平成のカウントダウンも1時間を切りました。あと何分すると令和に移行するかというレベルになったので、掲載を急がないと・・・。TOP-HAT News第128号は平成最後の発行です。『増資は他人(ひと)のためならず』の増資とは世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)への資金拠出のことです。途上国が世界の三大感染症と闘えるようにするには新たな追加的資金が必要であるということが主要8カ国の共通認識となったのは2000年7月の九州沖縄サミットでした。つまり、日本にとっては平成の時代が生み出した重要な外交資産の一つであり、令和に移行しても当然、引き継がれていかなければなりません。そのためにも、どうして?という問いに答える努力は必要ですね。
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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
第128号(2019年4月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズ&ソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 『増資は他人(ひと)のためならず』
2 『HIV予防:なお目標に届かず』
3 第13回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP2019)は中止に
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1 はじめに 『増資は他人(ひと)のためならず』
『情けは人のためならず』という格言があります。最近は『下手に情けをかけると、結局、相手のためになりませんよ』と妙に屈折した意味に曲解されることもあるようです。もちろん、そうではなく、『他の人に情けをかけるということは、巡りめぐって自分のためになりますよ』という意味です。
グローバルファンド日本委員会(FGFJ)の設立15周年記念イベント『日本人とグローバルファンド』が3月20日、東京都千代田区紀尾井町の赤坂プリンス クラシックハウスで開かれました。
そのイベントの副題が『増資は他人(ひと)のためならず』。つまり、途上国の感染症対策を支援する世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)への増資(資金拠出)が、結局は日本のためになるというメッセージです。逆の意味ではありません。
グローバルファンドは2002年1月、エイズ・結核・マラリアの世界三大感染症対策の資金を確保する国際機関として設立されました。必要な資金額を提示し、先進諸国や民間の財団、企業などから資金拠出の約束を取り付ける増資会議が3年ごとに開かれています。
今年はその増資の年にあたり、10月にフランスのリヨンで第6次増資会議が開催される予定です。
一方、FGFJは、グローバルファンドという新たな国際資金メカニズムの活動に理解を広げる国内応援団として2004年3月に発足しました。ファンド創設の2年余り後です。
15周年記念イベントで基調講演を行ったグローバルファンドのピーター・サンズ事務局長は「2000年の九州沖縄サミットで感染症対策を取り上げた日本は、グローバルファンドの生みの親であり、創設後も力強いパートナーとして貢献を続けてきました」と述べ、日本の貢献、および官民でそれを支えてきたFGFJに感謝の意を表しました。
さらなる資金貢献を期待した外交辞令ともいえますが、グローバルファンド創設のきっかけを作った「生みの親」として、日本が国際保健分野で高い評価を得ていることは事実です。「人間の安全保障」を掲げる日本政府にとって貴重な外交資産というべきでしょう。
残念なことに、そうした評価が国内ではあまり知られていません。FGFJの一層の啓発努力に期待したいところです。
講演の中でサンズ事務局長は、2020年から22年までの3年間の増資目標額が140億ドルであることを明らかにしています。円換算だと1.5兆円前後でしょうか。これまでの3年間と比較すると15%増になるそうです。
もちろん、これは世界全体での目標額であり、日本はその一部を担うことが期待されているわけですが、「生みの親」としてそれなりの貢献は必要になります。
サンズ事務局長によると、エイズ、結核、マラリアによる年間の死者はグローバルファンド創設当時と比べると、半減しています。これは大きな成果です。
ただし、3つの感染症による死者数はそれでも2017年現在で250万人に達し、「いままでの対策を続けるだけでは、死亡者は再び増加に転じ、これまでの成果も水泡に帰してしまう」ということです。道はまだ半ばであり、「ここで油断してしまえば、流行はぶり返す」と事務局長は警告しています。
日本は深刻な感染症の流行を抱えるアジア・アフリカの国々と様々な分野で交流を続けてきました。とくに近隣のアジア諸国とは経済的な結びつきも強く、人の交流は近年、ますます盛んになっています。
一方で、感染症には国境がありません。人の移動頻度が高くなれば、ひとつの国の国内課題だった感染症の流行が他国に波及するリスクも高まります。そうした事態には、国境に壁を作って人の動きを遮断するのではなく、流行の当事国が国内の感染症と闘う力をつけ、そのために必要な援助は国際社会が協力して行うことが大切になります。《増資は「他国」のためならず》の視点は日本にとって、最も現実的な選択肢というべきでしょう。
2 『HIV予防:なお目標に届かず』
国連合同エイズ計画(UNAIDS)が公式サイトに『HIV prevention: not hitting the mark』というタイトルのグラフを紹介しています。
http://www.unaids.org/en/resources/presscentre/featurestories/2019/march/20190311_gow_hiv-prevention
UNAIDSの推計によると、HIVの年間新規感染件数は1996年の340万件(260万~440万件)をピークにして以後は減少に転じ、2017年には180万件(140万~240万件)となっています。半減に近い成果ではあるのですが、それでも2020年のターゲットとされている年間新規HIV感染件数50万件以下への軌道にははるかに遠い状態です。
3 第13回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP2019)は中止に
オーストラリアのパースで今年9月に予定されていた第13回アジア太平洋地域エイズ国際会議(ICAAP2019)が中止になりました。
会議準備にあたってきたアジア太平洋エイズ学会(ASAP)のミュン・ハン・チョウ理事長と国連合同エイズ計画(UNAIDS)太平洋地域事務所のイーモン・マーフィー所長も4月10日、中止を告げる共同声明を発表。次期会議はアジアのどこかの国で2年後に開催するとしています。HATプロジェクトのブログに共同声明の日本語仮訳を掲載しました。
https://asajp.at.webry.info/201904/article_1.html
厚生労働省の『HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班』が『抗HIV治療ガイドライン』(2019年3月)のPDF版を研究班の公式サイトで公開しました。
このガイドラインは「わが国におけるHIV診療を世界の標準レベルに維持すること」を目的に2008年度から毎年発行されています。改定作業は代々の研究班が引き継ぐかたちで続けられてきました。