中国における新型コロナウイルス(2019-nCoV)の流行について、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2月6日、プレス声明を発表しました。このところプレス声明がUNAIDSの得意技になってきたような感じもします。
書き出しの部分では、新型ウイルスによる肺炎で亡くなった人に深い哀悼の意を示すとともに『UNAIDSは中国と連帯し、アウトブレークの終息に向け最大限の支援を行う所存です』と述べています。
ただし、声明を出した真意はその部分よりもむしろ後半のHIVサービスが滞らないようにしてくださいという部分でしょうね。
『UNAIDSはHIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちが必要不可欠なHIVサービスへのアクセスを確保できるよう中国国内のパートナーおよび政府当局と緊密に協力していきます』
もちろん協力は惜しまないでしょうが、実質的には、しっかりやってくださいという注文でしょう。いくつになっても人の心が分からない私などは、そうか、注文というものはこうやってやんわりとつけるのか、と勉強になります。
『UNAIDSは中国CDCのエイズ/STD管理予防センターに対し、封鎖のために自宅のある町に戻れないHIV陽性者が必要な抗レトロウイルス薬を毎月補充できるよう迅速な対応を取ることを推奨しています』
テレビなどを観ていると、1000万都市を封鎖してしまうという荒業に「日本じゃ、人権の問題があってできませんが・・・」などと、中国の対策がうらやましいかのごとく語る方も(少数だと思いますが)いらっしゃいます。
しかし、人びとの生活も、医療の体制も大混乱に陥れたのは、未知の疾患のアウトブレークのせいなのでしょうか。もちろん、アウトブレークへの対応の必要性を否定するわけではありませんが、政策の選択においては同時に、危機への対応を促す圧力に抗しきれず(というか同調して)都市の機能を止めてしまうことの恐ろしさも考えておかなければなりません。『HIV陽性者および他の慢性疾患患者にとっては、治療を継続し健康状態を保つために、治療薬を適切に得ることが特に重要になります』と声明は述べています。政権の威信をかけた流行制圧の名のもとに必要な医療が滞り、肺炎以外の病気で亡くなる方の数字は統計としてなかなか出てきません。
ここで翻って日本のメディアの状況についてもさらっと触れておくと、織り込み済みの病気はニュースじゃないのかもしれませんね。同時に大事なことがニュースであるとは限らないという悲しい側面もニュースは持っています。
国際機関としては少々、とってつけたような感じもしないことのない声明ではありますが、この時期、こういうこともありましたという記録の意味で、多くの人が(たぶん)いまは関心を持たないHIV/エイズ分野からの声明として、日本語仮訳を紹介しておきます。
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新型コロナウイルスのアウトブレークの間もHIVサービスが滞ることがないよう中国のパートナーと協力 国連合同エイズ計画(UNAIDS)プレス声明
ジュネーブ 2020年2月6日 - 新型コロナウイルス(2019-nCoV)のアウトブレークで愛する人を亡くした方々にUNAIDSは謹んでお悔やみ申し上げます。UNAIDSは中国と連帯し、アウトブレークの終息に向け最大限の支援を行う所存です。
「中国はアウトブレーク封じ込めに向けて異例の対応で臨んでおり、流行の制圧に向けた中国の力を私は信頼しています」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は述べた。「この困難な時期において、UNAIDSはウイルスの拡散を止めるための世界の努力を全面的に支援します」
UNAIDSはHIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちが必要不可欠なHIVサービスへのアクセスを確保できるよう中国国内のパートナーおよび政府当局と緊密に協力していきます。2019-nCoVのアウトブレークの影響が大きい地域では移動が制限され、病院が2019-nCoV患者の増加に対応しなければならないためサービスへのアクセスも限定的になります。
HIV陽性者および他の慢性疾患患者にとっては、治療を継続し健康状態を保つために、治療薬を適切に得ることが特に重要になります。UNAIDSは中国CDCのエイズ/STD管理予防センターに対し、封鎖のために自宅のある町に戻れないHIV陽性者が必要な抗レトロウイルス薬を毎月補充できるよう迅速な対応を取ることを推奨しています。
中国国内でどのくらいのHIV陽性者が2019-nCoVの影響を受けているのかは、いまもなお明確ではありません。UNAIDSは引き続き推移をモニターしていきます。また、HIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちが、2019-nCoVを予防し、必要なサービスを受けるために正確な情報を得られるよう政府当局およびコミュニティのパートナーと引き続き協力していきます。
UNAIDS is working with partners in China to ensure that HIV services continue during the novel coronavirus outbreak
GENEVA, 6 February 2020—UNAIDS expresses its deep condolences to the families who have lost loved ones following the novel coronavirus (2019-nCoV) outbreak. UNAIDS stands in solidarity with China and offers its full support to measures under way to end the outbreak.
“China has made extraordinary efforts to contain the outbreak and I have full confidence in China’s ability to bring the epidemic under control,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “At this difficult time, UNAIDS offers its support to global efforts to stop the spread of the virus.”
UNAIDS is working closely with partners and the authorities in China to ensure that people living with and affected by HIV continue to have access to essential HIV services. In areas affected by the 2019-nCoV outbreak, movement may be restricted and access to services limited as hospitals focus on supporting increasing numbers of 2019-nCoV patients.
It is particularly important that people living with HIV and other chronic diseases have access to adequate supplies of medicines in order to enable them to continue treatment and remain healthy. UNAIDS commends the Chinese National Center for AIDS/STD Control and Prevention for taking swift action to ensure that people living with HIV who are away from their home towns during this lock-down period are able to obtain their monthly refills of antiretroviral therapy.
It is still unclear how many people living with HIV have been affected by 2019-nCoV in China and UNAIDS will continue to monitor developments. UNAIDS will also continue to work with the authorities and community partners to ensure that people living with and affected by HIV have correct information on how to prevent 2019-nCoV and how to access the services they need.