを自認しているだけの人、そう見える人と、実際に同性愛行為を行っている人とを区別するためのものだ。
- 未成年者との性行為、HIV陽性者による性行為、近親相姦を含む「悪化した同性愛」に対する死刑など、より極端な厳罰化の要素は保持している。
- 同性愛行為の報告義務については「子供や脆弱な人々に対する」行為にのみ、報告義務を課すように修正された。
- 未成年者との性行為、HIV陽性者による性行為、近親相姦を含む「悪化した同性愛」に対しては死刑もあり得るといったより極端な厳罰化の要素は保持している。
つまり、自認や報告の部分で変更はあったものの、法案が容認できない点は全く変わっていないというのがUNAIDSの判断です。IASの対応はまだ私には確認できませんが、おそらくUNAIDSと同様の見解でしょう。
以下は、2023年5月3日のUNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。
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ウガンダの新反同性愛者法案は公衆衛生に有害 UNAIDSプレス声明
ウガンダ議会による反同性愛法の修正法案可決に対し、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、法律が成立すれば、2030年のエイズ終結を目指すウガンダの努力は損なわれ、健康や生命への権利を含む基本的人権が侵害されると警告した。
UNAIDS東部・南部アフリカ地域事務所のアン・ギトゥク・ションウェ所長は次のように述べている。
「ウガンダは、エイズのパンデミック対策で素晴らしい成果をあげてきました。 新たな法案が成立すれば、その成果も台無しになります」
「生命にかかわるサービスからコミュニティが遠ざけられ、市民社会グループを含む医療従事者がHIV予防・検査・治療の提供することも妨げられてしまいます」
「エビデンスははっきりしています。差別とスティグマの制度化が、社会的に弱い立場の人たちを生命にかかわる医療サービスからさらに遠ざけるのです。サハラ以南のアフリカで行われた調査によると、同性愛を犯罪とみなす国では、男性とセックスをする男性のHIV陽性率が、そうした法律のない国より5倍も高くなっています」
「公衆衛生を損なうことで、この法律はすべての人に悪影響を及ぼします」
「この有害な法案は、アフリカをはじめ世界各地で起きている非犯罪化の動きとは著しく異なっています。世界中でいま、植民地時代の有害で懲罰的な法律の撤廃が相次いでいます。 非犯罪化が命を救い、すべての人に利益をもたらしているのです」
「公衆衛生関連の組織は、(ウガンダのムセベニ)大統領が法案への署名を拒否したことを歓迎しました。ただし、修正法案も公衆衛生を害する点では前の法案と変わりません。制定されてはならないのです」
PRESS STATEMENT
Uganda’s new Anti-Homosexuality Bill would harm public health
Responding to the passing of the Anti-Homosexuality Bill by the Ugandan Parliament, UNAIDS has warned that its passing into law would undermine Uganda’s efforts to end AIDS by 2030, by violating fundamental human rights including the right to health and the very right to life.
UNAIDS East and Southern Africa Director Anne Githuku-Shongwe said:
“Uganda has made excellent progress in tackling the AIDS pandemic. This new Bill, if passed into law, would undercut that progress.
It would drive communities away from life-saving services, and obstruct health workers, including civil society groups, from providing HIV prevention, testing and treatment.
The evidence is crystal clear: the institutionalization of discrimination and stigma will further push vulnerable communities away from life-saving health services. Research in sub-Saharan Africa shows that in countries which criminalize homosexuality HIV prevalence is five times higher among men who have sex with men than it is in countries without such laws.
By undermining public health, this law would be bad for everyone.
The harmful Bill stands in marked contrast to a positive wave of decriminalization taking place in Africa and across the world, in which harmful punitive colonial legislation is being removed in country after country. Decriminalization saves lives and benefits everyone.
Public health organizations welcomed the President’s rejection of the earlier Bill. As this new Bill, like the earlier Bill, would hurt public health, it too should not be enacted.”