HIV変異株も出てきたぞ エイズと社会ウェブ版597

 

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行は、感染力が強いオミクロン株の登場で新たな局面を迎えています。病気の原因となるウイルスがどう変化するのか。変異株に対する世の中の関心もにわかに高まりました。

 個人的には、医学やウイルスの性質に詳しいわけではまったくなく、素人の聞きかじり情報で恐縮ですが、エイズの原因となるHIVはどうなんだろうか、これまでより感染力が強く、病原性も高いウイルスが出てきたら大変・・・などと思っていたら、それを見透かしたように2月7日付けで、国連合同エイズ計画(UNAIDS)のプレス声明が発表されました。

www.unaids.org

 日本語に訳すと、『急速に拡大しているHIV変異株の特定は、全てのHIV陽性者に検査と治療を提供し、パンデミックにストップをかけることが緊急課題であることを示す』といったところでしょうか。

 これまでよりも感染力が強く、症状も厳しいHIV変異株の存在がオランダにおけるコホートの研究で明らかになったということです。もとの研究報告は科学誌Scienceのウエブサイトに2月3日付けで紹介されています。とても論文までは読み切れませんが、冒頭の紹介部分によると、そのウイルスは、HIV-1のサブタイプBの変異株で、2000年ごろに登場し、100人以上の感染が確認されているということです。

 感染が診断されてからエイズ発症に至る期間も短く、かなり困った変異株のようですが、実は早期に抗レトロウイルス治療を受けていれば、CD4細胞数の回復も、死亡率も、この変異株以外のHIVと比べ大きな違いはないということです。

 ああ、なるほど・・・という感じですね。数多ある研究の中から、UNAIDSがあえてこの研究に注目してプレス声明まで発表したのは、だから早期にHIV検査で自らの感染を確認し、治療を受けることがいま緊急に必要ですよということを強調したかったからでしょう。もちろん、その指摘が間違っているというわけではなく、重要なメッセージであるとも思います(たぶん)。当面の世の中の関心事にメッセージを重ねていこうとする手法も非難すべきものではありません(たぶん)。

 でも、世の中を斜めに見たがる老人としては、変異株に対する恐怖や不安にうまく乗せられちゃったなあという印象もかすかに残ります。

 と言いつつ、以下、プレス声明の私家版日本語仮訳です。

 

 

急速に拡大しているHIV変異株の特定は、全てのHIV陽性者に検査と治療を提供し、パンデミックにストップをかけることが緊急課題であることを示す

 1000万人のHIV陽性者がいまなお抗レトロウイルス治療を受けていません

UNAIDS プレス声明

 

ジュネーブ 2022年2月7 - これまでより感染力が強く、症状も厳しいHIV変異株の存在がオランダの研究で明らかになりました。HIVの新たな変異株(サブタイプ)に感染した人は、免疫システムの低下率(CD4数の減少)が2倍になり、血中のウイルス(HIV)量が高く、診断後のエイズ発症も2〜3倍速まっています。この研究は、非常に病原性の高いHIVサブタイプB変異株を最初に発見したもので、オックスフォード大学ビッグデータ研究所の研究者が主導しています。また、研究によると、この変異株はオランダですでに何年にもわたって流行しており、HIV治療の効果が認められています。

HIVパンデミックは毎分、毎分、人びとの生命を奪い続けています。そして、医学者たちは以前から、HIVの新たな、そして感染力の強い変異株が出てくることを懸念してきました。新たに特定された変異株は、公衆衛生上の大きな脅威というわけではありません。しかし、HIVパンデミックを食い止めるための対応を緊急にスピードアップしなければならないことを強く訴えるものです。

「世界全体では1000万人のHIV陽性者がまだ治療を受けていません。ウイルスが継続的に拡散し、さらなる変異株出現の可能性もあるのです」とUNAIDSのイーモン・マーフィー副事務局長は語っています。「最も医療を必要としているコミュニティにその医療を届けられるよう最先端の医療イノベーションを急がなければなりません。HIV治療にしても、COVID-19ワクチンにしても、アクセスの不平等は私たち全員に打撃を与えるかたちでパンデミックを永続させることになります」

HIVは依然として、同時代の最も致命的なパンデミックです。亡くなった人も含めこれまでに推定7900万人が感染しています。ワクチンも完治のための治療法もありません。パンデミックが始まって以来、エイズ関連の病気で亡くなった人は推定3600万人に達し、2020年には年間150万人が新たにHIVに感染しています。世界のHIV陽性者数は約3800万人で、このうち2800万人が命を救う抗レトロウイルス療法を受けています。治療の継続により、自らの健康に保つとともに、他の人へのHIV感染を防いでいるのです。

 

UNAIDS PRESS STATEMENT

Identification of fast-spreading HIV variant provides evidence of urgency to halt the pandemic and reach all with testing and treatment

Around 10 million people living with HIV are still not on antiretroviral therapy

 

GENEVA, 7 February 2022—Newly published research from the Netherlands has revealed the existence of a more transmissible and damaging variant of HIV. People living with the newly revealed HIV subtype experience double the rate of immune system decline (CD4 count), have higher HIV viral loads (amount of virus in the blood) and are vulnerable to developing AIDS two to three times faster after diagnosis than if they were living with other strains of the virus. The study, led by researchers from the University of Oxford’s Big Data Institute, was the first to discover this highly virulent variant of the subtype-B of HIV. The study also revealed that the variant has been circulating in the Netherlands for years and remains receptive to HIV treatment.

The HIV pandemic continues to take a life every minute and scientists have long worried about the evolution of new, more transmissible, variants of HIV. This newly identified variant does not represent a major public health threat but underscores the urgency of speeding up efforts to halt the HIV pandemic.

“Ten million people living with HIV worldwide are not yet on treatment, fuelling the continued spread of the virus and potential for further variants,” said Eamonn Murphy, UNAIDS Deputy Executive Director, Programme, a.i. “We urgently need to deploy cutting-edge medical innovations in ways that reach the communities most in need. Whether it’s HIV treatment or COVID-19 vaccines, inequalities in access are perpetuating pandemics in ways that harm us all.”

HIV remains the deadliest pandemic of our time—an estimated 79 million people have become infected with the virus, for which there is still no vaccine and no cure. Some 36 million people have died from AIDS-related illnesses since the start of the pandemic and 1.5 million people were newly infected with HIV in 2020. Of the 38 million people living with HIV today, 28 million are on life-saving antiretroviral therapy, keeping them alive and well and preventing transmission of the virus.