波を待ち また波を待つ 冬の海

 今日は冬至の前の日ですね。大晦日のように何か名前がついているのでしょうか。

 冬至前とか・・・夜明け前じゃあるまいし。ま、とにかくコロナに翻弄され続けた2020年も残すところあと11日です。勝負しなかった3週間はもう過ぎ、いよいよ勝負はこれから。そこで・・・というわけではなく、実は寒くなってきたせいなのですが、ここ数日はお散歩の歩数もめっきり減ってきました。

 本日もまた、陽のあるうちにちょろっと海辺をのぞいただけ。 

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 それにしてもやけに景色がいいね。風は北風だけれど微風に毛のはえた程度でそれほど気にならないし、波はそれなりにあるし・・・ということで、海にはサーファーの皆さんがたくさん繰り出していました。

 冬の日差しを受けて水平線の向こうに伊豆大島。その上には雲。そして、心に浮かぶメロディーはなぜか・・・。

 ♪波の背の背に~

 揺られて揺れて、それでも、動かないでいることが、何かをなすことになる。そのようにして2020年が暮れていくのだとすれば、いま待っているのは、波なのか、波が過ぎることなのか。

 ついつい深読みしたくもなりますが、読んでもしょうがないか。

 

「三」の魅力と魔力と説得力 エイズと社会ウェブ版535

 現代性教育研究ジャーナルの連載コラムOneside Nosideの44回目です。
 2020年12月号の巻頭は岩室先生の『コロナ禍における性教育』。こちらもぜひお読みいただいて、その後で14ページのコラムもご覧ください。 

www.jase.faje.or.jp

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 『コミュニティが中心的な役割を担う共助は、NPO法人などもよく使っていた。ただし、為政者が使うと言葉の雰囲気が微妙に変わってしまうので、「三助はもう使いたくない」という NPO のメンバーもいる』 

 タイトルは最初《「三」の魅力と魔力》にしたのですが、これだと力が二つ並ぶだけなので看板に偽りみたいになってしまいます。
 無理やり三番目の「説得力」を加えることで、文字通り説得力が増す効果も出るし・・・出ないか。まあ、いいや。

 

『心の距離を密にする』 師走講演会報告続き(代表ブログから)

 イルファー釧路の名物ブログ『代表徒然草』で宮城島拓人代表が昨日の師走講演会について報告しています。私の中途半端な報告より、こっちの方がはるかにいいなあ・・・ということで、ぜひご覧ください。 

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 《心の距離を密にすること(第17回イルファー釧路師走講演会報告)》

  イルファー釧路 - livedoor Blog(ブログ)

 『HIVエイズがこの世に登場してから人類は多くの試練を与えられ乗り越えてきました(まだ途上ですが)。エイズがそうであったようにわからない事に対する恐怖が、偏見差別を生むのです。今のコロナも一緒です。だからエイズの歴史から学ぶべきことはあるに違いない』
 まさしく、その通りですね。HIV/エイズ対策に関わってきた多くの人にとって、というか、少なくとも私には「よぉ~し、稲田青年に負けないぞ(負けるけど)」と元気が出てくる講演会でした。
 『旅行もだめ、宴会もだめ、接待を伴う飲食もだめ、カラオケもライブもだめ。禁止することは簡単ですが、それは、HIV予防のためにセックスをするなと言っているようなもの。危険だから禁止ではなく、危険に繋がる状況をどう回避するか』
 この時期に、このメッセージ。なかなか言えません。だからこそ貴重。

 もちろん、著名な医師でもある宮城島代表は、感染予防対策として物理的に人と人との距離を離すことを否定しているわけではありません。でも、ダメなことを数え始めれば息が詰まる。できることを大切にしよう。繰り返しますが、この時期だからこそ『心の距離』は密にしたい。このメッセージは深いなあ。
 『HIVであろうと、新型コロナであろうと、岩室先生も稲田先生も絆と信頼関係こそが大切であるということを実践しているのです』
 タイミングをはかったように決まりました。

 

逆転の発想で世界を結ぶ イルファー釧路師走講演会 エイズと社会ウェッブ版534

 毎年12月の恒例イベントとなっているイルファー釧路の師走講演会が12月13日(日)午後4時から、釧路ろうさい病院の会場とウェッブによるハイブリッド開催で実施された。司会を担当したイルファー釧路の宮城島拓人代表(釧路ろうさい病院副院長)によると、イルファー釧路は今年、新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行のためほとんど活動できなかったという。

 それでも師走講演会は「今年最後の大一番」として何とか実現したいと開催の可能性を探り、これなら、ということで企画したのがハイブリッド開催だった。

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 リモートによる参加登録者は65人、ケニアベイルート、そして日本全国のいたるところから申し込みがあった。私の場合、釧路で開かれる講演会にはなかなか参加できないが、今回は鎌倉で居ながらにして参加が可能になる。こりゃあ、いいね!ということで早速、申込みました。

 講演会の冒頭、「コロナを逆手に取って、ユニバーサルな講演会が実現できました」と宮城島さんはあいさつした。コロナに対しては皆さん、恐れや不安を感じます。それは30年前にHIV/エイズの流行で感じたのと同じこと。HIV/エイズから学んだ教訓は新型コロナにも生かせます・・・。

 うろ覚えで恐縮だが、おおむねそんな趣旨のあいさつだった。

 講師は、横浜に住む岩室紳也医師とケニア在住の稲田頼太郎博士のお二人。

 稲田さんは1993年にニューヨークで設立されたイルファー(ILFAR)の創設者であり、2000年以降はケニアのナイロビ近郊にあるスラムで、HIV/エイズ関連の医療支援を続けてきた。2010年からはケニアに常駐してイルファーの活動を続けている。

 イルファー釧路はそのイルファーの医療支援活動に加わった宮城島代表が「これは遠い世界の問題ではない」と感じたことがきっかけになり、2004年に釧路で発足。充実した活動を続けている。イルファー釧路の公式サイトには、イルファーおよびイルファー釧路について分かりやすく説明してあるので、詳しくはこちらをご覧いただこう。

 https://bsystem-jp.com/ilfar946/aboutus.html

 最初に講演を行った岩室さんは、前回の東京オリンピック開催時をはさみ、小学生時代の6年間をケニアで過ごしている。国内で医師としてHIV診療やHIV/エイズ対策の普及啓発活動を長く続けてきた。

 現在はその経験を生かし、COVID-19対策でも、いわゆる夜の街の飲食店などの要請に応じ、協力と信頼の関係を確立しながら感染防止策の普及に取り組んでいる。

 講演の中で岩室さんは、それぞれの場面や条件に応じ、具体的にリスクを減らしていく方策の重要性を指摘し、それを実現するには、健康づくりの基本となるソーシャルキャピタル(社会資本)としての「つながり」を大切にする必要があることを強調した。

 COVID-19の感染防止対策にあたる担当者や専門家が、実際に「夜の街」と総称される業種の店舗を訪れ、経営者や従業員、場合によっては顧客もまじえて現場の課題を共有する。それが「信頼関係」の萌芽となって、感染防止対策に協力して取り組む。そこに「お互い様」の意識が生まれ、具体的な行動を通じた「つながり」が成立することで「信頼」の意識が一段と強まる。そうしたサイクルができれば通常の社会生活を続けながら感染防止に効果をあげるための道筋もさらに開けてくる。

 日本国内の大都市繁華街の現場におけるこうした(「お互い様」と「つながり」と「信頼」の)好循環の蓄積が、コロナ対策には極めて重要な意味を持つという。

 このことは、期せずして、次の講演者である稲田さんのケニアにおけるHIV/エイズ活動の成果にもつながるものだった。蛇足ながら付け加えておけば、「期せずして」というのはあくまでリモートで講演会に加わっていた私の感想であり、企画者にとっては、狙い通りだったのかもしれない。

 稲田さんの講演は、1 ケニアにおけるCOVID-19の流行と対策の現状、2 ナイロビ近郊のプムワニ、コロブッチョという二つのスラムにおけるイルファーのHIV/エイズ対策活動の成果と展望、の二部構成だった。

 ケニアでは今年3月に初めて新型コロナの感染者が確認され、その後、ほどなくして厳しい外出禁止令が出された。また、ナイロビの刑務所では受刑者を解放するなど、かなり思い切った感染防止策がとられている。

 しかし、流行はそれでも続き、ケニア国内におけるCOVID-19による死者は12月9日現在で1552人となった。6月には経済活動を重視する観点から外出制限が一部、緩和され、11月には第3波が訪れる中でさらなる制限緩和が行われた。その影響がどう出るのか、懸念されるところだという。それぞれの国には、それぞれの事情があることを踏まえたうえで、あえて一般化したことを言えば、どの国も社会や経済の動きを止めず、なおかつ感染の拡大を抑えるという課題の克服には苦労している。

 イルファーの活動については、UNAIDSが2020年末を達成期限としていた90-90-90ターゲットの高速対応目標について報告があった。

 90-90-90とは、HIV陽性者の90%が検査を受けて自らの感染を知り、そのうちの90%が抗レトロウイルス治療を受けられるようになり、さらに治療を受けている人の90%が自らの体内のHIV量を検出限界未満に抑えた状態を維持できるようになるという目標である。

 2030年までに「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行終結」を実現するという大目標に向けて、2020年末には中間目標として、この90-90-90ターゲットを達成するというのが、国連加盟国の共通約束だった。

 ただし、すでに締め切りは目前に迫っており、世界全体でみれば達成は不可能だという結論を国連合同エイズ計画(UNAIDS)は出している。

 また、こういう時の常套手段として、UNAIDSはつい先日、2025年に向けて90-90-90を超える新ターゲットを提唱した。この新ターゲットでは、90-90-90に相当する部分のハードルを一段上げ、95-95-95という数値も盛り込まれている。

 当然のことながら、90-90-90がクリアできなければそもそも95-95-95も成立はしない。締め切りは過ぎても、実現を急ぐべきターゲットとしての90-90-90は今後も課題として残ることになる。

 そうしたことを頭の片隅に置いて、稲田さんの報告を聞くと、驚くことにイルファーがHIV医療の支援活動を行っている2つの地区では、90-90-90ターゲットはすでにほぼ達成しているという。

 例えば、プムワニ地区の調査ではHIV検査の受検率が97%、検査で陽性と分かった人は100%が治療につながり、さらに治療を受けている患者250人を調査したところ、87%はウイルス量が検出限界未満(20コピー未満)だった。コロブッチョ地区では少し下がるが、ほぼ同等のデータだという。

 治療を継続してウイルス量が検出限界未満の状態を維持できれば、HIVに感染している人から他の人への性感染のリスクはなくなることが、これまで世界中の様々な研究調査の結果として報告されている。U=U(検出限界未満=感染しない)というキャンペーンはそうしたエビデンスに基づくものだし、90-90-90ターゲットも治療の普及がもたらす予防効果に着目した数値目標だった。

 つまり、90-90-90を達成できているということは、90%×90%×90%で、HIVに感染している人の72.9%からはHIVが性行為で他の人に感染しないということになる。

 UNAIDSの推計では、2019年には世界で年間170万人が新たにHIVに感染しているが、90-90-90が実現すれば年間50万人以下にまで減少する(はずだった)。これがさらに95-95-95になれば、年間の新規感染者数は20万人以下となる。

 ここまでくれば「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行は終結したとみなしましょう」というのが国際社会の了解事項とされている。「エイズ流行終結」はHIVに感染する人がゼロになる世界ではなく、HIVの新規感染を大きく減らし、HIVに感染した人が長期にわたって医学的に、そして社会的にも心理的にも、安定した暮らしを維持していける。実はそんな世界を目指しているのだ。

 この点もきちんと認識しておく必要がある・・・と私は思う。

 少し脱線しましたね。軌道を元に戻して、稲田さんの報告を続けよう。

 稲田さんから紹介された数字でプムワニ地区の現状を90-90-90ターゲットに当てはめてみると97-100-87。つまり、掛け算をすると84.39%になる。最後の87はわずかに目標の90に届いていないが、トータルとしてはターゲットを十分に達成している。

 この87の部分は、稲田さんたちが続けてきた服薬継続指導というコンサルテーション医療活動の大きな成果といえそうだ。長期にわたる医療支援の結果、あの人たちなら・・・ということでスラムの人たちからの信頼の輪が広がっていった。

 その中で、稲田さんを中心とするイルファーのメンバーも、抗レトロウイルス治療を受けている人たちに服薬継続の必要性を何度も何度も倦むことなく、納得できるように説明し続けたという。

 また、稲田さんが行うのはあくまでコンサルテーションであり、直接の医療提供は現地の医療機関が行うので、医療従事者に対し抗レトロウイルス薬の使用に必要な情報を提供することも大切だった。体内のウイルス量を定期的に測定することがなぜ必要なのかといったことを納得できるよう辛抱強く説明したという。こうした納得コミュニケーションの成果が信頼関係をさらに高めたようだ。

 しかし・・・と稲田さんの話は続く。プムワニ地区やコロブッチョ地区での成功は、あくまで首都ナイロビの近郊における点の成果にとどまっている。ケニア全体でみると、2019年には4万2000人がHIVに新規感染し、2万1000人がエイズで死亡している。そして、新規感染の65%はケニア西部の9県に集中しているという。

 「そこで稲田青年は考えた」

 まいったね。稲田さんはもう70代の半ばを過ぎているはずだが、自らを「青年」と呼ぶ。

 「薬剤の真の恩恵をケニアにもたらすため、あと10年がんばります。感染者の平和な生涯にチャンスを」

 あと10年とは、公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結を約束した国際社会の達成目標年である。その2030年まで、イルファーは新規感染者の多いケニア西部地区で活動することを計画している。残念ながら現在は、コロナ流行の影響でなかなか活動ができない状態だが、準備は着々と進められているという。

 

密を避け 色づく木々を 訪ねれば

 12月も中盤に突入しました。師走の風が身に染みる「勝負の3週間」ですが、鎌倉駅の周辺の人出で判断した印象では、あまり勝負していないかなあ・・・というようにも感じられます。

 それでも皆さん、密を避け、なるべく感染の機会を減らすようにと気を付けながらの外出なんでしょうね。ひょっとすると、大衆の知恵の結晶ともいうべきこの中途半端な行動変容の蓄積が、感染報告の上昇曲線を鈍化させ、頭打ちから下降へと転じる要因になるかもしれない・・・個人的にはひそかにそんな期待もしているのですが、どうなるでしょうか。

 一応、私も重症化リスクの高い年齢層に属し、なおかつ根が小心でもあり、言われなくても自粛はしています。ただし、家に閉じこもってばかりはいられず、本日も買い物や散歩には繰り出しました。歩数で言うと1日1万2000歩くらいが目安でしょうか。行先はなるべく人の少ないところにしよう・・・。

 

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 長谷から坂ノ下の御霊神社へと向かう路地を歩く。鎌倉は比較的、温暖な気候に恵まれているせいか、紅葉も実は今が見ごろです。道端のちょっとした紅葉、そして奥に見える境内では大イチョウの黄葉、コントラストがいい感じでした。

 境内はこんな様子。

 

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 坂ノ下の御霊神社は、勇猛で名高い平安時代後期の武士、鎌倉権五郎景政を祭る神社です。境内の鳥居の前を江ノ電が通っていることでも知られ、アジサイの季節には踏切のあたりが超密状態になってしまいますが、さすがにいまはお参りの人もまばらです。江ノ電、神社、そして黄葉・・・という豪華3点セットを1枚に収めたいところでしたが、私の腕では無理でした。ま、そのあたりはいずれ、渡辺照明カメラマンにお願いしましょう。

 

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 神社の参道入口にある力餅家で正月用にのし餅を注文。実は本日の散歩の主目的はこちらでした。創業は300年以上前、江戸時代中期です。大変な老舗ですね。名物はあんこを乗せた力餅ですが、そもそもお餅自体が本当においしい。毎年、12月になると予約注文に訪れます。2020年はどちらかというと惨憺たる年という感じでしたが、新しい年は心機一転、お餅を食べて元気を出そう(毎年食べてるけど)。

 

「6つの95%」「3つの10%未満」・・・2025年に向けた新エイズ・ターゲット エイズと社会ウェブ版533  

 お待たせしました。

 2025年に向けた新ターゲット概念図の日本語版です。

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 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が11月26日に発表した報告書『人びとを中心にすえ、パンデミックに打ち勝つ(Prevailing against pandemics by putting people at the centre)』の中から、序文と第1章(報告書要旨)の日本語仮訳を作成しました。API-Net(エイズ予防情報ネット)でご覧ください。 

api-net.jfap.or.jp

 

 国際社会は、2030年に「公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を終結に導く」ことを目指し、中間目標として2020年末までの高速対応(90-90-90ターゲット達成)を掲げてきましたが、実現に至りませんでした。

 このため、UNAIDSは世界エイズデー2020報告書で「世界がその約束を果たす軌道に乗ることはできなかった」との見解を示し、今後5年間の中間目標として新ターゲットを公表しています。上記概念図も日本語バージョンで第1章に載っています。

 報告書によると「人びとを中心にした2025年ターゲット」は、

     1. 包括的HIVサービス

     2. 人びとを中心にすえ、それぞれの事情に合わせたサービスの統合

     3. HIVサービスが可能な環境を妨げる社会的および法的な障壁の除去

 の3つのカテゴリーのもとで「6つの95%」「3つの10%未満」などの新指標を打ち出しています。

 数値目標を掲げるだけでなく、その目標の実現のためには現状の何をどのように変えていく必要があるのかにようやく思いが至ったといいますか・・・。

 新ターゲット作成のプロセスは2018年の半ばにスタートしているので、新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行以前に作業は進められていました。

 ただし、今年に入ってから直面せざるを得なくなった新たなパンデミックの経験が、新ターゲットに対する考え方を一段と深化させるものになったであろうということは、想像に難くありません。

 COVID-19とHIV/エイズの2つのパンデミックが同時進行する時代の中で、今後のさらなる新興感染症の発生といった新たな事態も見据えつつ、パンデミック対策の背骨になるべきターゲットとして受け止めることも可能だし、同時に受け止めなければならないのではないかとも個人的には思いました。

 また、ビヤニマ事務局長による序文には次のようにも書かれています。

 『国連加盟国にとって、2021年6月に予定されている国連総会ハイレベル会合は、公衆衛生上の脅威としてのエイズ流行を終わらせるという約束を再確認し、その実現に向けた動きを再び加速するための重要な機会となるでしょう』

 エイズの最初の公式症例の報告から40年の節目にニューヨークで開かれる国連総会のハイレベル会合にも注目しておきたいと思います。

 

 

 

『人びとを中心にすえ、パンデミックに打ち勝つ』 UNAIDSが2025ターゲット発表 エイズと社会ウェブ版532

 寒さが一段と身に沁みます。もう世界エイズデー(12月1日)は過ぎてしまいましたね。遅くなって恐縮ですが、その世界エイズデーに先立ち、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が11月26日、新たな報告書『人びとを中心にすえ、パンデミックに打ち勝つ』を公表しました。公式サイトのプレスリリースはこちらです。

www.unaids.org

 UNAIDSは毎年7月と11月に総括的なレポートを発表しています。7月の報告書にはその前年末までの推計データが紹介されているので、その数字をもとにして、いま世界は、そして各地域や各国のHIV/エイズをめぐる状況は、こうなっているのかということが推測できます。

 そこから半年もしないうちに出てくる11月の報告書は何を中心にするのか。作成を担当する方は、毎年のことなので、かなり頭を悩ませるのではないでしょうか。

 その点、今年は話題に事欠かない年でもありました。まず、新型コロナウイルス感染症COVID-19がもたらす影響は、7月公表のデータ(昨年末現在)には反映できません。今回の報告書では、まだ途中経過ではありますが、その影響が予想以上に大きくなること、対応にHIV/エイズの経験が大いに役立てられる(実際に役立っている)ことなどが盛り込まれています。

 もう一つ、そのCOVID-19の影響も踏まえたうえでの話ですが、今回の報告書では、2030年に(公衆衛生上の脅威としての)エイズ終結を目指すという国際社会の共通目標達成に向けて、2025年までに目指すべきターゲット(中間目標)が明らかにされました。この点が実は、報告書の最大の注目点でしょうね。

 

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 これまでの中間目標は、2020年末にケアカスケードの90-90-90ターゲットを高速対応で達成することでした。しかし、もう2020年の終わりも目前に迫っています。いままでのように「相当、がんばらないと90-90-90は達成できなくなっちゃうぞ」とはっぱをかける時期は過ぎてしまいました。

 こういうときには、健闘はしたものの、残念ながら目標は達成できませんでしたということをあっさりと認め、新たにより高次の目標を設定することで、目先を変える手法がよく取られます。

 締め切りまで決めて野心的な目標を掲げることは、大きな成果を上げる原動力にはなるものの、目標が野心的なだけに、なかなか最初の計画通りにはいきません。

 しかし、締め切りが来たからといって、試合が終了するわけでもありません。

 HIV/エイズの流行はそれでも続いています。もちろん、90-90-90ターゲットも締め切りが過ぎたからもうなしにしようというわけではなく、その指標の達成は引き続き追求しつつ、じゃあ、これからどうしたらいいのかということは実は3年ぐらい前から様々な関係分野の専門家や当事者による委員会で検討し(ということは3年ぐらい前から2020年の高速対応達成は難しいぞと思っていたということでもありますが)、新たな2025年ターゲットが作成されました。

 プレスリリースでは、次のように説明されています。

 『これらのターゲットは、HIVおよび性と生殖に関する健康サービスの普及を重視し、あわせて懲罰的な法律や政策の撤廃、スティグマと差別の解消に焦点を当てています。それは人びとを中心にすえたターゲットです』

 そして、そうした考え方に基づく、6つの95%、3つの10%未満などの指標も示されています。90-90-90より複雑になっている印象もありますが、社会的な課題に果敢に踏み込み、より具体的な成果を積み上げていきたいということなのでしょうね。

 プレスリリースだけでは、2025ターゲットそのものの説明には不十分な印象もあります。報告書冒頭の要旨部分、および関連して発表されている2025ターゲットの具体的説明についても、日本語仮訳の作成作業を進めているので、少し時間がかかるかもしれませんが、いましばしお待ちください。

 以下プレスリリースの日本語仮訳です。とりあえずご覧ください。

 

   ◇

 

UNAIDSが世界的な行動の強化を各国に呼びかけ、2025年に向けた大胆なHIV対策の新目標を提案

 COVID-19の流行でエイズ対策はさらに軌道を外れ、2020年ターゲットは達成できなかった。UNAIDSは各国に対し、健康への過少投資が招いたこの苦い教訓から学び、エイズおよび他のパンデミック終結に向けて世界的な行動を強化するよう求めている 

 

ジュネーブ 2020年11月26日  UNAIDSは新たに発表した報告書『人びとを中心に据え、パンデミックに打ち勝つ』の中で、世界的なパンデミック対策への投資を思い切って増やし、大胆で野心的ではあるが達成可能なHIVターゲットを採用するよう各国に呼びかけています。こうした目標が達成できれば、世界は2030年までに公衆衛生上の脅威としてのエイズ終結に向けた軌道に戻るでしょう。

 世界的なエイズ対策はCOVID-19パンデミックの前から軌道を外れていたとはいえ、コロナウイルスの急速な拡大がさらなる後退を強いることになりました。COVID-19パンデミックHIV対策にもたらす長期的な影響の数理モデルによると、2020年から2022年の間に推定12万3000~29万3000件のHIV新規感染が増え、エイズ関連の死者は6万9000~14万8000人増えるおそれがあることが示されています。

 「人権を重視し、人々を中心とした包括的なHIV対策への投資が十分になされなければ、その代償は恐るべきものになります」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は述べています。「政治的にお気に入りのプログラムばかり実施していても、COVID-19の流行を抑えたり、エイズ終結を果たしたりすることはできません。世界規模で対策を軌道に戻すには、人びとを最優先し、流行の拡大を助長している不平等に取り組まなければならないのです」

 

軌道に戻る新たなターゲット

 サハラ以南のアフリカでは、ボツワナエスワティニのように目覚ましい成果をあげ、2020年ターゲットを達成し、上回っている国もあるのですが、大きく後れをとっている国の方が多くなっています。高い成果をあげた国は、他の人びとにたどるべき道を切り開いています。 UNAIDSはパートナーと協力してこうした教訓を生かし、人びと中心のアプローチによる2025年ターゲットを提案します。

 これらのターゲットは、HIVおよび性と生殖に関する健康サービスの普及を重視し、あわせて懲罰的な法律や政策の撤廃、スティグマと差別の解消に焦点を当てています。それは人びとを中心にすえたターゲットです。とりわけ、最も高いリスクに曝され、取り残されがちな若い女性と少女、思春期の若者、セックスワーカートランスジェンダーの人たち、注射薬物使用者、ゲイ男性など男性とセックスをする男性といったひとたちを中心にしています。

HIVサービスの新たな提供目標は、HIV陽性者やHIV感染のリスクが高くなっている集団に対し95%の普及率達成を目ざしています。人を中心にしたアプローチを取り、感染が集中しているところに焦点を当てることで、各国は流行を制御しやすくなるでしょう。

2025年ターゲットはまた、効果的なHIV対策を進められる環境を確保し、差別禁止に向けた野心的な目標を含めるよう求めています。その目標には、懲罰的な法律と政策がある国を10%未満に減らし、HIV陽性者やHIVに影響を受けている人たちのスティグマと差別の経験を10%未満に減らし、 ジェンダーの不平等と暴力の経験を10%未満に減らすことが含まれています。

 

パンデミックに打ち勝つ

HIVや他のパンデミックに対する投資と行動が不十分だったことから、世界はCOVID-19の流行にさらされています。医療制度と社会のセーフティネットがもっと強力だったら、世界はCOVID-19の感染拡大を遅らせ、影響にも耐えることができたでしょう。保健への投資が命を救うだけでなく、強い経済的基盤を提供することもCOVID-19の流行は示しています。保健とHIVプログラムには、平時においても経済の危機にあっても、十分な資金が確保されなければなりません。

パンデミックを単独で打ち負かすことができる国はどこにもありません」とビヤニマ事務局長は語っています。「これほど大きな規模の課題に対しては、グローバルな連帯を築き、共有の責任を引き受けて、誰も取り残さないように動かなければ克服できません。そのためには負担を共有し、協力しなければならないのです」

 希望が持てる動きもあります。HIV対策が培ってきたリーダーシップと社会基盤、そして教訓は、COVID-19との闘いに活用されているのです。この非常事態においても、HIV対策の経験がサービスの継続に役立っています。コミュニティによるCOVID-19への対応は、力を合わせれば何が達成できるのかを示しています。

 また、途上国では治療を待ちながら何百万という人たちが亡くなっていったというHIV対策の過ちからも、世界は学ばなければなりません。いまなお1200万人以上のHIV陽性者が治療を受けられずにいます。2019年には170万人が新たにHIVに感染しました。不可欠なHIVサービスを利用できなかったからです。

健康に対する権利はすべての人のものです。UNAIDSがCOVID-19に対し、人びとのワクチンを中心になって支持しているのもそのためです。有望なCOVID-19ワクチンの候補が登場していますが、ワクチンを受けるのは金持ちの特権ではないということを確認する必要があります。したがって、UNAIDSとパートナーは製薬会社に対して、技術とノウハウを公開し共有できるようにすること、そして知的財産権を放棄して、世界中のすべての人をまもるために必要なワクチンを大規模かつ迅速に生産できるようにすることを求めています。

 

 

 

UNAIDS calls on countries to step up global action and proposes bold new HIV targets for 2025

As COVID-19 pushes the AIDS response even further off track and the 2020 targets are missed, UNAIDS is urging countries to learn from the lessons of underinvesting in health and to step up global action to end AIDS and other pandemics

 

GENEVA, 26 November 2020—In a new report, Prevailing against pandemics by putting people at the centre, UNAIDS is calling on countries to make far greater investments in global pandemic responses and adopt a new set of bold, ambitious but achievable HIV targets. If those targets are met, the world will be back on track to ending AIDS as a public health threat by 2030.

The global AIDS response was off track before the COVID-19 pandemic hit, but the rapid spread of the coronavirus has created additional setbacks. Modelling of the pandemic’s long-term impact on the HIV response shows that there could be an estimated 123 000 to 293 000 additional new HIV infections and 69 000 to 148 000 additional AIDS-related deaths between 2020 and 2022.

“The collective failure to invest sufficiently in comprehensive, rights-based, people-centred HIV responses has come at a terrible price,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “Implementing just the most politically palatable programmes will not turn the tide against COVID-19 or end AIDS. To get the global response back on track will require putting people first and tackling the inequalities on which epidemics thrive.”

 

New targets for getting back on track

Although some countries in sub-Saharan Africa, such as Botswana and Eswatini, have done remarkably well and have achieved or even exceeded the targets set for 2020, many more countries are falling way behind. The high-performing countries have created a path for others to follow. UNAIDS has worked with its partners to distil those lessons into a set of proposed targets for 2025 that take a people-centred approach.

The targets focus on a high coverage of HIV and reproductive and sexual health services together with the removal of punitive laws and policies and on reducing stigma and discrimination. They put people at the centre, especially the people most at risk and the marginalized—young women and girls, adolescents, sex workers, transgender people, people who inject drugs and gay men and other men who have sex with men.

New HIV service delivery targets aim at achieving a 95% coverage for each sub-population of people living with and at increased risk of HIV. By taking a person-centred approach and focusing on the hotspots, countries will be better placed to control their epidemics.

The 2025 targets also require ensuring a conducive environment for an effective HIV response and include ambitious antidiscrimination targets so that less than 10% of countries have punitive laws and policies, less than 10% of people living with and affected by HIV experience stigma and discrimination and less than 10% experience gender inequality and violence.

 

Prevailing against pandemics

Insufficient investment and action on HIV and other pandemics left the world exposed to COVID-19. Had health systems and social safety nets been even stronger, the world would have been better positioned to slow the spread of COVID-19 and withstand its impact. COVID-19 has shown that investments in health save lives but also provide a foundation for strong economies. Health and HIV programmes must be fully funded, both in times of plenty and in times of economic crisis.

“No country can defeat these pandemics on its own,” said Ms Byanyima. “A challenge of this magnitude can only be defeated by forging global solidarity, accepting a shared responsibility and mobilizing a response that leaves no one behind. We can do this by sharing the load and working together.”

There are bright spots: the leadership, infrastructure and lessons of the HIV response are being leveraged to fight COVID-19. The HIV response has helped to ensure the continuity of services in the face of extraordinary challenges. The response by communities against COVID-19 has shown what can be achieved by working together.

In addition, the world must learn from the mistakes of the HIV response, when millions in developing countries died waiting for treatment. Even today, more than 12 million people still do not have access to HIV treatment and 1.7 million people became infected with HIV in 2019 because they did not have access to essential HIV services.

 

Everyone has a right to health, which is why UNAIDS has been a leading advocate for a People’s Vaccine against COVID-19. Promising COVID-19 vaccines are emerging, but we must ensure that they are not the privilege of the rich. Therefore, UNAIDS and partners are calling on pharmaceutical companies to openly share their technology and know-how and to wave their intellectual property rights so that the world can produce successful vaccines at the huge scale and speed required to protect everyone.