「人びとのワクチン」を求める公開書簡 エイズと社会ウェブ版514

  新型コロナウイルス感染症COVID-19のパンデミックによる死者が100万人を超える中で、製薬企業幹部に宛てて「利益追求のためのワクチンではなく、人びとのためのワクチン開発を」と求める公開書簡(PDF版)が9月29日、国連合同エイズ計画(UNAIDS)の公式サイトに掲載されました。

https://www.globaljustice.org.uk/sites/default/files/files/resources/pv_alliance_open_letter_final.pdf

 UNAIDSのプレスリリースと合わせて載っています。

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 書簡は国連総会のサイドイベントとして9月30日にニューヨークで開催されたパンデミック対策に関する会合に先立って公開されています。

 発信者は『人びとのワクチン連盟』で、COVID-19の生存者、COVID-19で近親者を亡くした人、COVID-19の高い重症化リスクを抱える人など約1000人が署名しています。製薬会社に協力をお願いする書簡ではありますが、『必要なのは、もうけるためのワクチンではなく、人びとのためのワクチンです』とかなり厳しい指摘もみられます。

 『それでも、あなたたち製薬会社はいつも通りのビジネスを続け、研究とノウハウの共有を拒否して独占を擁護してきました。それが妨げとなって、生産は制限され、価格は上がり、私たち全員が危険にさらされる結果を招くのです。解決策を厳重に封印し続けるようでは、打つ手はありません』

 もうけに走ってワクチンを開発し、その大半を富裕国に売りつけようといった料簡では、パンデミックは終わりませんよという警告です。どうしても激しくなっちゃうんでしょうね。

 プレスリリースによると、書簡の送り手である『人びとのワクチン連盟』は、《知識の共有に基づき、誰もが、どこにいても自由に利用できるCOVID-19ワクチン(人びとのワクチン)を求めるという共通の目的のもとに集まった組織および活動家の連合体》で、書簡のとりまとめはUNAIDSと国際協力団体のオクスファムが行っているようです。UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は、就任の直前までオクスファム・インターナショナルの事務局長だったので、連携が取りやすいのかもしれません。

 『人びとのワクチン連盟』は今年5月18、19日に開かれた世界保健総会(バーチャル総会でした)でも、公開書簡を発表し、『ワクチン、治療、検査を特許フリーとし、大規模に製造してすべての国のすべての人が無償で利用できるよう平等に提供する』ということを求めています。この時は各国の保健分野の指導者、そして今回は製薬会社の幹部がターゲットです。プレスリリースには以下のような追記(ノート)もあります。

《オクスファムが今月(2020年9月)初めに明らかにした分析によると、現在開発中の主要なCOVID-19ワクチン候補の将来的な供給可能量の半分以上(51%)が、世界人口のわずか13%を占めるに過ぎない富裕国によってすでに買い占められている》

 いくら言っても・・・という感じがしないこともありませんが、それでも以前に比べれば、書簡の指摘に共鳴する人が増えているように思います。企業にとっては社会的な評価も重要な資産です。もうけることしか考えていないなどという評判が広がってしまったら商売もやっていけない時代・・・とまで、はっきり書けるかどうか、ちょっと自信がないけど。日本ではどうでしょうか。

 以下、日本語仮訳です。少し長くなりますが、初めに公開書簡、次いでプレスリリースを紹介します。

 

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製薬企業幹部に宛てた公開書簡

https://www.globaljustice.org.uk/sites/default/files/files/resources/pv_alliance_open_letter_final.pdf

 

2020年9月××日

製薬企業リーダー様

COVID-19からの回復者、COVID-19で家族や親戚を失った者、および重症化のリスクが高い者として、人びとのワクチンに対する支援を求める書簡を差し上げます。かつてないパンデミックに直面し、COVID-19のワクチンと治療薬が必要なすべての人に確実に届くようにするには、独占を改め、知識を共有し、生産を増やせるようにしなければなりません。そうでなければ世界が共有できる利益にはならないのです。多くの人の命にかかわる今回の事態において、ワクチン開発を進める製薬業界のリーダーとしての皆さんの協力は極めて重要です。

 私たちの中には、この致死的な病で愛する人を失った人もいます。自ら死の直前に至る経験をしたひともいます。この病気にかかると死んでしまうという恐れを抱えながら暮らしている人もいます。あなた方が利益を独占しようとすれば、他の人がこうした状態に置かれる。そのようなことは正当化できません。私たちの多くはワクチンへの優先的アクセスを確保できる富裕国に住んでいるわけではありません。おそらく列の後ろにいるのだろうということは分かっています。

私たちはこのウイルスが恐るべき速度で世界に広がるのを見てきました。すべての人の安全を保つ最善の方法は、COVID-19ワクチンを必要とする人が誰でも、確実にワクチンを受けられるようにすることです。あなたたちのような企業が、知識を共有し、できるだけ多くのメーカーが大量にワクチンを製造できるようにしなければ、それは可能になりません。一つの企業だけで、必要とするすべての人が確実にワクチンを利用できるだけの供給量を確保することはできないのです。必要なのは、もうけるためのワクチンではなく、人びとのためのワクチンです。

それでも、あなたたち製薬会社はいつも通りのビジネスを続け、研究とノウハウの共有を拒否して独占を擁護してきました。それが妨げとなって、生産は制限され、価格は上がり、私たち全員が危険にさらされる結果を招くのです。解決策を厳重に封印し続けるようでは、打つ手はありません。

人びとの命を救い、ロックダウンを終わらせることができる薬やワクチンを開発し、供給可能にするために、各国政府はあなた方の会社に何十億ドルもの投資を行っています。納税者はそのことを決して忘れません。こうした公的資金は、誰もが利用できるワクチンのためのものです。独占を生み出したり、もうけを最大化したりするためではありません。

今回のパンデミック以前にも、製薬会社による利益追求の結果、HIVや癌などの病気の治療薬が高価で手の届かなくなって多くの人が健康を害し、親しい人が亡くなっていくのを見てきました。かつてないこの世界的緊急事態は、患者の医療アクセス改善に向けた医学研究への資金提供と価格設定、研究成果の共有のための新たな方法を探求するユニークな機会を私たちに提供しています。

 ひとつの方法は、ワクチン技術のライセンスと知的財産権を直ちに世界保健機関(WHO)のCOVID-19技術アクセスプール(C-TAP)に供与することです。C-TAPは、複数の特許や技術の保有者との間で個別に取り引きするのではなく、ワクチン製造に必要なライセンスを一カ所で取得できるようにする仕組みです。このため、開発途上国を含め、ワクチンを製造できる企業に製造のライセンスを供与できるようになります。

母親や兄弟、娘といった人たちが効果的なCOVID-19ワクチンまたは治療を受けられるようにするためならできる限りのことをするのと同じように、誰もがこの恐るべき病に怯えて生きていかなくてもすむように、どうかあらゆる可能な行動を取っていただくようお願いします。

ご返信をお待ちしております。

 (署名者リスト)

 

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UNAIDSプレスリリース

パンデミックによる死者数が100万人を超える中で、37か国のCOVID-19生存者が製薬会社の幹部に宛てた公開書簡で人びとのためのワクチンを求める

https://www.unaids.org/en/resources/presscentre/pressreleaseandstatementarchive/2020/september/20200929_covid-19-survivors-write-to-pharmaceutical-bosses-to-demand-a-peoples-vaccine

 

ジュネーブ 2020年9月29 - 37か国のCOVID-19生存者を含む約1000人が署名し、製薬会社の幹部に宛てて公開書簡を提出しました。特許の制約を受けずに、すべての人が利用できる「人びとのワクチン」と治療薬の確保を求めています。この書簡は、ニューヨークで明日(9月30日)、開催される国連総会のパンデミックに関するハイレベル・サイドイベントに先立ち公表されました。

署名者には、南アフリカからフィンランドまで、そしてニュージーランドからブラジルまでのCOVID-19生存者242人が含まれます。また、このウイルスにより、家族や親戚を失った46カ国190人、およびCOVID-19が重症化し、死亡するリスクが高い健康状態の572人も署名しています。

 書簡は次のように述べています。:「私たちの中には、この致死的な病で愛する人を失った人もいます。自ら死の直前に至る経験をしたひともいます。この病気にかかると死んでしまうという恐れを抱えながら暮らしている人もいます。あなた方が利益を独占しようとすれば、他の人がこうした状態に置かれる。そのようなことは正当化できません」

書簡はまた、製薬会社について「いつも通りのビジネスを続け、研究成果の共有を拒否して、独占をまもろうとする」と述べ、製薬業界のリーダーに対し「独占を排し、製造物とその知識を共有できるようにして、COVID-19のワクチンと治療薬を必要とするすべての人に届けられるようにすること」を求めています。

製薬業界の独占体制が続けば、効果的なワクチンと治療薬を生産できるのは少数の製薬企業に限られ、世界全体の需要に対応できるだけの大量生産を妨げる結果になります。書簡は企業に対しワクチン技術のライセンスと知的財産権を直ちに世界保健機関(WHO)のCOVID-19技術アクセスプール(C-TAP)に供与することを提案しています。

署名者の1人、タジキスタンのDilafruz Gafurovaさん(43)は次のように述べています。「私も私の夫もこの病気にかかりました。頼れるのは自分たちだけです。病院はいっぱいでした・・・。適切な薬を手に入れるのは本当に大変でした。4人の子供の母親なので・・・私に何かあったらと思うと、この子たちが心配でした・・・。書簡に署名したのは、他の人がワクチンを受けられるようにするためです。いまワクチンが開発されたとしても、経済的な理由から、世界中のすべての人が入手できるわけではありません。毎日、暮らしていくのも苦しいのです」

書簡は人びとのワクチン連盟が提出しました。知識を共有することで、世界中の誰もが、どこにいようと、自由にCOVID-19のワクチンを受けられるようにするという共通の目的のもとに集まった組織およびアクティビストの連合体です。

国連総会では明日(9月30日)、ビル・ゲイツ氏、ボリス・ジョンソン英首相ら著名人がワクチンのアクセス問題を議論します。ワクチンと治療薬の供給を最大化するには技術の共有を製薬会社に強く働きかける必要がありますが、富裕国政府はいまのところ、それができずにいます。

 人びとのワクチン連盟のメンバーで、GlobalJusticeNowのHeidi Chowさんはこう語っています。「製薬会社は、COVID-19による恐怖と荒廃を経験している世界中の人たちのニーズに対応しなければなりません。業界はこれらの声に耳を閉ざすことはできません。いますぐ独占に終止符を打ち、製造のノウハウを共有すべきです。ワクチン供給を拡大し、すべての国が効果的なワクチンを手頃な価格で利用できるようにすることが不可欠なのです」

 UNAIDSのウィニー・ビヤニマ事務局長は次のように述べました。「エイズの治療法が見つかったときには、富裕国の豊かな人たちは健康を取り戻すことができたのに、途上国では何百万もの人々が死んでいく現実が明らかにされました。COVID-19のワクチンが見つかったときに、同じ過ちを繰り返すことはできません。健康への権利は基本的な人権です。所持金や肌の色で予防接種を受けられるかどうかを決めるべきではありません。ワクチンは世界の公共財です。すべての人が無料で受けられるようにしなければならないのです」

また、人びとのワクチン連盟は各国政府に対しても、製薬会社が特許を取得せずに知識と技術を共有しないという条件付きで、COVID-19の診断薬、ワクチン、治療薬の研究開発に公的資金を提供するよう求めています。効果的なワクチンが得られたら、すべての国で医療従事者や重症化リスクの高い集団を優先して、そのワクチンを公平に分配することも求めています。

 

編集者への注:公開書簡全文はこちらで。

https://www.globaljustice.org.uk/sites/default/files/files/resources/pv_alliance_open_letter_final.pdf

 

ハイレベル・サイドイベント『COVID-19パンデミック終息に向けて』:ニューヨークの第75回国連総会で9月30日に開催。人の命を救い、医療体制をまもり、世界経済を再開するための新たな解決策をさぐるため、国連事務総長、WHO事務局長、英国と南アフリカを含む各国指導者、UNAIDSのウィニービャニマ事務局長らが参加。

公開書簡には941人が署名。 以下37カ国のCOVID-19生存者242人も含む。オーストラリア、アゼルバイジャンバングラデシュ、ベルギー、ブラジル、ブルンジ、カナダ、デンマークフィンランド、フランス、ドイツ、インド、アイルランド、イタリア、日本、ケニアレバノン、モロッコ、オランダ、ニュージーランドニカラグアパキスタン、フィリピン、ポーランドポルトガル北マケドニア共和国、ロシア、セネガルスロベニア南アフリカ、スペイン、スウェーデンタジキスタンウガンダ、英国、米国、ザンビア。複数のカテゴリーにまたがることもある。署名者リストの入手も可能。書簡は現在フェーズ3試験中の11のワクチン候補の開発を進める製薬会社に送付。

人びとのワクチン連盟は、知識の共有に基づき、誰もが、どこにいても自由に利用できるCOVID-19ワクチン(人びとのワクチン)を求めるという共通の目的のもとに集まった組織および活動家の連合体。グローバル・コモングッド(世界共通の公益性)。オクスファムとUNAIDSがコーディネートし、Frontline AIDS、Global Justice Now、Nizami Ganjavi International Center、STOPAIDS、Wemos、YunusCentreが参加。世界の指導者、元指導者、経済学者ら140人以上が、COVID-19に対する人びとのワクチン実現に向けて連帯するよう各国政府に求めている。

 オクスファムが今月(2020年9月)初めに明らかにした分析によると、現在開発中の主要なCOVID-19ワクチン候補の将来的な供給可能量の半分以上(51%)が、世界人口のわずか13%を占めるに過ぎない富裕国によってすでに買い占められている。