公衆衛生上の緊急事態となったサル痘に人権を踏まえた緊急対策とワクチンへの公平なアクセスを(UNAIDS) エイズと社会ウェブ版620

(追加)
 『わが国ではこれまでのところ、サル痘の症例は報告されていないので』と書いたばかりなのに、テレビに「国内で初のサル痘患者確認」といった内容のニュース速報テロップが流れました。午後7時半のちょっと前あたりでしょうか。
 いま最優先すべきなのは、症例が確認された方が安心して、治療とケアを受けられるようにすることです。

 そうすれば、心配だなと思っている方も安心して医療につながることができます。個別の集団の非難につながる言動は、かっこ悪いね、という感覚を共有しましょう。
 情報は必要ですが、社会的に動揺することではありません。海外からの情報をもとにすでに国内の備えもできているとサル痘に関しては思います。落ち着きましょう。

(追加終わり)

 

 サル痘の流行拡大について世界保健機関(WHO)が7月23日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言しました。日本のメディアももちろん伝えていますが、ここでは英BBC、米CNNの日本語版サイトのニュースを紹介しておきましょう。

『WHO、サル痘で「緊急事態」を宣言 欧州などで感染拡大』(BBC

www.bbc.com

 『WHO、サル痘で「緊急事態」を宣言』(CNN)www.cnn.co.jp

 WHOは1カ月前の6月23日にもサル痘について緊急専門家委員会を開いています。この時は「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」に当たるかどうかを判断するには、もう少し事態の推移をみる必要があるということでした。

 7月23日の専門家委員会でも統一した見解には至らなかったものの、WHOのテドロス事務局長が、流行は急速に世界中で広がっており、まさに国際的な懸念だと判断したということです。WHOによると、これまでに75カ国から1万6000件以上のサル痘症例が報告されています。

 今回のWHO発表を受け、国連合同エイズ計画(UNAIDS)も同日付で『公衆衛生上の緊急事態となったサル痘に対し、人権を踏まえた緊急対策とワクチンへの公平なアクセス確保を要請』というプレスリリースを発表しています。

 症例の報告は、ゲイ男性など男性とセックスをする男性(MSM)の間で顕著ではあるが、MSMに限定されているわけではありません。UNAIDSのマシュー・カバナ副事務局長は『エイズ対策の試練を通して得た教訓を生かし、今回も効果的な公衆衛生対策の実現には、連帯と平等、非差別、そしてインクルージョンの原則を踏まえなければならない』と強調しています。

 また、『これまでにも数多くの差別に直面してきたMSMのコミュニティ』が流行から最も大きな影響を受けていることをあげ、『スティグマと差別が対策を妨げる』と指摘したうえで「影響を受けるコミュニティと協力し、対策の策定、実施、モニタリングのすべての段階でコミュニティが関与できるようにすること」を各国に求めています。

 さらに『ゲイ・バイセクシュアル男性など男性とセックスをする男性のコミュニティ組織が、多くの国でアウトブレークにいち早く対応し、注意喚起を行うとともに、誤った情報に異を唱え、ワクチン接種を支援してきた』と述べ、そのリーダーシップに感謝をしました。

 スティグマと差別については、エイズ対策の初期から現在に至る苦い経験の積み重ねがあり、そこから得た教訓も小さくありません。

 わが国ではこれまでのところ、サル痘の症例は報告されていないので、国内で最初の患者が確認されたとき、社会的にどのような反響が起こるのか(あるいは起こらないのか)ということもまた、分かりません。

 ただし、それに備え、コミュニティの内部で、医療提供者とも協力して、自分たちの健康の課題に取り組もうとする動きはすでに見えているので、それがエイズ流行の初期とは異なる対応の土台となることも期待できます。

 情報を力にしていきましょう。

以下、UNAIDS公式サイトに掲載された7月23日付プレスリリースの日本語仮訳です。

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公衆衛生上の緊急事態となったサル痘に対し、人権を踏まえた緊急対策とワクチンへの公平なアクセス確保を要請 UNAIDSプレスリリース

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2022/july/20220722_Monkeypox

ジュネーブ 2022年7月23 国連合同エイズ計画(UNAIDS)は本日、世界保健機関(WHO)がサル痘の流行を「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」と宣言したことを受け、各国政府に緊急な対応を求めた。WHOは75カ国から1万6000件を超える症例報告を受けている。ゲイ男性など男性とセックスをする男性(MSM)の間での症例が顕著だが、報告はMSMに限定されているわけではない。

 「WHOは本日、サル痘が世界各地のコミュニティで健康に対する脅威となっており、世界的な対応が必要であるという明確なエビデンスがあることから、緊急の呼びかけを行った」とUNAIDSのマシュー・カバナ副事務局長は述べている。

「今回のアウトブレークは、政府、医療提供者、コミュニティ、製薬会社が迅速に行動をとれば、食い止めることができる。エイズ対策の試練を通して得た教訓を生かし、今回も効果的な公衆衛生対策を実現するには、連帯と平等、非差別、そしてインクルージョンの原則を踏まえなければならない。サル痘のウイルスは密接な接触によって広がるので、感染の可能性は誰にでもある。ただし、現在はゲイ男性など男性とセックスをする男性のコミュニティに最も大きな影響を与えている。これまでにも数多くの差別に直面してきたコミュニティである。スティグマと差別は感染症対策を妨げることになる。症状のある人たちを潜在化させ、社会的な障壁にも対処できなくなってしまうことで、対策を必要とする人たちが、自分自身と自らのコミュニティの健康をまもれなくなる結果を招くからだ。影響を受けるコミュニティと協力し、対策の策定、実施、モニタリングのすべての段階でコミュニティが関与できるようにすることをUNAIDSは各国に求めている」

 「高所得国では普及しつつあるワクチンが、低・中所得国の中には利用できずに苦労している国がある。この現実を懸念しています。ワクチンに関するナショナリズムと不平等を繰り返せば、アウトブレークを長期化させ、苦しみを不当に広げることになる。ワクチンを必要とする人が誰でも、ワクチンを受け、その恩恵を受けられるようにするため、政府とワクチンメーカーに協力を呼びかける。その対象には以前から流行の影響を受けている国の人たちも含まれる」

 「ゲイ・バイセクシュアル男性など男性とセックスをする男性のコミュニティ組織が、多くの国でアウトブレークにいち早く対応し、注意を喚起するとともに、誤った情報に異を唱え、ワクチン接種を支援してきた。そのリーダーシップにUNAIDSは感謝している」

「サル痘のアウトブレークは、コミュニティがこれからもウイルスの脅威に直面し続けること、そして、世界全体が克服しない限りウイルスを克服することは望めず、公衆衛生には国際的な調整と連帯が不可欠なことを示している」

 UNAIDSはサル痘を報道するすべてのメディアに向けて、WHOが発行するアウトブレークの定期更新情報をフォローするよう要請する。

 

 

PRESS RELEASE

UNAIDS calls for urgent global response to Monkey Pox Public Health Emergency with rights-based public health and equitable access to vaccines

 

GENEVA, 23 July 2022—UNAIDS today called on governments to respond urgently to the World Health Organization declaration of Monkey Pox as a Public Health Emergency of International Concern. WHO has received reports over 16 thousand cases in 75 countries. The outbreak is occurring particularly, but not exclusively, among gay men and other men who have sex with men.

“The World Health Organization has issued an urgent call today based on clear evidence that Monkey Pox represents a global threat to the health of communities and requires a global response,” said Dr. Matthew Kavanagh, UNAIDS Deputy Executive Director a.i. “This outbreak can be stopped if governments, healthcare providers, communities, and pharmaceutical companies act with urgency. Drawing on the hard-learnt lessons of the response to the AIDS pandemic, effective public health actions must be guided by the principles of solidarity, equality, nondiscrimination and inclusion. The virus, spread through close contact, can affect anyone. But it is currently most impacting gay men and other men who have sex with men, who in many communities face discrimination. Stigma and discrimination undermine epidemic response, sending people with symptoms underground and failing to address the underlying barriers that people face in attempting to protect their own health and that of their community. It can also cause public health authorities to act with insufficient urgency. We urge people to demonstrate compassion to those affected, not discrimination. UNAIDS is urging countries to partner and engage affected communities in the development, implementation, and monitoring of all stages of the response.

“We are concerned that some low- and middle-income countries are struggling to get access to vaccines being deployed now in high income countries. Repeating vaccine nationalism and inequality will prolong the outbreak and unjustly deepen suffering from this virus.  We call on governments and vaccine manufacturers to work together to ensure that all those in need can access and benefit from vaccines, including people affected in endemic countries.

“UNAIDS would like to acknowledge the leadership of organizations led by communities of gay, bisexual and other men who have sex with men that, in many countries, have been stepping forward in responding to the outbreak, raising awareness, challenging misinformation and supporting vaccination efforts.”

The Monkeypox outbreak illustrates that communities will continue to face threats from viruses, and that international coordination and solidarity is essential for public health as viruses can only be overcome globally.

 

UNAIDS urges all media covering Monkeypox to follow the regular updates being issued by WHO.