緊急事態宣言は期間が延長されることになりそうです。ある程度、覚悟していたとはいえ、長期戦になります。解除に向けた判断の基準は数字です。感染の報告がどこまで減少していくか。
自粛の呼びかけに応え、日本全国の皆さんが大いに健闘していることは、報告ベースの数字の減少傾向でも裏付けられています。それでも、もう少し我慢してくださいという呼びかけはもちろん理解できます。でも、苦しい。できれば、力づけられるメッセージもほしい。心がくじけないように、健闘を称えあう場面がもっとあってもいいと思う。ま、社会的な距離は取ったうえでの話ではあるけれど。
TOP-HAT News第140号の巻頭は、亡くなった方の話です。数字では伝えきれない悲しさ、苦しさ、HIV/エイズの流行の長い試練の中では、それが恐怖や不安と闘う力となり、たくさんの人を力づけてきた。そんな歴史もあります。
『UNAIDSの推計によると、世界では1981年にエイズの流行が始まって以来、これまでに3200万人がエイズに関連する疾病のために亡くなっています。3200万は単なる統計数字ではなく、その一人一人に人生があり、愛する人、親しい人がいたのです。数字では表しきれない力が、研究や対策を後押しし、世界はなんとか「治療を受けていればHIVでは死にません」と言える状態を実現するところまでこぎつけてきました』
その経験を繰り返したいとは決して思わなかったけれど、COVID-19の流行の中で数字では表せない力をいま、私たちは実感しつつあります。HIV/エイズとの長い闘いの中で、私たちが、なんとかではありますが、実現してきたこと。それが、いまなら、もっと短い時間で、できないはずはありません。
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第140 号(2020年4月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに 数字では表せない力
2 AIDS2020はバーチャル会議に変更
3 プライドハウス東京2020も開設を延期
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1 はじめに 数字では表せない力
新型コロナウイルス感染症COVID-19の肺炎で東京都内の病院に入院していた志村けんさんが3月29日に亡くなりました。享年70歳。年齢的には重症化リスクの高い高齢層ということになります。
ただし、偉大なコメディアンの死は同年配の方々だけでなく、若い人たちにも「まさか、志村さんが」と大きな悲しみと衝撃をもって受け止められました。それだけ志村さんが幅広い年齢層から愛されていたことのあかしもありますが、10代、20代の若い人たちや、働き盛りの30~50代の間でも新型肺炎に対する関心が一気に高まり、世の中の雰囲気が大きく変わったように思います。
4月23日には女優の岡江久美子さんの訃報も伝えられました。テレビドラマなどで拝見する岡江さんの演技には心が癒されるような存在感がありました。それだけにまた、大きな喪失感が社会に広がっています。
志村さんが亡くなった2日後の3月31日には、南アフリカ・ダーバン近郊の病院で、世界的に著名なHIV/エイズ研究者であるギータ・ラムジー博士がCOVID-19の合併症で亡くなりました。彼女は1996年にダーバン市内のセックスワーカーを対象にHIV予防のためのマイクロビサイド(膣内のジェル型殺ウイルス剤)の臨床試験を開始し、以後、女性主導で実行できるHIV感染予防策を追求し続けてきた研究者です。
3月の半ばに英国のロンドン大学衛生熱帯医学大学院で開かれたシンポジウムに出席して講演を行い、南アフリカに戻った直後に具合が悪くなったということです。地球規模で人が移動する時代におけるパンデミックの厳しさを具体的に示すかたちにもなりました。
ラムジー博士の訃報に接し、国連合同エイズ計画(UNAIDS)や国際エイズ学会(IAS)は直ちに追悼の声明を発表しています。4月2日付のUNAIDSプレス声明はエイズ&ソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに日本語仮訳を掲載したのでご覧ください。
https://asajp.at.webry.info/202004/article_1.html
新興感染症の流行は、世界中で多くの人の生命を奪ってきました。その中には著名人も少なくありません。HIV/エイズの流行では、1985年に米国の映画スター、ロック・ハドソンが亡くなっています。映画で共演し、彼の親友でもあった女優のエリザベス・テーラーは、米国の研究者らに協力を呼びかけ、エイズ研究財団(amfAR)を創設しました。いまも最先端のエイズ研究を支える民間財団の一つです。
愛する人・親しい人を失った悲しみがHIV/エイズと闘う力を生み出してきた。それは実はロック・ハドソンのような有名人に限った話ではありません。
UNAIDSの推計によると、世界では1981年にエイズの流行が始まって以来、これまでに3200万人がエイズに関連する疾病のために亡くなっています。3200万は単なる統計数字ではなく、その一人一人に人生があり、愛する人、親しい人がいたのです。数字では表しきれない力が、研究や対策を後押しし、世界はなんとか「治療を受けていればHIVでは死にません」と言える状態を実現するところまでこぎつけてきました。
人類はいま、COVID-19という新たな感染症のパンデミックに直面しています。日本国内、あるいは世界中で毎日、報告されている死亡者の数も、単なる数字ではありません。一人一人に人生があり、愛する人がいます。さらに、いま目の前にいるこの人の生命を救いたいと日夜、病院や研究室で奮闘している医療関係者の努力も並大抵のものではありません。
新しいウイルスが手強い相手であることは、著名人の死を通じても伝わってきます。社会的な恐怖や不安が広がることもある程度は、受け入れざるを得ません。だからこそ、一人一人の日常の行動を通じて、その恐怖や不安を克服し、社会の混乱を最小限に抑えつつ、最前線の医療現場にいる人たちを支える必要があります。
それはHIV/エイズとの長い闘いの中で、私たちが、なんとかではありますが、実現してきたことでもあります。いまなら、もっと短い時間で、できないはずはありません。
2 AIDS2020はバーチャル会議に変更
米・サンフランシスコ、オークランド両市で開催予定だった第23回国際エイズ会議(AIDS2020、2020年7月6~10日)はオンライン上のバーチャル会議に変更されました。
主催者の国際エイズ学会(IAS)と地元組織委員会が会議公式サイトに掲載した『お知らせ』によると、決定は『世界保健機関(WHO)、国連合同エイズ計画(UNAIDS)、主要な世界および地元の保健当局、世界各地のHIV陽性者からのアドバイスに基づいてなされた』ということです。
《In particular, we are acutely aware that there is not yet sufficient data on whether people living with HIV are more susceptible to COVID-19 or more likely to develop severe disease. Therefore, we have a special obligation to reduce any potential risk to the HIV community.》
『とりわけ、HIVに感染している人がCOVID-19にかかりやすいのかどうか、重篤化する可能性が高いかどうかについては、まだ十分なデータが得られていないということを私たちは厳しくとらえています。私たちには、HIVコミュニティへのあらゆる潜在的なリスクを減らさなければならないという特別な義務があるのです』
3 プライドハウス東京2020も開設を延期
セクシュアルマイノリティとスポーツに関する情報発信・ホスピタリティの施設「プライドハウス東京2020」は4月中旬、東京・新宿に開設される予定でしたが、オープンが延期になりました。オリンピック・パラリンピックの開催が2021年夏に延期されたことに伴う決定です。
http://pridehouse.jp/news/701/
《現時点では、「プライドハウス東京 2020」の具体的な開催時期はお伝えできない状況ではございますが、東京2020オリンピック・パラリンピックの開催時期に合わせオープンできるよう、場所や期間も含め、一度仕切りなおした上で、再検討を進めてまいります》
(プライドハウス東京公式サイトから)
厚労省委託事業として公益財団法人エイズ予防財団が運営するHIV/エイズ啓発サイト『API-Net(エイズ予防情報ネット)』が3月30日にリニューアルしました。
最初の新着情報は以下の2本。時節柄、新型コロナウイルス関連の文献紹介になりました。
・UNAIDS「COVID-19 時代の人権」
・UNAIDS「HIVとCOVID-19について」
英語の原文と日本語仮訳をともにみることができます。