厚生労働省のエイズ動向委員会はかつて、毎月開催でしたが、それが隔月開催、四半期開催(3カ月に1回)と頻度が下がっていき、いまは年2回開催になっています。あまり目先の数字に一喜一憂してもしょうがないので、個人的には四半期開催程度がいいのではないかと思いますが、この一年ほどはコロナの影響で、年2回の開催でも、厚労省の事務局担当部局は対応にいっぱい、いっぱいの状態なのでしょうね。
ま、それは致し方ないとしても、2021年の第1回動向委員会は3月16日に開催されました。うかつにも私は開催後に気が付いたので、記録でフォローするしかないのですが、オンライン開催だったようです。時節柄、それも致し方ないのでしょうね。年2回開催だと、四半期ごとの報告集計2期分と合わせて、1回目の開催時には前年の報告の速報値、2回目(たぶん8月末か9月上旬)には確定値がそれぞれ公表されます。
今回は2020年の年間速報値が報告されています。
TOP-HAT News第152号(2021年4月)ではその速報値について少し解説的な内容も含め、巻頭の『はじめに HIV感染報告減少の意味(エイズ動向委員会2020年速報値)』で取り上げています。
その中でも紹介されていますが、速報値の概要はAPI-Net(エイズ予防情報ネット)の『四半期報告2021年』でご覧ください(2020年第3、第4四半期の委員長コメントの後半部に載っています)。
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html
新規HIV感染者報告数 740件(過去20年で17番目)
新規エイズ患者報告数 336件(過去20年で16番目)
合計 1076件(過去20年で17番目)
『多い年には年間1500件を超えていた報告の合計数は1000件台にまで減少しています』ということで、この数年ではっきりしてきた報告数の減少傾向は2020年も続いています。ただし、昨年はコロナ流行の影響でHIVの検査や相談体制を取り巻く環境も激変しているので、この傾向をもって、新規HIV感染も『引き続き・・・』とは言いにくくなっています。
ただし、報告数の減少の要因についてはまだ、はっきりしたことは分からず、当面は、ああでもない、こうでもないという話になってしまうことは認めざるを得ません。専門家による今後の情報および分析を待つ必要があります。そのあたりを割り引いたうえで、とりあえず露払いとして『はじめに・・・』の文章を参考にしていただけるようでしたら幸いです。
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第152号(2021年4月)
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◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆
1 はじめに HIV感染報告減少の意味(エイズ動向委員会2020年速報値)
2 予防啓発普及事業の6団体に決定 2021年度エイズ予防財団助成対象事業
3 『End inequality(不平等に終止符を)』
4 アニメーションビデオ『世界三大感染症?』
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1 はじめに HIV感染報告減少の意味(エイズ動向委員会2020年速報値)
昨年1年間の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の速報値が3月16日(火)、厚生労働省のエイズ動向委員会から発表されました。概要はAPI-Net(エイズ予防情報ネット)の『四半期報告2021年』でご覧ください(2020年第3、第4四半期の委員長コメントの後半部に載っています)。
https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html
新規HIV感染者報告数 740件(過去20年で17番目)
新規エイズ患者報告数 336件(過去20年で16番目)
合計 1076件(過去20年で17番目)
多い年には年間1500件を超えていた報告の合計数は1000件台にまで減少しています。毎年夏の終わりに発表される確定値は、速報値より少し増えるのが通例ですが、それでも昨年の合計数は1100件を下回りそうです。
発表の数字をみると、報告数は新規HIV感染者報告と新規エイズ患者報告に別れています。このうちエイズ患者報告数というのは、エイズを発症することで初めてHIVに感染したことが分かった人の数です。
減少の傾向が顕著なのは感染者報告数の方で、新規エイズ患者報告数は前年と比べてもほぼ横ばいの状態です。
年間の報告数全体に占めるエイズ患者報告の割合は、早期の検査と治療の普及がどこまで進んでいるかを把握する目安と考えられています。感染動向を推定するうえで重要な指標の一つです。エイズ患者報告の割合が小さくなれば、それは逆に、HIVに感染した人が早期に自らの感染を把握し、治療につながる機会が増えると考えられるからです。
治療を継続することで、感染した人の体内のHIV量が極めて低い状態に維持されれば、性感染を含め日常の生活でHIV陽性者から他の人にHIVが感染することはなくなります。つまり、エイズ患者報告の割合が下がれば、その分、感染の機会が減っていくと考えられるので、予防対策上も重要な指標です。
これまでの動向委員会報告をみると、その割合は2016年に30.2%だったのが、その後は29.7%→28.6%→26.9%と減少していきました。ところが、2020年は31.2%と大幅にリバウンドしています。
また、2020年は、保健所などでのHIV検査の件数も相談件数も大幅に減少しました。コロナウイルス感染症COVID-19対策に追われ、HIVの検査や相談には対応できないという時期もあったことを考えると、コロナの流行の影響は小さくありません。
報告数は数字だけ見ると、1500件時代から1000件時代へと移行している印象も受けます。HIV検査と治療の普及で実際の新規HIV感染が減っているのではないか。ここ数年はそうした期待もありました。ただし、昨年はかなり微妙です。
コロナの影響によりHIV検査の提供体制が大きく制限されたのと同時に、検査を受ける側も、コロナに対する不安からHIVの検査にまでは関心が向かなくなり、それが検査や相談件数の減少につながった可能性があります。
変な言い方で恐縮ですが、それでも新規HIV感染件数の減少がこの程度で抑えられた。2020年に限って言えば、これはコロナ流行という逆境の中で、HIV検査やHIV予防の啓発活動を担う現場の努力が何とか持ちこたえてきたことの現れでもあります。
例えば、東京都の場合、保健所の多くがHIV検査に対応できない時期にも、東京都南新宿検査・相談室(3月6日からは移転して東京都新宿東口検査・相談室に)や東京都多摩地域検査・相談室では、継続してHIVと梅毒の検査を受けられるようになっていました。検査が必要な人への扉は開いていたのです。全国のコミュニティセンターなどのNPOやNGOによる啓発や検査の普及を目指す活動も地道に続けられてきました。
まだ、感染を知らないでいる人だけでなく、感染が判明して治療につながっている人たちへの支援も大切です。体内のHIV量を低く抑えた状態を維持するには治療を続けていく必要があるからです。
コロナの流行で治療が中断してしまうことがないよう、感染が判明したHIV陽性者への支援を続けていくことは、予防対策上も重要な意味を持っています。
ただし、コロナの流行が今後も収まらなければ、検査や治療、支援の継続に向けたそうした努力も支えきれなくなってしまうかもしれません。そうならないように、COVID-19もHIVもともに拡大を抑えていくこと、つまり2つのパンデミックの両方に対応できるよう対策の相乗効果を高める工夫が、今年は昨年以上に求められています。
2 予防啓発普及事業の6団体に決定 2021年度エイズ予防財団助成対象事業
公益財団法人エイズ予防財団は毎年、以下の2カテゴリーで、エイズに関するボランティア団体やNGOへの助成事業を実施しています。
(2)エイズ予防に関する啓発普及事業
1月からの公募を経て、3月5日に開かれた助成事業選考委員会で2021年度の助成対象が決定しました。(1)については申請団体なし。(2)は6団体です。
詳細は公益財団法人エイズ予防財団の公式サイトでご覧ください。
https://www.jfap.or.jp/business/02_josei.html
3 『End inequality(不平等に終止符を)』
国連合同エイズ計画(UNAIDS)が提唱する2021年「差別ゼロデー」(3月1日)のテーマは『End inequality(不平等に終止符を)』です。キャンペーン素材などはすべて直前に発表されました。つまり、3月1日はキャンペーンのゴールではなく、出発点という位置づけです。
新型コロナウイルス感染症のワクチン対策により、国際的な課題として不平等と格差の存在が改めて浮上しています。アントニオ・グテーレス国連事務総長は今年1月28日、国連総会で行った演説で10項目の優先課題を示し、その4番目に『貧困と不平等のパンデミック』をあげました。
https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/41189/
UNAIDSのキャンペーンもそうした文脈を踏まえて受け止める必要がありそうです。キャンペーン冊子『不平等に終止符を』の日本語仮訳がAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に掲載されているので紹介しておきましょう。こちらでご覧ください。
https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet046.html
『エイズ終結には、 不平等に立ち向かい、 差別を解消することが重要になります。世界が2030年のエイズ終結という約束に向けた軌道から大きく外れているのは、必要な知識や能力や手段がないからではなく、HIVの予防と治療に効果が実証されている解決策の実施が構造的な不平等のために妨げられているからなのです』
4 アニメーションビデオ『世界三大感染症?』
世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の活動や成果について分かりやすく説明したアニメーションビデオ『世界三大感染症?』が公開されています。
http://fgfj.jcie.or.jp/topics/2021-04-07_gf101video
基金の国内応援団であるグローバルファンド日本委員会(FGFJ)がグローバルファンドと共同制作したアニメで、3分25秒のフルカット版と30秒版があります。いずれもYouTubeでみることができ、拡散歓迎ということです。