『2カ月に1回のPrEP注射薬が女性のHIV感染予防に高い効果』 UNAIDS、IASが研究報告を歓迎  エイズと社会ウェブ版525

 HIV感染の曝露前予防(PrEP)について、抗レトロウイルス薬を2カ月に1回、注射すれば、経口の錠剤を毎日、服用するよりも予防効果が高くなるという研究成果が発表され、国連合同エイズ計画(UNAIDS)が歓迎のプレス声明が発表しました。

 また、国際エイズ学会(IAS)が主催するGlobal HIV Vaccine Enterprise(世界HIVワクチン事業)も歓迎の意を表し、そのことを伝えるニュースがIAS公式サイトに掲載されています。

 UNAIDSのプレス声明については、このブログの末尾に私家版の日本語仮訳を載せておきました。関心がおありの方は参考にしてください。

 ・・・ということで、あくまで聞きかじり、かつ付け焼刃の知識で恐縮ですが、ここではプレス声明とIASのニュースを情報源にして、少し背景を説明しておきましょう。

 長時間作用型の注射薬による曝露前予防(PrEP)については、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)がスポンサーのHIV予防試験ネットワーク(HPTN)により、HPTN083とHPTN084という二つの大規模研究が同時併行的に進められていました。

 カボテグラビルという抗レトロウイルス薬を曝露前予防(PrEP)目的で2カ月に1回、注射した場合、同じくPrEP目的で経口抗レトロウイルス薬ツルバダを毎日服薬した時と比べ、予防効果や安全性はどうなのかということを調べる研究です。資金は『ビル&メリンダゲイツ財団、NIAID、NIHの国立精神衛生研究所およびViiVヘルスケア』が負担しているようです。

 このうちHPTN083は、男性とセックスをする男性およびトランスジェンダー女性を対象に実施され、今年7月の第23回国際エイズ会議(AIDS 2020:Virtual)で中間報告が発表されました。アルゼンチン、ブラジル、ペルー、米国、南アフリカ、タイ、ベトナムで4570人の参加者が登録し、長時間作用型カボテグラビルがツルバダよりもHIV予防に効果が高いということが報告されました。中間とはいえ、この段階ですでに十分なエビデンスが示されているということで、最終報告を待たずに研究は終了しています。

 今回、新たに中間報告の結果が発表されたのは、HPTN084研究の方で、こちらはアフリカ7カ国(ボツワナケニアマラウイ南アフリカエスワティニ、ウガンダジンバブエ)の18〜45歳の女性3223人が参加しています。IASの記事によると『カボテグラビルを2カ月ごとに注射すれば、ツルバダの経口ピル(エムトリシタビン/フマル酸テノホビルジソプロキシル)を毎日服用するよりPrEPによるHIV感染の予防効果は89%高いことが示された』ということです。

 こちらも、効果ははっきりしているということで、独立のデータおよび安全性監視委員会の勧告にしたがって臨床試験は早期終了となっています。

 PrEPは高い予防効果があるというのがIASやUNAIDSの見解だったと思うのですが、それでも毎日服用より、2カ月に1回の注射の方が、効果が高いということを大々的に歓迎するということは、私のようにPrEPには批判的な感想を持っているものには、なんだよ、それ? といいたくなる気持ちはないこともありません。

 まあ、効果はあっても、予防のために毎日、薬を飲み続けるというのは大変なことだろうな、ということは容易に想像がつきます。

 UNAIDSも、IASも今回の画期的な成果により、有力な予防の選択肢が増えたことを大歓迎しています。特に若い女性のHIV感染が大きな課題となっているアフリカで、女性を対象にした研究の成果は重要ということです。

 繰り返しになりますが、PrEPに対しては個人的にあまり賛成できないという思いが私にはあります。それでも、それぞれの地域やコミュニティや感染の高いリスクに曝されている人たちの事情は様々なのだろうし、必要なところで、その選択肢を必要とする人がいれば、それでもなお「使ってはいけない」ということはできないだろうな・・・とは思います。あくまで私の感想です。

 翻って、国内のことにも言及すれば、個人的には積極的に普及を呼びかけるつもりはないけれども、普及に熱心な人がいればそれに反対することもない。したがってPrEPについては、これまで通り静観していようかなという感じです。以下に紹介するUNAIDSのプレス声明とは熱量に大きな差があります。せっかく声明を出していることでもあるし、個人的には静観でも、紹介すべき資料があり、紹介できる条件が整っているのなら紹介しておきましょうということで、歯切れはよくないのですが、悪しからず。

 

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長時間作用型注射薬が女性のHIV予防に高い効果があることを示す新たな結果を歓迎

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)プレス声明

www.unaids.org

 

ジュネーブ 2020年11月9 抗レトロウイルス薬のカボテグラビルを2カ月に1回、注射すれば女性のHIV感染をより効果的に予防できる。UNAIDSはこのことを示す最新の研究成果を歓迎するとともに、大いに勇気づけられました。研究では、サハラ以南のアフリカの女性を対象に長時間作用型の抗レトロウイルス薬を2カ月に1回、注射したところ、暴露前予防(PrEP)として錠剤を毎日、服用する場合に比べ、HIV感染の予防効果が89%高くなることが示されています。

 「この結果は極めて重要です。UNAIDSは長い間、女性のために、受け入れやすく効果的なHIV予防の選択肢が追加されることを長く求めてきました。この成果は真のゲームチェンジャーになり得るでしょう」とUNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は語っています。「HIV感染の高いリスクに曝されている女性たちが注射でPrEPを利用できるようにするため、ドナーおよび各国が本気で投資を行えば、HIVの新規感染を劇的に減らすことができるのです」

今回の治験はボツワナケニアマラウイ南アフリカエスワティニ、ウガンダジンバブエで行われ、HIV感染の高いリスクにさらされている18歳から45歳までの女性3200人以上が参加しています。錠剤を毎日、服用するよりも注射薬の方が効果的なことが統計的にはっきりと示されたことから、データおよび安全性監視委員会の勧告にしたがい治験は早期に中止されました。

これまでのデータでは、ランダムに割り当てられた経口PrEPのグループのHIV感染は34件だったのに対し、カボテグラビルの注射薬を受けているグループでは4件となっています。毎日の経口PrEPに比べ、カボテグラビル注射のHIV感染リスクは9分の1でした。

毎日あるいはほぼ毎日の錠剤服用、コンドーム使用、禁欲といった従来の予防策だけでなく、HIV感染の高いリスクにさらされている女性が感染を予防するためには、もっと多くの方法が緊急に必要となっていることから、今回の研究結果は極めて重要かつタイムリーなものです。これまでとは異なるHIV感染の予防法の開発が進み、すでに利用できるものよりも続けやすいスケジュールで選択できる方法が増え、女性が受け入れやすくなれば、HIVの新規感染は減少していきます。

 「この画期的な研究に携わったすべての人にUNAIDSはお祝いの言葉を述べたい」とビヤニマ事務局長は述べています。「「COVID-19ワクチンも同じことですが、私たちはいま、人生を大きく左右することになるこうした注射薬が利用可能になり、手頃な価格で入手でき、この方法を選択した人に公平に届くようにしなければなりません」

 

 

 

UNAIDS hails new results showing that long-acting injectable medicines are highly effective in preventing HIV among women

 

GENEVA, 9 November 2020—UNAIDS is strongly encouraged by new study results showing that the antiretroviral medicine cabotegravir, which is administered by injection every two months, prevents HIV among women. The study shows that the long-acting injections among women in sub-Saharan Africa were 89% more efficient in preventing HIV compared to daily tablets of pre-exposure prophylaxis (PrEP).

“These results are hugely significant. UNAIDS has long been calling for additional, acceptable and effective HIV prevention options for women, and this could be a real game-changer,” said Winnie Byanyima, Executive Director of UNAIDS. “If donors and countries invest in rolling out access of injectable PrEP to women at higher risk of HIV, new infections could be dramatically reduced.”

The trial enrolled over 3200 women aged between 18 and 45 years who were at higher risk of acquiring HIV in Botswana, Kenya, Malawi, South Africa, Eswatini, Uganda and Zimbabwe. The trial was halted early on the recommendation of the Data and Safety Monitoring Board due to clear statistical evidence showing that the injectable medicine is more effective than a daily pill.

Four HIV infections occurred among women randomly assigned to the cabotegravir injectable arm of the study, compared to 34 infections in the arm that was randomly assigned to daily oral PrEP. The risk of HIV was ninefold lower with cabotegravir injections than with daily oral PrEP.

The study results are important and timely as more methods to prevent HIV among women at higher risk of HIV are urgently needed, including methods that do not depend on daily or near-daily pill-taking, condom use or abstention from sex. The development of alternative methods to prevent HIV, and more adherence-friendly schedules than are currently available, will increase the HIV prevention choices and acceptability for women and reduce new HIV infections.

“UNAIDS congratulates everyone involved in this landmark study,” said Ms Byanyima. “Like with a COVID-19 vaccine, we now must work to ensure that these life-changing injections are accessible, affordable and equitably distributed to people who choose to use them.”