数値目標を超えて・・・ TOP-HAT News 第149号(2021年1月)

 2025年を目標達成年とする新たなエイズターゲットについて、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のウィニー・ビヤニマ事務局長は次のように語っています。

 『これらのターゲットは人びとを重視しています。HIVやCOVID-19といったパンデミックの高いリスクにさらされ、社会から疎外されがちな人びとを中心にすえることで、パンデミックの拡大を促している不平等の解消をはかるものです』

 TOP-HAT News 第149号(2021年1月)は巻頭で、その『エイズターゲット2025』を紹介しています。どうしても先行する90-90-90ターゲットについても触れざるを得ないので、少し説明が長くなりました。2番目の『数値目標を超えて』もあわせてお読みください。

 年寄りはついつい話しが長くなるもので・・・。

 

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        第149号(2021年1月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

   ◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに エイズターゲット2025 

2 数値目標を超えて エイズターゲット2025続き 

3 サイト紹介:グローバルファンド日本委員会(FGFJ) 

4 テーマは『SCB TO THE FUTURE』(未来統合型社会・臨床・基礎連携) 

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1 はじめに エイズターゲット2025

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2025年を達成目標年とする新たなエイズターゲットを発表しました・・・と急に言われても「何のことだか」と戸惑われる方も多いかもしれませんね。国際的なHIV/エイズ対策の根幹をなす動きでもあるので、最初に少し、このターゲットの作成に至る経緯を説明しておきましょう。

HIV/エイズ対策の国際共通目標は「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行」を2030年までに終結させることです。持続可能な開発目標(SDGs)にも含まれている目標です。

ただし、「公衆衛生上の脅威としての」という条件付きではあっても、一足飛びに「終結」はできません。そこで国連加盟国は2020年末の90-90-90ターゲット達成を中間目標として設定し、UNAIDSがいわばその推進役でした。

いまはもう2021年なので締め切りは過ぎ、健闘はしたものの世界全体でみると達成は果たせずに終わりました。話の順序として90-90-90のおさらいをしておきます。「またかよ」と言わずにお付き合いください。

90-90-90ターゲットはHIV治療の普及がもたらす感染予防効果(T as P=予防としての治療)に着目した以下の3つの90%で構成されています。

HIV陽性者の90%が検査で自らの感染を知る。

・感染を知った人の90%が抗レトロウイルス治療を受ける。

・そのうちの90%が治療を継続し血液中のHIV量を検出限界値未満に抑える。

 3つの90がすべて達成されれば、90%×90%×90%=72.9%。つまり、HIVに感染している人の7割以上は体内のHIV量を他の人に性感染するリスクがなくなるレベルまで抑えている状態になります。そうなると結果として、一つの社会もしくは集団の全体としてのHIV新規感染も大きく減少し、UNAIDSの試算では、世界のHIV新規感染者数は年間50万人以下(2015年当時のほぼ4分の1)に抑えられるということです。

さらにハードルを90からもう一段あげ、2030年の目標である95-95-95なら20万人以下となります。2015年当時と比べると、年間のHIV新規感染者数はほぼ10分の1に減少するので、この辺りまでくれば「公衆衛生上の脅威としてのエイズの流行は終結とみなそう」というのがおおむね国際的な了解事項となっています。

しかし、中間目標である2020年の90-90-90ターゲット達成はできませんでした。最近は新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行という新たな事態にも直面し、検査と治療の普及が妨げられることも今後に向けた大きな懸念材料となっています。

ただし、2020年の中間目標達成は無理だろうということは、実はCOVID-19以前から予想されていました。UNAIDSもすでに2018年の半ばから、そうした予測を踏まえ2025年を達成年とする次の中間目標(AIDS TARGETS 2025)の策定作業に着手しています。

幅広い分野の専門家を集めた委員会の手でまとめられた新ターゲットは昨年11月26日、UNAIDSが発表した世界エイズデー2020報告書『人びとを中心にすえ、パンデミックに打ち勝つ』の第1章(報告書要旨)で概念図とともに示されています。API-Net(エイズ予防情報ネット)に報告書の序文と第1章の日本語仮訳が紹介されているのでご覧ください。7ページ目です。

https://api-net.jfap.or.jp/status/world/pdf/prevailing-against-pandemics_jp.pdf

 

  

2 数値目標を超えて エイズターゲット2025続き

 UNAIDSの公式サイトにはAIDS TARGET 2025の解説ページも設けられ、ウィニー・ビヤニマ事務局長の次のようなコメントも紹介されています。

 https://aidstargets2025.unaids.org/

 日本語仮訳もあります。API-Netでご覧ください。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet044.html

『これらのターゲットは人びとを重視しています。HIVやCOVID-19といったパンデミックの高いリスクにさらされ、社会から疎外されがちな人びとを中心にすえることで、パンデミックの拡大を促している不平等の解消をはかるものです』

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 概念図をご覧いただけば分かるように新ターゲットには、「3つの10%未満」と「6つの95%以上」、そして「1つの90%以上」という3種類の数値目標が掲げられています。このうち、2020年ターゲットの90-90-90に相当する部分は、「6つの95%以上」の一部(検査と治療に関する3項目)にとどまっています。重要ではあるが、それがすべてではないという位置づけですね。

 他のターゲットには、スティグマや差別、ジェンダー間の不平等をなくすこと、コンビネーション予防のサービスを誰もが利用できるようにすることなどが盛り込まれています。

 繰り返しになりますが、検査と治療の普及はもちろん重要です。ただし、検査と治療の数値目標だけでは、普及をはかろうとしても限界があります。効果的なHIV予防を可能にするうえでも、差別やスティグマ、格差の解消などを含む社会的要因に目を向ける必要があるのです。2020年に経験した(そしていまも現在進行中の)COVID-19のパンデミックもこの点を痛感させることになりました。

 90-90-90ターゲットやCOVID-19から得られたその苦い教訓を踏まえ、先ほどの世界エイズデー2020報告書の要旨には次のように書かれています。

 

 《提案された2025年ターゲットは、以下の3つのカテゴリーに分類されています。

  1. 包括的HIVサービス
  2. 人びとを中心にすえ、それぞれの事情に合わせたサービスの統合
  3. HIVサービスが可能な環境を妨げる社会的および法的な障壁の除去》

 

 概念図でみると、1が右側の赤い色の部分(90%)、2が中央の6つの円(95%)、そして3が左側の青色部分(10%未満)に相当します。

 HIV/エイズの流行は1981年の最初の症例報告を起点にすると、今年6月で40年の節目を迎えます。国連総会ではその6月にHIV/エイズに関するハイレベル会合の開催が予定されており、2025エイズターゲットはその会合における議論を経て、国際社会のHIV/エイズ対策の新たな中間目標として政治宣言の中で正式に採択されることになりそうです。

 

 

3 サイト紹介:グローバルファンド日本委員会(FGFJ)

 世界エイズ結核マラリア対策基金(FGFJ)を支援する日本の民間イニシアティブ。2004年に日本国際交流センターのプログラムとして発足しました。公式サイトはこちら。 

fgfj.jcie.or.jp

エイズ結核マラリアと いう世界の三大感染症の克服のために日本がより大きな国際的役割を果たせるよう、政府、学界、市民社会、経済界などの有識者や、超党派の国会議員の参加を得て様々な取組みを行っています。国境を超える三大感染症の脅威とグローバルファンドの役割について理解を促進するとともに、感染症対策における日本の官民双方の国際貢献を促進するための政策対話、調査研究、意識啓発を行い、日本とグローバルファンドとの連携を促進しています》

 三大感染症対策を踏まえ、コロナ関連の情報も積極的に取り上げています。

 

 

4 テーマは『SCB TO THE FUTURE』(未来統合型社会・臨床・基礎連携)

 第35回日本エイズ学会学術集会・総会の公式サイトが開設されました。まだ、日程や会場、テーマといった基本情報が中心ですが、こちらをご覧ください。 

https://www.c-linkage.co.jp/aids35/

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 会長は国立感染症研究所エイズ研究センターの俣野哲朗センター長。わが国のHIVワクチン研究の第一人者です。テーマは、Back to the Future・・・じゃなかった。『SCB TO THE FUTURE』ですね。SCBは Social-Clinical-Basic Researchの略で、日本語では『未来統合型社会・臨床・基礎連携』というテーマになります。

 会期は2021年11月21日(日)~23日(火)。会場はグランドプリンスホテル高輪(東京都港区)が予定されています。