『二度と復活しないように』 グローバル・ギャグルール廃止で国際エイズ学会が要請 エイズと社会ウェブ版543

 米国のジョー・バイデン大統領は1月28日、『国内および国外で女性の健康を保護するための覚書(Memorandum on Protecting Women’s Health at Home and Abroad)』に署名しました。覚書は、トランプ前政権時代に実施されていた拡大版グローバル・ギャグルールの廃止も明記しています。

 今回の署名は世界のHIV/エイズ対策関係者(の全部とはいわないけれど、大半)にとって朗報でしょう。国際エイズ学会(IAS)は翌29日付けで『グローバル・ギャグルールの将来的な復活を防ぐための法律を求める』とするプレスリリースを発表しました。こちらですね。

https://www.iasociety.org/The-latest/News/ArticleID/263/IAS-calls-for-legislation-preventing-the-return-of-the-global-gag-rule-in-the-future

 英文のままですいません。部分的に仮訳を紹介しながら説明していきましょう。IASのアディーバ・カマルザマン理事長はリリースの中で「害の多いグローバル・ギャグルールが廃止されたことを歓迎し、こうしたルールが将来、復活しないようにする法律の検討を米国政府に求めます」と述べています。

 簡単に説明しておくと、グローバル・ギャグルールは、家族計画の方法として中絶を促進するような活動を行う団体には米国の二国間援助資金は使わせませんという政策です。直接のプログラムだけでなく、そうしたサービスに理解を促すような活動はアウトということです。

 つまり啓発活動のようなものまで制限してしまうことになるので、ギャグ(口封じ)のルールと呼ばれてきました。1984年8月、メキシコシティで第2回国際人口会議が開かれた際、当時のレーガン政権が打ち出したのが最初だったことからメキシコシティ・ポリシーと呼ばれています。グローバル・ギャグルールは通称ですね。以来、民主党政権になると廃止され、共和党政権になると復活するという変遷をたどっています。

 以前は対象が家族計画の資金に限定されていたのですが、2017年1月にトランプ大統領が就任早々、この政策を復活させたときには対象範囲を拡大し、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)などの資金で行っている活動などにも適用されてしまったので、途上国のHIV/エイズ対策は大打撃を受けることになりました。

 今回の政権交代に伴うルールの廃止はいわばお約束なのですが、IASがさっそく歓迎の意を表すとともに、あえてもう二度と復活させないでほしいと求めたのは、そうした事情があるからです。プレスリリースに戻りましょう。カマルザマン理事長は次のように談話を続けています。

 「HIVの流行終結に必要なのは、女性のために、そしてケアを求めるすべての人のために、情報とサービスが平等に利用できるようにすることです。検閲ではありません」

 グローバル・ギャグルールについては現代性教育研究ジャーナルの連載コラム《多様な性の行方》の第1回『米トランプ政権の笑えないギャグ』(2017年4月号)でも、少し調べて書きました。ご関心がおありの方はご覧ください。下記PDF版の10ページに載っています。

 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_201704.pdf

 蛇足ながら、このコラムも4年続いたわけですね。トランプ政権と異なり、4年で幕というわけではなさそうなので、引き続きご愛読いただくようよろしくお願いします。