ロシアの反LGBT法拡大に国連が深い懸念 エイズと社会ウェブ版630

 ロシアで同性愛宣伝禁止法の対象と適用の拡大をはかる反LGBT法案の議会承認手続きが進められていることから、ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官ウィニー・ビヤニマ国連合同エイズ計画(UNAIDS)がそれぞれ深い懸念を表明し、法案への反対と同性愛宣伝禁止法そのものの撤廃を求めています。

 UNAIDSはプレス声明を発表し、国連人権高等弁務官事務所は記者会見で広報官が発表しました。

 ロシアの同性愛宣伝禁止法は2013年に制定され、青少年に対し「非伝統的な性的関係」に関する情報の提供を禁じています。この法律は国際的な批判を受け、翌2014年のソチ冬季五輪で欧米の首脳が相次いで開会式出席を取りやめることになりました。

 いま思えば、ロシアはソチ五輪の閉幕直後にクリミアを併合し、結果として国際的にそれを容認するかたちになってしまったことが、現在のウクライナ侵攻という暴挙につながっています。

 私が把握できるのは日本国内で報道された情報の範囲に限られていますが、修正法案は対象を青少年だけでなく全年齢層に広げ、言論、表現活動全体に規制が及ぶようです。振り返ってみれば、国内における性的少数者への抑圧的姿勢を強めることは、現在の世界的危機を招くマーカーだったというべきでしょう。政治と性に関わる動きを軽視したり、看過したりすることはできません。・・・といっても、私には何もできないのですが、せめて国連関係の発表を日本語仮訳で紹介しておきましょう。

 国連人権高等弁務官事務所の発表は反LGBT法案(anti-LGBT bill)、UNAIDSの声明は「LGBTQプロパガンダ」法('LGBTQ propaganda' law)という呼称を使っています。法案と現行法の違いも含め、用語に若干の差異がありますが、それぞれの英文に沿って訳しました。

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LGBT法案拡大に反対し、撤廃をロシア議会に要請 ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官

 2022年10月28日、国連人権高等弁務官事務所、ラヴィナ・シャムダサニ広報官会見

https://www.ohchr.org/en/press-briefing-notes/2022/10/turk-calls-russian-legislators-repeal-not-expand-anti-lgbt-bill

ロシア議会(下院)は10月27日(木)、現行の同性愛宣伝禁止法を拡大し、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(LGBT)の人たち、およびその人権に関するいかなる議論も情報の共有も禁止する改正案を承認しました。

国際的な人権規範と基準に対する侵害が一段と強まることを、ヴォルカー・ターク国連人権高等弁務官は深く懸念しています。

修正法案は2013年に制定された法律の規制拡大をはかるものです。現行法自体が国連の人権専門家による広範な調査の結果、差別的で表現の自由を侵害し、ヘイトスピーチヘイトクライム児童虐待を含む迫害の増加につながると非難されてきました。

法律の適用範囲を拡大し、成人を含むすべての人について、関連するすべての通信を全面的に禁止することになり、状況は一段と悪化します。修正提案ではトランスジェンダーの人たちも対象になります。

ロシア議会には提案検討の機会がさらに2回あることから、高等弁務官はこの修正提案を否決し、既存の法律を廃して、性的指向および性自認に基づく差別と暴力の禁止に向けて積極的に闘うよう緊急手段を取ることを求めています。

高等弁務官はまた、いかなる集団に対しても排除やスティグマ・差別で臨むことは、暴力誘発し、社会全体をむしばむものであると指摘しています。

 

  

ロシアに「LGBTQ プロパガンダ」法撤廃を要請 UNAIDSプレス声明

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2022/october/20221028_russia-LGBTQ-law

ジュネーブ 2022年10月29 いわゆる「LGBTQプロパガンダ」法延長の意向を示したロシア政府声明に対し、UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長が、国連人権高等弁務官と共に深い懸念を表明した。

「法律の延長は、人びとの自立と尊厳、平等の権利の侵害を続けるものです」とビヤニマ事務局長はいう。「LGBTQの人たちの安全と福祉を損なうだけでなく、人びとの健康状態に深刻な影響を及ぼします。言論の自由を制限するなど懲罰的かつ制限的な法律が、HIV感染のリスクを高め、サービスへのアクセスを減らすことは、エビデンスとしてすでに明らかになっています。ピアネットワークを含む保健サービスの提供者が性と生殖に関する健康情報とサービスを提供する能力がこうした法律によって妨げられ、性的指向に関連するスティグマの拡大につながり、人びとが自分自身およびコミュニティの健康を守ることを困難にしてきました。こんな状態では2030年のエイズ終結に向けたロシアの努力も台無しです。ロシア議会およびロシア政府には、このような有害な提案は撤回し、既存の法律を廃止することを求めます。スティグマの拡大につながるアプローチは、公衆衛生を損ない、パンデミックを永続させ、すべての人に害を与えます。 社会的連帯と包摂、そして人権をまもることがエイズ終結の鍵であり、すべての人の健康を確保することにもなります」