データが伝えるひそかな危機 エイズ動向委員会報告確定値から エイズと社会ウェブ版580

 厚生労働省エイズ動向委員会が8月24日、新規HIV感染者報告数と新規エイズ患者報告数について発表しました。API-Net(エイズ予防情報ネット)にその概要が載っています。 

api-net.jfap.or.jp

 あいまいな書き方ですいません。現役の新聞記者ではなくなり、なおかつこの夏は政府のお達しに従い、鎌倉から不要不急の用事(なんだろうなあ、やっぱり)で、都県境どころか、市境を越えることすら自粛しているもので、同行委員会がリモート開催なのか、対面で開かれたのか、あるいは資料を回覧して持ち回り開催だったのか、よく分からないもので(委員の誰かに聞けば教えてくれるかもしれないけれど、自粛慣れでそれもおっくうになってしまって)・・・。

 エイズ動向委員会は年2回開催されており、前回(3月16日)は2020年の第3、第4四半期の報告数と年間報告の速報値が発表されています。

 そして、今回は2021年第1、第2四半期の報告数と2020年の年間確定値が発表されました。一括して取り上げると混乱しそうなので、四半期ベースの報告はAPI-Netで見てください。ここでは昨年の年間確定値に関する委員長コメントを紹介します。

こちらですね。 

https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/data/2020/nenpo/coment.pdf

 新規HIV感染者報告数  750件(過去20年間で17番目)

 新規エイズ患者報告数 340件(過去20年間で17番目)

  合計報告数     1095件(過去20年間で16番目)

 

 3月に発表された速報値と比べると、新規HIV感染者報告数は10件、新規エイズ患者報告数は4件増えています。小幅ではありますが合計で14件増加しました。

 グラフは2000年以降の報告数の推移です。

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 2013年の1590件をピークにして、年間の合計報告数は減少傾向が続いてきました。年間の報告数は1500人時代から1000人時代へと移行したようにも見えます。

 ただし、気になるデータもあります。2020年の報告数全体に占めるエイズ患者報告数の割合を計算してみると31.5%でした。この割合が高くなるということは、エイズを発症するまで自分のHIV感染に気付かなかった人が多いことを示します。

 最近は抗レトロウイルス治療の進歩により、HIVに感染しても長く生きていくことができる時代になりました。そのように指摘されることがしばしばあります。素晴らしい成果です。

 ただし、早期に治療を開始することができなければ、治療が成果を上げることはその分、厳しくなります(私は医療の専門家ではないので、治療に関しては、お医者さんの言うことのまた聞きに過ぎませんが、信頼のできる複数のお医者さんからそういう話を聞きました)。

 一方で、感染に気付かないでいる期間が長くなれば、あるいはエイズを発症するまで感染に気付かなければ、その人から他の人にHIVが感染する機会も増えることになると考えられます。

 早期治療の必要性が強調されるのは、感染した人自身の健康状態を維持する観点からも、予防対策の面からも、高い効果が期待できるからです。どちらか一方ではなく、予防と治療の両面から、動向委員会で集約される報告数全体に占めるエイズ患者報告数の割合を下げることは、現在のエイズ対策の成否をはかる重要な指標になっています。

 その割合が2020年は30%を超えました。2016年以来4年ぶりのことです。

 そして、過去をさかのぼってみると、31%を超えたのは、2004年の33.0%以来、実に16年ぶりとなります。時計の針がぐるぐると巻き戻され、15年以上にわたって営々と積み重ねてきたエイズ対策の成果が一気に失われる・・・ことはないと思いたいのですが、それでもめまいがするような気分です。

 国内のHIV/エイズの流行の観点からすると、2004年前後はどんな状態だったのか。そして、今は何が起きているのか、改めて確認しておく必要がありそうです。