改めて『HIV予防カスケードをつくる』 TOP-HAT News 第162号 エイズと社会ウェブ版603

 2月の下旬から3月上旬にかけて、いろいろなことがあって掲載が遅れました。TOP-HAT Newsの第162号(2022年2月)です。巻頭の文章『HIV予防カスケードをつくる』は、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が昨年11月に発表した『Creating HIV prevention cascades』の紹介です。日本語仮訳のPDF版が1月27日、API-Netに掲載されていますが、あまり反響はありませんでした。コロナの感染報告が増加していた時期なので、HIV感染の予防には関心が向かなかったのかもしれませんね。何かの機会に合わせてご覧いただければ幸いです。

 

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        第162号(2022年2月)

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに 『HIV予防カスケードをつくる』

 

2  改めて90-90-90ターゲットとは

 

3 横浜と京都のAIDS文化フォーラムが報告書

 

4 薬害エイズ裁判 和解26周年記念集会

 

5 PrEPに関する意見募集 日本エイズ学会

 

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1 はじめに 『HIV予防カスケードをつくる』

 厚労省委託事業として公益財団法人エイズ予防財団が運営にあたっているHIV/エイズ啓発サイトAPI-Net(エイズ予防情報ネット)に『HIV予防カスケードをつくる』という報告書が紹介されています。国連合同エイズ計画(UNAIDS)が昨年11月に発表した『Creating HIV prevention cascades』の日本語仮訳です。原文(英語)の報告書とともにPDF版を下記ページで観ることができます。

 https://api-net.jfap.or.jp/status/world/booklet058.html

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 カスケードはもともと「滝」のことですが、医学分野で使われる場合は疾病対策や治療の効果を把握するために検査や治療、ケアの実施状況を段階的に把握する手法を指します。検査を受けたか、受けていないか、治療を開始したかどうか、開始した治療が継続されているか・・・というかたちで、1本の滝が上流から段々と枝分かれしていく様子を棒グラフなどで可視化し、どの部分に力を入れる必要があるのかを把握することができます。

 HIV/エイズ対策では、予防のための数値目標を設定した90-90-90ターゲットが有名なので、「予防カスケードをつくる」と言われても、もうすでにあるではないかとついつい思ってしまいます。

 しかし、90-90-90ターゲットはあくまでケアカスケードです。報告書の指摘を借りれば、予防の対象はHIVに感染している人から他の人への感染を防ぐという二次予防にとどまっています。

 『対策の効果を高めるには(一次予防として)感染の最も高いリスクに直面している人に焦点を合わせ、受け入れやすく、利用しやすいHIV予防プログラムにする必要があります』(報告書Summaryから)

 報告書は予防対策に取り組む政府機関やNGOの実務担当者に向けたガイダンス(手引き)を示すことを目的としています。ただし、コンドーム使用やPrEPなども含めたコンビネーション予防全体のカスケードの作成は現実的に困難であるとして、以下の4段階の指標に基づき、予防手段別のカスケードが示されています。

ステップ1 対象集団

ステップ2 到達範囲と普及率

ステップ3 受け入れ/使用

ステップ4 正しい/一貫した使用

表が多用され、かなりテクニカルな内容の報告書ではありますが、現実と対策のギャップを埋めるうえで参考にすべき記述もまた、数多く含まれています。各ステップに関する説明は、表4「カスケードの各ステップの定義と測定」(日本語版13~14ページ)に示されているので、関心がおありの方はご覧ください。

 

 

2  改めて90-90-90ターゲットとは

 おさらいになりますが、90-90-90ターゲットについても改めて紹介しておきましょう。

HIVに感染した人が抗レトロウイルス治療を継続して受けていれば、性行為で他の人に感染することがなくなるレベルまで体内のウイルス量を低く抑えることができる。90-90-90ターゲットは、この「予防としての治療(T as P)」の効果に着目して、UNAIDSが2014年から提唱してきた数値目標です。

HIVに感染している人の90%が検査で自らの感染を知り、そのうちの90%が抗レトロウイルス治療を開始し、さらに治療を受けている人の90%が体内のHIV量を検出限界値未満にまで下げた状態を維持する。

そうなると90%×90%×90%で、HIV陽性者の72.9%からは他の人にHIVが感染することはなくなる。 

 UNAIDSは2020年をこのターゲットの目標達成年として掲げ、世界全体で実現できれば、成人の新規HIV感染者数も、エイズ関連の死者数も、世界全体で年間50万人未満に減少するとの推計予測を合わせて示していました。

 結果はどうだったのでしょうか。UNAIDS推計によると2020年末のケアカスケードは世界全体で次のようになっています。

自分の感染を知っているHIV陽性者          84%

  このうち抗レトロウイルス治療を受けている人     87%

  さらにこのうち体内のHIV量が検出限界値未満の人 90%

 結果として、90-90-90には届いていませんが、かなり肉薄しています。

 一方で、UNAIDSのファクトシートをみると、2020年末時点の世界のHIV陽性者数は推計3760万人、年間の新規感染者数は推計150万人、エイズ関連の死者数は推計69万人でした。死者数は50万人未満までもう一息ですが、新規感染数は目標値の3倍です。予防のカスケードとしては十分に機能しているとは言えません。

今回の報告書は検査と治療の普及がもたらす予防効果の重要性は認めつつも、それだけでなく、様々な予防の選択肢を含めたコンビネーション予防が必要なことを改めて強調しています。

 

 

3 横浜と京都のAIDS文化フォーラムが報告書

 第28回AIDS文化フォーラムin横浜(2021年8月6~8日)と第11回AIDS文化フォーラムin京都(2021年10月10日)の報告書がそれぞれの公式サイトに掲載されました。コロナ流行の影響でどちらもウェブ開催を余儀なくされましたが、その制約の中で全国から多くの人がバーチャル参加しています。報告書のPDF版はこちらでダウンロードできます。

・第28回AIDS文化フォーラムin横浜

 https://abf-yokohama.org/wp-content/uploads/2021/12/2021abf.pdf

・第11回AIDS文化フォーラムin京都報告書

 http://hiv-kyoto.com/history/pdf/11th_houkoku.pdf

 

 

4 薬害エイズ裁判 和解26周年記念集会

 3月26日(土)14:00~16:00、ステーションコンファレンス東京605ABC(千代田区丸の内1-7-12 サピアタワー6階)。You Tubeでもライブ配信

 《薬害エイズ裁判は、今年で1996年の和解から26年になります。被害発生から40年が経過し、すでに半数を超える被害者が亡くなりました。最愛の夫や息子を亡くした遺族の悲哀や喪失感は年月の経過で癒されることはなく、むしろ深刻さを増しています。今回の和解記念集会では、こうした遺族の現状と今後についてお伝えしたいと思います》

 社会福祉法人はばたき福祉事業団のサイトから

 https://www.habatakifukushi.jp/news/hiv-info/wakai26th/

 

 

5 PrEPに関する意見募集 日本エイズ学会

 日本エイズ学会のPrEP導入準備委員会が中心になってまとめた「PrEPの診療指針・要旨(案)」および「国内承認後の実施体制(案)」について、同学会公式サイトで意見を募集しています。

 PrEPは抗HIV薬による曝露前予防(Pre-Exposure Prophylaxis)の略称です。

 募集期間は2022年2月15日(火)~3月31日(木)。詳細は日本エイズ学会の公式サイトでご覧ください。

  https://jaids.jp/

 「PrEPの診療指針・要旨(案)」「国内承認後の実施体制(案)」のPDF版もダウンロードできます。