PEPFAR責任者にアフリカ出身のジョン・ヌケンガソン博士 米上院が承認 エイズと社会ウェブ版613

 空席になっていた米国の地球規模エイズ調整官(HIV/エイズ担当大使)にアフリカCDC所長のジョン・ヌケンガソン博士の就任が決まりました。調べてみると、バイデン政権は昨年9月にヌケンガソン博士を候補として発表しているのですが、議会の承認を得られずにいました。

 5月5日に議会上院がこの人事を承認したことから、米国務省が翌6日、『米上院がジョン・ヌケンガソン博士を米国の地球規模エイズ調整官任命を承認』というプレスリリースを発表しています。

www.state.gov

 地球規模エイズ調整官は米国のグローバルヘルス分野の看板政策である『米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)』を統括する極めて重要なポストです。

 そもそもPEPFARは息子さんの方のブッシュ大統領が2003年に提唱し、大統領が替わっても、民主・共和両党が超党派で支えてきた経緯があります。バイデン政権下でも、もうとっくの昔に決まっていたのではないかと私などは思っていました。

 ところが、実際には前任のデボラ・バークス博士が2020年2月28日に新型コロナウイルス対策調整官に転進した後は、トランプ政権下でほぼ1年近く、バイデン政権下でも1年余り空席の状態が続いていたんですね。

 それでも組織として機能しているのだから立派と言えば立派ですが、なんだか・・・という感じも残ります。

 米国務省のプレスリリースによると『ヌケンガソン大使は宣誓式を臨み、国務省の地球規模エイズ調整官として米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)を統括するとともに、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)を通じた米国の多国間HIV/エイズ政策の主導、管理、監督にあたることになる』ということなので、ひょっとすると情報に疎い私がこんなことを書いているときには、新調整官体制がもう始動しているのかもしれません。

 UNAIDSは5月6日に「世界にとっても朗報です」という承認歓迎のプレス声明を発表しました。実は私が新調整官就任のニュースを知ったのも、このプレス声明をUNAIDSの公式サイトで見たからです。

 私家版で日本語仮訳を作成したので、下の方に載せておきます。よかったらご覧ください。そこにはこう紹介されています。

『ヌケンガソン博士は30年以上にわたって世界のHIV対策と取り組んできたウイルス学者であり、国際的にはアフリカ疾病管理予防センター(アフリカCDC)の創設ディレクター、そして最近のCOVID-19研究でも高い評価を受けています』

 付け焼刃で仕入れた別の情報も加えておくと、ヌケンガソン博士はカメルーン生まれで、アフリカ出身者としては初めてPEPFARを統括することになります。米国のCDCなどで長いキャリアを経た後、2017年に創設されたアフリカCDCの初代所長に就任し、現在に至っています。コロナのパンデミックはアフリカCDCにとっても大きな試練となりました。エイズとコロナの二重のパンデミックに直面する中で、ヌケンガソン所長の手腕は高く評価されてきましたが、立場を変えてエイズ調整官としてはどのような存在感を発揮できるのか。期待したいですね。以下、UNAIDSプレス声明の日本語仮訳です。

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世界のエイズ終結に向け、米国がジョン・ヌケンガソン氏を責任者に任命することを心から歓迎 UNAIDSプレス声明

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2022/may/20220506_Nkengasong_pepfar

 

  

ジュネーブ 2022年5月6日 世界的なHIV/エイズの流行と闘うため、米上院が米国HIV/エイズ担当大使兼調整官としてジョン・ヌケンガソン氏を承認したことをUNAIDSは心から祝福します。米国の地球規模エイズ調整官として、ヌケンガソン博士は米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)を統括することになります。「世界にとっても朗報です。PEPFARの指導者としてをジョン・ヌケンガソンの選任は素晴らしい選択です」とUNAIDSのウィニービャニマ事務局長は語っています。「HIVパンデミックへの備えに関し、彼は世界有数の専門家です。COVID-19パンデミックの中でエイズ終結を目指すうえでも、実践的な経験を備えています。経歴を通して得た彼の大胆な思考、およびそれがもたらすコミットメント(関与)が私たちにはいま必要です。HIVに関する米国の継続的な指導力を支え、UNAIDSとPEPFARが人びとの生命を救うという目的に向けて、博士とともに働けることは本当に名誉なことです」

ヌケンガソン博士は30年以上にわたって世界のHIV対策と取り組んできたウイルス学者であり、国際的にはアフリカ疾病管理予防センター(アフリカCDC)の創設ディレクター、そして最近のCOVID-19研究でも高い評価を受けています。

PEPFARはUNAIDSの重要なパートナーであり、人びとの生命を救うその活動はかつてない成果を上げています。PEPFARとUNAIDSはともに手を携え、世界エイズ戦略を遂行してエイズ終結を加速するために、世界の80か国以上で政府やコミュニティを支援しています。子供と女性・少女、そしてキーポピュレーションの人たちへの支援を含め、HIVに最も深刻な影響を受けている人たちと地域に焦点を当て、協力して活動を進めてきました。

2003年のPEPFAR発足以来、米国政府は議会における超党派の支援を受け、途上国のHIV/エイズ対策にPEPFARを通じ1000億ドルを超える投資を行っています。単一の疾患に対してなされた投資としては他に例のないものです。この米国の投資と努力により、世界で2100万人以上の命が救われ、数千万のHIV感染を防ぐことになり、50か国以上でエイズ終結に向けた対応が加速しています。

 世界はいま、二重のパンデミックに直面しています。ヌケンガソン博士が指摘するように「COVID-19がHIV対策の成果に壊滅的な影響をもたらしていくのを私たちは目の当たりにしてきた。ただし、PEPFARの投資によって構築および強化された医療システムと制度が、COVID-19対策の中心を担っていることもまた目撃している」のです。世界が果敢に行動すればエイズ終結は可能になります。そして、エイズ終結を加速する行動は、あらゆるパンデミックに打ち勝つための世界的な取り組みを強化することにもなるのです。

 

 

UNAIDS warmly welcomes the confirmation of John Nkengasong to lead the United

States global efforts to end AIDS

GENEVA, 06 May 2022—UNAIDS warmly congratulates John Nkengasong on confirmation by the U.S. Senate as Ambassador-at-Large and Coordinator of United States Government Activities to Combat HIV/AIDS Globally. As the new U.S. Global AIDS Coordinator, Dr Nkengasong will lead the United States’ President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR).

“This is great news for the world. John Nkengasong is an inspired choice to lead PEPFAR,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “He is one of the world’s leading experts on HIV and pandemic preparedness and has practical experience on how to advance efforts to end AIDS amidst the COVID pandemic. We need the kind of bold thinking and commitment that he has brought throughout his career. It will be a true honour to work with him in his new role, supporting continued United States leadership on HIV, and strengthening the life-saving partnership between the UNAIDS Joint Programme and PEPFAR.”

An HIV virologist with more than three decades of experience in the global HIV response, Dr Nkengasong’s work on COVID-19 in his most recent highly acclaimed role as the founding director of the Africa Centres for Disease Control and Prevention has been internationally recognized.

PEPFAR is a critical partner of UNAIDS, with an unprecedented proven track record of global life-saving work. In over 80 countries, PEPFAR and UNAIDS work hand-in-hand providing support to governments and communities to implement the Global AIDS Strategy and accelerate ending AIDS. Together they ensure that efforts are focused on the people and areas most affected by HIV, including supporting children, women and girls, and key populations.

Since its inception in 2003, the US Government, with bipartisan support, has invested over US$100 billion through PEPFAR – the largest commitment by any nation to address a single disease. The United States’ investments and efforts have saved more than 21 million lives, prevented millions of HIV infections, and accelerated progress toward ending AIDS in over 50 countries.

The world is currently confronted with dual global pandemics. As Dr Nkengasong has noted, “We have seen how COVID-19 has affected some progress in our HIV efforts with devastating results, but we have also witnessed how the health systems and institutions built and strengthened by PEPFAR’s investments have been central to the COVID-19 response.” Through bold global action, the end of AIDS is possible, and actions to accelerate ending AIDS will strengthen the world’s efforts to beat all pandemics