アウトブレークにどう対応するか TOP-HAT News 第139号

 この時期だからこそ、辛抱強く、そして極端に走らず、ということで、TOP-HAT News 第139号(2020年3月)は恐怖と不安に対する流行にあえて言及しています。

《新興感染症の流行に伴う恐怖と不安に対しては、1981年以降のHIV/エイズ対策の蓄積からも多くの教訓が得られています。その一つが、病原体に感染し、病気と闘っている人への想像力を失わないということでしょう。恐怖と不安のあまり、未知の病気をばらまく人といった意識で感染した人を非難したり、排除したりするようなことがあれば、社会は逆に疾病と闘う力を失ってしまいます》

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(写真は鎌倉の海岸橋から見た滑川河口の夕空)

 そんなこと言っている場合か、というときにこそ必要なメッセージもたぶんあります。現在進行形の事態に対応しつつ、なお、人と人とのつながりに関する当たり前の日常生活とその感覚の価値は大切にしたい。

 

 

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        第139号(2020年3月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに アウトブレークにどう対応するか

 

2 新型コロナウイルス流行への対応指針を発表 グローバルバルファンド

 

3 『女性と女児への差別をゼロに』 UNAIDSキャンペーン

 

4  今年は幕張メッセ 第34回日本エイズ学会学術集会・総会

 

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1 はじめに アウトブレークにどう対応するか

 世の中の雰囲気は2月以降、新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行で大きく変わっています。病原ウイルスに感染した人の8割は、発熱などの症状があっても軽症で回復すると伝えられていますが、それでも高齢者を中心に重症の肺炎となり、亡くなるケースもあります。

 感染の拡大を極力抑え、お年寄りや基礎疾患を持つ人たちへの治療を確保して重症化から守ろうとする対策の基本は、国際的にも、国内にも共通しているといっていいでしょう。認識として誤っているわけではありません。

 ただし、流行するのはウイルスだけでなく、社会的な恐怖と不安も、情報の伝播とともに拡大していきます。これは新興感染症の流行時には必ず見られる現象でもあります。

英医学誌ランセットは2月8日、公式サイトで《2019-nCoV—“A desperate plea”(絶望的なお願い)》という論評記事を掲載しました。「お願い」の主は中国の現地特派員です。

 https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)30299-3/fulltext

 ランセット誌編集長宛のメールで、現地特派員は武漢をはじめとする中国の大都市の様子をこう書いています。

 『巨大人口を抱える中国の人たちの多くは、ウイルスに苦しんでいるというよりも、孤立と先の見えない不安、ストレス、日常生活の中での物資不足や自由の制限、収入の喪失などによる苦しみの方が大きくなっています』

 そして、中国の新型コロナウイルス封じ込め政策については『健康への平等な権利が真ん中からすっぽり抜け落ちている』と指摘しました。

 また、メールを紹介したリチャード・ホートン同誌編集長は論評記事を次のように締めくくっています。

 『今回のアウトブレークに対する大局的な管理対応策は改善がはかられているものの、各論部分の対応もまた忘れてはならない。国内および国外の医療提供者は、この流行の脅威の下で暮らす中国市民一人一人のwell-being(身体的、精神的、社会的に健康な状態)を保つことの重要性についても、繰り返し主張しなければならない』

 新興感染症の流行に伴う恐怖と不安に対しては、1981年以降のHIV/エイズ対策の蓄積からも多くの教訓が得られています。その一つが、病原体に感染し、病気と闘っている人への想像力を失わないということでしょう。恐怖と不安のあまり、未知の病気をばらまく人といった意識で感染した人を非難したり、排除したりするようなことがあれば、社会は逆に疾病と闘う力を失ってしまいます。

 2月の下旬に横浜港で検疫中のクルーズ船から多くの乗客が下船した際には、国立感染症研究所の公式サイトに次のような文章が掲載されました。

『下船される皆さまは、国内への新興感染症の病原体の侵入を防ぐために、長期間に渡ってご苦労いただいた方々であります。国民の皆さまにおかれては、下船された乗客の皆さまの心身の回復を手助けいただくように、最大限のご支援を賜りますようお願い申し上げます』

 それぞれの人の心の中に広がる未知の事態への恐怖や不安の感情にどう対応するか。これは容易なタスクではありません。

ただし、現代社会における新興感染症の最大のパンデミックとなったHIV/エイズの流行を経て、2003年のSARS重症急性呼吸器症候群)、2009年の新型インフルエンザなど数々のアウトブレークの経験を重ねたことで、国際社会も、そして日本の社会も、恐怖と不安への認識と対応は着実に進化してきています。そのことがCOVID-19対策にも必ず好影響をもたらすことを期待し、自戒もしたいと思います。

 

 

 

2 新型コロナウイルス流行への対応指針を発表 グローバルバルファンド

COVID-19の流行に対し、グローバルファンド(世界エイズ結核マラリア対策基金)が3月4日、支援対象国に向けた対応指針を発表しました。指針は以下の2点が中心です。

 ・新型コロナウイルスによるエイズ結核マラリア対策への影響を最小限に抑える。

 ・各国がグローバルファンドから受け取っている資金を一定の範囲(原則5%以内)で 新型コロナウイルス対策に活用できるようにする。

 2014年に西アフリカのギニアリベリア、シェラレオネでエボラウイルス病が流行した際には、この3カ国のマラリアによる死者数が増えるなど、既存疾病の治療にも大きな影響がありました。新たな疾病の負荷により保健基盤の維持が困難になること、もともと持病のある人は新たな病気の影響も大きくなりやすいことなどが要因として考えらえます。今回の危機に際し、グローバルファンドが新型コロナウイルス対策に資金の柔軟な活用を一定程度、認めることになったのもこのためです。

 グローバルファンドの資金支援は低・中所得国が対象です。日本は現在、国内における新型コロナウイルスの感染拡大を抑えることが最大の課題となっていますが、流行が途上国に広がれば、国内だけでは対応できなくなります。当面の国内対策と同時に、グローバルファンドへの支援にも引き続き力を入れていく必要があります。

 詳しくはグローバルファンド日本委員会の公式サイトをご覧ください。

 http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2020-03-04_guidance_covid19

 

 

 

3 『女性と女児への差別をゼロに』 UNAIDSキャンペーン

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が3月1日の差別ゼロデーから新たなキャンペーン『ZERO DISCRIMINATION AGAINST WOMEN AND GIRLS(女性と女児への差別をゼロに)』をスタートさせました。

 差別ゼロデーは2013年の世界エイズデー(12月1日)にオーストラリアのメルボルンで制定が発表され、翌14年3月1日が第1回となりました。今年で第7回となります。

 UNAIDSの公式サイトには、ウィニー・ビヤニマ事務局長のビデオメッセージやプレスリリース、ブローシュアなどのキャンペーン素材が公開されています。

 https://www.unaids.org/en/2020_ZDD_campaign

 また、プレスリリースの日本語仮訳はエイズソサエティ研究会議HATプロジェクトでご覧いただけます。

 https://asajp.at.webry.info/202003/article_1.html

 

 

 

4  今年は幕張メッセ 第34回日本エイズ学会学術集会・総会

 『進化を続ける抗HIV薬~Prevention, Treatment, and Beyond』をテーマに掲げた第34回日本エイズ学会学術集会・総会は2020年11月27日(金)から29日(日)まで、千葉市美浜区幕張メッセ国際会議場で開かれます。

 『今回は、薬剤師という職種の医療者が初めて大会長を仰せつかった学会であり、HIV/AIDSを「くすり」という観点から見てみたいと思います』(桒原健会長の主催者あいさつから)

 詳細は公式サイトでご覧ください。

 https://www.aidsjapan2020.org/