『HIV検査相談マップ』リニューアル TOP-HAT News 第153号(2021年5月) エイズと社会ウェブ版571

 あまり目立ちませんが6月の最初の1週間はHIV検査普及週間であり、6月1日から30日までは、東京都のHIV検査・相談月間です。 

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 コロナが流行っているから、HIVは感染するのを遠慮しておこうという考えは、おそらくウイルスの側にはないでしょうから、コロナの流行は、他の感染症に対する関心の低下を招くという意味でHIVのひそかな感染拡大要因になり得ます。

 一方で、コロナ対策に伴う行動変容が、HIV感染の機会を減らす結果になれば、流行の抑止効果も期待できないわけではありません。ただし、短期的にはともかく、長期的な視点に立てば、抑止効果はあまり期待しない方がいいのではないかと思います。

 普及週間や検査・相談月間とは時期的に少し先行するかたちになりましたが、今年は厚労省の研究班(「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」)が運営するウェブサイト『HIV検査相談マップ』もリニューアルされました。 

www.hivkensa.com

 TOP-HAT News第153号(2021年5月)は、巻頭でそのリニューアルについて紹介しています。梅毒など他の性感染症の情報提供も充実しているようなので、まずは上記サイトをご覧ください。

 HIV検査と梅毒の検査の相乗効果という点では、東京都南新宿検査・相談室が3月6日に移転し、名称も新宿東口検査・相談室に改められたこともここで再度、お知らせしておく必要がありそうですね。 

www.tmsks.jp

 東京都HIV検査・相談月間中(6月1~30日)に新宿東口検査・相談室でHIV検査を受ける人は、希望があれば梅毒だけでなく、性器クラミジア・淋菌検査も無料で受けられるということです。

 若い人たちに必要な情報を伝えるにはどうしたらいいのか。これはいま、コロナ対策でも大きな課題となっています。

 この点は、支援を必要とする人たちに最も近い場所で地道な努力を積み重ねてきたHIV対策のノウハウとインフラから(あるいはうまくいかなかった経験からも)、その大きなヒントを得ることができそうです。なにしろ40年にわたるパンデミック対策の経験が蓄積されています。感染経路や症状の違いにより、同列には論じられないことももちろんありますが、社会的な対応に関しては驚くほど共通する部分もあります。

 そうした仕分けには、専門家の知見と政治の関与が大きな力になることもHIV/エイズ対策の中でしばしば指摘されてきました。

 ただし、コロナ対策の現状は、政治の関与に専門家があおられ、政治はその意見をつまみ食いしているような傾向もまた、無きにしもあらず、なのではないか。外野席から見ていると、そんな印象も受けます。

 もちろん、外野席(あるいは大スタジアムの客席の隅っこ)に座っているだけでも、周囲の環境によって、コロナウイルスの感染リスクが高まることはありそうなので、早くワクチンを打ちたいのだけど・・・ということで、最後はついつい高齢者の発想に戻って、焦り始める。

 もうちょっと落ち着けないものか・・・自らを省みて、この点がやや残念ではあります。

 

 

 

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        第153号(2021年5月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆ 

1 はじめに 『HIV検査相談マップ』がリニューアル 

2 『梅毒にご用心2021 』 

3 第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集 

4 国連ハイレベル会合の解説ブローシュア日本語仮訳版 

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1 はじめに 『HIV検査相談マップ』がリニューアル

 HIV検査の普及をはかるため厚生労働省の研究班(「HIV検査体制の改善と効果的な受検勧奨のための研究」)が運営しているウェブサイト『HIV検査相談マップ』がリニューアルされました。

 https://www.hivkensa.com/

  全国のHIV検査・相談のための施設や検査イベントの紹介、HIVの基礎知識などの情報に加え、梅毒などHIV感染症以外の性感染症情報も大幅に追加されているのがリニューアルサイトの特徴です。

 『これって性感染症?』『梅毒って、なに?』の2つのバナーを設け、専門医が分かりやすく解説するYou Tubeの動画も掲載されています。

 HIV対策の観点からいえば、検査の普及はHIVに感染している人が自らの感染を知るという意味で、治療の出発点になり、HIV陽性者が健康と社会生活を長く保つためにも不可欠です。また、体内のウイルス量を低く抑えることで、他の人への性感染のリスクもなくなります。治療の進歩が可能にしたこうした成果を強調し、HIV陽性者やHIV感染の高いリスクに曝されている人たちへの差別や偏見をなくすために、最近はU=U(Undetectable = Untransmittable、検出限界値未満なら感染はしない)というキャンペーンが、国内でも国際的にも展開されています。

 まず検査。治療も予防も、話はそこから広がっていくというわけですね。

 ただし、HIV検査を受けましょうということだけを強調しても、なかなか普及は進まないという少々、悩ましい事情もあります。「あの手、この手」という言い方は誤解を招きやすいので控えるとしても、検査を必要とする人たちが、「やっぱり受けてみようかな」と自らその必要性を認識し、安心して検査を受けられるようにする。そうした条件を整える工夫は大切です。

 また、最近は代表的な性感染症の一つである梅毒が国内で急速に広がっていることもしばしば指摘されています。『HIV検査相談マップ』の『梅毒ってなに?』のページにも「梅毒報告の年次推移(2014→2019)」「2019年梅毒 性別・年齢階層別報告数」の2つのグラフが紹介されているので、ご覧ください。

 https://www.hivkensa.com/syphilis/

  若い人たちに情報を伝えるにはどうしたらいいのか。HIV感染症対策として蓄積されてきた検査普及のノウハウとインフラの活用はその有力な選択肢の一つです。梅毒に限らず、他の性感染症の検査や治療、そしてその検査や治療を受ける人たちへの支援の体制を構築するには、支援を必要とする人たちに最も近い場所で地道な努力を積み重ねてきたHIV対策の蓄積が活用できます。

 一方で、梅毒など他の性感染症に関心を持ってもらえば、その検査や治療がきっかけになってHIV検査の機会も広がるかもしれません。

 これはおそらく、国連合同エイズ計画(UNAIDS)などが世界規模の重要性を指摘している他の疾病対策や社会課題とのインテグレーション(統合)政策の見本の一つでしょう。HIV/エイズ対策の成果を他分野で生かし、同時にそのフィードバック効果をHIV対策にも活用できるようにしていく。途上国の結核HIV、さらに広げれば貧困とHIV、教育とHIVジェンダーの不平等とHIVなど様々な課題解決にインテグレーション政策の成果が期待されています。

 より差し迫った対応としては、新型コロナウイルス感染症COVID-19とHIV感染症の2つのパンデミックに対応するための相乗効果をどのように生み出していくのか。これは世界が直面する課題であると同時に、国内のHIV/エイズ対策の重要課題でもあります。

 

 

2 『梅毒にご用心2021』

 東京・新宿2丁目のコミュニティセンターaktaが、梅毒に関する基本情報を分かりやすく伝えるウェッブサイトを公開しました。

 『近年、梅毒の感染報告が増加しています。2019年の累積届出数は6639件。5年前(2014年)の報告数の約4倍。男性とセックスをする男性(MSM)の報告も増えています』

 詳しくはこちらで。

    梅毒にご用心2021

『免疫はできず何度でも感染する。また感染力が強く、他の性感染症HIVに重複感染する可能性を上昇させる。時に無症状になりながら進行するため、治ったと思いうっかり感染させやすい』(梅毒とは? から)

 

 3 第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集

 『SCB to the future -未来統合型社会・臨床・基礎連携-』をテーマにした第35回日本エイズ学会学術集会・総会が演題を募集しています。募集期間は6月30日(水)正午までです。詳細は公式サイトでご覧ください。 

www.c-linkage.co.jp

 なお、第35回学術集会・総会は今年11月21日(日)~ 23日(火・祝)、会場はグランドプリンスホテル高輪(東京都港区高輪3-13-1)の予定です。

 

 

4 ハイレベル会合の解説ブローシュア日本語仮訳版

 エイズに関する国連総会ハイレベル会合が6月8日から10日まで、ニューヨークで開かれます。5年おきに国連加盟国や関係機関、市民社会組織などの代表が国連本部に集まり、開かれている会合なのですが、今回はCOVID-19の影響を考慮して、かなりの部分がバーチャルとの併用開催になりそうです。

このため、多様な関係者の間で事前情報の共有をはかることができるよう国連合同エイズ計画(UNAIDS)が解説ブローシュアを作成しました。

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 アントニオ・グテーレス国連事務総長が今年3月末付で、総会に提出した報告書をベースにして、HIV/エイズ対策の現状と課題、会合の焦点などが分かりやすくまとめられた冊子で、公益財団法人エイズ予防財団による日本語PDF版がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)でダウンロードできます。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet048.html