米国のCDC(疾病管理予防センター)が米国内のHIV新規感染に関する2010~16年の動向をまとめています。年間の新規感染件数は2013年までのほぼ5年にわたって劇的な減少が続いたものの、減少ペースはすでに止まっており、2013年以降は横ばいの状態に移行しているようです。
米国政府のHIV/エイズ啓発サイトHIV.govに掲載された報告記事を日本語仮訳で要約したので、参考までに末尾に付けておきます。
実はこの記事は、「だからこそいま、トランプ大統領が一般教書演説で言及した米国内のHIV流行終結計画の遂行が重要なのです」というアピールに主眼が置かれています。感染が起きているところに資金を集中し、効果が実証されている予防対策を進めることで、今後10年で米国内のHIV新規感染を90%減らそうという戦略ですね。
詳しくは仮訳をご覧いただくとして、個人的には「データに基づく」と言われてもなんだか・・・という気持ちがぬぐえません。
わずか2年前の2017年2月には、全米のHIV新規感染について《2008年には推計4万5700人だったのが14年には3万7600人になっている》というCDCの報告がありました。
http://miyatak.hatenablog.com/entry/2017/02/22/224816
6年前と比べると18%も減っているということで、HIV/エイズ対策の成果を強調しています。もちろんデータに基づく分析ですが、わずか2年で、言っていることがこうもあっさりと変わってしまうの?という当惑はあります。エビデンスに基づき、その時に必要とされるメッセージを果敢に選択していく。それこそが科学を踏まえた政治ですよと言われれば、まあ、そういうことなんだろうけれど・・・。
2017年2月と言えば、トランプ政権が発足して1か月の時期ですね。それまでは8年間、民主党のオバマ政権が続いていました。したがって、当時の成果分析はオバマ政権下で用意されたものと見ていいでしょうね。いきなり軌道修正はできません。
ただし、それから2年かけて出された新戦略では、オバマ政権の8年間で米国内のHIV/エイズ対策は実はそれほどうまくいっていなかったというメッセージに切り替わっています。この科学的かつ政治的な姿勢は見事です。
「しょうがねえな、俺が何とかしなければ」とトランプ大統領が言ったかどうかは分かりません。たぶん言ってはいないでしょう。主要な関心事項ではないような感じもします。
それでも、あるいは、それだけに、HIV/エイズ対策の医療化を進めたくてうずうずしているお医者さんとトランプ大統領の波長が変にあってしまうと危ういことにもなりかねない。「アメリカ国内計画」、一見もっともらしいけれど、ちょっと変だ。あくまで私の個人的な感想ですが、データの政治的利用に関するこれほど鮮やかな豹変ぶりを目の当たりにすると、そんな印象もぬぐえません。
CDCデータが確認:HIV予防の成果は失速
https://www.hiv.gov/blog/cdc-data-confirm-progress-hiv-prevention-has-stalled
2019.2.27 今すぐ行動が必要
CDCが本日発表した報告書によると、年間の新規HIV感染の劇的な減少は止まり、新規感染は近年、横ばいとなっている。
報告書は最新の利用可能データである2010年から2016年までの米国内のHIV動向を紹介している。それによると、新規HIV感染は5年間にわたって大きく減少し、2013年に年間3万9000件まで下がった後、横ばいの状態に転じている。
2月5日の一般教書演説の中で、トランプ大統領は米国内のHIV流行を終結させるため、以下の基本4戦略を含む国家計画への協力を呼びかけた。
・ HIV感染を可能な限り早期に診断する。
・ ウイルス量の抑制状態が持続できるようを迅速かつ効果的にHIV治療を行う。
・ HIV予防のために毎日抗レトロウイルス薬を服用する曝露前予防内服(PrEP)など効果が証明されている予防アプローチを活用し、HIV感染の高いリスクに曝されている人を守る。
・ 新規感染が急拡大しているHIVクラスターに対応し、感染拡大に歯止めをかける。
ここで示された計画は、HIVの影響が大きい米国内の48郡とワシントンDC、プエルトリコのサンファン、および地方におけるHIVの影響が大きい7州を対象に構想されている。ゴールは10年間で新規HIV感染を90%減らすことだ。(詳細はHIV.gov参照)
米国内の新規HIV感染
全体的な動向に加え、報告書は様々なサブグループでのHV感染も検証している。データによると、年間の新規HIV感染件数は、減少している人口集団もあるが、逆に増加している人口集団もある。CDCは2010年から2016年までの年間HIV感染件数から以下のように推定している。
・ 新規感染の最も多く(約70%)を占めるゲイおよびバイセクシュアル男性の感染は全体では横ばいを保っている。だが、人種、民族、年齢によって動向は異なる。
- 人種、民族別では、黒人のゲイおよびバイセクシュアル男性は横ばい;ラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は30%増;白人のゲイおよびバイセクシュアル男性は16%減。
- 人種、民族および年齢別でみると、13~24歳では、黒人のゲイおよびバイセクシュアル男性は30%以上減少;ラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は横ばい;25~34歳では、黒人とラティーノのゲイおよびバイセクシュアル男性は65%増。
・ 異性愛者の男女は17%減。うちアフリカ系アメリカ人の異性愛女性では15%減
・ 注射薬物使用者では30%減。ただし、より最近の何年かは横ばいに転じているように見える
HIV感染の減少が止まったのは、効果的なHIV予防と治療が最も必要とする人たちに届いていないからだとCDCは推定している。このギャップは地方や南部でとりわけ深刻であり、アフリカ系アメリカ人やラティーノといった人口集団への影響が大きい。
効果があるHIV予防
積極的なHIV予防策の中にはすでに効果が証明されているものもある。たとえば、ニューヨークやワシントンDCのような大都市圏では、地元のHIV流行を排除する計画を策定しており、その成果があがりつつある。ニューヨークでは2010年から2016年の間に新規HIV感染が約23%減少し、ワシントンD.C.では約40%減少している。
CDCは各州や大都市の保健部局、コミュニティベースの組織にHIV感染の削減効果が証明されている対策を実施する資金を助成している。CDCのHIV予防アプローチに関する詳細情報はこちらで。新たな計画は今後10年間、こうした努力を補完し、促進させることになる。
https://www.cdc.gov/hiv/policies/hip/hip.html
HIV感染率:米国の年間推計2010~201のファクトシートはこちらで[PDF, 246KB]。
https://www.cdc.gov/nchhstp/newsroom/docs/factsheets/HIV-Incidence-Fact-Sheet_508.pdf
表はこちらで[PDF, 38KB]。
https://www.cdc.gov/nchhstp/newsroom/docs/2019/HIV-Incidence-Data-Tables_508.pdf
CDC Data Confirm: Progress in HIV Prevention Has Stalled
https://www.hiv.gov/blog/cdc-data-confirm-progress-hiv-prevention-has-stalled
February 27, 2019 – Need for immediate action —
‘Ending the Epidemic: A Plan for America’
The dramatic decline in annual HIV infections has stopped and new infections have stabilized in recent years, according to a CDC report published today.
The report provides the most recent data on HIV trends in America from 2010 to 2016. It shows that after about five years of substantial declines, the number of HIV infections began to level off in 2013 at about 39,000 infections per year.
The ‘Ending the HIV Epidemic’ Initiative
During his State of the Union address to the nation on Feb. 5, President Trump called for support of a national plan to end the HIV epidemic in America that is built upon four key strategies, including:
Diagnosing HIV as early as possible after infection.
Treating HIV rapidly and effectively to achieve sustained viral suppression.
Protecting people at risk for HIV using proven prevention approaches like pre-exposure prophylaxis (PrEP), a daily pill to prevent HIV.
Responding rapidly to growing HIV clusters to stop new infections.
The proposed initiative is designed to rapidly increase use of these strategies in the 48 counties with the highest HIV burden, as well as in Washington, D.C.; San Juan, Puerto Rico; and seven states with a disproportionate rural HIV burden. The goal is to reduce new HIV infections by 90 percent over 10 years. (For more details: HIV.gov)
New HIV Infections in America
In addition to the overall trend, the new report examines HIV infections among multiple subgroups. Data indicate that annual HIV infections declined in some populations, but increased in others. CDC estimates that from 2010 to 2016, annual HIV infections:
Remained stable among gay and bisexual men, who continue to account for the largest portion (about 70 percent) of new infections. However, trends varied by race/ethnicity and age:
By race/ethnicity, infections remained stable among black gay and bisexual men; increased 30 percent among Latino gay and bisexual men; and decreased 16 percent among white gay and bisexual men.
By race/ethnicity and age, infections decreased more than 30 percent among black gay and bisexual males ages 13 to 24; remained stable among Latino gay and bisexual males ages 13 to 24; and increased about 65 percent among both black and Latino gay and bisexual males ages 25 to 34.
Decreased about 17 percent among heterosexual men and women combined, including a 15 percent decrease among heterosexual African American women.
Decreased 30 percent among people who inject drugs, but appear to have stabilized in more recent years.
CDC estimates that the decline in HIV infections has plateaued because effective HIV prevention and treatment are not adequately reaching those who could most benefit from them. These gaps remain particularly troublesome in rural areas and in the South and among disproportionately affected populations like African-Americans and Latinos.
HIV Prevention that Works
Some intensified local efforts to prevent HIV have already proven effective. For example, urban areas like New York and Washington, D.C., have developed and enacted plans to eliminate their local HIV epidemics — and they are seeing the results of those commitments. New HIV infections decreased about 23 percent in New York and about 40 percent in Washington, D.C., from 2010 to 2016.
CDC provides funds to state health departments and some large local health departments and community-based organizations to deliver interventions proven to reduce HIV infections. Click here for more information about CDC’s approach to HIV prevention. The new initiative would supplement and accelerate these efforts over the next 10 years.
View a related fact sheet, HIV Incidence: Estimated Annual Infections in the U.S., 2010-2016 [PDF, 246KB]. View related data summary tables [PDF, 38KB].