読初感想文『愛と差別と友情とLGBTQ+』  エイズと社会ウェブ版581  

 新聞記者時代のよきライバルであり、同時に友人でもある北丸雄二さんの新著『愛と差別と友情とLGBTQ+』を読み始めています。・・・とはいえ、450ページ近い大著です。しかも、個人的に読書のスピードが遅いという事情もあります。さらに付け加えれば、小さいころから、おいしいものはなるべく最後まで手を付けず、ちびちびと楽しむというせこい性格でもあります。人ごとのようで恐縮ですが、読み終わるのはずいぶん先になるかもしれません。

 

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 当ブログには「読後感想文」というタイトルで、文字通りの感想を載せることがあります。一応、最後まで読んでから書く。これが基本方針です。

 ただし、今回は最初の100ページ足らずまで読んだ段階で、頼まれもしないのに「ねえ、ねえ、こんな本が出たよ」と教えまくりたくなってしまい、とりあえず読後ではなく、読初感想文を書くに至りました(あえてルビをふるとしたら、読初は「どくしょ」ではなく「よみはじめ」です)。

 前置きが長くてすいません。

 本書によると、北丸さんが新聞社の特派員としてニューヨークに赴任したのは1993年2月23日でした。私の赴任は2月28日です。同時期に、ほぼ同じ対象を取材する期間が3年ほど続きました。

 ニューヨークで最初にお会いしたのは3月の初めに日本政府の国連代表部で大使会見が行われた時だったと思います。いま考えれば私よりわずか5日前に赴任した人なのに、もう何年もニューヨークで取材を続けているような印象でした。水があっていたというか、北丸さんにとって、ニューヨークは最初から、出会うべくして出会った町だったのでしょうね。

 第1部『愛と差別と 言葉で闘うアメリカの記録』はその特派員赴任のシーンから始まります。そして、北丸さんは『エイズ問題を通じて、私はおびただしい量、おびただしい分野、おびただしい人間のゲイ関連情報に触れることになりました』と振り返っています。

 まだ、最初の3章(第1章 ロック・ハドソンという爆弾、第2章 エイズ禍からの反撃、第3章 エイズ禍への反撃)を読んだだけですが、ロック・ハドソンエイズによる死の意味をもう一度読み解き、『ゲイ・コミュニティは社会の危機としてのエイズ対策を大義名分として「戦闘」していきます』と書く。そしてラリー・クレイマーの戯曲から、エイズの蔓延を止めるために「ゲイ男性にセックスをやめろといってほしい」と頼む医師に対し、エイズにかかった患者が「先生、それってちょっと非現実的じゃないですか」と反論する場面を紹介する。

 戯曲の舞台はエイズの症例が確認されたばかりの1981年の設定です。この段階では、「セーファーセックス」などというメッセージはまだなかっただろうし、どちらの発言が非現実的なのか、おそらく判断は現在とは逆転しているのではないか・・・。

 いや、そう思っていたのは、つい昨日までのことで、現在を狭く規定すれば、医療の専門家が「あれもするな、これもするな」と言い募ることが良識とされる点で、いまの世の中はむしろ先祖がえりを経験しているような奇妙な親和性が「あのころ」との間に生まれているのかもしれません。

 おっと、現状に対する個人的な感想を間に挟むと混乱が生じてきそうなので、話をもとに戻しましょう。北丸さんはこう書いています。

 『セックスを諦めることはできません。かといってエイズの“隠喩”を暴走させておくわけにもいかない。夜戦をしかけてくるHIVに対して、欧米社会は真昼の決闘を挑むことになります。クローゼットから出て、太陽の下に顔を晒す。それはゲイ男性たちに限りませんでした』

 しびれるような序盤の展開です。HIV/エイズを抜きにして性的少数者の権利をめぐる課題を語ることはできない。個人的にもずっと思っていながら、うまく言葉にして示せなかったことを北丸さんは本書で鮮やかに表現しています。まいったね。

 これまでに読んだのは100ページ足らず・・・ということは、これから読む分が、4倍近く残っていることになります。どう展開していくのか。

 本書のプロローグには次のような辛口の指摘もあります。

『仕事柄、日本のさまざまな分野で功成り名遂げた人々にもあってきました。そういう実に知的で理想的な人たちであっても、こと同性愛者やトランスジェンダーの人々のことに関してはとんでもなくひどいことを言う場面に遭遇してきました』

 まずいなあ。私は功成らず、名も遂げなかった人々の一人ではありますが、北丸さんの前でとんでもなくひどいことを言う場面は数多く提供してきました。残念ながらこのことは否定できないと思う。したがって、本書の展開に対しては、期待が膨らむとともに、読むのがつらいという気持ちも実はあります。

 でも、ちゃんと最後まで読もう。硬軟自在の北丸節の魅力にも抗しがたく、やっぱり読みたいという気持ちの方が圧倒的に強いかなあ。時間はかかるかもしれませんが、読み終わったらまた、どこかで報告します。