速報値の減少傾向をどう読むか エイズと社会ウェッブ版379

 

 国内の新規HIV感染者・エイズ患者報告の昨年(2018年)1年間の速報値が22日、発表されました。API-Netエイズ予防情報ネット)の『日本の状況= エイズ動向委員会報告』のページで20193月の委員長コメントをクリックすると概要が分かります。

 http://api-net.jfap.or.jp/status/index.html

 

新規HIV感染者報告数      921 件(過去13位)

新規エイズ患者報告数   367 件(過去 14位)

計          1288 件(過去 13位)

 

 あくまで報告数なので、必ずしも実際に起きている感染の動向が反映しているとはいえません。しかも速報値であり、たぶん半年ぐらい後に公表される確定値はこれより、少し増える可能性があります。

 ただし、最近は動向委員会の開催が年2回になり、速報値の発表も以前と比べると1か月以上、遅くなっています。その分、確定値で上積みされる報告数も少なめになるとみていいでしょう。

したがって、速報値と確定値のギャップは以前より小さく、速報値段階でもおおよその傾向はつかめるのではないかと思います。

 ・・・というような前提で考えますと、一昨年から顕著になりつつある報告の減少傾向がよりはっきりしてきた印象です。動向委員会報告数の推移について自家製のグラフを作りました。前に作ったものに速報値データを加えただけですが、紹介しておきましょう。

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 こちらは2007年に報告数が1500件となって以来の報告数の表です。

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 個人的には2016年までと2017、8年を比べると、少なくとも報告ベースではフェーズが変わったようにも思えるのですが、まだ早計でしょうか。今年の報告の推移や確定値の発表を待って判断する必要があるかもしれません。

 また、実際の感染も減りつつあるのかどうか、これも分かりません。動向委員の皆さんや疫学の専門家には、10代、20代の人口の減少も含め、あるいはHIV/エイズ対策への社会的な「もういいだろう感覚」の影響も勘案して、詳細な分析をしていただきたいと切に思っています。ただし、短期的であるかもしれませんが、とりあえず予防対策は機能しつつあると考えていいのではないか。そんな誘惑にかられる報告です。

 では、その場合には何が機能しているのか。ここは意見が分かれるところかもしれませんね。治療の普及による予防への波及効果はもちろんあると思いますが、それだけではないでしょう。治療の普及が予防効果につながるための条件として何が必要なのか(あるいは何がその成果を支えているのか)、そのあたりの判断を見誤ると、減少したと喜んでばかりもいられない事態がそう遠くない将来、再び顕在化するのではないか。奥歯にものの挟まったような書き方ですいません。心配性かもしれませんが、年寄りはそんな危惧もまたぬぐえずにいます。

 

米国内HIV新規感染『CDCデータが確認:HIV予防の成果は失速』 エイズと社会ウェブ版378

 米国のCDC(疾病管理予防センター)が米国内のHIV新規感染に関する2010~16年の動向をまとめています。年間の新規感染件数は2013年までのほぼ5年にわたって劇的な減少が続いたものの、減少ペースはすでに止まっており、2013年以降は横ばいの状態に移行しているようです。

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www.hiv.gov

 米国政府のHIV/エイズ啓発サイトHIV.govに掲載された報告記事を日本語仮訳で要約したので、参考までに末尾に付けておきます。

 実はこの記事は、「だからこそいま、トランプ大統領が一般教書演説で言及した米国内のHIV流行終結計画の遂行が重要なのです」というアピールに主眼が置かれています。感染が起きているところに資金を集中し、効果が実証されている予防対策を進めることで、今後10年で米国内のHIV新規感染を90%減らそうという戦略ですね。

詳しくは仮訳をご覧いただくとして、個人的には「データに基づく」と言われてもなんだか・・・という気持ちがぬぐえません。

 わずか2年前の2017年2月には、全米のHIV新規感染について《2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている》というCDCの報告がありました。

 http://miyatak.hatenablog.com/entry/2017/02/22/224816

 6年前と比べると18%も減っているということで、HIV/エイズ対策の成果を強調しています。もちろんデータに基づく分析ですが、わずか2年で、言っていることがこうもあっさりと変わってしまうの?という当惑はあります。エビデンスに基づき、その時に必要とされるメッセージを果敢に選択していく。それこそが科学を踏まえた政治ですよと言われれば、まあ、そういうことなんだろうけれど・・・。

 2017年2月と言えば、トランプ政権が発足して1か月の時期ですね。それまでは8年間、民主党オバマ政権が続いていました。したがって、当時の成果分析はオバマ政権下で用意されたものと見ていいでしょうね。いきなり軌道修正はできません。

 ただし、それから2年かけて出された新戦略では、オバマ政権の8年間で米国内のHIV/エイズ対策は実はそれほどうまくいっていなかったというメッセージに切り替わっています。この科学的かつ政治的な姿勢は見事です。

「しょうがねえな、俺が何とかしなければ」とトランプ大統領が言ったかどうかは分かりません。たぶん言ってはいないでしょう。主要な関心事項ではないような感じもします。

それでも、あるいは、それだけに、HIV/エイズ対策の医療化を進めたくてうずうずしているお医者さんとトランプ大統領の波長が変にあってしまうと危ういことにもなりかねない。「アメリカ国内計画」、一見もっともらしいけれど、ちょっと変だ。あくまで私の個人的な感想ですが、データの政治的利用に関するこれほど鮮やかな豹変ぶりを目の当たりにすると、そんな印象もぬぐえません。 

 

 

CDCデータが確認:HIV予防の成果は失速

https://www.hiv.gov/blog/cdc-data-confirm-progress-hiv-prevention-has-stalled

 

2019.2.27 今すぐ行動が必要 

 「HIV流行終結へ:アメリカ国内計画」

 CDCが本日発表した報告書によると、年間の新規HIV感染の劇的な減少は止まり、新規感染は近年、横ばいとなっている。

 報告書は最新の利用可能データである2010年から2016年までの米国内のHIV動向を紹介している。それによると、新規HIV感染は5年間にわたって大きく減少し、2013年に年間3万9000件まで下がった後、横ばいの状態に転じている。

 

HIV流行終結」構想 

 2月5日の一般教書演説の中で、トランプ大統領は米国内のHIV流行を終結させるため、以下の基本4戦略を含む国家計画への協力を呼びかけた。

 

・  HIV感染を可能な限り早期に診断する。

・  ウイルス量の抑制状態が持続できるようを迅速かつ効果的にHIV治療を行う。

・  HIV予防のために毎日抗レトロウイルス薬を服用する曝露前予防内服(PrEP)など効果が証明されている予防アプローチを活用し、HIV感染の高いリスクに曝されている人を守る。

・  新規感染が急拡大しているHIVクラスターに対応し、感染拡大に歯止めをかける。

 

 ここで示された計画は、HIVの影響が大きい米国内の48郡とワシントンDC、プエルトリコサンファン、および地方におけるHIVの影響が大きい7州を対象に構想されている。ゴールは10年間で新規HIV感染を90%減らすことだ。(詳細はHIV.gov参照)

 

米国内の新規HIV感染

 全体的な動向に加え、報告書は様々なサブグループでのHV感染も検証している。データによると、年間の新規HIV感染件数は、減少している人口集団もあるが、逆に増加している人口集団もある。CDCは2010年から2016年までの年間HIV感染件数から以下のように推定している。

・  新規感染の最も多く(約70%)を占めるゲイおよびバイセクシュアル男性の感染は全体では横ばいを保っている。だが、人種、民族、年齢によって動向は異なる。

-       人種、民族別では、黒人のゲイおよびバイセクシュアル男性は横ばい;ラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は30%増;白人のゲイおよびバイセクシュアル男性は16%減。

-       人種、民族および年齢別でみると、13~24歳では、黒人のゲイおよびバイセクシュアル男性は30%以上減少;ラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は横ばい;25~34歳では、黒人とラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は65%増。

・  異性愛者の男女は17%減。うちアフリカ系アメリカ人異性愛女性では15%減

・  注射薬物使用者では30%減。ただし、より最近の何年かは横ばいに転じているように見える

 HIV感染の減少が止まったのは、効果的なHIV予防と治療が最も必要とする人たちに届いていないからだとCDCは推定している。このギャップは地方や南部でとりわけ深刻であり、アフリカ系アメリカ人ラティーノといった人口集団への影響が大きい。

 

効果があるHIV予防

 積極的なHIV予防策の中にはすでに効果が証明されているものもある。たとえば、ニューヨークやワシントンDCのような大都市圏では、地元のHIV流行を排除する計画を策定しており、その成果があがりつつある。ニューヨークでは2010年から2016年の間に新規HIV感染が約23%減少し、ワシントンD.C.では約40%減少している。

 CDCは各州や大都市の保健部局、コミュニティベースの組織にHIV感染の削減効果が証明されている対策を実施する資金を助成している。CDCのHIV予防アプローチに関する詳細情報はこちらで。新たな計画は今後10年間、こうした努力を補完し、促進させることになる。

 https://www.cdc.gov/hiv/policies/hip/hip.html

 

 HIV感染率:米国の年間推計2010~201のファクトシートはこちらで[PDF, 246KB]。

 https://www.cdc.gov/nchhstp/newsroom/docs/factsheets/HIV-Incidence-Fact-Sheet_508.pdf

表はこちらで[PDF, 38KB]。

https://www.cdc.gov/nchhstp/newsroom/docs/2019/HIV-Incidence-Data-Tables_508.pdf

 

 

 

 

CDC Data Confirm: Progress in HIV Prevention Has Stalled

https://www.hiv.gov/blog/cdc-data-confirm-progress-hiv-prevention-has-stalled

 

February 27, 2019 – Need for immediate action —

‘Ending the Epidemic: A Plan for America’

The dramatic decline in annual HIV infections has stopped and new infections have stabilized in recent years, according to a CDC report published today.

The report provides the most recent data on HIV trends in America from 2010 to 2016. It shows that after about five years of substantial declines, the number of HIV infections began to level off in 2013 at about 39,000 infections per year.

 

The ‘Ending the HIV Epidemic’ Initiative

During his State of the Union address to the nation on Feb. 5, President Trump called for support of a national plan to end the HIV epidemic in America that is built upon four key strategies, including:

Diagnosing HIV as early as possible after infection.

Treating HIV rapidly and effectively to achieve sustained viral suppression.

Protecting people at risk for HIV using proven prevention approaches like pre-exposure prophylaxis (PrEP), a daily pill to prevent HIV.

Responding rapidly to growing HIV clusters to stop new infections.

 

The proposed initiative is designed to rapidly increase use of these strategies in the 48 counties with the highest HIV burden, as well as in Washington, D.C.; San Juan, Puerto Rico; and seven states with a disproportionate rural HIV burden. The goal is to reduce new HIV infections by 90 percent over 10 years. (For more details: HIV.gov)

 

 

New HIV Infections in America

In addition to the overall trend, the new report examines HIV infections among multiple subgroups. Data indicate that annual HIV infections declined in some populations, but increased in others. CDC estimates that from 2010 to 2016, annual HIV infections:

Remained stable among gay and bisexual men, who continue to account for the largest portion (about 70 percent) of new infections. However, trends varied by race/ethnicity and age:

By race/ethnicity, infections remained stable among black gay and bisexual men; increased 30 percent among Latino gay and bisexual men; and decreased 16 percent among white gay and bisexual men.

By race/ethnicity and age, infections decreased more than 30 percent among black gay and bisexual males ages 13 to 24; remained stable among Latino gay and bisexual males ages 13 to 24; and increased about 65 percent among both black and Latino gay and bisexual males ages 25 to 34.

 

Decreased about 17 percent among heterosexual men and women combined, including a 15 percent decrease among heterosexual African American women.

Decreased 30 percent among people who inject drugs, but appear to have stabilized in more recent years.

 

CDC estimates that the decline in HIV infections has plateaued because effective HIV prevention and treatment are not adequately reaching those who could most benefit from them. These gaps remain particularly troublesome in rural areas and in the South and among disproportionately affected populations like African-Americans and Latinos.

 

 

HIV Prevention that Works

Some intensified local efforts to prevent HIV have already proven effective. For example, urban areas like New York and Washington, D.C., have developed and enacted plans to eliminate their local HIV epidemics — and they are seeing the results of those commitments. New HIV infections decreased about 23 percent in New York and about 40 percent in Washington, D.C., from 2010 to 2016.

CDC provides funds to state health departments and some large local health departments and community-based organizations to deliver interventions proven to reduce HIV infections. Click here for more information about CDC’s approach to HIV prevention. The new initiative would supplement and accelerate these efforts over the next 10 years.

View a related fact sheet, HIV Incidence: Estimated Annual Infections in the U.S., 2010-2016 [PDF, 246KB]. View related data summary tables [PDF, 38KB].

今年は早いぞ 鎌倉花火大会

 第71回鎌倉花火大会は今年7月10日に開催されることが発表されました。
 

www.kamakura-info.jp

 
開催日時:平成31年7月10日(水) *時間は未定
予備日:なし *雨天・荒天・強風・高波などの場合は中止。
場所:由比ガ浜海岸・材木座海岸

 これまでに比べると、かなりの早期開催です。開催日の元号表記は平成31年になっていますが、4月1日からは当然、新元号の元年7月10日開催に差し替えられることになるでしょう。

 鎌倉の花火大会と言えば、海面でパッと華が開くような水上花火が有名ですね。こちらは昨年7月24日の写真です。

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(素人写真なもので華やかさに欠けますが、実際はもっと見事です、念のため)

 

 会場の由比ガ浜材木座海岸は7月1日が海開きで、例年なら10日と言えば、ぼちぼち海の家も出そろったかなという時期なのですが、今年は開幕ダッシュでしょうか。この海域は来年、オリンピックのセーリング会場になるので、早めの開催は必然だったのかもしれません。
 予備日はないので、当日の天候に恵まれることを祈りましょう。

 

『世銀総裁も辞任した』 エイズと社会ウェブ版377

 現代性教育研究ジャーナルのNo962019315日発行)の連載コラム『多様な性のゆくえ One side/No side』の23回目です。

 https://www.jase.faje.or.jp/jigyo/kyoiku_journal.html#current_number

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 こちらは表紙ですね。私のコラムは10ページに載っています。

 ご用とお急ぎでない方はぜひ、そしてお急ぎの方もできれば、お読みいただくよう切にお願い申し上げます。

 世銀のジム・ヨン・キム総裁が辞任したのは2月です。コラムにも書いたように次期総裁候補の公募は314日に締め切られました。時差の関係もあり、日本で情報が得られるのは翌15日、つまりこのコラムの掲載日ですね。したがってどんなにがんばっても入れることができなかった追加情報をここで紹介しておきましょう。

 世銀の英文公式サイトには314日付で公募結果のプレスリリースが載っています。 

www.worldbank.org

 

 それを見ると、次期世銀総裁の候補者はなんと1名です。

 ・David Malpass, a U.S. national and Under Secretary for International Affairs, U.S. Department of the Treasury

 

 え、だれ? ということでYAHOO!ニュースに載っているBloombergからの抜粋記事をあわせて紹介しておきます。 

headlines.yahoo.co.jp

 デービッド・マルパスさんは米国の財務次官で、トランプ大統領26日に世銀総裁の候補として指名された方だそうです。かなり早い時期に指名していますね。機先を制したといいますか、その後、対抗する方は現れなかったようです。理事会による面接などのプロセスがまだありますが、これはもう決まりでしょうね。

 世界はこうやって動いていくのか・・・と少々、気抜けした感じであります。

 

 

『いまこそ動こう 法律から 差別をなくすために』

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の差別ゼロデー2019キャンペーンについては、当ブログでも3月1日(差別ゼロデー当日)にプレスリリースを紹介しました。 

miyatak.hatenablog.com


 その時に『鋭意、翻訳を進めています』と控えめにPRしていた啓発用キャンペーン冊子『ACT TO CHANGE LAW THAT DISCRIMINATE』の日本語仮訳もようやくできました。タイトルは『いまこそ動こう 法律から 差別をなくすために』です。
 PDF版をエイズ予防情報ネット(API-Net)で公開してありますのでご覧ください。
 http://api-net.jfap.or.jp/status/world.html#a20190313

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 ところで、どうして今年は「法律」なんでしょうか。

 冊子では、5ページ目に《エイズ対策を変えた 2018年の法的な動き》としてその背景に言及しています。

 『インド最高裁2018年、同性間の性交渉を違法と定めた刑法第377条を無効とする決定を下しました。フィリピンでは2018年、若者が親や保護者の承認なしに自発的なHIV検査サービスを受けられるよう承諾年齢規制が15歳に引き下げられました。マラウィでは2018年、HIVの非開示、曝露、感染行為を犯罪とする条項が HIV法案から外されています』

 具体的に変化が起きているので、「行けるぞ」という手ごたえがあったのでしょうか。中でもインドの最高裁決定が大きかったようですね。

 

 

『HIV予防:なお目標に届かず』 エイズと社会ウェブ版376

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに『HIV prevention: not hitting the mark』というタイトルで一枚のグラフが紹介されています。年次報告書などでもよく使われているグラフですが、PDF版からグラフだけうまく取り込む方法が分からなかったので、なかなか紹介できませんでした。この機会にご覧いただきましょう。

 

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 縦軸は世界全体の年間HIV新規感染件数。横軸が1990年以降のそれぞれの年です。ま、それぐらいは見れば分かりますね。2020年のところには、グラフの線から離れて下方に赤丸があります。

 蛇足になるかもしれませんが補足しておくと、2020UNAIDSが提唱する90-90-90ターゲットの目標年。赤丸の位置はそのターゲットが達成された場合の年間新規感染件数(50万件以下)を示しています。

 経年変化をたどっていくと、HIVの新規感染件数は1996年をピークに減少を続けていることが分かりますが、その減少ペースは期待通りというわけではありません。2017年の推計値は180万件なので、201819203年間でその3分の1以下にしなければ目標は達成できません。

 英文タイトルの『not hitting the mark』は、辞書で調べると『的中せず』といった意味のようですね。ここでは『なお目標に届かず』と訳しました。

 こういう場合にはどうしたらいいのか。とりあえずは、『目標の達成を目指し、いまこそ並々ならぬ決意で臨もう。そのためにも必要な対策を遂行できる資金が必要だ』と強調しておくのが国際機関の定石でしょうか。

 ただし、2019年もすでに4分の1が経過しつつあり、あと1年ちょっとでトレンドが劇的に変わるとは考えられません。

もう少し締め切りが近づいてくると、2020年までにどうするということ自体、話が成立しなくなってしまうので、例えば、2030年のゴールは95-95-95(年間新規感染だと20万件以下)なのだから、2025年までに40万件以下に到達し、そこからさらに半減を目指そう!といったもっと先の話にすり替えて努力の継続を促すことになる・・・2000年代にWHOUNAIDS3by5計画を提唱した時には何とかその方法でしのぎました。

しかし、今回は『エイズ流行終結』(本当は『公衆衛生上の脅威としての』という条件付きではありますが、ともかく)という大見得を切ってしまった以上、そういうわけにもいかないでしょう。

 UNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は強権的な組織運営を批判され、今年6月末で退陣することを明らかにしています。任期とスローガンにこだわって辻褄あわせを続けるくらいなら、そろそろ看板をおろし、現実に見合った戦略への練り直しをはかる。UNAIDSにとっては、新しい事務局長で再出発をはかるための助走期間である今こそが、その潮目の時期なのではないかとも思うのですが、どうでしょうか。

 以下、UNAIDSのサイトに載っているグラフ紹介文の日本語仮訳です。

 

 

HIV予防:なお目標に届かず

 2019.3.11

www.unaids.org

 

 世界の新規HIV感染数は減少を続けています。推計モデルによると、全年齢での新規感染件数は最も多かった1996年には340万件(260万~440万件)だったのが、最新推計である2017年には180万件(140万~240万件)に減っています。しかし、その成果も、2020年のターゲットとされている年間新規HIV感染件数50万件以下への軌道にははるかに届いていません。

 

HIV prevention: not hitting the mark

11 March 2019

The number of new HIV infections globally continues to fall. Modelled estimates show that new infections (all ages) declined from a peak of 3.4 million [2.6 million–4.4 million] in 1996 to 1.8 million [1.4 million–2.4 million] in 2017—the year for which the most recent data are available. However, progress is far slower than that required to reach the 2020 target of fewer than 500 000 new HIV infections (see graph below).

何もかも後手後手であっても春は来る

 すっかり暖かくなりましたねなどと言っていると、急に冷え込んで風邪をひいてしまうに違いない。70年近く生きていりゃあ、そのくらいのことは分かるよ・・・と思いつつも、この陽気です。

 お昼は久しぶりに材木座のお蕎麦屋さんで肉せいろをいただき、隣の魚屋さんで晩御飯用のあいなめとあじの刺身を購入してから海岸を歩いて帰宅。3月11日の翌日。晴れ。引き潮の砂浜は広々、かつのんびりとしていました。

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 8年前は帰宅困難者として大手町で夜を明かしました。正午近くなってもJR東京駅はホームにすら近寄れない状態だったので、地下鉄銀座線渋谷経由で東横線に乗って横浜まで行き、さらに京急線新逗子までたどりつく。そして逗子駅前からバスで鎌倉まで戻ったんだけど、あの日の海岸線も悲しくなるほど強い日差しで輝いていました。
 ただし、被災地から遠く離れた鎌倉でもその後、何日も寒さと計画停電の日が続き、小町通の人通りもぱったりと絶えていたなあ。

 海岸まで歩いてすぐなのに、東日本大震災の後、1か月ぐらいは海辺に出る気持ちにはなれませんでした。寒かったし。 

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 3月11日は鎌倉の しらす漁解禁の日でもあります。つまり、本日は生しらす2日目。早朝の漁を終え、砂浜ではすでに漁船が休息の時を過ごしていました。漁業関係の皆さんは朝が早いので、おじさんが動き出す頃にはもう、世の中、終わっています。でも、周回遅れが日常になりつつある今だからこそ、こうして日々の営みが続くことのありがたさを身に染みて感じるのかもしれませんね。そういえば、寒さに縮こまってしばらく海岸に出ないでいるうちに、洗濯物のようにワカメが日差しを受けて並ぶ風景も終わってしまったのかな。

 何もかも後手後手であっても春は来る。