『勝利よりも優先すべき価値』 エイズと社会ウェブ版400

連載コラム『多様な性のゆくえ One side/No side』の27回目です。現代性教育研究ジャーナルのNo1002019715日発行)に掲載されました。

おっと、記念すべき100号ですね。コングラチュレーション。気付くのが遅れ申し訳ありません。

https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/kyoiku_journal.html#current_number

日本性教育協会のサイトでPDF版をダウンロードしてご覧ください。私のコラムは12ページに載っています。いつもありがとうございます。

 

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 今回はラグビーW杯にちなんだ話です。もちろん参加各チームはいま、勝利を目指して最終調整に励んでいるわけですが、この時期にあえて『勝利よりも優先すべき価値』について考えてみたい。どういうことなのか。詳しくはコラムをお読みいただくとして、ここではオーストラリア協会のレイリーン・キャッスル CEO最高経営責任者)のコメントをちょっとだけ紹介しておきましょう。

ラグビーはすべての人のためのゲームであることを私たちは強調してきました。ジェンダーや人種、出身、宗教、セクシュアリティに関わりなく、誰 もが安全に、そして喜んで迎え入れられていると感じられなければならないのです」

 秋にはラグビーW杯、そして1年後には東京オリンピックパラリンピック。どういうわけか今年は夏がなかなかやってきませんが、いよいよですね。

 

 

再びスティグマを強調 国際エイズ学会(IAS)年次報告書2019 エイズと社会ウェブ版399

 国際エイズ学会(IAS)の公式サイトに今年度の年次報告書(2018-2019年7月)がPDF版で掲載されています。
 https://www.iasociety.org/Web/WebContent/File/IAS_Annual_Report_2019.pdf

 

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 30ページもあります。全部訳すのは大変なので、最初のページのケビン・オズボーン事務局長によるOPNING LETTER(はじめに)と13ページのDIFFERENTIATED SERVICE DELIVERYの部分を日本語に訳してみました。
 あくまで私家版の仮訳です。
 IASは3月に年次書簡2019『GETTING TO THE HEART OF STIGMA』(スティグマの本質に迫る)を発表しています。今回のOPNING LETTERはそれをさらにぎゅっと圧縮して1ページにまとめたという感じでしょうか。いまスティグマに対応することの重要性を重ねて強調しています。
 年次書簡2019の日本語仮訳はAPI-Netに載っているので、参考までにそちらも紹介しておきましょう。
http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20190308

 一方、DIFFERENTIATED SERVICE DELIVERYについては、国連事務総長が国連総会に提出した2019年の年次報告書でも取り上げられています。
 最近のHIV/エイズ対策のキーワードのひとつといっていいでしょうね。頭文字をとってDSDと表記されていることもあります。
 国連事務総長報告の仮訳作成時には『患者に合わせた保健医療ケアのサービス提供』と訳してみました。
http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20190709

 ただし、今回は国連事務総長報告の時のままだと、説明文とかぶってしまう部分があります。したがって、苦肉の策ではありますが、『分化型(患者に合わせた)サービス提供』としておきました。
 IAS報告書では『カスケードの各段階を通じ、HIV陽性者のニーズと期待に合わせて保健システムにかかる不必要な負担を軽減できるようにHIVサービスを簡素化し、柔軟に対応するクライアント中心のアプローチです』と説明されています。なるほど・・・。
DIFFERENTIATEDという単語に出くわしたときの、えっ、なに?という感覚も反映させたいということで、今回は「分化型」という(それだけでは意味不明な)訳語をあえて起用しました。
 今後も何かと出てくることが多いと思うので、文脈を見ながら『分化型』と『患者に合わせた』を使い分けることになりそうです。IAS公式サイトにはDSDの解説ページもあるので、時間があればそちらも読んでみたいと思います。
https://www.iasociety.org/Differentiated-Service-Delivery

   ◇

国際エイズ学会(IAS)年次報告書 2018-2019年7月

はじめに
 HIV流行の初期には、二つの流行がありました:一つはウイルスそのものの流行、そしてもう一つは恐怖と嫌悪と非難の流行です。この二つの流行は30年を経て、いまなおはっきりと残っています。
 差別をするのはHIVエイズではありません;人なのです。
 エイズの登場以来、新規感染とエイズ関連の死亡を減らすことに関しては大きな成果を上げてきました。しかし、スティグマと差別、社会的排除に対する闘いは十分ではなく、そのことがHIVの診断や治療、そしてこのウイルスを抱えて生きる人たちのケアを妨げてきました。HIVに関連した根強いスティグマは、多くの人に厳しい苦難をもたらす原因となり、グローバルコミュニティの成立を妨げてきたのです。
 スティグマと差別について考える際に、私たちはスティグマを二次的な問題として扱いがちです。国際機関がリップサービススティグマ対策の重要性を強調することはあっても、効果的かつ十分な規模の資金が確保されたことはなく、様々な状況に応じた適切な対応もできずにいます。たとえば、HIVの予防と治療という世界的課題の中で、スティグマは常に成功を妨げる最大の障壁でした。しかし、確固としたエビデンスに基づき効果的な政策やプログラムを実現できるだけの資金を配分するという意味で言えば、スティグマが対策の中心課題になっていたことはありません。
 HIVの流行の開始以来、スティグマと差別を混同する傾向が続いてきました。関連はあるものの、この二つは分けて考える必要があります。スティグマは社会現象です。特定の集団を取り上げ、その集団に属する人たちを着実に貶めていきます。
 スティグマは様々な形で現れます。最も多いのは外部要因がスティグマを生み出し、強化するケースです。ジェンダーや人種、セクシャリティ、経済力、そしてHIV関する根拠のない恐怖心など、すでに存在していた偏見がそうした外部要因になります。スティグマが強く内在化されることもあります:恥や汚辱、恐怖の意識により、社会から孤立していくこともあるのです。
 それでもなお、過去30年の流行を振り返れば、希望はあります。:HIVは復元力と勇気と決意を生み出すものでもあるからです。私たちHIVコミュニティ、自らの人生の中で専門的もしくは個人的に心を動かされた人たち、HIV陽性者、HIVに対し脆弱性を持つ人たち、HIVに影響を受けている誰かを知っている人たちのコミュニティは、どうしたら言葉だけでなく、行動でスティグマの核心と取り組むことができるのでしょうか。
   ケビン・オズボーン
   事務局長


分化型(患者に合わせた)サービス提供(P13)
 HIV陽性者の多様なニーズを認識することは、これまで同様、いまも極めて重要なことです。分化型サービス提供(DSD)は、カスケードの各段階を通じ、HIV陽性者のニーズと期待に合わせて保健システムにかかる不必要な負担を軽減できるようにHIVサービスを簡素化し、柔軟に対応するクライアント中心のアプローチです。IASの分化型サービス提供構想は、世界中の3700万人のHIV陽性者が生きていくために必要な良質のHIVケアを受けられるようになることを目指し、国やコミュニティのアドボカシーを促すとともに、ベストプラクティス事例やツール、エビデンスの国際的な普及を進めることでDSDを支援していきます。
 DSD構想は2018年に拡大をはかり、分化型(患者に合わせた)抗レトロウイルス治療提供を継続すると同時に、HIV検査サービス、およびキーポピュレーションへのDSDにも焦点をあてるようになりました。さらにこの計画は、各国が国内でDSD政策を取り入れ、ガイドラインを作成すること、コミュニティ主導でDSDの導入を求めることも支援しています。

実施事例(政策)
 DSD構想は、エチオピア、ガーナ、シエラレオネで患者に合わせた抗レトロウイルス治療提供政策の導入を支援しています。地球規模の政策レベルでは、世界保健機関(WHO)、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)、世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)の技術指導書で参照されています。

 


INTERNATIONAL AIDS SOCIETY ANNUAL REPORT JULY 2018-2019

OPENING LETTER
The early days of the HIV epidemic gave rise to two epidemics: one that was viral in nature and another composed of fear, loathing and blame. Three decades into the epidemic, it remains clear:
HIV AND AIDS DON’T DISCRIMINATE; PEOPLE DO.
Since AIDS first appeared, we’ve made considerable progress in reducing new HIV infections and AIDS-related deaths. But our lack of progress in combatting the epidemic of stigma, discrimination and social exclusion undermines our efforts in addressing the diagnosis of HIV and the treatment and care of people living with the virus. The persistence of stigma in the context of HIV also causes immense human hardship and diminishes us as a global community.
When we consider stigma and discrimination, stigma is often treated as a secondary matter. Although there has been a lot of lip service from international agencies to address stigma, the resources to enable an effective response to stigma at scale and duly tailored to different contexts have not been adequate. For example, global agendas for HIV prevention and treatment routinely recognize stigma as a major barrier to success. But we have yet to make fighting stigma a central pillar of our efforts in terms of allocating due resources to build a robust evidence base to enable effective anti-stigma policies and programming. 
Since the beginnings of the HIV epidemic, there has been a tendency to conflate stigma and discrimination. However, while the two are related, they are also distinct. Stigma is a social phenomenon that elevates certain groups over others and steadily devalues entire groups of people.
Stigma can appear in a number of ways. Most notably, external factors can generate and reinforce stigma. These factors include pre-existing prejudice based on gender, race, sexuality or economic position and unfounded fear of HIV. The impact of stigma can also be intensely personal and internalized: individuals may feel ashamed, dirty or afraid, withdrawing from social situations and isolating themselves from others.
Yet, looking back on the past three decades of the epidemic, hope remains: HIV also gave rise to resilience, spirit and determination. So how do we, the HIV community – people whose lives are touched by HIV professionally or personally, who are living with HIV, who are vulnerable to HIV or who know someone affected by HIV – move beyond rhetoric to action in getting to the heart of stigma?


DIFFERENTIATED SERVICE DELIVERY (p13)
Now, as ever, it is critical to acknowledge the diverse needs of people living with HIV. Differentiated service delivery (DSD) is a client-centred approach that simplifies and adapts HIV services across the cascade in ways that both serve the needs and expectations of people living with HIV and reduce unnecessary burdens on the health system. The IAS Differentiated Service Delivery initiative is committed to supporting the scale up of DSD through catalysing country and community advocacy and amplifying global best practices, tools and evidence to effectively reach the 37 million people worldwide in need of high-quality life-saving HIV care.
In 2018, the DSD initiative expanded its focus to HIV testing services and DSD for key populations, while continuing to work in the area of differentiated antiretroviral therapy delivery. In addition, the initiative supported uptake and adoption of national DSD policies and guidelines as well as community-driven demand creation for DSD.

FEATURED WORK (POLICY)
The DSD initiative supported national policy uptake of differentiated antiretroviral treatment delivery in Ethiopia, Ghana and Sierra Leone. At a global policy level, the work of the initiative is referenced in technical guidance from the World Health Organization, the United States President’s Emergency Plan for AIDS Relief and the Global Fund to Fight HIV, Tuberculosis and Malaria.

Differentiated Service Delivery (DSD)
https://www.iasociety.org/Differentiated-Service-Delivery

 

 

プライドハウス東京 松中権代表が記者会見

 東京オリンピックパラリンピック開催まであと1年に迫ってきました。この秋にはラグビーW杯も日本全国の12会場で開かれます。巨大スポーツイベントの準備期間というのは、何かとごたごたやもたつきが目立つものですが、もちろん期待もそれ以上に(とあえて言いたい)あります。日本記者クラブでは本日(711日)午後、プライドハウス東京の松中権代表が記者会見を行いました。

 注意散漫な老人としての能力を刻々と身に付けている私も出席しましたが、例によって聞き逃してしまったり、メモが取りきれなかったりという部分があまりにもたくさんあります。したがって、ずいぶん危なっかしい報告ですが、備忘録的なメモの延長ということでお読みください。

 日本記者クラブの公式サイトには会見動画もアップされているので、詳しくはそちらをご覧いただいた方がよさそうです(最近はとにかく弱気)。 

www.jnpc.or.jp

 松中さんによると、プライドハウスは2010年のバンクーバー冬季五輪の開催期間中にLGBTと総称される性的マイノリティの人たちが安心して過ごせる場として開設された期間限定のホスピタリティ施設が始まりでした。

 さらに、その後もオリンピック・パラリンピックやサッカーW杯などの機会に開設されています。うまくいった例だけでなく、開設の準備は進めていたのだけれど、断念せざるを得なかったこともありました。そうした経験を経て、「プライドハウス・インターナショナル」という国際ネットワークもでき、目指すべき機能も以下の4点に広がっています。

 1  ホスピタリティ施設

 2 情報プラットフォーム

 3 教育コンテンツ

 4 スポーツ企画

 

 日本では2020年の東京オリンピックパラリンピック開催を見据え、昨年9月にプライドハウス・コンソーシアムという組織が発足しました。コンソーシアムは日本語に訳すと連合体とか組合といった意味だそうで、現在は28NPO16の企業、5つの大使館が加わっているそうです。準備の過程で、さらに増えるのでしょうが、こうした広がりのある体制の実現はそれ自体、画期的なことです。

 これまでの世界各地のプライドハウスの経験を踏まえ、コンソーシアムでは東京で3つのレガシーを残すことを目指しています。

 1 コレクティブのインパクトを示す

 2 公式、公認のプログラムになる

 3 常設のLGBTセンターをつくる

 

 ただし、こうしたことは何回、説明を繰り返しても、説明を聞いた人にはどうも具体的なイメージがわかないかもしれません。そこで、まずは具体的に開いてみようということで、2020年に先立ち、ラグビーW杯日本大会が開幕する今年920日(金)から決勝戦2日後の114日まで、プライドハウス東京2019が東京・渋谷区神宮前に開設されることになりました。詳しくはプライドハウス東京の公式サイトをご覧ください。 

pridehouse.jp

 

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 松中さんには会見前に日本記者クラブのゲストブックに揮毫をお願いしました。自分に誇りを持とう。自分たちは生まれてきてよかったんだというプライドを持ってほしい。「プライド」のメッセージにはそんな思いが込められています。

「性的なことだけでなく、いろいろな悩みを持っている人にも伝えたい」

最後に松中さんはこう語って会見を終えました。

夕空に花火を待つか風一陣

 7月に入ってから急に気温が下がり、うっとおしい梅雨空が続いていました。10日はその梅雨の切れ目に1日だけ、青空になりましたね。お天気が心配だった第71回鎌倉花火大会も絶好のコンディションの中で敢行されました。

 

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 待ちに待ったといいますか、由比ガ浜海浜公園にもまだ明るいうちからたくさんの人が押しかけています。

 

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 去年は風が止まり、上空に煙が滞留して、せっかく打ち上げられた花火も見えなかったのですが、今年は適度な風が吹き抜け、よく見えました。

 

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 名物の水中花火も見事でした。某集合住宅屋上に参集した皆さんによると、今年は例年になく華やかだったという感想でした。私が撮った写真では見事に見えませんが、そこは想像力で補っていただきましょう。去年は文字通り煙に巻かれてしまったので、その分も今年、取り戻して楽しめた印象です。

 さあ、いよいよ夏本番、と言いたいところですが、明日からまた、梅雨空に戻りそうですね。もう少しの辛抱です。

 

世界の人口推計2019 記者会見傍聴感想記

 世界の人口はいま何十億人だとか、このままでいくと100億人は軽く突破するぞとかいった話は、テレビや新聞、雑誌でもときどき話題になります。そうした話題のもとになる国連の世界人口推計について、東京・内幸町の日本記者クラブで昨日(79日)、記者会見がありました。説明されたのは国立社会保障・人口問題研究所の林玲子・国際関係部長です。

https://www.jnpc.or.jp/archive/conferences/35433/report

 

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HIV/エイズの会見にもこれだけ集まればなあ、と思いつつ(写真は日本記者クラブ撮影)

 まず、基本的なことから。最新の世界人口推計は今年617日にニューヨークの国連本部で発表されました。世界中の国や地域で集められた国勢調査など1690件もの人口集計データ、および2700件の標本調査をもとにして、1950年から2100年までに世界235カ国・地域の人口を国連人口部が計算しています。国連にはひたすらそうした推計を行うセクションがあり、それをもとに様々な分野の様々な方が、ああでもない、こうでもない(失礼!)と世界中で議論を交わしているわけですね。

 推計は毎年、出されるわけではなく、何年かに一度、発表されています。最初の推計発表は1948年で、以後2019年までに計26回、発表されているそうです。72年間で26回ということは、つまりぃ・・・、う~ん・・・だいたい・・・3年弱に1回ですね。前回は2017年でした。

 その2017年推計と比べると、世界総人口は下方修正され、中位推計では2050年時点で3679万人、2100年には31000万人少なくなっているそうです。

と言われても、これだけでは雲をつかむようで話がよく呑み込めませんね。会見資料として配られた2019年版推計の要旨を見ると、2019年、つまり現在の世界人口は77億人で、それが2030年には85億人になり、2050年には97億人、2100年には109億人に増えるそうです。つまり、増えることは増えるのですが、その増え方はこれまで考えられてきたよりは穏やかになっています。人口爆発が危機感を持って語られたのは実は1960年代、70年代のことで、家族計画によりその危機は一応、回避できたものの、増加は続いているというのが現状なのだそうです。

地域別にみると人口が今後、最も大きく増加するのはサハラ以南のアフリカで、2050年には現在のほぼ倍(99%増)になると推計されています。人口大国の順番にも変化が現れます。

2019年の人口上位5カ国は以下の通りです。

 1 中国(143400万人)

  2 インド(136600万人)

 3 米国(32900万人)

 4 インドネシア27100万人)

 5 パキスタン21700万人)

 

それが2050年にはこう変わります。

 1 インド(163900万人)

  2 中国(140200万人)

 3 ナイジェリア(40100万人)

4 米国(37900万人)

 5 パキスタン33800万人)

 

このほか、2050年時点では、サハラ以南アフリカエチオピアコンゴ民主共和国も上位10カ国入りすると推計されています。

アフリカの人口増加は、この時期の生産年齢人口(2564歳)の割合が増え、「人口ボーナス」と呼ばれる経済成長が期待できるということでもあります。

ただし、実際にそのボーナスを経済成長につなげていくには、保健システムを整え、同時に教育の機会を確保しなければ、若年層の増加が逆に成長の阻害要因になってしまうかもしれません。持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、人を大切にする基盤ともいうべき保健や教育の重要性がとくに強調されるのはこのためでしょうね。

日本国内ではいま、生産性の話をすると妙な曲解を招きかねませんが、社会として生産性を高めるとはどういうことなのか。誰も置き去りにしないというSDGsの基本理念を踏まえたうえで、生産性についてはその内実をしっかりと考える必要があるようです。この辺りは、人口の観点から成長期にあるアフリカだけでなく、日本においても、つまり、人口ボーナスをうまく使って経済成長を果たした経験を持ちつつ、それでもいまは成熟期の課題に直面して呻吟する極東の島国においても、知恵のある議論が必要になります。

 

国が控訴断念 ハンセン病家族訴訟

 熊本地裁で原告勝訴の判決が出ていたハンセン病家族訴訟で、被告である国が9日、控訴を断念することを明らかにしました。
 報道によると、安倍晋三首相が同日朝、記者団に「筆舌に尽くしがたい経験をされたご家族のご苦労をこれ以上長引かせるわけにはいかない」と述べたそうです。これでハンセン病元患者の家族に対する差別に関し、国の賠償責任を認めた熊本地裁判決が確定することになります。
 まさか安倍首相がこのブログを読んでいるわけでもないだろうし、ほとんどまったく、何の影響力もありませんが、地裁判決が出た6月28日には、当ブログでも以下のような投稿を行いました。

 『ハンセン病家族訴訟 原告勝訴 国は控訴の断念を』
 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2019/06/28/191039

 遅きに失した判断かもしれません。それでも控訴断念を決断したことは、よかったと思います。

『ノーサイド・ゲーム』のキックオフ

毎週日曜午後9時からのTBSドラマ『ノーサイド・ゲーム』が始まりましたね。

原作は池井戸潤さんの同名小説です。鎌倉駅前の書店新刊書コーナーに平積みされていたので、昨日、購入して読み始めています。

先にドラマを見てしまうと、配役のイメージに引きずられてしまうので、小説を読んでからドラマを楽しみたいと思ったもので・・・。ちょっと変則的な楽しみ方になってしまいましたが、小説の前半と後半を分ける「ハーフタイム」という章を読み終わったあたりでドラマが始まりました。内容についてあれこれ書き始めると、ネタバレ的なところも出てしまうので、こちらの紹介はTBSの公式サイトにお任せしましょう。

 

www.tbs.co.jp

 小説とテレビのドラマでは若干、設定が異なるところもありますが、だいたい同じような展開です。企業ドラマとしても、ラグビードラマとしても、楽しめます。組織の中の個人ということで考えると、ラグビーはサラリーマンにとって教訓に満ちた格好のテキストという印象もあり、高齢おじさん層にとっては一粒で二度おいしいキャラメルのような魅力があります。

 主人公がGMを務めるチームの主力選手として元ラグビー日本代表SOWTB廣瀬俊朗さんが出演しています。初回はなんか怖そうな感じでしたが、次回以降、さらに重要な役どころになりそうです。

 実は廣瀬さんとは2月に日本記者クラブで「チャレンジJ9」というキャンペーンのキックオフ記者会見が行われたときに司会を担当したので、その時にお会いしました。全身の筋肉が徐々に失われていく難病 ALS筋萎縮性側索硬化症)の治療法研究と患者の皆さんを支援する目的で、日本のラグビー関係者が中心になって行っているキャンペーンです。

会見については当ブログでも報告したので、こちらもご覧ください。

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2019/02/07/231130

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廣瀬さんのような方には、これからもマルチに活躍してほしいですね。

ところで、小説『ノーサイド・ゲーム』には、日本ラグビーフットボール協会に対する批判も随所に出てきます。あくまでフィクションではありますが、協会の事情に詳しい人に聞いた話では、けっこう実態を反映しているようです。前回W杯で日本が南アフリカに勝つという歴史的勝利を飾り、日本国内のラグビー人気が一気に盛り上がったのに、その2か月後ほど後に始まったトップリーグの開幕戦はなんと、秩父宮ラグビー場のスタンドががらがらでした。どうしてそういうことになっちゃうのというエピソードも紹介しています。こちらも当時、当ブログで取り上げているので、参考までにご覧ください。

http://miyatak.hatenablog.com/entry/2015/11/14/151144

最近のスーパーラグビーからのサンウルブス撤退決定にまでつながる問題ではないかと思います。

池井戸さんは、いま日本のラグビー界が抱える問題点についても、関係者から相当しっかりと取材をしたうえで作品化されたようです。ドラマの中でも今後、こうした問題点の指摘は繰り返し出てくるのではないでしょうか。ラグビー協会執行部はつい最近、新体制が発足したばかりですが、改革すべきところはきちんと改革していく勇気と決断力を期待したいですね。