「人」より「事」を観る エイズと社会ウェブ版468

 現代性教育研究ジャーナルNo108(2020年4月15日)の連載コラム『多様な性の行方』第36回です。9ページに掲載されています。

www.jase.faje.or.jp

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 「スーパースプレッダー」という言葉を知ったのは、2003年にSARSが流行した時でした。でも、新興感染症の流行が始まると、病原体をばら撒いて歩く人がいるといった発想が出てくる。それはSARS以前にもあったようです。未知の病原体という見えない敵に対する恐怖と不安が引き起こす不合理な現象の一つでしょうか。

 1980年代にHIV/エイズ流行初期には、米国で『ペイシェント・ゼロ(0号患者)』の存在が大きな話題になりました。米国のジャーナリストで、自らも1994年にエイズで亡くなったランディ・シルツも、著書の中で取り上げていたほどです。
 でも、その『0号患者』神話は誤りでした。自分のコラムからの引用で恐縮ですがちょっと紹介しておきましょう。


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 AFP通信は2016年12月27日付で《「ペイシェント・ゼロ」、米エイズ流行の起源ではないと証明》と次のように報じている。
https://www.afpbb.com/articles/-/3105914
 《「ペイシェント・ゼロ」として同性愛者の男性が不当なレッテルを貼られたのは、患者番号の誤解と1980年代のメディアの過剰な報道が原因だと決定づける研究結果が26日、発表された》
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 新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行で、再び世界は(日本も)大きく動揺しています。しかし、経験の蓄積で対応が少しはリーゾナブルな(理屈に合った)ものになった面もあります。すいません、再び引用。


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 実地疫学の専門家の一人は流行分析の中で、スーパースプレッダーではなく、スーパースプレッディングイベントという言葉を用いている。
「感染を広げる人」がいるのではなく、「感染が広がる出来事や状態」があると受け止める姿勢は重要だと思う。私がSNSでそのようなコメントを送ると「ご推察の通り」というお返事をいただいた。
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 医療関係者はもちろん、お店の休業を余儀なくされている方にも、試練の日々が続いています。重症化のハイリスク層である私のような老人にとっては、無為に過ごす生活のパターンは実は、以前とあまり変わっていないような感じもしますが、それでも心理的にはつらい。人を非難せず、優しい気持ちを持って、なんとかこの困難を切り抜けましょう。