2021年の新規HIV感染者・エイズ患者報告数 年間速報値 エイズと社会ウェブ版606

 昨年(2021年)の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の年間速報値が3月15日、厚生労働省エイズ動向委員会から報告されました。API-Netのエイズ動向委員会報告のページに掲載されています。PDF版の委員長コメントを見ていただくと、2021年第3・第4四半期報告の後ろに年間速報値が紹介されています。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

 

 新規HIV感染者報告数 717件(過去20年間で18番目の報告数)

 新規AIDS患者報告数  306件(過去20年間で20番目の報告数)

    合計      1023件(過去20年間で18番目の報告数)

 

 厳密にいうと、2020年12 月28日から2021年12月26日までの四半期ごとの報告の合計なので、8月末か9月初めに報告がある確定値とは若干の誤差が生じますが、大きく異なることにはならないでしょう。参考までに、これまでの報告をもとにした自家製のグラフも付けておきます。 

  f:id:miyatak:20220320145104j:plain

 報告の減少傾向は依然、続いているようですね。2005年前後に大都市圏のゲイコミュニティで感染爆発が懸念されるほど増加傾向が顕著になったことがありますが、数字の上ではその前の状態にまで戻った印象もあります。

 ただし、これまでにも何度か触れてきたように、報告の数字は、現時点における国内のHIV感染の減少を示しているわけではなく、その年に検査を受けて感染していることが確認された人の数です。

 つまり、社会的に検査を受けにくい環境が広がれば、報告数は減ります。実際の感染も同じように減少しているのか、それとも、何かの理由で感染はむしろ増えているかもしれないけれど、報告は減っているということなのか、両方が考えられます。

 2020年のコロナ流行拡大以来、検査をめぐる環境がどう変化したのか。そのあたりも把握する必要があります。かなり大きな影響は受けていると思いますが、行政の保健担当者やHIV/エイズ分野のNPOなどがそうした変化に対応し、本当に検査を必要としている人が受けられるようにする工夫を重ねてもいます。

 予防はもちろん大切です。ただし、検査の普及にはなによりも、HIVに感染した人ができるだけ早く治療を開始し、必要な支援を受けながら社会の中で生活していけるようになることを重視する必要があります。

 最近は社会を守るために検査を広げようみたいな主張がかなり受け入れやすい雰囲気になっている印象も受けます。感染した人を見つけ出して社会から排除するための検査ではなく、必要な支援を提供できるようにすることが、遠回りのようでも予防対策の大前提であり、有効な手段でもある。このことは改めて確認しておきたいですね。

 そんなの分かり切っているよと言われそうですが、時々、あれっ?と戸惑ってしまうような言動に接することもあるので、注意が必要です。

 エイズ動向委員会の委員長報告の「まとめ」の部分を紹介しておきましょう。

 

 《まとめ》

1.今回報告された新規HIV感染者報告数および新規AIDS患者は、前年同時期と比べ第3四半期、第4四半期共に減少した。

2.これまでと同様の傾向ではあるが、今回の新規HIV感染者は20~40代、新規AIDS患者は30~50代の報告数が多い。また、10歳代から70歳代までの新規HIV感染が報告されており、幅広い年齢層の報告がある。

3.保健所等におけるHIV抗体検査件数は、前年同時期と比べ第3四半期は約 8.5%減少したが、第4四半期は約 6.7%増加した。

 相談件数も同じく、前年同時期と比べ第3四半期は減少し、第4四半期は増加した。

 また、HIV抗体検査件数については、直近第3、4四半期合計件数は令和 3年第1、2四半期合計件数より約18%増加した。

4.早期発見は、個人においては早期治療、社会においては感染の拡大防止に結びつくことから、今後も保健所等における無料・匿名のHIV抗体検査及び相談を積極的に利用していただきたい。