インド最高裁が9月6日、同性間の性行為を犯罪とみなす刑法377項に対し、違憲無効の判断を示しました。このニュースにはHIV/エイズ関連の国際組織が相次いで歓迎の意を表しています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)が決定当日の6日に発表したプレス声明を日本語に訳したので紹介しましょう。
『成人の合意に基づく同性間の性関係を犯罪として扱うことは、人権の侵害であり、LGBTIの人たちに対する偏見や暴力を正当化することになる。犯罪化はHIV予防、検査、治療のサービスの利用を妨げ、HIV感染のリスクを高める』
前から課題とされていたことですが、声明は改めてこう指摘しています。あくまで、私的な仮訳であることをお断りしたうえで、当ブログでも後ろの方にその仮訳全文を紹介しました。あまり長くはないので、どうかお読みください。
インド最高裁の決定については、もう少し詳しい情報がないかなと思い、ネットで関連記事も探してみました。さすがに地元のTimes of Indiaが詳しいようです。ざっと目を通しただけですが、箇条書き的に紹介しておきましょう。
SC decriminalises Section 377, calls 2013 ruling 'arbitrary and retrograde'
・ 5人の裁判官による評決の結果は5-0でした。
・ 刑法377項に関しては2009年にデリー高裁が違憲の判決を出し、インド最高裁は2013年12月の時点で、その高裁判決を覆して合憲の判断を示しました。今回はさらにそれをひっくり返したことになります。
・ 5人のうち2人は2013年の評決にも加わっていた裁判官でした。
・ 2013年の判断に対し、最高裁は今回、「独断的で誤った推論に基づき、時代に逆行するもの」と自ら批判しています。
・ 決定には493ページに及ぶノートが付され、「多数派の意見を押しつけ、LGBTQコミュニティの人たちの基本的な権利を圧殺してきた」ことに関する4本の付帯意見も含まれていました。
・ 付帯意見には「歴史はLGBTQの人たちとその家族に謝罪しなければならない」という記述もあります。
・ 今回の決定では、動物とのセックスは依然、犯罪とみなすとしており、377項の無効化は部分的なものとなっています。
誤訳や私の思い違い、理解不足もあると思うので、何かに引用されるときには英文の元記事を参照してください。
以下、UNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。
LGBTIの人たちを犯罪者とみなす法律を打破したインド最高裁決定をUNAIDSが歓迎
プレス声明
2018年9月6日 ジュネーブ― 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は刑法377項を無効にするインド最高裁の決定を歓迎する。377項はレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)の人たちの性関係を犯罪とみなしている。
「今日はゲイプライドの日、祝福の日、インドのレズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスの人たちにとって尊厳と尊重をついに取り戻した日です」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は語る。「この不公正をただすために長く困難な戦いを続けてきた勇気あるアクティビスト、市民社会組織、コミュニティグループの皆さんを称えたい」
成人の合意に基づく同性間の性関係を犯罪として扱うことは、人権の侵害であり、LGBTIの人たちに対する偏見や暴力を正当化することになる。犯罪化はHIV予防、検査、治療のサービスの利用を妨げ、HIV感染のリスクを高めることになる。
インドでは国内の成人のHIV陽性率が0.26%なのに対し、ゲイ男性など男性とセックスをする男性の陽性率は2.7%、トランスジェンダーの人たちの陽性率は3.1%となっている。そしてHIV陽性のゲイ男性のほぼ10人に3人、トランスジェンダーの人たちの10人に4人は自らの感染を知らずにいる。HIV陽性のLGBTIの人たちの多くがHIV治療へのアクセスを得られていないのだ。
世界全体でみると、新規感染の18%はゲイ男性で占められている。合意に基づく成人同士のセックスを禁止する法律を撤廃し、人びとを暴力と差別から守る法律を施行し、ホモフォビアやトランスフォビアに対応し、必要な保健サービスを利用しやすくして、性的指向に関わりなく、すべての人の人権が完全に尊重されるようにすることをUNAIDSは各国に求めている。
「この決定に促され、他の国も同様の判断に基づいて、同性愛を犯罪視する不当な法律を撤廃する動きがトレンドとなることを期待しています」とシディベ事務局長はいう。
国連加盟国は2016年6月のエイズ終結に関する政治宣言で、子供や若者、とりわけHIV陽性者やHIV感染のリスクにさらされやすい人たち、HIVに影響を受けている人たちが、すべての人権と基本的自由を享受できるようにし、同時にこの人たちが直面しているスティグマや差別をなくすために法律や政策を促進していくことを約束した。
Press statement
UNAIDS welcomes ground-breaking decision by India’s Supreme Court that strikes down law criminalizing LGBTI people
GENEVA, 6 September 2018—UNAIDS welcomes the decision of the Supreme Court of India to annul key provisions of Section 377 of the Indian Penal Code. Section 377 criminalizes sexual relations between lesbian, gay, bisexual, transgender and intersex (LGBTI) people.
“Today is a day of gay pride, a day of celebration, a day when respect and dignity was finally restored in India for lesbian, gay, bisexual, transgender and intersex people,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS. “I applaud the brave activists, civil society organizations and community groups that have fought long and hard for this injustice to be reversed.”
Criminalization of consensual same-sex sexual relations is a violation of human rights and legitimizes prejudice and violence against LGBTI people. Criminalization hinders people from accessing and using HIV prevention, testing and treatment services and increases their risk of acquiring HIV.
In India, HIV prevalence among gay men and other men who have sex with men is 2.7% and among transgender people is 3.1%, compared to the national HIV prevalence among all adults of just 0.26%. Around three out of ten gay men and four out of ten transgender people in India who are living with HIV do not know their HIV status. Many LGBTI people living with HIV do not have access to HIV treatment.
Gay men account for 18% of all new HIV infections worldwide. UNAIDS urges countries to ensure the full respect of the human rights of all people, regardless of their sexual orientation, through repealing laws that prohibit sex between consenting adults in private, enforcing laws to protect people from violence and discrimination, addressing homophobia and transphobia and ensuring that crucial health services are made available.
“I hope this decision sets the trend and is followed by similar decisions in other countries that remove unjust laws criminalizing homosexuality,” said Mr Sidibé.
In June 2016, United Nations Member States committed in the Political Declaration on Ending AIDS to promote laws and policies that ensure the enjoyment of all human rights and fundamental freedoms for children, adolescents and young people, particularly those living with, at risk of and affected by HIV, so as to eliminate the stigma and discrimination that they face.