プライドセンター大阪がオープン エイズと社会ウェブ版608

 ロゴには大阪府の木であるイチョウがデザインされています。メインカラーはオレンジです。公式サイトの『ロゴに込めた思い』には《「LGBTQへの支援を表すレインボーフラッグの色の中で「癒し(ヒーリング)」の意味があります》と説明されています。

 参考までに、レインボーフラッグに使われている6つの色には、それぞれが表す意味があります。

 赤は生命

 橙は癒し

 黄は太陽

 緑は自然

 青は平穏と平和、

 紫は精神

 おっと、出だしから脱線気味、話を戻しましょう。 

 

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 性的マイノリティの人たちが安心して過ごせる居場所であり、情報発信の拠点でもあるプライドセンター大阪が4月1日、オープンしました。場所は商都・大阪の中心部、地下鉄と京阪電車天満橋駅から徒歩5分。住所で言うと大阪市北区天満2丁目、大阪城も望める眺望抜群のビルの7階です。

 東京・新宿には2020年に「プライドハウス東京レガシー」が開設されています。大阪にも、ということで、認定NPO法人虹色ダイバーシティが中心になって準備を進め、開設にこぎつけました。公式サイトはこちらです。 

pridecenter.jp

 《プライドセンター大阪は、大阪の天満橋にある常設LGBTQセンターです。LGBTQだけでなく、その周囲の人、LGBTQに関して学びたい人など、誰でも利用できます。是非気軽に立ち寄ってください》

 オープン前の3月23日(水)夜には、オンラインの内覧会が開かれています。場違いな感想かもしれませんが、大阪の夜景が素晴らしかった。この場所はいいなあ。4月からはプレオープン期間で、6月にグランドオープンが予定されているそうです。プレとはいえ、センターはすでに始動しています。

 ミッションは“Remedy for all”

 《みんなが自分でいられる場所、必要な時に助けを求められる場所をつくり、それをまち全体に広げます》

(Remedy=救済、治療、解決策)

 内覧会で、虹色ダイバーシティの村木真紀理事長は「リアルで場所があると、これだけわくわくするということを伝えたい」と話していました。「誰もが来られる場所」と「自分でいられる場所」をどうやって両立させていくのか。性的マイノリティではない(と思っている)旧世代ジャーナリストとしては、紹介していいものかどうか、土足で踏み込んでしまうことになりはしないか・・・そんな懸念もあったのですが、この点の質問には「知ってもらうことが大事、どんどん報道してください」と逆に励まされてしまいました。どんどんというほどの発信力がないのがむしろ残念。

 東京、大阪と複数のモデルができたことで、その経験を参考にして他の街にも拠点となる場所が生まれてくるかもしれません。

 

 

メッセージを届けたい TOP-HAT News 第163号(2022年3月) エイズと社会ウェブ版607

 いまとなっては、いささか旧聞の感もありますが、TOP-HAT News 第163号(2022年3月)の巻頭は、UNAIDSの2月25日付プレス声明を取り上げました。ウクライナに対するロシアの軍事侵攻開始の翌日に発表された声明です。

 『かなり早い。「まさか」と思いつつも最悪の事態を想定し、事前にある程度、準備していたのかもしれません』

 声明は、ウクライナHIV陽性者が受ける影響に強い懸念を表明しています。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログでは日本語仮訳も掲載しました。

おっと、当ブログにも同じ仮訳を紹介してありました。

 https://miyatak.hatenablog.com/entry/2022/02/27/105511

 高齢化に伴う現実といいますか、ちょっと前のことは忘れてしまうので悪しからず。まあ、自分のことはさておいて・・・。

 『声明によると、ウクライナHIV陽性者人口は推定25万人で、このうち抗レトロウイルス治療を受けている人は15万6000人です。陽性者全体のほぼ6割に相当し、90-90-90ターゲットには及ばないものの健闘はしていました』

 国際エイズ学会(IAS)も3月3日付の声明で懸念を表明しています。

 UNAIDSもIASも、声明ではHIV対策への影響に焦点を当てています。それはもちろん、ロシアの軍事侵攻に伴う他の影響を軽視しているわけではありません。この2つの組織にはHIV/エイズ対策に取り組む使命があるからです。専門性を生かし、自らの使命とする分野での影響をより正確に伝えることは、他の課題に対する相互理解を生み出す契機にもなります。

 日本国内ではプライドハウス東京コンソーシアムが2月27日、『ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する非難と、同エリアのLGBTQ+の人たちへの支援と連帯を表明する声明文』を日本語と英語で発表しました。

 繰り返しになりますが、それぞれのイシューに関わる立場から、メッセージを届けることは大切です。「じゃあ、お前は何をしているんだ」というお叱りを受けそうですね。せめて情報提供のお手伝いができればと思いつつ、早春の寒さに震え意気地がありません。

 

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに メッセージを届けたい

 

2 パレードは4月24日(日)に予定 東京レインボープライド2022

 

3 CROI2022から

 

4 『Beyond Boundaries: Drag Queen of Tokyo(境界を越えて:東京のドラァグクイーン)』

 

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1 はじめに メッセージを届けたい

 ウクライナに対しロシアが軍事侵攻を開始したのは2月24日でした。国連合同エイズ計画(UNAIDS)がこの事態を深く憂慮するプレス声明を発表したのは、その翌日の25日です。かなり早い。「まさか」と思いつつも最悪の事態を想定し、事前にある程度、準備していた声明だったのかもしれませんね。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに日本語仮訳が掲載されています。

 https://asajp.at.webry.info/202203/article_2.html

 声明によると、ウクライナHIV陽性者人口は推定25万人で、このうち抗レトロウイルス治療を受けている人は15万6000人です。陽性者全体のほぼ6割に相当し、90-90-90ターゲットには及ばないものの健闘はしていました。

ウクライナ政府はこれまで、市民社会や国際機関と協力して東ヨーロッパ・中央アジア地域で最大かつ最も効果的なHIV対策を実施してきました。いま進行している軍事攻撃によって、その努力と成果が台無しになる深刻なリスクにさらされ、さらに多くの命が危険にさらされることになります』

声明はこう指摘しています。安定した社会基盤を維持し、対策の一層の充実はかることが急務だったのに、その社会基盤も崩壊の危機に追い込まれているのです。

 ウクライナ、ロシアを含む東ヨーロッパ・中央アジア地域は、薬物使用者を中心にしたHIV新規感染の増加が続いていましたが、なんとか横ばいの状態が見えてきたという段階でした。ウクライナエイズの流行はこの地域で2番目に大きく、1番目は言うまでもなくロシアです。

 UNAIDSの声明からはやや遅れましたが、国際エイズ学会(IAS)も3月3日付で『ウクライナに対するロシアの侵略戦争がすべての人びと、より具体的にはウクライナ国内のHIV陽性者、HIVに影響を受けている人たちに与える影響を深く懸念している』とする声明を公式サイトで発表しました。英文で『war of aggression(侵略戦争)』と明記し、ウクライナの国旗と共にトップページからアクセスできるようになっています。

 https://www.iasociety.org/

 IASは声明の中で、2014年のロシアによるクリミア併合にも言及しています。

『ハームリダクション戦略が混乱の中で中断に追い込まれ、HIVの流行に最も大きな影響を受け、最も高いリスクにさらされていた人たちが大きな打撃を受けました』

長い年月にわたって積み上げられてきた公衆衛生上の成果が一気に台無しになってしまうことを強く懸念し、『平和と安定がなければ、意味のある医療サービスの提供、およびエビデンスに基づく人権主導のHIV対策はほぼ不可能になります』とも指摘しています。

UNAIDSもIASも、声明ではHIV対策への影響に焦点を当てています。それはもちろん、この2つの組織がHIV/エイズ対策に取り組むことを使命としているからであり、ロシアの軍事侵攻に伴う他の影響を軽視しているわけではありません。専門性を生かし、自らの使命とする分野での影響をより正確に伝えることは、他の課題に対する相互理解を生み出す契機にもなります。

東京ではプライドハウス東京コンソーシアムが2月27日、『ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する非難と、同エリアのLGBTQ+の人たちへの支援と連帯を表明する声明文』を日本語と英語で発表しています。東京オリンピックパラリンピックの開催に先立って生まれ、『LGBTQ+をはじめとした性的マイノリティに関する理解を進める活動、および、性別・性的指向性自認等を問わずすべての人が安心して過ごせる環境づくりに向けた活動』に取り組むコンソーシアム(連合体)です。

声明文は『ウクライナにおいてもロシアにおいても等しく、LGBTQ+の人たちや子どもたち、社会的障壁によって障害者とされる人たちなど、社会の中で周縁化された人々と連帯し、平和をもたらす活動に対して支援すること』を表明しています。

同じく東京での動きになりますが、都庁第一本庁舎が2月28日から3月6日まで『ウクライナ国旗の色である青と黄色』にライトアップされました。都市による意思表明の視覚的効果も小さくありません。

2014年にソチ冬季五輪が開かれた際にも懸念されたように、ロシア国内でHIV/エイズ対策や性的マイノリティの課題に取り組む人たちもまた、政権による強権的対応に苦しみ、迫害されることがしばしばあり、現在に至っています。様々な各論レベルのメッセージがウクライナだけでなく、それぞれの課題に取り組むロシアの人たちにも届いてほしい。声明にはおそらくそんな期待も込められているはずです。

 

 

2 パレードは4月24日(日)に予定 東京レインボープライド2022

 TRP(東京レインボープライド)2022の公式サイトに開催日程とテーマが発表されています。テーマは『繋がる、見える、変わる』です。

https://tokyorainbowpride.com/

 『新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、TRP2020、TRP2021はオンラインイベントのみの開催といたしましたが、来年(注:2022年)は、3年ぶりに代々木公園にて「プライドパレード&プライドフェスティバル」を開催いたします』

 プライドパレード&プライドフェスティバル(代々木公園開催予定):

 2022年4月22日(金)~2022年4月24日(日)3日間開催

 ※プライドパレードは2022年4月24日(日)を予定しております。

 ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入場制限などを行う場合があります。

 

 また、6月にはプライドマンスイベントも予定されています。

 『引き続き予断を許さない状況ではありますが、感染症対策を徹底し、ご参加いただく皆さまの健康面・安全を第一に考慮した上で運営していく所存です』ということで、場合によっては、直前の変更などもあるかもしれません。詳しくはTRP2022公式サイトで確認してください。

 

 

 

3 CROI2022から

2月12日から16日まで、オンラインで開催されたレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI2022)について、主な発表の概要速報を日本語で読めるサイトがあります。

https://www.hiv-practiceupdates.jp/conference/index.html

公益財団法人エイズ予防財団の公式サイト( https://www.jfap.or.jp/ )から『CROI2022 nam's Conference bulletins』のバナーをクリックしてもアクセスできます。

CROIはHIV/エイズおよびエイズ関連の日和見感染症に関し、米国で毎年、開催されている科学会議で、世界の研究者や臨床医が参加しています。

 

 

4 『Beyond Boundaries: Drag Queen of Tokyo(境界を越えて:東京のドラァグクイーン)』

You tubeの国連チャンネルに、ドラァグクイーンパフォーマーとして知られるマダムボンジュール・ジャンジの活動とインタビューを特集した動画が公開されました。

 動画サイトの解説欄では《「境界を越えきらめく世界」を望むドラッグクイーン/パフォーマー/活動家》として、ジャンジさんを次のように紹介しています。

 《JohnJは、アジア最大のゲイビレッジの1つ、新宿二丁目にあるHIV / AIDS情報センター、イベントスペースであるコミュニティセンターaktaを週のほとんど管理しています。 JohnJはまた、LGBTIQ +コミュニティ向けにさまざまなイベントを開催し、幼児向けの教育体験を提供する「ドラァグクイーンストーリーアワー東京」の積極的なメンバーです》

 動画はこちらで。 https://www.youtube.com/watch?v=7L27Mbd12kE

 解説欄の文章や動画の字幕は英文ですが、ジャンジさんは日本語で語っているので、ちょっと不思議な感じ。

 

 

 

 

報告ベースの減少傾向続く 東京都エイズ通信 

東京都福祉保健局のメルマガ『東京都エイズ通信』の第175号(20212年3月31日)が配信されました。今年に入ってから3月27日までの都内の新規HIV感染者・エイズ患者報告数は以下の通りです。

*************************************

  • 令和4年1月1日から令和4年3月27日までの感染者報告数(東京都)

  ※( )は昨年同時期の報告数

 

HIV感染者       57件    (74件)

AIDS患者        12件    (21件)

合計             69件     (95件)

 

HIV感染者数及びAIDS患者共に令和3年よりも減少している。

*************************************

 

 報告ベースでは、依然として減少傾向が続いています。・・・といいますか、前年同時期と比べたときの減少幅はむしろ広がる傾向にあり、その理由が何なのか、気になるところです。実際に感染が減ってきたことの表れなのか、まん延防止等重点措置に伴って検査を受ける人が減ったことの反映か、HIV感染の予防に関心を持たなくなったのか・・・。分析能力が著しく欠如しているため、いずれでもあり、いずれでもなし、みたいな印象も受けます。

 世の中、悩ましいことが多いので、エイズはもういいだろうみたいな感覚が一段と広がるとすれば、見かけの報告減は感染の拡大要因に直結します。それは避けたい。

 メルマガ東京都エイズ通信の配信登録はこちらから。 

www.mag2.com

 

 

 

2021年の新規HIV感染者・エイズ患者報告数 年間速報値 エイズと社会ウェブ版606

 昨年(2021年)の新規HIV感染者・エイズ患者報告数の年間速報値が3月15日、厚生労働省エイズ動向委員会から報告されました。API-Netのエイズ動向委員会報告のページに掲載されています。PDF版の委員長コメントを見ていただくと、2021年第3・第4四半期報告の後ろに年間速報値が紹介されています。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/japan/index.html

 

 新規HIV感染者報告数 717件(過去20年間で18番目の報告数)

 新規AIDS患者報告数  306件(過去20年間で20番目の報告数)

    合計      1023件(過去20年間で18番目の報告数)

 

 厳密にいうと、2020年12 月28日から2021年12月26日までの四半期ごとの報告の合計なので、8月末か9月初めに報告がある確定値とは若干の誤差が生じますが、大きく異なることにはならないでしょう。参考までに、これまでの報告をもとにした自家製のグラフも付けておきます。 

  f:id:miyatak:20220320145104j:plain

 報告の減少傾向は依然、続いているようですね。2005年前後に大都市圏のゲイコミュニティで感染爆発が懸念されるほど増加傾向が顕著になったことがありますが、数字の上ではその前の状態にまで戻った印象もあります。

 ただし、これまでにも何度か触れてきたように、報告の数字は、現時点における国内のHIV感染の減少を示しているわけではなく、その年に検査を受けて感染していることが確認された人の数です。

 つまり、社会的に検査を受けにくい環境が広がれば、報告数は減ります。実際の感染も同じように減少しているのか、それとも、何かの理由で感染はむしろ増えているかもしれないけれど、報告は減っているということなのか、両方が考えられます。

 2020年のコロナ流行拡大以来、検査をめぐる環境がどう変化したのか。そのあたりも把握する必要があります。かなり大きな影響は受けていると思いますが、行政の保健担当者やHIV/エイズ分野のNPOなどがそうした変化に対応し、本当に検査を必要としている人が受けられるようにする工夫を重ねてもいます。

 予防はもちろん大切です。ただし、検査の普及にはなによりも、HIVに感染した人ができるだけ早く治療を開始し、必要な支援を受けながら社会の中で生活していけるようになることを重視する必要があります。

 最近は社会を守るために検査を広げようみたいな主張がかなり受け入れやすい雰囲気になっている印象も受けます。感染した人を見つけ出して社会から排除するための検査ではなく、必要な支援を提供できるようにすることが、遠回りのようでも予防対策の大前提であり、有効な手段でもある。このことは改めて確認しておきたいですね。

 そんなの分かり切っているよと言われそうですが、時々、あれっ?と戸惑ってしまうような言動に接することもあるので、注意が必要です。

 エイズ動向委員会の委員長報告の「まとめ」の部分を紹介しておきましょう。

 

 《まとめ》

1.今回報告された新規HIV感染者報告数および新規AIDS患者は、前年同時期と比べ第3四半期、第4四半期共に減少した。

2.これまでと同様の傾向ではあるが、今回の新規HIV感染者は20~40代、新規AIDS患者は30~50代の報告数が多い。また、10歳代から70歳代までの新規HIV感染が報告されており、幅広い年齢層の報告がある。

3.保健所等におけるHIV抗体検査件数は、前年同時期と比べ第3四半期は約 8.5%減少したが、第4四半期は約 6.7%増加した。

 相談件数も同じく、前年同時期と比べ第3四半期は減少し、第4四半期は増加した。

 また、HIV抗体検査件数については、直近第3、4四半期合計件数は令和 3年第1、2四半期合計件数より約18%増加した。

4.早期発見は、個人においては早期治療、社会においては感染の拡大防止に結びつくことから、今後も保健所等における無料・匿名のHIV抗体検査及び相談を積極的に利用していただきたい。

 

 

『荒波を超えて』 エイズと社会ウェブ版605

 安保理で拒否権を持つロシアのウクライナ侵攻に対し、国連はあまり有効な対応策を見いだせず、元気がありません。冷戦の時代に戻ったような印象です。
 したがって、タイミングはあまり良くないのかもしれませんが、あしからず。現代性教育研究ジャーナルの連載コラム One side/No sideの第59回『荒波を超えて』は国連合同エイズ計画(UNAIDS)のイノベーション担当局長がSocial Innovation of the Yearの一人に選ばれたという話題です。社会改革に功績があった人に毎年、贈られています。 
 詳しい内容はコラムをお読みいただくとして、今回は紹介のみ。コラムは8ページに掲載されています。 

www.jase.faje.or.jp

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『有害な法律を取り除き、力になれる法律を作ろう』 エイズと社会ウェブ版604

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)による差別ゼロデー(3月1日)の2022年キャンペーン冊子『REMOVE LAWS THAT HARM, CREATE LAWS THAT EMPOWER』を日本語に訳しました。タイトルはいろいろと迷い、最終的に『有害な法律を取り除き、力になれる法律を作ろう』としています。API-Netで日本語仮訳PDF版をご覧ください。こちらからアクセスできます。

    f:id:miyatak:20220315221431j:plain

api-net.jfap.or.jp

 《法律によって、人びとが異なる扱いを受け、基本的なサービスから除外され、自分が誰であるか、何をするか、誰を愛するかという理由で人びとの生活を過度に制限する。COVID-19対策の影響もあり、そうした差別的法律に反対する行動が急務であると国連合同エイズ計画(UNAIDS)は訴えています。また、『差別的な法律の撤廃』と『人びと差別からまもる法律の制定』が国家の道義的、法的な責務であるとも指摘しています》
 毎年3月1日を「差別ゼロデー」とすることは2013年12月1日、オーストラリアのメルボルンで開かれた世界エイズデー式典で公表され、翌2014年3月1日が第1回でした。今年は第9回ということになります。
 世界エイズデーは12月1日を目指してキャンペーンが展開されていくのに対し、差別ゼロデーは3月1日からキャンペーンが始まる感じなので、日本語仮訳版も今から参考にしていただけるのではないかと思います。

 

改めて『HIV予防カスケードをつくる』 TOP-HAT News 第162号 エイズと社会ウェブ版603

 2月の下旬から3月上旬にかけて、いろいろなことがあって掲載が遅れました。TOP-HAT Newsの第162号(2022年2月)です。巻頭の文章『HIV予防カスケードをつくる』は、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が昨年11月に発表した『Creating HIV prevention cascades』の紹介です。日本語仮訳のPDF版が1月27日、API-Netに掲載されていますが、あまり反響はありませんでした。コロナの感染報告が増加していた時期なので、HIV感染の予防には関心が向かなかったのかもしれませんね。何かの機会に合わせてご覧いただければ幸いです。

 

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メルマガ:TOP-HAT News(トップ・ハット・ニュース)

        第162号(2022年2月)

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TOP-HAT Newsは特定非営利活動法人エイズソサエティ研究会議が東京都の委託を受けて発行するHIV/エイズ啓発マガジンです。企業、教育機関(大学、専門学校の事務局部門)をはじめ、HIV/エイズ対策や保健分野の社会貢献事業に関心をお持ちの方にエイズに関する情報を幅広く提供することを目指しています。

なお、東京都発行のメルマガ「東京都エイズ通信」にもTOP-HAT Newsのコンテンツが掲載されています。購読登録手続きは http://www.mag2.com/m/0001002629.html  で。

エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 『HIV予防カスケードをつくる』

 

2  改めて90-90-90ターゲットとは

 

3 横浜と京都のAIDS文化フォーラムが報告書

 

4 薬害エイズ裁判 和解26周年記念集会

 

5 PrEPに関する意見募集 日本エイズ学会

 

◇◆◇◆◇◆

 

1 はじめに 『HIV予防カスケードをつくる』

 厚労省委託事業として公益財団法人エイズ予防財団が運営にあたっているHIV/エイズ啓発サイトAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に『HIV予防カスケードをつくる』という報告書が紹介されています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)が昨年11月に発表した『Creating HIV prevention cascades』の日本語仮訳です。原文(英語)の報告書とともにPDF版を下記ページで観ることができます。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet058.html

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 カスケードはもともと「滝」のことですが、医学分野で使われる場合は疾病対策や治療の効果を把握するために検査や治療、ケアの実施状況を段階的に把握する手法を指します。検査を受けたか、受けていないか、治療を開始したかどうか、開始した治療が継続されているか・・・というかたちで、1本の滝が上流から段々と枝分かれしていく様子を棒グラフなどで可視化し、どの部分に力を入れる必要があるのかを把握することができます。

 HIV/エイズ対策では、予防のための数値目標を設定した90-90-90ターゲットが有名なので、「予防カスケードをつくる」と言われても、もうすでにあるではないかとついつい思ってしまいます。

 しかし、90-90-90ターゲットはあくまでケアカスケードです。報告書の指摘を借りれば、予防の対象はHIVに感染している人から他の人への感染を防ぐという二次予防にとどまっています。

 『対策の効果を高めるには(一次予防として)感染の最も高いリスクに直面している人に焦点を合わせ、受け入れやすく、利用しやすいHIV予防プログラムにする必要があります』(報告書Summaryから)

 報告書は予防対策に取り組む政府機関やNGOの実務担当者に向けたガイダンス(手引き)を示すことを目的としています。ただし、コンドーム使用やPrEPなども含めたコンビネーション予防全体のカスケードの作成は現実的に困難であるとして、以下の4段階の指標に基づき、予防手段別のカスケードが示されています。

ステップ1 対象集団

ステップ2 到達範囲と普及率

ステップ3 受け入れ/使用

ステップ4 正しい/一貫した使用

表が多用され、かなりテクニカルな内容の報告書ではありますが、現実と対策のギャップを埋めるうえで参考にすべき記述もまた、数多く含まれています。各ステップに関する説明は、表4「カスケードの各ステップの定義と測定」(日本語版13~14ページ)に示されているので、関心がおありの方はご覧ください。

 

 

2  改めて90-90-90ターゲットとは

 おさらいになりますが、90-90-90ターゲットについても改めて紹介しておきましょう。

HIVに感染した人が抗レトロウイルス治療を継続して受けていれば、性行為で他の人に感染することがなくなるレベルまで体内のウイルス量を低く抑えることができる。90-90-90ターゲットは、この「予防としての治療(T as P)」の効果に着目して、UNAIDSが2014年から提唱してきた数値目標です。

HIVに感染している人の90%が検査で自らの感染を知り、そのうちの90%が抗レトロウイルス治療を開始し、さらに治療を受けている人の90%が体内のHIV量を検出限界値未満にまで下げた状態を維持する。

そうなると90%×90%×90%で、HIV陽性者の72.9%からは他の人にHIVが感染することはなくなる。 

 UNAIDSは2020年をこのターゲットの目標達成年として掲げ、世界全体で実現できれば、成人の新規HIV感染者数も、エイズ関連の死者数も、世界全体で年間50万人未満に減少するとの推計予測を合わせて示していました。

 結果はどうだったのでしょうか。UNAIDS推計によると2020年末のケアカスケードは世界全体で次のようになっています。

自分の感染を知っているHIV陽性者          84%

  このうち抗レトロウイルス治療を受けている人     87%

  さらにこのうち体内のHIV量が検出限界値未満の人 90%

 結果として、90-90-90には届いていませんが、かなり肉薄しています。

 一方で、UNAIDSのファクトシートをみると、2020年末時点の世界のHIV陽性者数は推計3760万人、年間の新規感染者数は推計150万人、エイズ関連の死者数は推計69万人でした。死者数は50万人未満までもう一息ですが、新規感染数は目標値の3倍です。予防のカスケードとしては十分に機能しているとは言えません。

今回の報告書は検査と治療の普及がもたらす予防効果の重要性は認めつつも、それだけでなく、様々な予防の選択肢を含めたコンビネーション予防が必要なことを改めて強調しています。

 

 

3 横浜と京都のAIDS文化フォーラムが報告書

 第28回AIDS文化フォーラムin横浜(2021年8月6~8日)と第11回AIDS文化フォーラムin京都(2021年10月10日)の報告書がそれぞれの公式サイトに掲載されました。コロナ流行の影響でどちらもウェブ開催を余儀なくされましたが、その制約の中で全国から多くの人がバーチャル参加しています。報告書のPDF版はこちらでダウンロードできます。

・第28回AIDS文化フォーラムin横浜

 https://abf-yokohama.org/wp-content/uploads/2021/12/2021abf.pdf

・第11回AIDS文化フォーラムin京都報告書

 http://hiv-kyoto.com/history/pdf/11th_houkoku.pdf

 

 

4 薬害エイズ裁判 和解26周年記念集会

 3月26日(土)14:00~16:00、ステーションコンファレンス東京605ABC(千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー6階)。You Tubeでもライブ配信

 《薬害エイズ裁判は、今年で1996年の和解から26年になります。被害発生から40年が経過し、すでに半数を超える被害者が亡くなりました。最愛の夫や息子を亡くした遺族の悲哀や喪失感は年月の経過で癒されることはなく、むしろ深刻さを増しています。今回の和解記念集会では、こうした遺族の現状と今後についてお伝えしたいと思います》

 社会福祉法人はばたき福祉事業団のサイトから

 https://www.habatakifukushi.jp/news/hiv-info/wakai26th/

 

 

5 PrEPに関する意見募集 日本エイズ学会

 日本エイズ学会のPrEP導入準備委員会が中心になってまとめた「PrEPの診療指針・要旨(案)」および「国内承認後の実施体制(案)」について、同学会公式サイトで意見を募集しています。

 PrEPは抗HIV薬による曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis)の略称です。

 募集期間は2022年2月15日(火)~3月31日(木)。詳細は日本エイズ学会の公式サイトでご覧ください。

  https://jaids.jp/

 「PrEPの診療指針・要旨(案)」「国内承認後の実施体制(案)」のPDF版もダウンロードできます。