米疾病予防管理センター(CDC)のVital SignのHIV特集は、実はAFP日本語サイトの記事からネット検索をたどりたどって知りました。そのAFP記事の見出しは《米HIV感染者の7割、検査や治療受けず 調査報告》となっていますが、これはちょっと誤解を招くのではないかという印象も受けます。
恩を仇で返すような言い方で申し訳ありません。誤解のないように付け加えておけば、記事の本文には見出しのようなかたちではなく、《感染者の70%が、ウイルスの管理を適切に行っておらず、感染のリスクを増加させているとした調査報告》と紹介されています。ところが、見出しだけ読むと米国では7割のHIV陽性者が検査も治療も受けていないのではないかという印象になってしまう。
個人的にそんな感じがしたので、英文ではどうなのだろうかかと検索してみると、たぶんこの記事を日本語に訳したのでしょうね。
Most US HIV cases not under control
http://www.afp.com/en/news/most-us-hiv-cases-not-under-control
なるほど。そういうことか。日本語訳の段階で、少しニュアンスが変わっちゃったわけですね。
検査によってHIV感染から早期の段階で感染していることを知り、治療やケア、支援につなげられるようにする。これが大事なことは米国でも日本でも共通の課題なのだと思いますが、米国の場合は、感染が分かった人が必ずしも治療を受けるようになっていない。いったんは治療を開始しても、継続できていないケースも多い。この点により大きな課題を抱えているように思えます。
一方、日本では検査を受けて感染していることを知るといういわば、入り口の段階で「どのようにすれば感染を心配する人が安心して検査を受けられるようにできるのか」という点が大きな課題とされています。
こうした事情が見出しの微妙な差異にも、あまり意識されないまま出ているのかもしれませんね。もちろん、日本でも検査普及に力を入れれば入れるほど、その後のフォローがどうなっているのかが問われることになります。この部分は保健医療関係者だけでなく、エイズ対策の長い歴史の中で一貫して、そして最も現場に近いところで社会的な課題に取り組んできたNPOやNGO、そしてHIV陽性者自身が中心的に運営を担う組織によって支えられてきました。
ところが・・・、と個人的にはだんだん声が小さくなってしまうような感じで恐縮ですが、いまそうした部分に対する理解や支援は弱まりつつあるような気がしてなりません。日本の場合は、新宿二丁目のコミュニティセンターaktaですら存亡の危機に立たされ、署名活動をしなければならない。そんな状態です。
そのaktaを訪れたピーター・ピオット博士(前国連合同エイズ計画事務局長)は次のように語っていました。前にも書いたことがありますが、世界エイズデーの前日ということでもあるし、改めて紹介しておきましょう。
http://ironna.jp/article/554
《また、最近は治療の普及が予防対策にもたらす効果を強調するあまり、コミュニティレベルの地道な活動を軽視する傾向が見られることに危惧の念を示し「公的なエイズ対策では医学面での対応が強調され、コミュニティの大切さが十分に訴えられていない。ヨーロッパやアメリカでもコミュニティ活動への支援が減額されている。こうした傾向が続くようだと、これまで以上に多くの人が感染することにもなりかねない。そうならないよう、皆さんの活動を知って、それを伝えるメガフォンになりたい」と語った》
それぞれが抱える課題の差異と共通性をともににらんで考えていく必要があります。