HIV対策の分野で科学的な成果が、法律や政策に反映されているかどうか。それどころじゃないでしょ、いまは・・・ということで、最近の日本国内の雰囲気では、関心を持つ人は極端に少ないかもしれませんが、重要な問題です。
そもそもいまはコロナの国難にどう対応するかだとか、国民一丸となってだとか、何にも増してそんなことを言っている人たちの多くも、去年のいまごろはどうだったのか。未知の感染症パンデミックへの備えはできていますか、などと問われても、鼻で笑っていたことでしょう。
人のことを言っている場合ではありませんね。私も1年前のいまごろは、ラグビーW杯で日本代表がどこまで健闘できるかがが最大の関心事でした。いやあ、懐かしいなあ。去年の秋のこととは思えない。
それはともかくとして、HIV/エイズ対策は、忘れられていい過去の課題などではありません。現在進行形です。各国別に関連の法律と政策の現状を把握し、今後の対策に生かしていこうということで、国連合同エイズ計画(UNAIDS)と米ジョージタウン大学の研究機関、世界HIV陽性者ネットワーク(GNP+)などが協力して、HIV Policy Labというイニシアティブ(先駆的計画)を立ち上げました。
といっても、それだけでは、何のこっちゃ分かりませんね。UNAIDSの公式サイトに9月29日付けでプレスリリースが掲載されていたので、日本語に訳してみました。
《HIV Policy Labは、世界194か国を対象に33の指標でデータを集め、各国の政策環境を視覚化して比較可能にするツールです》
何か長靴の上からしもやけを掻いているような感じでで、まだ、分かりにくい。要するにどんなものなのか。
試みに公式サイトを開き、国別で日本のデータを見てみましょう。
https://www.hivpolicylab.org/jp
33指標は「治療」「検査と予防」「社会構造」「保健システム」の4分野に分かれています。
法律と政策からみた日本のHIV対策の現状は・・・。全体評価でみると、「SOME」となっています。5段階評価の3(真ん中)なので、「それなりに」とか「まあまあかな」といったあたりでしょうか。
4分野別の評価では世界平均も示され、平均より高いか、低いかもわかるようになっています。それでみると、「治療」「検査と予防」は世界平均のちょっと下、「社会構造」はほぼ世界平均並み、「保健システム」はちょっと上とあたりでしょうか。個別の項目については英文で恐縮ですが、サイトに直接あたってみてください。
個人的な感想を言えば、これはちょっと採点が辛いんじゃないのというところもあれば、けっこう甘いねという項目もあります。それでも、日本の対策の現状とすり合わせてみると、ああ、そうなのか、確かにこの辺りは少々、弱いね・・・といった参考にはなりそうです。
以下、プレスリリースの日本語仮訳も紹介しておきましょう。
HIV対策に関連する法律と政策のデータを集約 HIV Policy Lab プレスリリース
ワシントン/ジュネーブ 2020年9月29日 - 科学的にみるとHIV対策はこの数十年、進歩を続けているのに、その成果はいまなお不均衡な状態のままです。エイズ関連の死者数や新規HIV感染者数が急速に減少している国もあれば、流行が拡大している国もあります。その相違を促す大きな要因となっているのが法律と政策です。
HIVに関連する世界の法律や政策に関するデータを集め、検証していくイニシアティブ(先駆的計画)としてHIV Policy Labが本日、開設されました。
「HIVに関しては法律と政策が生死にかかわる問題になります。人びとが自らの権利を実現し、健康に暮らせるようにするうえで、法律と政策は科学のもたらした成果を最大限に利用できるようにします。ただし、人びとの幸福が法律と政策によって妨げられるおそれもあるのです。政策環境を測定できるようにし、必要なら変革していくことが、エイズ対策には他の重要課題と同様、大切になります」とUNAIDSのウィリー・ビヤニマ事務局長は語っています。
HIV Policy Labは、世界194か国を対象に33の指標でデータを集め、各国の政策環境を視覚化して比較可能にするツールです。透明性を高めること、情報を理解し活用する能力を高めること、各国の比較を通して政府が近隣諸国から学べるようにし、市民社会が説明責任の力をつけ、研究者がHIVパンデミックに対する法律や政策の影響を研究しやすくすることがこのツールの目的です。
ジョージタウン大学オニール研究所グローバルヘルス政策と政治イニシアチブのマシュー・カバナ部長によると「政策は政府が科学を活用するための方法であり、健康状態の改善を進めるには、その構成要素となる政策の監視と評価が不可欠」です。
「スティグマを減らし、ケアを受けやすくすることは、HIV陽性者の生活を改善するための基本であり、政策選択に大きく左右されます。その選択を追跡することは、政策を改善し、HIV陽性者が正義と公平を確保するための重要なツールになります」と世界HIV陽性者ネットワークのリコ・グスタフ事務局長は述べています。
HIV Policy Labは、各国がUNAIDSに提出した国別報告(National Commitments and Policy Instrument)や法的文書、政府報告書から情報を引き出し、独立した分析をもとにして国別、課題別に比較可能なデータセットを作成しています。HIV Policy Labの目標は、エビデンスと政策の間のギャップを把握し、それに対処すること、より包摂的かつ効果的で、人権と科学的成果を重視したHIV政策を進めるための説明責任を果たせるようにすることです。
HIV Policy Labは、ジョージタウン大学とオニール研究所、UNAIDS、世界HIV陽性者ネットワーク、TalusAnalyticsの協力で作られました。
PRESS RELEASE
New HIV Policy Lab uses law and policy data in the HIV response
WASHINGTON, D.C./GENEVA, 29 September 2020—Despite decades of scientific advance in the HIV response, progress remains uneven, with some countries rapidly reducing AIDS-related deaths and new HIV infections and others seeing increasing epidemics. Laws and policies are driving a significant part of that divergence.
Launched today, the HIV Policy Lab is a unique initiative to gather and monitor HIV-related laws and policies around the world.
“Laws and policies are life or death issues when it comes to HIV. They can ensure access to the best that science has to offer and help people to realize their rights and live well, or they can be barriers to people’s well-being. Like anything that matters, we need to measure the policy environment and work to transform it as a key part of the AIDS response,” said Winnie Byanyima, UNAIDS Executive Director.
The HIV Policy Lab is a data visualization and comparison tool that tracks national policy across 33 different indicators in 194 countries around the world, giving a measure of the policy environment. The goal is to improve transparency, the ability to understand and use the information easily and the ability to compare countries, supporting governments to learn from their neighbours, civil society to increase accountability and researchers to study the impact of laws and policies on the HIV pandemic.
According to Matthew Kavanagh, Director of the Global Health Policy & Politics Initiative at Georgetown University’s O’Neill Institute, “Policy is how governments take science to scale. If we want to improve how policy is used to improve health outcomes, it is essential to monitor and evaluate the policies that comprise it.”
“Reducing stigma and making care easier to access are fundamental for improving the lives of people living with HIV—and those are all consequences of policy choices. Tracking these choices is a key tool for improving them, and ensuring justice and equity for people living with HIV,” said Rico Gustav, Executive Director of the Global Network of People Living with HIV.
The HIV Policy Lab draws information from the National Commitments and Policy Instrument, legal documents, government reports and independent analyses to create data sets that can be compared across countries and across issues. The goal of the HIV Policy Lab is to help identify and address the gaps between evidence and policy and to build accountability for a more inclusive, effective, rights-based and science-based HIV policy response.
The HIV Policy Lab is a collaboration between Georgetown University and the O’Neill Institute for National and Global Health Law, UNAIDS, the Global Network of People Living with HIV and Talus Analytics.