差別的なCOVID-19渡航禁止令に反対し、国際行動規範を求める(IAS声明) エイズと社会ウェブ版589

 新型コロナウイルス感染症COVID-19の流行は、各国で病原ウイルスの新たな変異株オミクロンの感染例が報告され、日本でも再び警戒感が高まっています。ただし、水際対策の重要性を強調するあまり、特定国を対象に渡航禁止令を続けるような対応が妥当なものかどうか。国際エイズ学会(IAS)は11月30日に声明を発表し、科学的根拠に基づく国際行動規範を策定するよう求めています。

 声明は「しっかりと的を絞り、期限を区切った渡航禁止令は、変異株封じ込めの初期段階なら、適切な措置を取るための時間稼ぎとして役立つこともあります」としながらも、オミクロン株への対応については以下のように述べています。

 「オミクロン株はすでに多くの国で検出されており、少数の国を対象とした渡航禁止令で封じ込めることはできないでしょう。したがって効果はなく、むしろ逆効果の可能性があります」

 時間稼ぎをしている間に整えるべき「適切な措置」については「検査、ワクチンの予防接種、効果的な隔離・検疫戦略の推進」などが挙げられています。隔離や検疫が対策として否定されているわけではありません。この辺りはHIV対策とは異なっていますね。コロナ対策にはHIV/エイズの経験から学ぶべき教訓が数多くありますが、杓子定規に同じことをすればいいというわけではありません。感染経路や病態によって臨機応変に対応を考える柔軟性も必要です。

 ちょっと脱線しました。話を戻しましょう。IASのアディーバ・カマルザマン理事長は声明の中で「現在の情報とデータに基づいて判断すれば、渡航禁止令は政治的なポーズにすぎません。国内の政治的圧力に対応しているだけで、直面する課題に真に取り組んでいるわけではないのです」と語っています。かなり辛辣です。

 声明の趣旨からすると、日本の水際対策はどう評価したらいいのでしょうか。混乱はあるもののぎりぎり踏みとどまっているようにも感じられます。最悪の事態に備えるのが危機管理の要諦みたいな話はよく聞きますが、「それをやっちゃあ、おしまいだよ」という寅さん的常識もまた生活の知恵のひとつです。

 日本の対策の評価に詳しい方がいらしたらお教えいただければ幸いです。

 カマルザマン理事長は「さらに悪いことに」とコメントを次のように続けています。「こうした対応が広がれば、排除され罰を受けることを危惧して、各国が新たな変異株の発見など重要な情報の開示を抑えてしまうおそれもあります」

そもそも南アフリカから報告がなければ、いまだにオミクロン株が広がりつつあることにも気づかずにいたかもしれません。

声明は「オミクロンとHIV陽性者を結びつける報告にもIASは懸念を抱いています」とも述べています。

「こうした報告はスティグマをさらに広げるおそれがあります。HIV対策のアキレス腱であり続け、協調してCOVID-19と闘うことを妨げてもいるのです」

南アフリカ選出の理事であるリンダ・ゲイル・ベッカー博士はこう語っています。

声明はさらに「ワクチン普及が著しく不公平なかたちで進むことは、新たな変異株の出現を促すことにつながります」と指摘し、COVID-19ワクチンの普及格差を解消することが緊急の課題であることを改めて強調しています。

 

 以下、IAS声明の私家版日本語仮訳です。原文(英語)はこちらでご覧ください。

https://www.iasociety.org/The-latest/News/ArticleID/285/Discriminatory-COVID-19-travel-bans-IAS-calls-for-an-international-Code-of-Conduct

 

IAS声明

 

差別的なCOVID-19渡航禁止令:IASは国際行動規範を求めます

 

2021年11月30日(スイス・ジュネーブ) SARS-CoV-2オミクロン株の感染拡大を防ぐ目的でアフリカ南部諸国に渡航禁止令を課すことに関し、国際エイズ学会(IAS)は、新たな対応を余儀なくされている国々のための国際行動規範を求めます。この行動規範は、善よりも害をもたらす可能性が高い、なまくらな手段に頼るのではなく、科学的根拠に焦点を合わせるものです。

 しっかりと的を絞り、期限を区切った渡航禁止令は、変異株封じ込めの初期段階なら、適切な措置を取るための時間稼ぎとして役立つこともあります。適切な措置とは、検査、ワクチンの予防接種、効果的な隔離・検疫戦略の推進などです。

オミクロン株はすでに多くの国で検出されており、少数の国を対象とした渡航禁止令で封じ込めることはできないでしょう。したがって効果はなく、むしろ逆効果の可能性があります。

「現在の情報とデータに基づいて判断すれば、渡航禁止令は政治的なポーズにすぎません。国内の政治的圧力に対応しているだけで、直面する課題に真に取り組んでいるわけではないのです」とIASのアディーバ・カマルザマン理事長は語っています。「さらに悪いことに、こうした対応が広がれば、排除され罰を受けることを危惧して、各国が新たな変異株の発見など重要な情報の開示を抑えてしまうおそれもあります」

特定国に対し選択的で非科学的な渡航禁止令を課すことにより、新たな変異株の報告が抑えられ、すでに大きな打撃を受けている人たちへのスティグマが強まる。そうした事態を招くことをIASは恐れています。

新たな変異株の発見など、最新の情報に基づき責任を持って対応するには、国際的なコンセンサスが緊急に必要です。

「COVID-19の新たな変異株に関する情報を共有する際に各国の対応の指針となる国際行動規範が必要です。新たな情報への対応は、この行動規範に基づき、他の国に対してなすべきこと、およびなすべきではないことのリストを明確に示さなければなりません」とIASのシャロン・ルーウィン次期理事長は語っています。

オミクロンとHIV陽性者を結びつける報告にもIASは懸念を抱いています。「こうした報告はスティグマをさらに広げるおそれがあります。HIV対策のアキレス腱であり続け、協調してCOVID-19と闘うことを妨げてもいるのです」とIASのリンダ・ゲイル・ベッカー理事は指摘しています。

ワクチン普及が著しく不公平なかたちで進むことは、新たな変異株の出現を促すことにつながります。人びとと各国政府が力を合わせ、困っている人たちの支援に連帯して取り組まなければ、対応はできません。COVID-19ワクチンの普及格差は、HIVの流行で大きな打撃を受けてきたサハラ以南のアフリカのような地域で最も深刻です。高所得国では毎日、低所得国におけるワクチン投与量の6倍のブースター接種が進められています。

「オミクロンが特定された国からの渡航者に対する検疫を再開し、同時にあらゆる場所で予防接種を強化するとともに、冬が近づく北半球では社会的距離を保つこと。これが現状に対するより説得力のある対応だったのではないでしょうか」とIASのケネス・ヌグレ理事は述べています。

 メッセージは明確です。なまくらな手段に頼ることなく、各国は科学によって導かれた対応策を取るべきです。いかなる国も差別され、不当に罰せられないようにするための行動規範に同意する必要があるのです。

 

 

 

 

 

Discriminatory COVID-19 travel bans: IAS calls for an international Code of Conduct

International AIDS Society posted on 11/30/2021 4:40:00 PM

 

30 November 2021 (Geneva, Switzerland) – In view of the imposition of travel bans on southern African countries in a bid to prevent the spread of the Omicron SARS-CoV-2 variant, IAS – the International AIDS Society – calls for an international Code of Conduct for countries compelled to react to emerging COVID-19 information. The Code of Conduct would focus on scientific evidence rather than resorting to blunt measures that may cause more harm than good.

Very targeted and time-bound travel bans can be helpful early on when a variant is still entirely contained and if countries imposing such measures utilize the time it may buy for adequate measures. These include driving up testing, vaccinations and effective isolation and quarantine strategies.

The variant has been detected in many countries and, it appears, cannot be contained through a travel ban targeting a handful of countries. This renders these measures ineffective and potentially counterproductive.

“Based on current information and data, the travel ban has all the writings of a political posturing that responds to domestic political pressures rather than truly addressing the challenge at hand,” IAS President Adeeba Kamarulzaman said. “What’s worse, this reaction may potentially lead to countries withholding crucial information, such as the discovery of new variants for fear of being ostracized and punished.”

The IAS fears that the imposition of selective, unscientific travel bans could lead to underreporting of new variants and stigmatize those who are hardest hit already, for no fault of their own.

That’s why an international consensus on dealing responsibly with new information such as the discovery of new variants is urgently needed.

“We need an international Code of Conduct that guides countries in sharing information on emerging variants of COVID-19 and that also provides a clear list of to-dos and not-to-dos for other countries in reacting to such information,” IAS President-Elect Sharon Lewin said.

The IAS is also concerned by reports linking Omicron with people living with HIV. “These reports could further exacerbate stigma, which continues to be the Achilles heel of the HIV response and has been hampering concerted efforts in fighting COVID-19, as well,” IAS Executive Board member Linda-Gail Bekker said.

The grossly inequitable roll out of vaccines is fuelling the emergence of new variants and can only be addressed if people and governments join together in solidarity and support those in need. COVID-19 vaccine inequity is most acute in regions like sub-Saharan Africa, where HIV is most prevalent. Every day, six times more boosters are administered globally than primary doses in low-income countries.

“A more measured reaction to the situation at hand would have been to instate quarantine for people travelling from countries where Omicron has been identified while stepping up vaccination everywhere, and social distancing in the Northern hemisphere as winter approaches,” IAS Executive Board member Kenneth Ngure said.

The message is clear: rather than focusing on blunt instruments, countries should be guided by science and agree on a Code of Conduct that ensures that no country is singled out and unfairly punished.