多様性の中に共通する課題  アジア・太平洋版版サマリーから エイズと社会ウェブ版662

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)の年次報告書Global AIDS UPDATE 2023『The Path that Ends AIDS(エイズ終結への道)』にはアジア・太平洋地域の流行について気になる記述があります。全文はとても訳せないので、せめてExecutive Summary(概要版)でもと思い、日本語仮訳の作成を進めていて、あれ?と思いました。

 『世界の新規HIV感染のほぼ4分の1(23%)はアジア・太平洋地域で発生しており、感染の増加が警戒すべきレベルに達している国もある』(概要版10ページ)

 繰り返しになりますが、世界全体の新規感染の4分の1です。アジア・太平洋地域は、人口も多く、国の事情も大きく異なっています。つまり多様な混沌ともいえる状態を抱える地域ではありますが、日本の対策を考えるうえでも、ここはもうちょっと詳しく把握しておく必要がありそうです。

 UNAIDSアジア・太平洋地域事務所のウェブサイトには、年次報告書の地域版サマリー『アジア・太平洋地域のHIV流行』が掲載されています。この際・・・ということで、その日本語仮訳も作成し、API-Netに掲載してもらいました。こちらです。

https://api-net.jfap.or.jp/status/world/pdf/global_aids_update2023_asia.pdf

   

 その序文の中でイーモン・マーフィー地域事務所長は『政治的、経済的、社会的、文化的に多様な現実を背景にしつつ、アジア・太平洋地域には共通するパターンがあります』と指摘しています。キーポピュレーションの若者たちが不釣り合いに大きなHIVの影響を受けているということwあです。

 『アジア・太平洋地域では15-24歳の若年層が人口の15%を占めています。男性とセックスをする男性、薬物使用者、セックスワーカートランスジェンダー女性といったキーポピュレーションの若者は、その若年人口全体のごく一部です。しかし、性的パートナーを合わせれば、こうした若いキーポピュレーション層が域内の新規HIV感染者数全体のほぼ約4分の1(26%)を占めています』

 日本はもちろん、アジア・太平洋地域の中でも、HIV感染の拡大を最もよく抑えてきた国といえるでしょう。

 しかし、構造的にはキーポピュレーションの若い世代が予防や支援のサービスを利用しづらい要因をたくさん抱えているようにも感じられます。アジアの課題と無縁に存在しているわけではないと(少なくとも私は)思います。

 また、マーフィー所長は次のようにも述べています。

 『他のどの地域と比べても、アジア・太平洋地域では、HIV陽性者全体に占めるキーポピュレーションの人たちの割合が高くなっています。明確な使命感のもとで、キーポピュレーションのコミュニティが直面する健康と人権の課題に立ち向かわなければなりません。最も若く、最も弱い立場に置かれているメンバーに手を差し伸べることがとりわけ大切です』

 日本もまた、アジア・太平洋地域の課題を共有している国であることを改めて感じる指摘でもあります。多様性の中の共通点を踏まえつつ、アジア・太平洋版サマリーをお読みいただければ幸いです。