米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は2003年1月、当時のブッシュ大統領がアフリカとカリブ諸国のエイズ対策に5年間で150億ドルを支出する考えを表明し、議会で超党派の賛同を得て制度化されました。
とはいえ、保守派であり、妊娠中絶には厳しい立場をとる共和党のブッシュ大統領がなんでまたエイズ対策にそんなに熱心なの・・・といった懐疑論も当初はありました。
共和党政権であるか、民主党政権であるかに関わりなく、米国がそこまで本気にならざるを得ない。HIV/エイズの世界的流行はそれほどの緊急事態だったということでもあります。(もちろん、いまも大変な事態ですが、それ以上の切迫感がありました。現状は、ある程度の成果があがったことから、どことなく世界が切迫感を欠き始めていることに、むしろ危機感を持つ必要があります)
2001年の国連エイズ特別総会を経て、2002年に世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)が創設され、その翌年にPEPFARが生まれています。
グローバルファンドとPEPFARという2つの資金供給源がなければ、その後、流行の拡大を何とか食い止めるという成果はあり得なかったでしょう。
PEPFARはブッシュ政権からオバマ政権、そして現在のトランプ政権まで、15年間にわたって大きな貢献を果たしてきました。
国連合同エイズ計画(UNAIDS)は、2018年版のPEPFAR成果報告書が発表されたのを機会に公式サイトで紹介記事を掲載しています。短い記事ですが、PEPFARがいかに重要な貢献を果たしてきたか、ほめたたえる内容です。トランプ政権になって拡大版グローバルギャグルールが採用され、低・中所得国のHIV/エイズ対策がかなり大きなダメージを受けているというようなことには、外交的配慮もあるのか触れていません。
それはそれで重要な論点なのですが、どう対応するのか、微妙なところです。
PEPFARを統括するデボラ・バークス大使(世界エイズ調整官)はオバマ政権時代の2014年4月に就任し、人事が無茶苦茶といわれるトランプ政権に移行してからもすでに2年近く留任しています。下手に政権の批判をしてバークス大使がとばっちりを受けるような事態を招きでもしたら元も子もないではないか。勝手に推測すれば、UNAIDSの側にもそんな配慮があるのかもしれません。あくまで、もしかしたらという程度の根拠のない推測です。
当ブログでは以前、拡大版グローバルギャグルールについても取り上げたことがあるので参考までに、そちらも紹介しておきましょう。
話をもとに戻して、以下、UNAIDSのPEPFAR紹介記事の日本語仮訳です。マンデラさんの写真をバックにしたお二人がバークス大使(右)とシディベ事務局長ですね。
PEPFAR:最初の15年
2018.9.28 UNAIDS Feature Story
米国のジョージ・W・ブッシュ大統領が2003年の一般教書演説で構想を明らかにした米大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)は、2018年で創設15年を迎えた。過去15年の間にPEPFARは地球規模のHIVへの対応を劇的に変え、米国の政権が以後、民主、共和両党へと交代していく中でも、エイズの流行に対応するPEPFARの活動には超党派の支援が続いている。
最初は5年間で150億ドルの資金でスタートし、PEPFARはこれまでに700億ドルの資金貢献を果たしてきた。その資金は目覚ましい成果を収めている。2017年には、世界でHIV治療を受けている2170万人のHIV陽性者のうち、子供100万人を含む1330万人はPEPFARの支援により治療が保障されている。さらに2018年5月にはPEPFARの支援で治療を受けている人が1400万人を超えたことが発表されている。
PEPFARは主要なHIV予防プログラムにも資金を提供してきた。自発的な男性器包皮切除によるHIV感染の予防効果は、2003年からPEPFARが1520万件分の手術の資金を提供したことで大きく高まっている。母子感染予防サービスへの支援で220万人の赤ちゃんがHIVに感染せずに生まれている。また、8550万人がHIV検査を受け、その結果kとして治療を開始したり、HIV感染を防ぐための予防サービスを受けたりすることができるようになった。
2017年には、HIVによって両親を失ったり、弱い立場に置かれたりしている子供たち640万人がPEPFARによる支援を受けている。また、PEPFAR DREAMというプログラムにより、プログラム実施地域では、思春期の少女や若い女性の新規HIV感染が25~40%も減少している。
PEPFARは9月27日、2018年版の成果報告書を発表し、2017~2020年戦略の初年度の成果を報告しています。53カ国のエイズ対策を支援し、このうち13カ国はすでに、HIVの流行をコントロールするための2020年高速対応目標の軌道に乗っています。ほかの多くの国も、HIV予防、治療のサービスへのアクセスを確保するための資金を増やし、政策を充実させれば、軌道に乗ることが可能になります。
「PEPFARの貢献が世界中のHIV陽性者およびHIVに影響を受けている人たちの人生を変えてきました」とUNAIDSのミシェル・シディベ事務局長は語る。「長期にわたるパートナーシップを誇りに思い、男性、女性、子供、そして最も排除されやすい人たちのために、今後も緊密な協力して活動を続けていくことを期待しています」
PEPFAR: the first 15 years
28 September 2018
First announced during the 2003 State of the Union Address by the then President, George W. Bush, the United States President’s Emergency Plan for AIDS Relief (PEPFAR) is celebrating its 15th anniversary in 2018. Over the past 15 years, PEPFAR has dramatically changed the landscape of the global response to HIV, and bipartisan support across successive administrations since its launch has continued to ensure that PEPFAR expands it work towards controlling the AIDS epidemic.
Launched with an initial budget of US$ 15 billion over its first five years, PEPFAR has gone on to commit US$ 70 billion to the AIDS response. The funding has had remarkable results: in 2017, PEPFAR was supporting 13.3 million of the 21.7 million people living with HIV on treatment, including 1 million children, and in May 2018 announced that more than 14 million were on treatment.
PEPFAR has funded major HIV prevention programmes. The preventative effect of voluntary medical male circumcision on HIV transmission has been ramped up by funding more than 15.2 million circumcisions since 2003. Prevention of mother-to-child transmission of HIV services have ensured that 2.2 million babies have been born HIV-free, while 85.5 million people have accessed HIV testing services, allowing the people taking the tests to start on treatment or access HIV prevention services to stay HIV-free.
PEPFAR’s work with children orphaned or otherwise made vulnerable by HIV resulted in more than 6.4 million children being supported by PEPFAR in 2017, while the PEPFAR DREAMS programme saw new HIV infections among adolescent girls and young women drop by 25–40% in those locations in which the programme was implemented.
On 27 September PEPFAR published its 2018 progress report, showing the progress made one year into its 2017–2020 strategy. PEPFAR supports the AIDS response in 53 countries—of those, 13 are already on track to control their HIV epidemics by 2020, while many more could still do so through scaling up resources and policies to ensure access to HIV prevention and treatment services.
“The contributions of PEPFAR have transformed the lives of people living with or affected by HIV around the world,” said Michel Sidibé, Executive Director of UNAIDS. “We are very proud of our longstanding partnership and look forward to continuing to work closely together to deliver results for men, women and children, particularly the most marginalized.”