メッセージを届けたい TOP-HAT News 第163号(2022年3月) エイズと社会ウェブ版607

 いまとなっては、いささか旧聞の感もありますが、TOP-HAT News 第163号(2022年3月)の巻頭は、UNAIDSの2月25日付プレス声明を取り上げました。ウクライナに対するロシアの軍事侵攻開始の翌日に発表された声明です。

 『かなり早い。「まさか」と思いつつも最悪の事態を想定し、事前にある程度、準備していたのかもしれません』

 声明は、ウクライナHIV陽性者が受ける影響に強い懸念を表明しています。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログでは日本語仮訳も掲載しました。

おっと、当ブログにも同じ仮訳を紹介してありました。

 https://miyatak.hatenablog.com/entry/2022/02/27/105511

 高齢化に伴う現実といいますか、ちょっと前のことは忘れてしまうので悪しからず。まあ、自分のことはさておいて・・・。

 『声明によると、ウクライナHIV陽性者人口は推定25万人で、このうち抗レトロウイルス治療を受けている人は15万6000人です。陽性者全体のほぼ6割に相当し、90-90-90ターゲットには及ばないものの健闘はしていました』

 国際エイズ学会(IAS)も3月3日付の声明で懸念を表明しています。

 UNAIDSもIASも、声明ではHIV対策への影響に焦点を当てています。それはもちろん、ロシアの軍事侵攻に伴う他の影響を軽視しているわけではありません。この2つの組織にはHIV/エイズ対策に取り組む使命があるからです。専門性を生かし、自らの使命とする分野での影響をより正確に伝えることは、他の課題に対する相互理解を生み出す契機にもなります。

 日本国内ではプライドハウス東京コンソーシアムが2月27日、『ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する非難と、同エリアのLGBTQ+の人たちへの支援と連帯を表明する声明文』を日本語と英語で発表しました。

 繰り返しになりますが、それぞれのイシューに関わる立場から、メッセージを届けることは大切です。「じゃあ、お前は何をしているんだ」というお叱りを受けそうですね。せめて情報提供のお手伝いができればと思いつつ、早春の寒さに震え意気地がありません。

 

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エイズ&ソサエティ研究会議 TOP-HAT News編集部

 

 

◆◇◆ 目次 ◇◆◇◆

 

1 はじめに メッセージを届けたい

 

2 パレードは4月24日(日)に予定 東京レインボープライド2022

 

3 CROI2022から

 

4 『Beyond Boundaries: Drag Queen of Tokyo(境界を越えて:東京のドラァグクイーン)』

 

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1 はじめに メッセージを届けたい

 ウクライナに対しロシアが軍事侵攻を開始したのは2月24日でした。国連合同エイズ計画(UNAIDS)がこの事態を深く憂慮するプレス声明を発表したのは、その翌日の25日です。かなり早い。「まさか」と思いつつも最悪の事態を想定し、事前にある程度、準備していた声明だったのかもしれませんね。エイズソサエティ研究会議HATプロジェクトのブログに日本語仮訳が掲載されています。

 https://asajp.at.webry.info/202203/article_2.html

 声明によると、ウクライナHIV陽性者人口は推定25万人で、このうち抗レトロウイルス治療を受けている人は15万6000人です。陽性者全体のほぼ6割に相当し、90-90-90ターゲットには及ばないものの健闘はしていました。

ウクライナ政府はこれまで、市民社会や国際機関と協力して東ヨーロッパ・中央アジア地域で最大かつ最も効果的なHIV対策を実施してきました。いま進行している軍事攻撃によって、その努力と成果が台無しになる深刻なリスクにさらされ、さらに多くの命が危険にさらされることになります』

声明はこう指摘しています。安定した社会基盤を維持し、対策の一層の充実はかることが急務だったのに、その社会基盤も崩壊の危機に追い込まれているのです。

 ウクライナ、ロシアを含む東ヨーロッパ・中央アジア地域は、薬物使用者を中心にしたHIV新規感染の増加が続いていましたが、なんとか横ばいの状態が見えてきたという段階でした。ウクライナエイズの流行はこの地域で2番目に大きく、1番目は言うまでもなくロシアです。

 UNAIDSの声明からはやや遅れましたが、国際エイズ学会(IAS)も3月3日付で『ウクライナに対するロシアの侵略戦争がすべての人びと、より具体的にはウクライナ国内のHIV陽性者、HIVに影響を受けている人たちに与える影響を深く懸念している』とする声明を公式サイトで発表しました。英文で『war of aggression(侵略戦争)』と明記し、ウクライナの国旗と共にトップページからアクセスできるようになっています。

 https://www.iasociety.org/

 IASは声明の中で、2014年のロシアによるクリミア併合にも言及しています。

『ハームリダクション戦略が混乱の中で中断に追い込まれ、HIVの流行に最も大きな影響を受け、最も高いリスクにさらされていた人たちが大きな打撃を受けました』

長い年月にわたって積み上げられてきた公衆衛生上の成果が一気に台無しになってしまうことを強く懸念し、『平和と安定がなければ、意味のある医療サービスの提供、およびエビデンスに基づく人権主導のHIV対策はほぼ不可能になります』とも指摘しています。

UNAIDSもIASも、声明ではHIV対策への影響に焦点を当てています。それはもちろん、この2つの組織がHIV/エイズ対策に取り組むことを使命としているからであり、ロシアの軍事侵攻に伴う他の影響を軽視しているわけではありません。専門性を生かし、自らの使命とする分野での影響をより正確に伝えることは、他の課題に対する相互理解を生み出す契機にもなります。

東京ではプライドハウス東京コンソーシアムが2月27日、『ロシアによるウクライナへの軍事侵攻に対する非難と、同エリアのLGBTQ+の人たちへの支援と連帯を表明する声明文』を日本語と英語で発表しています。東京オリンピックパラリンピックの開催に先立って生まれ、『LGBTQ+をはじめとした性的マイノリティに関する理解を進める活動、および、性別・性的指向性自認等を問わずすべての人が安心して過ごせる環境づくりに向けた活動』に取り組むコンソーシアム(連合体)です。

声明文は『ウクライナにおいてもロシアにおいても等しく、LGBTQ+の人たちや子どもたち、社会的障壁によって障害者とされる人たちなど、社会の中で周縁化された人々と連帯し、平和をもたらす活動に対して支援すること』を表明しています。

同じく東京での動きになりますが、都庁第一本庁舎が2月28日から3月6日まで『ウクライナ国旗の色である青と黄色』にライトアップされました。都市による意思表明の視覚的効果も小さくありません。

2014年にソチ冬季五輪が開かれた際にも懸念されたように、ロシア国内でHIV/エイズ対策や性的マイノリティの課題に取り組む人たちもまた、政権による強権的対応に苦しみ、迫害されることがしばしばあり、現在に至っています。様々な各論レベルのメッセージがウクライナだけでなく、それぞれの課題に取り組むロシアの人たちにも届いてほしい。声明にはおそらくそんな期待も込められているはずです。

 

 

2 パレードは4月24日(日)に予定 東京レインボープライド2022

 TRP(東京レインボープライド)2022の公式サイトに開催日程とテーマが発表されています。テーマは『繋がる、見える、変わる』です。

https://tokyorainbowpride.com/

 『新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、TRP2020、TRP2021はオンラインイベントのみの開催といたしましたが、来年(注:2022年)は、3年ぶりに代々木公園にて「プライドパレード&プライドフェスティバル」を開催いたします』

 プライドパレード&プライドフェスティバル(代々木公園開催予定):

 2022年4月22日(金)~2022年4月24日(日)3日間開催

 ※プライドパレードは2022年4月24日(日)を予定しております。

 ※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、入場制限などを行う場合があります。

 

 また、6月にはプライドマンスイベントも予定されています。

 『引き続き予断を許さない状況ではありますが、感染症対策を徹底し、ご参加いただく皆さまの健康面・安全を第一に考慮した上で運営していく所存です』ということで、場合によっては、直前の変更などもあるかもしれません。詳しくはTRP2022公式サイトで確認してください。

 

 

 

3 CROI2022から

2月12日から16日まで、オンラインで開催されたレトロウイルス・日和見感染症会議(CROI2022)について、主な発表の概要速報を日本語で読めるサイトがあります。

https://www.hiv-practiceupdates.jp/conference/index.html

公益財団法人エイズ予防財団の公式サイト( https://www.jfap.or.jp/ )から『CROI2022 nam's Conference bulletins』のバナーをクリックしてもアクセスできます。

CROIはHIV/エイズおよびエイズ関連の日和見感染症に関し、米国で毎年、開催されている科学会議で、世界の研究者や臨床医が参加しています。

 

 

4 『Beyond Boundaries: Drag Queen of Tokyo(境界を越えて:東京のドラァグクイーン)』

You tubeの国連チャンネルに、ドラァグクイーンパフォーマーとして知られるマダムボンジュール・ジャンジの活動とインタビューを特集した動画が公開されました。

 動画サイトの解説欄では《「境界を越えきらめく世界」を望むドラッグクイーン/パフォーマー/活動家》として、ジャンジさんを次のように紹介しています。

 《JohnJは、アジア最大のゲイビレッジの1つ、新宿二丁目にあるHIV / AIDS情報センター、イベントスペースであるコミュニティセンターaktaを週のほとんど管理しています。 JohnJはまた、LGBTIQ +コミュニティ向けにさまざまなイベントを開催し、幼児向けの教育体験を提供する「ドラァグクイーンストーリーアワー東京」の積極的なメンバーです》

 動画はこちらで。 https://www.youtube.com/watch?v=7L27Mbd12kE

 解説欄の文章や動画の字幕は英文ですが、ジャンジさんは日本語で語っているので、ちょっと不思議な感じ。