20代、30代の感染報告を人口比でみると TOP-HAT News 第134号(2019年10月)

 厚労省エイズ動向委員会がまとめた2018年エイズ動向年報には、昨年1年間の新規HIV感染者・エイズ患者報告のデータが様々な角度から分析されています。あくまでも報告ベースの数字なので、HIV感染の最新動向をそのまま反映しているものではありませんが、毎年の分析を積み重ねることで、精度の高い推計のベースとして活用できそうですね。

 TOP-HAT News 第134号(2019年10月)では、そのあたりの事情が『当たらずといえども、遠からず』という見出しで紹介されています。根気のいる地味な作業です。

 『全国の自治体からの報告も含め、こうした基礎データの収集分析体制の充実と継続が息切れしてしまうことのないよう社会的にも改めて評価する必要があります』

 ここ何年かの報告をみると、横ばいから減少傾向に移行してきた印象ですが、分析には気になる指摘もありました。

 『年齢階級別にみると、HIV 感染者新規報告数が最も多い 20-39 歳の年齢層における HIV 感染者新規報告数の推移は人口比でみると近年ほぼ横ばいであり、必ずしも減少傾向とはなっていない』

 確かに報告数は減っているのですが、20-39 歳のデータをみると、その年齢層の人口全体が減少しているので、人口比で見直せば減少傾向にあるとはいえないようですね。報告の推移は引き続き、注意深く見ていく必要があります。

 

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        第134号(2019年10月)

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   ◆◇◆ 目次 ◇◆◇ 

1  はじめに「当たらずといえども、遠からず」 

2  20代、30代の感染報告を人口比でみると 

3 ラグビー選手会東京マラソン財団がプライドハウス東京と協力協定 

4  今年は熊本で 日本エイズ学会学術集会・総会 

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1 はじめに「当たらずといえども、遠からず」

厚労省エイズ動向委員会による2018年エイズ動向年報の分析結果がまとまり、API-Net(エイズ情報ネット)に掲載されました。《平成30(2018)年エイズ発生動向年報(1月1日~12月31日)》というページをご覧ください。

https://api-net.jfap.or.jp/status/2018/18nenpo/18nenpo_menu.html

『平成30年エイズ発生動向 -分析結果-』というところをクリックすると、A4用紙13ページにわたり、グラフも豊富に使われている分析結果のPDF版を読むことができます。あくまで報告の数字を基に検討されたものなので、この動向分析がそのまま感染の動向を反映したものとは言えません。ただし、毎年の報告データの蓄積をもとにした分析の積み重ねが背景にあるので、いま感染が増えつつあるのか、減りつつあるのかといったことも、一定程度には推測が可能なのではないかと思います。

平たく言えば「当たらずといえども、遠からず」といったところでしょうか。全国からの報告を集計し、その傾向を分析することは根気のいる地味な作業ですが、その蓄積の成果がHIV/エイズの流行と闘うための基礎になります。感染症対策の基本です。全国の自治体からの報告も含め、こうした基礎データの収集分析体制の充実と継続が息切れしてしまうことのないよう社会的にも改めて評価する必要があります。

2018年の年間新規HIV感染者・エイズ患者の報告数は、厚労省エイズ動向委員会から3月22日に速報値が発表され、8月29日に確定値が発表になっています。そして分析結果の公表は確定値発表から39日後の10月7日でした。

速報値と確定値は次のようになっています。

 

【速報値】(3月22日発表)

新規HIV感染者報告数     921件(過去13位)

新規エイズ患者報告数    367件(過去 14位)

  計           1288件(過去 13位)

 

【確定値】(8月29日発表)

新規HIV感染者報告数     940件(過去13位)

新規エイズ患者報告数        377件(過去14位)

  計              1317件 (過去13位)

 

 医療機関などから追加して報告されるケースもあるのでしょうか。合計数にすると、速報値と確定値の間には、29件の差があります。2%程度の差ですが、並べてみると速報値は1200件台、確定値は1300件台なので、印象はかなり異なります。

分析にはある程度の時間がかかる。これは分かります。ただし、確定値の発表はあまりにも遅い。そんな印象も受けます。報道や啓発の観点からすると、2つの発表値の存在は混乱を招くもとにもなります。

エイズ動向委員会は2017年まで年4回だったのが、2018年から年2回に変わっています。その影響もあるのかもしれませんが、動向の把握という観点からすると、3月末の速報値発表をやめ、5月ごろまでに確定値を出すような方策を工夫していただく必要があるのかもしれません。

 

 

2 20代、30代の感染報告を人口比でみると

 2018年エイズ発生動向年報の分析報告には、後半部分に8項目の「まとめ」が掲載されています。(1)は全体の数字の紹介で『HIV 感染者と AIDS 患者の合計は 2013 年の 1,590 件をピークとし、横ばいからやや減少傾向である』と指摘しています。

あくまでも報告ベースの数値ですが、抗レトロウイルス治療の普及や予防啓発活動の蓄積により、年間の新規感染も全体としては、横ばいから微減の傾向に推移しつつあるのかもしれません。ただし、(5)には気になる指摘もあります。

《(5)年齢階級別にみると、HIV 感染者新規報告数が最も多い 20-39 歳の年齢層における HIV 感染者新規報告数の推移は人口比でみると近年ほぼ横ばいであり、必ずしも減少傾向とはなっていない》

分析報告の【図 14.年齢階級別人口 10 万対年間新規報告数の推移】には、それを示すグラフも掲載されています。若年人口層全体の減少傾向が続く中で、今後の感染動向には「人口10万対」のデータにもっと注目しておく必要がありそうです。

 

  

3 ラグビー選手会東京マラソン財団がプライドハウス東京と協力協定

ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会は、日本代表が世界ランク2位のアイルランド代表に劇的勝利を飾るなど、大いに盛り上がっています。その開幕前日の9月19日には東京・神宮前のコミュニティスペース subaCO(スバコ)でプライドハウス東京2019主催のプレスイベントがあり、プライドハウス東京と一般社団法人日本ラグビーフットボール選手会、および一般財団法人東京マラソン財団の協力協定締結が発表されました。

pridehouse.jp

 協定は、多様なセクシュアリティの選手・指導者・スポーツ大会運営者・関係者・ファンなどの参加者が、性的指向性自認・性表現に関して差別や偏見を受けることなくスポーツを楽しめるようにするための普及啓発活動に協力して取り組むことを約束しています。

 プライドハウス東京2019はラグビーW杯開催時に性的少数者が安心して過ごせる場所、および性的少数者への差別や偏見を解消するための情報発信拠点として、W杯決勝2日後の11月4日まで、subaCO(スバコ)で開設されています。

プライドハウス東京は2020年の東京オリンピックパラリンピック開催時にも同様の施設の開設を準備しているということです。

 

 

4  今年は熊本で 日本エイズ学会学術集会・総会

 第33回日本エイズ学会学術集会・総会(松下修三会長)が11月27日(水)から29日(金)まで、熊本市中央区桜町の熊本城ホールで開催されます。今年のテーマは『HIVサイエンス新時代』です。PrEP(曝露前予防服薬)、U=U(ウイルス量が検出限界未満ならHIVは性感染しない)といった治療の進歩に基づく最新の予防コンセプトや、それでもなお残る社会的課題への対応などが報告、検討される見通しです。詳細は公式ウェブサイトをご覧ください。 

www.c-linkage.co.jp