国連合同エイズ計画(UNAIDS)が米国に世界のCOVID-19対策への指導力を発揮するよう求めるプレス声明を発表しました。パンデミックはCOVID-19だけでなく、HIVや結核、マラリアにも目配りしつつ対策を進めていく必要があるということで、現状を『パンデミックが衝突する時代』ととらえ、それを乗り越えるために超党派での対応を米国に求めています。
COVID-19対策をめぐる世界保健機関(WHO)からの脱退問題でも分かるように米国のトランプ現政権と国連機関との相性はあまりよくありません。この時期にUNAIDSがどうして? という疑問は当然あるのですが、米国の力は無視できないということでしょう。よく見ると、声明のサブタイトルには『超党派で大胆な指導力を発揮してほしい』と書いてあります。そうか狙いはトランプさんでなく、米議会なのかということが推察できます。
さらに本文を読むと『米国グローバル・リーダーシップ連合(USGLC)は議会に対し、COVID-19緊急対策追加資金調達法案に200億米ドルを当てるよう求めています』という一節もあります。例によって私はよく知らないのですが、USLCはビジネスや外交、安全保障分野の人たちによる米国の非営利組織で、発言力はかなりありそうです。公式サイトをみると顧問にはかなり著名な方々の名前が並んでいます(こういう名前で圧倒するタイプの組織は、ちょっと苦手かなあ)。
ま、個人的な印象はともかく、そうした動きに呼応し『グローバルヘルスのコミュニティもこの要求を支持し、PEPFARに基づく二国間のHIVおよび結核プログラムに1年間で7億米ドル、または2年間で14億米ドル、グローバルファンドのCOVID-19対応メカニズムには2年間で40億米ドルを割り当てることを明示するよう求めます』と釘を刺しています。このあたりが声明を出した目的なのではないでしょうか。あくまで想像です。
それにしても、けっこう長い声明だね。
『世界がいま直面しているのは、複数のパンデミックが衝突する事態です。新たな感染の拡大と死者の増加を招くリスクを顧みず、ひとつのパンデミック対策のみに集中することはできません。同時多発のパンデミックによる指数関数的な被害の拡大は、前例のない苦しみと経済的打撃をもたらすことになります』
それはその通りだと思うので一応、全部訳してみました。以下、日本語仮訳です。
COVID-19対策へのリーダーシップを米国に要請 UNAIDSプレス声明
COVID-19とHIV、結核、マラリアというパンデミックが衝突するかのような世界の現状を直視し、現在の同時多発的健康課題に世界が協調して取り組めるよう、米国が超党派で大胆な指導力を発揮してほしい。その要請をUNAIDSは支持します。
ジュネーブ、2020年7月31日 感染症のパンデミックに対し、米国は長い間、世界的な指導力を発揮してきました。HIV対策では二国間援助の最大の拠出国として、2003年以降、米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)で850億米ドルを超える投資を行っています。米国は多国間機関や国連、市民社会、影響を受けている国々と協力し、新規HIV感染とエイズ関連の死亡を減らすための重要な役割を果たしてきました。世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)にも2002年の創設以来、550億米ドルを拠出しています。
その投資が数百万という人の命、とりわけアフリカの人たちの命を救ってきたのです。ただし、UNAIDSの最新世界報告によれば、それでもなお、なすべき仕事は数多く残されています。世界で3800万人のHIV陽性者のうち1260万人は、命を救える抗レトロウイルス治療を受けられずにいます。COVID-19が広がる前からすでに、私たちは2020年までに年間の新規HIV感染者を50万人以下に減らすという目標の軌道からは大きく外れていました;2019年の年間新規HIV感染者数は170万人でした。アフリカ大陸におけるCOVID-19の初期の影響は、いま影響緩和策を取らなければ、直接的にも長期的にも甚大な健康災害となる前兆です。
COVID-19の被害を受け、健康と社会サービスの維持に苦労する多くの政府や経済にとって、とりわけアフリカの国々や経済にとって、現状は保健課題が大災害に転じてしまうかどうかの瀬戸際であり、グローバルヘルス分野における米国の指導力の維持が不可欠になっています。
世界がいま直面しているのは、複数のパンデミックが衝突する事態です。新たな感染の拡大と死者の増加を招くリスクを顧みず、ひとつのパンデミック対策のみに集中することはできません。同時多発のパンデミックによる指数関数的な被害の拡大は、前例のない苦しみと経済的打撃をもたらすことになります。エイズ・結核・マラリアのプログラムに対するコロナウイルスの影響は、いま緩和策をとらなければ壊滅的なものになるでしょう。グローバルファンドは今年6月、支援の対象となる106カ国のプログラムの85%でサービス提供に混乱が生じ、そのうち18%は深刻または極めて深刻な影響を受けているとの調査結果を報告しました。UNAIDSの推定では、6カ月にわたってHIV治療が完全に中断すれば、サハラ以南のアフリカだけで、今後1年間に亡くなる人が50万人以上増え、この地域のエイズ関連の死亡率は2008年当時の状態に戻ってしまいます。20%の中断でも、亡くなる人は11万人も増えます。受け入れがたく、予防可能でもあるCOVID-19パンデミックのこうした付随的な被害により、20年近くにわたって積み上げてきた成果が一掃されてしまうのです。
米国グローバル・リーダーシップ連合は議会に対し、COVID-19緊急対策追加資金調達法案に200億米ドルを当てるよう求めています。グローバルヘルスのコミュニティもこの要求を支持し、PEPFARに基づく二国間のHIVおよび結核プログラムに1年間で7億米ドル、または2年間で14億米ドル、グローバルファンドのCOVID-19対応メカニズムには2年間で40億米ドルを割り当てることを明示するよう求めます。こうした資金があれば、PEPFARとグローバルファンドのプログラムに対するCOVID-19の影響を相殺するとともに、検査やケアの強化を通じ、PEPFARとグローバルファンドがCOVID-19と闘うことも支援できるようになるからです。いまCOVID-19対策に利用できるグローバルファンドの資金は数週間で完全に使い果たされてしまいます。資金は緊急に必要です。
COVID-19はアフリカで拡大を続けています;その影響は深刻の度を増しています。患者の急増が医療提供者や病院の受け入れ能力を超えつつあります。最新の報告では、保健医療従事者の感染は10万人を超えています。検査数が限られているのでCOVID-19症例数の正確な報告は困難ですが、南アフリカでは45万2000件を超えています。世界で5番目に多い報告数です。HIVや結核、非感染症、母子保健、トラウマなどですでに限界に達している入院および外来患者の受け入れ能力に、さらに大きな負担をかかっているのです。医療システムも病院も医療従事者も対応に追われ続けています。2020年5月6日から7月14日までの超過死亡数は推定1万7000件に達しており、複合的な影響が大きいことを示しています。保健システムに以前から課題を抱えていた州や地区が最も大きな打撃を受けています;機能の高いベッドの数も、酸素吸入の設備も不足しているのです。
南アフリカだけではありません。2020年7月20日までの1週間ではCOVID-19の新規症例はケニア31%増、マダガスカル50%増、ザンビア57%増、ナミビア69%増と拡大しています。HIVの負担が大きい低所得国の多くがCOVID-19との闘いに大きな犠牲を払い、そして負け続けているのです。COVID-19によって経済が損なわれています。政府の支払い能力は縮小し、大きな債務負担にも直面しています。最もHIV陽性率が高い5カ国中4カ国(エスワティニ、レソト、ナミビア、南アフリカ)で国内総生産に対する債務の比率が40%を超えています。南アフリカはCOVID-19危機に伴う消費と投資の低下により、2020年には80%という記録的な高さになることが予想されています。
グローバルヘルスのコミュニティは、3つの分野のニーズを反映して、追加資金を求めています。
- COVID-19によって生じる仕事のかけもちや異動を解消するために医療従事者を増やす。
- 保健医療従事者の安全を確保するための防護具を供給して、安全に使用し、適切に廃棄するためのトレーニングを行う。
- HIV・結核・マラリア、その他の必要なサービス(検査、診断を含む)の持続性を確保する。COVID-19による価格上昇に対応する。
COVID-19は試練だけでなく、世界で最も多くの命を奪ってきたHIV、結核、マラリアの3つの感染症の対策をさらに前進させる機会をもたらしてもいます。たとえば、COVID-19のためにHIV陽性者は安全を考えクリニックに通いにくくなっていましたが、UNAIDSの事務所がある87カ国からの報告によると、このうち44カ国では抗レトロウイルス薬の複数月調剤を認める政策がとられています。ケアの継続を確保するために必要な工夫であり、体内のウイルス量抑制とコストの削減にも不可欠です。同様に、薬物使用者に対するクリニックを拠点にしたサービス提供もCOVID-19によって妨げられていますが、それに代わってオピオイド補充療法の「持ち帰り」アプローチなど革新的で効果の高いモデルの普及が進み、それがニューノーマルになりつつあります。
PEPFARとグローバルファンド、UNAIDSは、HIV対策を通じて整えたインフラストラクチャを活用することで効果的なCOVID-19対策の実施にも貢献しています。たとえばPEPFARで研修を受けた28万人以上の医療従事者を含め、新たに資格を得た職員が現在はCOVID-19に第一線で対応しています。インド、セネガル、ウガンダなど様々な国からの報告によると、ロックダウンの間もHIVコミュニティワーカーが戸別訪問を行い、HIV感染予防のための資料や治療とともに、COVID-19の予防や検査に関する情報も配布する支援を行っています。HIV投資の結果として各国の検査システムが大幅に改善、拡充されたことから、COVID-19対策でもその恩恵を受けている国が多数あります。
PEPFARとグローバルファンド、UNAIDSの活動は相互に補完し、緊密に連携を取りながら進められています;互いの成功を後押しし、事業を展開するすべての国に広げているのです。協力して取り組むことで、最短の時間で最も多くの命を救うという米国政府の目標の達成を効果的に助けてきました。いまこそ、COVID-19との闘いで世界的なリーダーシップを発揮し、過去の投資を守り、生かす時です。それが国内でアメリカの人たちを守ることにもなります。
「COVID-19がアメリカの人たちに極めて大きな影響を与えていることをUNAIDSは認めています。ただし、HIVから学んだように、すべての人の安全が確保できなければ、国境にも政治的分裂にも関わりなく広がるウイルスからは誰一人、安全でいることはできません。世界が連帯しなければ、パンデミックを止めることはできないのです。協力することで世界の安全は加速します。HIV、結核、マラリア対策の効果を最大限に生かしてきた米国が、世界のCOVID-19対策を強力にサポートし、グローバルヘルス分野においてさらに数十年にわたる指導力を発揮していくことを私たちは期待しています」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。
PRESS STATEMENT
UNAIDS calls for global United States leadership on COVID-19
As the world faces the colliding pandemics of COVID-19, HIV, tuberculosis and malaria, UNAIDS supports the call for bold, bipartisan support by the United States of America for global efforts against these concurrent health challenges
GENEVA, 31 July 2020—The United States of America has long led the world in its response to infectious pandemics. As the largest bilateral donor to the global response to HIV, investing more than US$ 85 billion in the United States President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR) since 2003, the United States, working with multilateral organizations, the United Nations, civil society and affected countries, has played a pivotal role in reducing new HIV infections and AIDS-related deaths. The United States has contributed generously to the Global Fund to Fight AIDS, Tuberculosis and Malaria (Global Fund), investing US$ 55 billion since 2002.
Collectively, these investments have saved millions of lives, particularly on the African continent. Yet, as UNAIDS’ latest global report shows, much work remains. Of the 38 million people living with HIV, 12.6 million are not accessing life-saving treatment. Prior to COVID-19, we were off track on our goal of fewer than 500 000 new HIV infections by 2020; in 2019, 1.7 million people became newly infected with HIV. COVID-19’s early impact on the African continent portends a major health disaster that, if unmitigated, will have both direct and long-term residual effects.
At a time when many governments and economies, particularly in Africa, are reeling from COVID-19 and struggling to maintain health and social services, continued leadership by the United States in global health is essential—it could be the difference between a health challenge and a health catastrophe.
With the world now facing colliding pandemics, turning away from any one of them to focus solely on any of the others risks a surge in new infections and deaths. The exponential harm of several concurrent pandemics will bring unprecedented suffering and economic fallout. The coronavirus’ effect on AIDS, tuberculosis and malaria programming will be devastating if not buffered. In June, the Global Fund reported that 85% of the programmes it supports in 106 countries struggled with disruption to service delivery, including 18% with high or very high disruptions. UNAIDS estimates that a six-month complete disruption in treatment could cause more than 500 000 additional deaths in sub-Saharan Africa over the coming year, bringing the region back to 2008 AIDS mortality levels. Even a 20% disruption could cause an additional 110 000 deaths. Such an outcome would represent unacceptable and preventable collateral damage from the COVID-19 pandemic, wiping out nearly two decades of progress.
The United States Global Leadership Coalition is calling on Congress to allocate US$ 20 billion in the next Emergency Supplemental Funding Bill for COVID-19. The global health community supports this request and calls for including an explicit allocation of US$ 700 million for one year, or US$ 1.4 billion over two years, for bilateral global HIV and tuberculosis programmes under PEPFAR and US$ 4 billion over two years for the Global Fund’s COVID-19 Response Mechanism. These funds will offset the impact of COVID-19 on PEPFAR and Global Fund programmes while supporting PEPFAR’s and the Global Fund’s work to combat COVID-19, including through increasing testing and care. The Global Fund’s currently available resources for COVID-19 will be fully depleted in weeks. The need is urgent.
The spread of COVID-19 is accelerating across Africa; its impact is increasingly concerning. The surge in patients is overpowering caregivers and hospitals. Recent reports suggest that more than 10 000 health-care workers have been infected. While accurately reporting cases of COVID-19 is challenging given limited testing, South Africa has more than 452 000 confirmed cases, making it the country with the fifth highest number of cases in the world. This has put enormous additional pressure on inpatient and outpatient capacities already burdened to the breaking point with HIV, tuberculosis, noncommunicable diseases, maternal and child health issues and trauma. The health systems, hospitals and health-care professionals are struggling to cope. The estimated 17 000 excess deaths from natural causes from 6 May to 14 July 2020 indicate the impact of the compounded burden. Provinces and districts previously facing pre-existing health system issues are the hardest hit; they lack functional bed capacity and adequate oxygen supply.
South Africa is not alone. In the week leading to 20 July 2020, new COVID-19 cases in Kenya increased by 31%, and by 50%, 57% and 69%, respectively, in Madagascar, Zambia and Namibia. Many low-income countries with a high HIV burden are making sacrifices in the fight against COVID-19, but they are losing the battle. Many of their economies are undermined by COVID-19. Government receipts have shrunk and many of them also face considerable debt service burdens. In four out of five of the countries with the highest HIV prevalence (Eswatini, Lesotho, Namibia and South Africa), the ratio of debt to gross domestic product is greater than 40%, with South Africa predicted to reach a record high of 80% in 2020 due to declining consumption and investments during the COVID-19 crisis.
The global health community’s requests for additional funding reflect needs in three areas:
・Scaling up health-care workforces to offset task-sharing/task-shifting due to COVID-19.
・Ensuring a supply of personal protective equipment and training on the safe use of, and proper disposal of, personal protective equipment for health-care workers.
・Protecting continuity of HIV, tuberculosis, malaria and other priority services (including laboratories and diagnostic efforts) and responding to cost escalations due to COVID-19.
COVID-19 presents not only challenges but also opportunities for even greater progress against HIV, tuberculosis and malaria, three of the world’s most pernicious killers. For example, as COVID-19 keeps people living with HIV from safely accessing HIV clinics, reports from 87 countries in which UNAIDS operates indicate that 44 of them have implemented policies to enable multimonth dispensing of antiretroviral medicines, a necessary innovation that ensures continuity of care, essential for viral load suppression, and cost savings, for HIV. Similarly, COVID-19 has disrupted clinic-based services for people who use drugs while catalysing innovative and effective service delivery models, such as “take home” approaches to opioid substitution therapy, approaches that should become the new normal.
PEPFAR, the Global Fund and UNAIDS are helping to utilize the infrastructure developed through the HIV response to contribute to effective COVID-19 efforts. For example, newly credentialed personnel—including more than 280 000 new health-care workers trained by PEPFAR—are now first responders to COVID-19. Reports from countries as diverse as India, Senegal and Uganda illustrate the essential support delivered by HIV community workers, who go door-to-door in lockdowns, distributing HIV prevention materials, treatment and information on how people can protect themselves from COVID-19 and access testing. COVID-19 responses in many countries are also benefiting from laboratory systems that have been vastly improved and expanded as a result of HIV investments.
The work of PEPFAR, the Global Fund and UNAIDS is interdependent and tightly coordinated; the three entities bolster the others’ success in all countries in which we operate. Working in concert, we have been highly effective in helping the United States Government achieve its goal of saving the most lives in the shortest window of time. Now is the time to protect past investments by exercising global leadership in the fight against COVID-19. Doing so will have the added benefits of protecting Americans at home.
“UNAIDS appreciates that COVID-19 is having a disproportionate impact on the American people. However, as we have learned from HIV, no one is safe from a virus, which knows no borders, or political divides, until all are safe. No pandemic can be stopped without global solidarity. Working together will help to accelerate the safety of the whole world. We count on the United States to build on decades of leadership in global health, maximizing and protecting impacts made to date on HIV, tuberculosis and malaria, by strongly supporting efforts against COVID-19,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS.