『スーパーマーケットやレストラン、理美容室での感染は証明されていない』 エイズと社会ウェブ版467

 ドイツにおける新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行について、ボン大学のウイルス学者、ヘンドリック・シュトレーク博士が記者会見を行いました。もちろん、ドイツで開かれた会見に私が出席したわけではなく、ヨーロッパ大手メディアグループRTLのニュースサイトに4月9日付で掲載された記事の受け売りです。 

today.rtl.lu

 『いまのところ、スーパーマーケットやレストラン、理美容室での感染は証明されていない』というけっこう刺激的な見出しがついています。あくまでドイツのアウトブレーク調査の結果ではありますが、小心者の高齢者としては、スーパーに買い物に行くたびに、アルコールで手の消毒を繰り返し、顔は触っちゃだめだぞと自らに言い聞かせている状態なので、ついつい読んでしまいました。

 以下、記事の部分訳も含めた背景です。少し長くなります。

 シュトレーク博士は、ボン大学の教授兼ウイルス学・HIV研究所長で、来年の国際HIV科学会議(IAS2021)の地元組織委員長でもあります。ネットで検索したら、COVID-19に関しては、嗅覚障害を症状の一つとして早くから指摘していた方のようでもあります。優秀な研究者であり、その発言も信頼性が高いとみてよさそうです。

 記事によると、博士を中心にしたグループは、ドイツで最初に集団感染が起きたハインスベルク市とその近郊で、感染した住民全員の調査にあたりその結果をまとめました。

 ハインスベルクはデュセルドルフを州都とするノルトライン・ヴェストファーレン州にある町で、人口25万、今回のアウトブレークで1400件のコロナウイルス感染例が報告され、46人が亡くなっているということです。

 その調査の結果として、博士は会見で次のように述べています。

 “There is no significant risk of catching the disease when you go shopping. Severe outbreaks of the infection were always a result of people being closer together over a longer period of time, for example the après- ski parties in Ischgl, Austria.” He could also not find any evidence of ‘living’ viruses on surfaces. “When we took samples from door handles, phones or toilets it has not been possible to cultivate the virus in the laboratory on the basis of these swabs….

 「ショッピングに行っても重大な感染リスクがあるわけではありません。厳しいアウトブレークがあるのは常に、オーストリアのイシュグルで開かれたスキー後のパーティのように、人が長時間、接近した状態に置かれていた結果です」。彼はまた、「生きた」ウイルスがものの表面上に残っているエビデンスを見つけることはできなかった。「たとえばドアノブや電話機、トイレなどから取ったサンプルから、ラボラトリーでウイルスを培養することはできず・・・」

 つまり、スーパーでカゴを持ったり、商品を取り上げて戻したりといったことから感染が広がることはほとんど考えられないということでしょうか。さらに記事は博士のこんな発言も紹介しています。

“To actually 'get' the virus it would be necessary that someone coughs into their hand, immediately touches a door knob and then straight after that another person grasps the handle and goes on to touches their face.” Streeck therefore believes that there is little chance of transmission through contact with so-called contaminated surfaces.

 「ウイルスに感染している誰かが咳を手で押さえ、その手ですぐにドアノブにさわり、そのすぐ後に他の人がそのドアノブをつかんで表面を触るということでなければ、実際の感染は成立しにくい」。したがってシュトレーク博士は、いわゆるウイルスに汚染されたものの表面に触って感染が成立する可能性は小さいと考えている。

 

 あくまで個人的な感想ですが、これは実は、日本のクラスター対策班の言っている3密を避けようという呼びかけとも意外に符合するように思います。人と人との距離を取ることはもちろん大切だし、手洗いをこまめにすることも、マスクをすることも大切です。具合が悪いときは休む、これももちろん大事です。せっかく行動変容の習慣がつきはじめたのだから、もうちょっと続けましょう。

 しかし、密集を作らないようにすれば、買い物まで恐れなくてもよさそうだし、外食もできそう。ドイツの買い物の環境と日本の買い物の環境の密集形勢度の違いや外食店のお客さんやスタッフの人と人との距離には違いがあるかもしれないということを想定したうえでの話ですが、ちょっと気持ちが楽になります。

 気持ちは緩めず、ただし、恐怖や不安のままに極端に走ることなく、ということで緊急事態宣言下の生活は、うまく過ごせば人間をより思慮深いものへと成長させてくれるかもしれません(そうでも思わにゃ・・・)。

 では、どこで感染が広がるの?ということになります。シュトレーク博士は「厳しいアウトブレークがあるのは常に、オーストリアのイシュグルで開かれたスキー後のパーティのように、人が長時間、接近した状態に置かれていた結果」と指摘しています。

 日本の場合だと、夜の街での飲み会や風俗関係の濃厚接触は「厳しいアウトブレーク」の機会になる可能性がありそうです。

 そうなると、重症化のリスクに曝されている人を救い、感染の拡大を防止する観点からも、夜の街のお店や路上で働く人たちには、仕事を休んでとりあえず生活できる程度の金銭面の援助、および差別や偏見を防ぐことも含めた生活の支援が重要かつ急務になります。

 いま政策の選択肢としてその部分だけを強調するのは難しく、当面は全体的な自粛の呼びかけを通じて社会全般で行動変容への意識を高めることが必要だとは思います。

 ただし、飲食店の大半が営業困難となるような網を広げた自粛の持続には自ずと限界があります。いずれ対象分野をしぼったかたちでの対応策に移行していくとなると、行政機関の苦手分野も出てきます。当事者参加の枠組みが支援の柱として必要になってきそうですね。そのノウハウはいま、どこに蓄積されているのでしょうか。