報告数1000件の大台を割る エイズ動向委員会年間速報値(2022年) エイズと社会ウェブ版643

昨日(日本時間3月22日)は米フロリダ州マイアミで行われたWBCワールド・ベースボール・クラシック)の決勝戦、および侍ジャパンの優勝の瞬間が中継され、日本中が沸きかえった1日でしたね。岸田首相のウクライナ訪問のニュースも何となくかすんでしまう印象だったので、年間のルーティーン発表の性格が強い厚労省エイズ動向委員会報告に対する注目度は極めて低かったと思います。まあ、しょうがないか。

ただし、個人的にはきちんと押さえておきたい。ささやかながらここで取り上げましょう。

厚労省エイズ動向委員会が3月22日、新規HIV感染者・エイズ患者報告数の2022年・年間速報値を発表しました。エイズ予防情報ネット(API-Net)のエイズ動向委員会報告のページに掲載されています。委員のみなさん、ご苦労様でした。

https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

委員長コメント(PDF版)をご覧いただくと、2022年第3・第4四半期報告の後ろに年間速報値が紹介されています。

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【概要】

1.今回の報告期間は、令和4 年の約1 年間

2.新規HIV感染者報告数は、625 件(過去20 年間で、20 番目の報告数)

3.新規AIDS患者報告数は、245 件(過去20 年間で、20 番目の報告数)

4.HIV感染者とAIDS患者を合わせた新規報告数は870 件(過去20 年間で,20 番目の報告数)

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まだ速報値段階なので、正確には8月末くらいに発表される確定値の発表を待つ必要があります。報告件数は少し増えそうですが、大きな傾向は変わらないでしょう。

昨年の場合(2021年分)でみると、速報値段階の合計報告数は1023件でした。一方、8月12日発表の確定値は1057件です。速報値と確定値の差は3%程度でしょうか。

2022年分については、あくまで推測ですが、確定値も1000件を下回ることは確実でしょう。2003年の976件(新規HIV感染者報告640件、新規AIDS患者報告336件)以来、ほぼ20年ぶりの大台割れということになります。

これまでに何回も書いてきましたが、この数字はあくまで報告数です。実際の感染の動向を表しているわけではありません。最近では、コロナの流行の影響もあり、HIV検査件数の減少傾向が顕著なため、感染動向はますます読みづらくなっています。

ただし、グラフにもあるように、これだけ報告件数の減少傾向が続けば、実際の感染も以前より大きく減っている推測していいのではないかと思います(私の場合、思うだけで科学的根拠はありません、あしからず)。

減少傾向の背景には、抗HIV治療の普及、および治療を継続することでもたらされるいわゆる「予防としての治療」の成果が指摘されています。ただし、個人的には「それだけではない」という印象も最近はとくに受けています。

 動向員会報告が1000人を超えたのは2004年(1165件)でした。そこから右肩上がりで増加を続け、2007年には1500件に達しています。

 国内の大都市圏で、ゲイコミュニティにおけるHIV感染のアウトブレークが発生していることを認識し、HIV陽性者の全国ネットワーク組織であるJaNP+、および大阪や東京のコミュニティセンター、dista、aktaが相次いで作られたのはその直前の2002、2003年ごろでした。

また、HIV陽性者の支援とHIV予防啓発の活動には、ぷれいす東京などのNPOがそれ以前から取り組んでいます。そうした蓄積があり、性や感染症にまつわる差別やスティグマと闘う支援の体制が整えられていった。その土台があったからこそ、検査や治療の普及も進んでいったのです。

ただし、それでもいったん開始したウイルスの感染拡大を年間で1000件以下に戻すのには、20年の月日がかかりました。しかも、まだ年間1000件近い報告があります。道は半ばです。エイズはもういいだろうという気分が社会に広がっていけば再拡大は容易でしょう。なんとか対応は可能になってきたものの、国内でもエイズは終わっていません。

この点は、エイズ動向委員会の委員の皆さんも重々承知しておられるようですね。委員長コメントの末尾に掲載されている《まとめ》を再掲しておきます。

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1.令和4 年の新規HIV感染者報告数は、令和3 年より減少しており、6 年連続での減少となった。

 

2.新規HIV感染者及び新規AIDS患者報告の感染経路は、性的接触によるものが8 割で、男性同性間性的接触によるものが多い。

 

3.献血時のHIV抗体・核酸増検査における10 万件当たりの陽性件数は令和3年と比べて減少した。

依然、陽性件数があることを踏まえ、HIV感染リスクがある方は、保健所等での無料・匿名検査や医療機関による検査を受けていただきたい。

 

4.新規報告数全体に占めるAIDS患者報告数の割合は、依然として約3割のまま推移している。AIDS発症防止のためには、HIV感染後の早期発見が重要である。HIV感染リスクがある方は、早期発見のため、積極的に保健所等での無料・匿名検査や医療機関による検査を受けていただきたい。

また、保健所及び自治体におかれては、エイズ予防指針を踏まえ、利便性に配慮したHIV検査相談体制を推進していただきたい。

 

5.HIV感染症は予防可能な感染症であり、適切な予防策をとることが重要である。また、AIDS発症防止のためには、早期発見と早期治療が重要である。感染予防と早期発見は、社会における感染の拡大防止にもつながる。国民の皆様には、梅毒などの性感染症を含め、保健所等での無料・匿名の検査・相談や医療機関による検査を積極的に御利用いただきたい。