テーマはピープル・ファースト

 

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第185号(2024年1月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに テーマはピープル・ファースト

 

2 東京レインボープライドは『変わるまで、あきらめない』

 

3 『彼らには語るべき物語がある』

 

4 梅毒を特集 感染研IASR

 

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1 はじめに テーマはピープル・ファースト

国際エイズ学会(IAS)が主催する第25回国際エイズ会議(AIDS2024)が今年7月22~26日にドイツのミュンヘンで開かれます。

テーマは『Put people first!』(人を第一に考えよう)です。HIV/エイズ対策の文脈で『人を第一に考える』とは、どういうことなのか。会議公式サイトのテーマ紹介ページに趣旨説明が載っています。

 https://www.iasociety.org/conferences/aids2024/about/theme

《それは、最も大きな影響を受けている人の立場で解決策を考えることです。たとえば、対策が届かないことの問題点は、届かない人たちにあるのではなく、サービスはなぜ届かないのかを考える必要があります。HIV対策は、個々の人のために、とりわけ最も弱い立場に置かれた人たちのために構築しなければならないのです》

趣旨説明の日本語仮訳を、エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに掲載しました。

https://hatproject.seesaa.net/article/501807942.html

IASのシャロン・ルーウィン理事長はその中で『臨床試験の設計や政策策定、その他すべての面において、HIV陽性者、そしてHIVの影響を受けている人たちは、受益者としてとらえるべきではありません。対策を推進する主体なのです』と語っています。

具体的には何をしていくのでしょうか。趣旨説明では、たとえば・・・ということで、保健医療サービス、研究、言語について取り上げています。

  • それぞれの人のニーズに基づく保健医療サービスを提供できるようにする。
  • コミュニティが研究活動に主体的に参加できる条件を整える。
  • HIV陽性者やHIVの影響を受けている人へのスティグマや差別を助長する言葉を避け、人間を中心に考えた言語を使っていく。

言語については、制限を設けることで、自由な発想を妨げてしまうリスクも一方ではあります。この点はIASもかなり気を使っているようで、参考資料として2021年の第11回HIV科学会議(IAS2021)で発表された「ピープル・ファースト宣言」も紹介しています。

《最終的には、すべてのコミュニティが望ましい言語を使うようになることを目指しています。ただし、その前段階として、自分たちが自らの領域で適切な用語を一貫して使えるようになる必要があります。自分たちのフィールドから始め、そして世界へ!です》

HIV科学会議は、隔年開催の国際エイズ会議の間の年に開かれる会議です。2021年はベルリンが開催都市だったのですが、コロナ流行の影響を考慮しバーチャル開催に変更されました。3年後に同じドイツのミュンヘンで開かれる国際エイズ会議のテーマとして、当時の成果文書が引き継がれるかたちになります。言葉をめぐる課題を重視するIASの姿勢の反映とみるべきでしょう。

「ピープル・ファースト宣言」も抄訳のかたちで日本語仮訳をHATプロジェクトのブログに掲載しました。あわせて参考にしてください。

https://hatproject.seesaa.net/article/501944851.html

 

 

2 東京レインボープライドは『変わるまで、あきらめない』

 東京レインボープライド2024の日程が発表されました。

 プライドフェスティバルは4月19日(金)~21日(日)の3日間、代々木公園で。

 パレードは最終日の21日に予定されています。

 詳細は公式サイトで確認してください。

 https://tokyorainbowpride.com/

 今年のテーマは『変わるまで、あきらめない』です。

《1994年に日本で初めてプライドパレードが開催されてからまる30年という月日が経ちます。これまで諦めることなく声を上げ続けた一人ひとりの歩みの積み重ねが、社会に大きな変化をもたらしました。しかし、LGBTQ+に関する認識は大きく変わった一方で、進まぬ法整備など、まだまだ課題は山積みです。LGBTQ+に限らず、誰もが安全に自分らしく過ごせる社会が実現できるまで、あきらめずに歩みを止めない、という思いを込めて、このようなテーマとさせて頂きました》 (公式サイトから)

 

 

3 『彼らには語るべき物語がある』

 2020年度トニー賞のベストプレイ賞など4部門を受賞した「インヘリタンスー継承―」が2月11日(日)から24日(土)まで、東京芸術劇場プレイハウス(JR池袋駅西口徒歩2分)で上演されます。

《2015~18年のNYを舞台に、1980年代のエイズ流行初期を知る60代と、若い30代・20代の3世代のゲイ・コミュニティの人々の愛情、人生、尊厳やHIVをめぐる闘いを描いた作品》(公式サイトから)

 今回の公演を特別後援している日本国際交流センター(JCIE)/グローバルファンド日本委員会(FGFJ)は昨年11月30日に都内で日本版公演記念セミナー『40年のパンデミック エイズの教訓を受け継ぐ』を開催しています。

 セミナーでは、主演の福士誠治さんが登壇し、NPO法人ぷれいす東京の生島嗣代表らとのトークセッションに臨みました。福士さんが演じるエリックはNYに住む30代のゲイ男性で、祖父から受け継いだ大きな家に住み、現代の若いゲイと60代のゲイの間をつなぐ役どころで、福士さんは作品について「人が人を愛する。愛にあふれた作品だと思う。男同士、男女、親子、いろいろな愛があふれる」と語っていました。公演の詳細は公式サイトでご覧ください。

 https://www.inheritance-stage.jp/

 東京公演の後には大阪公演(3月2日、森ノ宮ピロティホール)、北九州公演(3月9日、J:COM北九州劇場 中劇場)が予定されています。

 

 

4 梅毒を特集 感染研IASR

 国立感染症研究所が発行するIASR(病原微生物検出情報)が2023年12月号で梅毒を特集しています。

 https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m-3/syphilis-iasrtpc/12410-526t.html

『梅毒届出数は1948年以降約50年間で大きく減少した。しかし, 2011年に増加に転じ, 特に2021年以降, 届出数が急増している』『2022年の年間届出数は13,258例となり, 半世紀ぶりの高水準を記録した』(患者発生動向 から)

『国内の疫学から示唆された梅毒感染リスクの高い集団に対して, 不特定多数の人との性的接触が感染リスクを高めること, 口腔性交や肛門性交でも感染すること, コンドームの適切な使用で感染リスクを下げられること, 梅毒が疑われる症状が自然に消退しても医療機関を受診する必要があること, 梅毒が治癒しても新たな罹患は予防できないこと, などの啓発が重要である』(公衆衛生対応 から)

 

前年より微増 昨年のHIV感染者報告速報値(東京都内) 東京都エイズ通信から

  メルマガ東京都エイズ通信の第198号が1月26日に発行されました。
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● 令和6年1月1日から1月21日までの感染者報告数(東京都)
  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者      10件    (13件)

AIDS患者        7件    ( 2件)

合計           17件     (15件)

HIV感染者数は令和5年より減少し、AIDS患者は令和5年より増加している。
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 新規報告件数は年が明けて最初の3週間の集計なので、前年と比較してもあまり意味がないかもしれません。今回はあわせて昨年(令和5年)の年間速報値も、梅毒患者数と合わせて報告されています。
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東京都健康安全研究センター発行の東京都感染症週報(令和6年1月5日現在)に
よると、令和5年の都内の感染者報告数は、次のとおりでした。

HIV感染者数・AIDS患者数    301件 (昨年比13人増)
梅毒患者数             3695件 (昨年比18人増)

HIV感染者・AIDS患者の合計報告件数は7年ぶりに増加に転じています。ま
た、梅毒患者数も3年連続で過去最多となりました。
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新規HIV感染者・エイズ患者報告数が「7年ぶりに増加」したのは、令和4年に大きく減少したことが影響しています。数年単位で見れば、報告ベースでは減少基調だと思います。ただし、そのことをもってエイズ終結論が強調されると、関心が予防にのみ集中し、それが必要な支援の体制まで軽視する結果にもつながりかねないことから、個人的には最近の議論の趨勢に大きな違和感も持っています。

 

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惜しまれつつ、でも、やり切った イルファー釧路ファイナル エイズと社会ウェブ版674

 北海道釧路市で20年にわたってHIV/エイズ分野の啓発活動を続けてきたイルファー釧路が昨年(2023年)12月10日、釧路ろうさい病院の講堂で20回目となる師走講演会を開催し、2004年8月発足以来の活動に終止符を打ちました。

 ファイナルと銘打った講演会の様子は、宮城島拓人代表(釧路労災病院副院長)がブログで、熱く、そして詳しく報告されています。

 

『ファイナルはクールに始まりそして熱く燃えた!(第20回師走講演会報告)』

 http://blog.livedoor.jp/ilfar946/

イルファー釧路20年の歴史を振り返りながらの成人式でもあり、解散式でもありました。今回の師走講演会には、会場に80人超、ウエブに44人の実に120人以上のかたが、私どもと時間を共有してくれたのでした》

 (宮城島代表のブログから)

 

 オンラインも活用したハイブリッド開催だったのですが、私は個人的な事情から参加できませんでした。現職の新聞記者だった2009年には「ジャーナリストから話を聞くのもたまにはいいだろう」ということで講師としてお招きいただき、2年ほど前にはハイブリッド開催のおかげで、ケニア在住の稲田頼太郎先生とも話をする機会を得ました。

 ファイナルに参加できなかったことは返す返すも残念です。

 

 20年におよぶイルファー釧路の歴史は公式サイトの「イルファー釧路について」というページに短くまとめられています。ケニアのナイロビで稲田頼太郎博士が日本を含む各国のスタッフと共に2000年から続けてきた無償診療活動(フリーメディカルキャンプ)に宮城島代表や鍼灸師である須藤隆昭事務局長が参加したのがきっかけになり、釧路で暮らす人たちの参加を得て20年も続いてきました。

 HIV/エイズパンデミックという世界史的な課題に対し、地元の活動を丹念に積み上げ、理解を広げていく。まさにThink globally, Act locally(地球規模で考え、地域で行動する)の見本と言うべきでしょう。

 イルファー釧路のファイナルとなった師走講演会では、その宮城島代表と須藤事務局長が壇上に立ち、『HIV/AIDS今昔物語、そして未来へ』(宮城島代表)、『イルファー釧路誕生秘話、そして明日への橋渡し』(須藤事務局長)というタイトルで講演を行いました。まさに温故知新。

 宮城島さんはブログで、その総括として『こうやってHIVエイズは人類の性(さが)による蔓延、偏見差別から、人類の英知による感染症の克服へ40年かけて進んできました。すべてが解決したわけではありませんが、イルファー釧路としての市民へのHIV予防啓発はそろそろ終わってもいいころではないかと思われる所以でもあります』と書いています。

 HIV/エイズの流行は、世界全体で見ても、日本の国内でも、すべてが解決し、克服されたわけではありません。しかし、イルファー釧路のAct locallyに関しては、「やり切った」という充実感と手ごたえも伝わってきます。外野席から恐縮ですが、ありがとう、ご苦労様でしたと申し上げたい。

 なお、イルファー釧路はファイナルを迎えましたが、師走講演会については『今回を限りに終わったわけではありません』ということです。

 『来年からはHIV中核拠点病院である釧路ろうさい病院の活動として引き継いでいく所存であります』

 その意気やよし。HIV/エイズを通して得られた一人一人の経験と知識は、国際保健と地域医療の両方に様々な教訓と成果をもたらしつつ、なお未解決の課題でもあり続けています。来年の講演会はきっと同窓会として貴重な出会いを提供する機会にもなるのでしょうね。

 

 

 

『鍵を握る個別施策層』 エイズと社会ウェブ版673

 どういうわけか、今回は具体的な動きがなかなか把握できませんが、厚労省エイズ予防指針見直し作業がいま、現在進行形で進んでいるようです。もうちょっとオープンいしてもいいように思うけれど・・・。その見直しがどうなるかということも意識しつつ、前回に続き、個別施策層について取り上げました。

 現代性教育研究ジャーナル No.154(2024年1月15日発行)の連載コラム「多様な性のゆくえ」第81回です。9ページに載っています。

 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202401.pdf

《Vulnerable(脆弱な)と規定してしまうと、流行に対し無力な印象も免れない。国連合同エイズ計画(UNAIDS)の報告書などで、Vulnerable Population に代わって Key Population(流行とその対策の鍵を握る人たち)が多用されるようになったのはこのためだろう》
 こうした議論は、20世紀から21世紀へと移行する前後に盛んに交わされていたように思います。予防指針に個別施策層が位置づけられていった時期とほぼ重なります。
《ところが、予防指針の改定を重ねる中で、個別施策層は対策上の配慮の対象としては引き続き強調されていたものの、対策をともに担うべき主体としてとらえる視点は失われていったように見える》
 今回の予防指針改定作業は、個別施策層の意味をもう一度、とらえ直す機会かもしれません。 

 

 

Nothing About Us Without Us エイズと社会ウェブ版672

現代性教育研究ジャーナルの連載コラム「多様な性のゆくえ」の第80回です。昨年12月15日発行のNo.153に掲載されていますが、年末は珍しく多忙、そして年が明けてからは厳しい状況が続き、紹介が1カ月遅れになってしまいました。
https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/journal/seikyoiku_journal_202312.pdf
8ページに掲載されています。

 

 

試練の2023年を振り返る TOP-HAT News 第184号 

《国際的にも国内でも、2023年は厳しい試練に見舞われ続けた1年でした。それでも、というか、だからこそ、希望の光はあることを願いつつ、新しい年を迎えたい。HIV/エイズとその関連分野はどうだったのでしょうか》
TOP-HAT News 第184号(2023年12月)です。

 

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TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)
        第184号(2023年12月)
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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。
なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。
エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部


◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

1 はじめに 試練の2023年を振り返る

2 国内におけるHIV感染報告の顕著な減少

3 COVID-19の緊急事態宣言解除

4 スティグマと差別への対応

◇◆◇◆◇◆

1 はじめに 試練の2023年を振り返る
国際的にも国内でも、2023年は厳しい試練に見舞われ続けた1年でした。それでも、というか、だからこそ、希望の光はあることを願いつつ、新しい年を迎えたい。HIV/エイズとその関連分野はどうだったのでしょうか。
・国内におけるHIV感染報告の顕著な減少
・COVID-19の緊急事態宣言解除
スティグマと差別への対応
上記3点に着目して、この1年を振り返りましょう。

2 国内におけるHIV感染報告の顕著な減少
厚労省エイズ動向委員会は8月18日、国内における2022年の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の年間確定値を発表しました。
新規HIV感染者・エイズ患者報告の合計は884件です。
過去に遡ると、2000年の789件に次いで過去22年間で2番目に少ない報告数になっています。翌2001年は953件でした。つまり2022年は、21世紀に入って最も感染報告が少なかった年となります。
年間の報告数が最も多かったのは2013年の1590件で、その後も2016年までは1400件以上でした。2017年(1389件)以降は減少傾向がはっきり示されています。
一方で、2020年には新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行に影響を受け、HIV検査件数も大幅に減少しました。それが報告減にどこまで影響しているのか、把握しきれない面もあります。引き続き今後の推移に注視する必要はありそうです。
減少の要因は、治療の進歩がもたらす予防面での効果がしばしば指摘されてきました。それも確かでしょう。ただし、時系列的にみれば、2000年代の初頭から、HIV感染の影響を大きく受けていたコミュニティがいち早く啓発や支援に動いていたことも見逃せません。そうした努力の積み重ねがあって初めて、治療の予防効果にもつながったと考えるべきでしょう。
それぞれの人の条件に応じ予防の選択肢を組み合わせていくコンビネーションプリベンション(複合予防策)の考え方は今後も必要です。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)の2023年世界エイズデーのテーマは、LET COMMUNITIES LEAD(コミュニティ主導でいこう)でした。国際的な動きと日本の現状も、実はあまり乖離しているわけではありません。
確定値の発表から13日後の8月31日には、HIV陽性者支援やHIV感染の予防啓発活動を続けてきた国内の6つのコミュニティ団体が『HIV/AIDS GAP6』として厚生労働大臣宛に要望書を提出しました。
『当事者団体が積極的に取り組み、日本におけるHIV/エイズの流行終結を2030年までに実現させることを目標に掲げる決意をいたしました』
要望書は自らの立場をこう明記し、流行終結に向けた具体的方策の策定など5項目を厚労省に求めています。
エイズ流行終結』は国連が2030年までに達成を目指す大目標ですが、予防が排除につながりかねない危うさもあります。その危うさを回避するうえでも、当事者団体の存在は大きな役割を担っているというべきでしょう。


3 COVID-19の緊急事態宣言解除
世界保健機関(WHO)は5月5日、新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックに対するPHEIC(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)の解除を発表しました。PHEICが宣言されたのは2020年1月30日だったので、世界は3年4カ月余りにわたってコロナ流行という緊急事態のもとにありました。
国内では、2020年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく緊急事態宣言が埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府兵庫県、福岡県の7都府県に出され、対象地域はその後、全国に拡大しています。新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言やまん延防止重点措置が出ている期間は、その後も断続的に続き、HIV/エイズ分野のNPOなどの活動も大きく制限されました。
コロナ対策のために、多数の人が集まるイベントや講演会、集会は対面開催を避け、代替措置としてオンライン開催が続く状態が3年以上も続くことになったのです。
こうした事態は負の影響だけでなく、オンライン利用が進んだことで遠隔地からのイベント参加も可能になり、距離の壁を越えて活動の輪が広がる効果ももたらしています。多くの企業で在宅勤務の動きも広がりました。
ただし、ビジネスや社会活動の分野でオンライン化が急速に進んだことは逆に、人と人とが直接会い、対面でコミュニケーションをとることの大切さを改めて認識する機会にもなっています。
エイズ分野のNPO法人の活動報告会も昨年まではオンライン会合がほとんどでしたが、今年は対面の会場開催に切り替わり、久しぶりに旧知の人たちや新しく活動に加わった人たちが顔を合わせて交流を深める機会も増えました。
4月23日に行われた東京レインボープライドのパレードも主催者発表で参加者1万人、梯団数39という大規模なものになっています。
パレードではその39梯団の一つとして、2019年以来4年ぶりにHIV/エイズをテーマにした『#UPDATE HIV』フロートが登場したことにも注目すべきでしょう。
HIV陽性(ポジティブ)の人たちが『WE ARE POSITIVE』のバナーを掲げ、隊列の先頭を歩いていたことも強く印象に残りました。自ら『#UPDATE』の先頭に立つ。その決断もコロナの試練の中で「社会的距離」に直面し、人と人とのつながりを再認識する期間があったからかもしれません。


4 スティグマと差別への対応
岸田首相は2月4日、「多様性を認め合う包摂的な社会を目指す政権の方針とは相いれず、言語道断の発言だ」として当時の首相秘書官を更迭しました。
その3日前の2月1日に衆院予算委で同性婚制度について質問を受けた際、首相は「社会が変わってしまう」と答弁しています。この首相答弁の真意を記者団から問われた秘書官が「隣に住んでいたら嫌だ。見るのも嫌だ」などと答えていたのです。もともとオフレコベースの会見であり、記者に食い下がられて説明に窮した結果のようにも受け取れますが、発言は看過できず、更迭は止むを得ません。
ただし、元秘書官は5カ月後の7月4日付で古巣の省庁の大臣官房審議官に復帰しています。
国外に目を転じると、5月29日にウガンダで新たな反同性愛法が成立しています。ウガンダ国内ではこれまでも、同性愛行為は違法とされていましたが、新たな法律は、HIV陽性者による同性間の性行為などを「悪質な行為」と規定し、死刑もあり得るなど厳罰化を一段と強めています。
こうした法律ができることに強く反対してきた世界エイズ結核マラリア対策基金(グローバルファンド)のピーター・サンズ事務局長、UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長、米国のジョン・ヌケンガソン地球規模エイズ調整官(大使)の3人の指導者はプレス声明を連名で発表し、『2023年ウガンダ反同性愛法が国民の健康に悪影響を及ぼし、これまで大きな成功を収めてきたウガンダエイズ対策に打撃を与えることを深く憂慮している』として法律の見直しを求めました。
しかし、時すでに遅しで反同性愛法はウガンダ国内の性的少数者の活動やHIV/エイズ対策に深刻な影響を与えています。
再び国内の話題に戻ります。先ほど紹介したプライドパレードの『#UPDATE HIV』フロートでは、参加者の多くが「差別・偏見ゼロ」「AIDS発症ゼロ」「新たなHIV感染ゼロ」の3つのゼロを目指すプラカードを掲げていました。
その最初のゼロが「差別・偏見」だったことに注目してください。国際的にも国内でもエイズ対策がいま、最も力を入れなければならないのが、スティグマと差別の解消である。この課題は2024年も引き継がれていくことになります。

 

 

 

 

報告の微増傾向続く 東京都エイズ通信から

メルマガ東京都エイズ通信第197号が27日、発行されました。今年1月1日から12月17日までの都内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数は以下の通りです。

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● 令和5年1月1日から12月17日までの感染者報告数(東京都)
  ※( )は昨年同時期の報告数

HIV感染者      235件    (225件)
AIDS患者        52件    ( 50件)
合計            287件      (275件)

HIV感染者数およびAIDS患者は、令和4年同時期比では、増加している。

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 今年は初めの2回の集計(2月26日まで)こそ前年(2022年)より少なかったものの、3回目(3月26日まで)は新規HIV感染者・エイズ患者の合計報告数が前年と同数になり、以後は前年比で増加の傾向に転じています。
 COVID-19の流行が一段落し、都内の保健所などでHIV検査を受ける人が少しずつ増えてきたことの反映なのかもしれません。増加といっても微増にとどまっており、実際の感染動向の顕著な拡大は見られないようですが、引き続き注意深く推移を見ていく必要がありそうです。
 2022年の年間合計報告数は286件で、1998年以来24年ぶりに300件を下回りました。今年の報告も増加に転じたとはいえ、2年連続で300件を下回ることにはなりそうです。

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