『40年の節目に発表されたUNAIDS報告書で、エイズ終結が可能なエビデンスを提示』 エイズと社会ウェブ版572  

 

 今日はエイズの最初の症例報告が米疾病管理予防センター(CDC)の死亡疾病週報(MMWR)に掲載されてから40周年の節目になります。国連合同エイズ計画(UNAIDS)はその2日前の6月3日に報告書を発表し、エイズ流行40年の歴史を振り返るとともに、コロナというもう一つのパンデミックがパラレル(同時並行的)に進行する中で、2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結」を目指すうえでの課題についても言及しています。www.unaids.org

 

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 報告書の主要部分は現在、翻訳作業中ですが、なにせ私の翻訳能力と気まぐれな性格を考えると、訳し終わるまでにはかなり時間がかかりそうです。

 しばしの間、お待ちいただくとして、つなぎといいますか、とりあえず・・・プレスリリースの日本語仮訳を作成しました。末尾に載せておきます。報告書の方向性はある程度、つかんでいただけるのではないかと思います。

 リリースの見出しをみると「40年が過ぎました。エイズ終結が可能なエビデンスを報告書は示しています」ということなのですが、どうかなあ。

 個人的には、国際的にも、国内でも、「エイズはもういいだろう感覚」が、がんがん広がっている感じがするので「可能ではあるかもしれないけれど、厳しいかなあ」と思います。

 『懲罰的な法律がある国々、懲罰や無視、差別、スティグマに対し人権に基づく保健アプローチを採用していない国々が、世界の新規HIV感染の62%を占めるキーポピュレーションを置き去りにし、社会から疎外してHIVサービスを届けられないようにしている』

 リリースによると、報告書はこの点を強調しています。90-90-90ターゲットという数値目標を掲げて、後は医療に任せろと大見得を切ったところで、問題は解決しない。社会的な課題に取り組むことの大切さは改めて指摘しておく必要があります。

 しごく当然な認識に回帰した印象ですね。医療を軽視しているわけではありません。感染症対策における医療の重要性は改めて指摘するまでもなく、極めて重要なのだけど、それぞれの専門性を尊重したうえで、その重要性をいかんなく発揮してほしいといったところでしょうか。コロナの流行以前から分かっていたことではありますが、そうした認識のもとで、エイズとコロナという2つのパンデミックが同時進行する事態への対応を考え、シナジー(相乗効果)を高めていく必要がありそうです。

 UNAIDSのエイズに関する国連総会ハイレベル会合特設サイトには、プレスリリースとともに『エイズ流行、世界の現状2020』というパワーポイント資料も紹介されています。その一部も日本語仮訳で紹介しておきましょう。

   ◇

世界のHIV陽性者数   3760人 (3020万~4500万人)

    成人       3590万人(2890万~4300万人)

       女性(15歳以上) 1920万人(1550万~2300万人)

       子供(15歳未満)  170万人 (120万~ 220万人)

 

年間新規HIV感染者数   150万人(110万~210万人)

     成人        130万人( 94万~180万人)

       女性(15歳以上)  67万人(46万~94万人)

       子供(15歳未満)  16万人(10万~2万4000人)

 

エイズ関連の死亡者数   69万人(48万~100万人)

      成人             59万人(40万~88万人)

       女性(15歳以上)  25万人(17万~37万人)

       子供(15歳未満)  10万人(6万9000~16万人)

 

新規感染者数は1日平均4100人

・ 58%がサハラ以南のアフリカ地域

・ 10%は15歳未満の子供

・ 90%は15歳以上の成人、このうち:

   - 50%は女性

  - 30%は若者(15~24歳)

  - 19%は若い女性(15~24歳) 

 

    ◇

 コロナの流行の影響はこれまでのところ限定的な印象を受けます。ただし、死者数も新規感染者数も減少のスピードが遅くなっているかもしれません。世の中のいまの雰囲気だと、これからの数年間でエイズ終結に向かうどころか、流行再拡大という事態に直面する可能性も低くはなさそうです。

 

 以下、プレスリリースの日本語仮訳です。

 

 

40年の節目に発表されたUNAIDSの新たな報告書で、エイズ終結が可能なエビデンスを提示

 UNAIDSは、国連総会ハイレベル会合における大胆な政治宣言の採択を世界の指導者に要請。会合は来週、ニューヨークおよびオンラインで開催され、2025年エイズターゲット達成と2030年のエイズ終結を約束する

 

ニューヨーク/ジュネーブ 2021年6月3日 エイズの最初の公式症例が報告されてから40年、UNAIDS の新たなデータによると、すでに何十もの国が2016 年に設定された国連総会ターゲット(2020年までの中間目標)を達成、または上回っています。このことは、目標が単に野心的なだけでなく、世界全体で達成可能でもあることを示すものです。報告書によると、革新的な法律と政策、そして強力かつ包摂的な保健システムを備えた国が最も高いHIV対策の成果を上げてきました。これらの国では、HIV 陽性者やHIVに影響を受けている人たちにとって、HIV検査や曝露前予防服薬(HIV感染を防ぐ薬)、ハームリダクション、HIV治療薬の複数月処方、質の高いケアの継続といった効果的なHIVサービスが利用しやすくなっています。

 「高い成果を上げた国の経験は、他の国の参考になります」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「適切な資金を投じコミュニティが本当に関与できるようにすること、人権を基本にして多部門のアプローチを行うこと、科学的なエビデンスに基づき戦略の焦点を定めることが、流行を拡大から縮小へと転じ、多くの人の命を救ったのです。こうしたことは、パンデミックへの備えにも、HIVやCOVID-19その他数多くの病気に対応するためにも、非常に大切な教訓になります」

 報告書によると、世界中で治療を受けている人の数は、2010年当時と比べ3倍以上に増えています。2020年には、HIV陽性者3760万人のうち2740 万人が治療を受けているのです。2010年には780 万人でした。手頃な価格で質の高い治療が普及したことで、2001年以降に推定1620万人の死亡が回避されてきました。

 死亡者数は抗レトロウイルス治療の導入により大きく減少しています。 2020年のエイズ関連死亡者数は69万人で、2010年当時より43%減です。HIVの新規感染数も減っていますが、そのペースは遅れています。2010年の210 万人に対し、2020年は150万人でした。

 懲罰的な法律がある国々、懲罰や無視、差別、スティグマに対し人権に基づく保健アプローチを採用していない国々が、世界の新規HIV感染の62%を占めるキーポピュレーションを置き去りにし、社会から疎外してHIVサービスを届けられないようにしている。報告書はこの点を強調しています。たとえば、世界の70カ国近くが同性間の性関係を犯罪とみなしています。ゲイ男性など男性とセックスをする男性、セックスワーカートランスジェンダーの人たち、受刑者、注射薬物使用者は、医療や社会サービスへのアクセスがほとんどないか、まったくない状態に置かれ、社会で最も弱い立場に置かれた人びとの間でHIV感染が広がる結果を招いているのです。

 サハラ以南のアフリカに住む若い女性も取り残されたままです。この地域の15-19歳の若者の新規HIV感染は7件中6件が女性で占められています。サハラ以南のアフリカでは15-49歳の女性の最も大きな死亡原因はエイズ関連の病気なのです。

 COVID-19は過去数十年の間に得られた保健、開発分野の成果が脆弱な基盤の上に成り立っていたこと、そして世界がまぎれもなく不平等であることを明らかにしました。世界が2030年のエイズ終結を目指す軌道に戻るために、グローバルなエイズ コミュニティとUNAIDSは不平等に焦点を当て、2025年までに新たなターゲットの達成を目指す、野心的で実現可能な戦略を打ち出しています。不平等に終止符を打つには、いま取り残されている人たちにサービスを届けられるHIV対策が必要です。

 それができれば、このターゲットは、2025年までにHIVサービスを必要とする人の95%にそのサービスを提供し、年間の新規HIV感染者数を37 万人未満、そしてエイズ関連の死亡者数を年間25万人未満に減らすことになります。2025年までに必要な投資は年間290億ドルです。世界エイズ戦略の実施に1ドルの投資があれば、健康上のリターンは7ドルを超えます。

 UNAIDSは、エイズに関する第5回国連総会ハイレベル会合(2021年6月8-10日)の政治宣言で、このターゲットの達成を約束するよう国連総会に要請します。

パンデミックへの備えと対策への投資を減らしている余裕は世界にはありません」とビヤニマ事務局長は述べています。「いま、この瞬間を捉え、エイズ終結に必要な行動を取る。国連総会がその約束をするよう私は強く求めます」

 

 

 

Forty years on and new UNAIDS report gives evidence that we can end AIDS

 

UNAIDS urges world leaders to adopt a bold political declaration on HIV at the United Nations General Assembly High-Level Meeting on AIDS, being held in New York and online next week, and to commit to achieving a new set of targets for 2025 to end AIDS by 2030

 

 

NEW YORK/GENEVA, 3 June 2021—Four decades after the first cases of AIDS were reported, new data from UNAIDS show that dozens of countries achieved or exceed the 2020 targets set by the United Nations General Assembly in 2016—evidence that the targets were not just aspirational but achievable.

The report shows that countries with progressive laws and policies and strong and inclusive health systems have had the best outcomes against HIV. In those countries, people living with and affected by HIV are more likely to have access to effective HIV services, including HIV testing, pre-exposure prophylaxis (medicine to prevent HIV), harm reduction, multimonth supplies of HIV treatment and consistent, quality follow-up and care.

“High-performing countries have provided paths for others to follow,” said Winnie Byanyima, the Executive Director of UNAIDS. “Their adequate funding, genuine community engagement, rights-based and multisectoral approaches and the use of scientific evidence to guide focused strategies have reversed their epidemics and saved lives. These elements are invaluable for pandemic preparedness and responses against HIV, COVID-19 and many other diseases.” 

Globally, the report shows that the number of people on treatment has more than tripled since 2010. In 2020, 27.4 million of the 37.6 million people living with HIV were on treatment, up from just 7.8 million in 2010. The roll-out of affordable, quality treatment is estimated to have averted 16.2 million deaths since 2001.

Deaths have fallen in large part due to the roll-out of antiretroviral therapy. AIDS-related deaths have fallen by 43% since 2010, to 690 000 in 2020. Progress in reducing new HIV infections has also been made, but has been markedly slower—a 30% reduction since 2010, with 1.5 million people newly infected with the virus in 2020 compared to 2.1 million in 2010.

The report underscores that countries with punitive laws and that do not take a rights-based approach to health punish, ignore, stigmatize and leave key populations—which make up 62% of new HIV infections worldwide—on the margins and out of reach of HIV services. For example, almost 70 countries worldwide criminalize same-sex sexual relationships. Gay men and other men who have sex with men, sex workers, transgender people, people in prison and people who inject drugs are left with little or no access to health or social services, allowing HIV to spread among the most vulnerable in society.

Young women in sub-Saharan Africa also continue to be left behind. Six out of seven new HIV infections among adolescents aged 15–19 years in the region are among girls. AIDS-related illnesses remain the leading cause of death among women aged 15–49 years in sub-Saharan Africa.

COVID-19 has shown the fragility of the health and development gains made over the past decades and has exposed glaring inequalities. To get the world on track to end AIDS by 2030, the global AIDS community and UNAIDS have used an inequalities lens to develop an ambitious and achievable strategy with new targets to reach by 2025. Ending inequalities requires HIV responses that can reach the populations currently being left behind.

If reached, the targets will bring HIV services to 95% of the people who need them, reduce annual HIV infections to fewer than 370 000 and AIDS-related deaths to fewer than 250 000 by 2025. This will require an investment of US$ 29 billion a year by 2025. Each additional US$ 1 of investment in implementing the global AIDS strategy will bring a return of more than US$ 7 in health benefits.

UNAIDS urges the United Nations General Assembly to commit to the targets in a new political declaration on HIV at the fifth United Nations General Assembly High-Level Meeting on AIDS, taking place from 8 to 10 June 2021.

“The world cannot afford to underinvest in pandemic preparedness and responses,” said Ms Byanyima. “I strongly urge the United Nations General Assembly to seize the moment and commit to taking the actions needed to end AIDS.”