90-90-90どころか、米国は・・・

 HIV治療により体内のウイルス量を低く保つことができれば、HIVに感染しても平均寿命と同じくらい長く生きていけるようになったし、性行為などで他の人にHIVが感染するリスクも大きく低下する。ただし、米国内の推定120万人のHIV陽性者のうち、そのために必要な治療を受けている人は4割、実際にウイルス量を低く保つことができている人となると3割にとどまっている・・・。

 健康医療分野の様々な課題を取り上げ、図表などを使って分かりやすく説明する米疾病予防管理センター(CDC)のオンライン月刊レポート「Vital Signs」が、11月はHIV検査、治療の普及の必要性を特集しています。その文字説明の部分を日本語に訳し、3回に分けて、HATプロジェクトのブログに掲載しました。

 CDC バイタルサインズ 生命を救うHIVケア(その1)
 http://asajp.at.webry.info/201411/article_7.html

 CDC バイタルサインズ 生命を救うHIVケア(その2)
 http://asajp.at.webry.info/201411/article_8.html

 CDC バイタルサインズ 生命を救うHIVケア(その3)
 http://asajp.at.webry.info/201411/article_9.html

 この日本語仮訳は文字情報だけですが、実際のCDCのページにはグラフィックがふんだんに使われ、非常に見やすくなっています。日本語仮訳を参考にしながら、CDCサイトの下記ページでグラフなどをご覧ください。
 http://www.cdc.gov/vitalsigns/hiv-aids-medical-care/index.html

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 ざくっと説明すると、米国内の120万人のHIV陽性者のうち86%はすでに検査を受けて自分が感染していることを知っているけれど、実際に治療を受けている人は40%にとどまっており、治療の成果で体内のウイルス量が低く抑えられている人となると30%しかいないということです。

 日本では検査を受けずにいるHIV陽性者が多く、感染を心配する人がなんとかもっと早期にHIV検査を受けるようにならないかということが対策の焦点としてしばしば語られます。大して根拠のない私の感想ですが、HIVに感染している人の半分くらいは検査を受けているのではないかと思うのですが、どうでしょうか。

 日本では検査を受けていないので自分のHIV感染を知らないままエイズ発症の時期を迎え、発症して初めてHIVに感染した人が分かるという人の割合が、毎年の新規HIV感染者・エイズ患者報告の約30%を占めています。それを考えると、検査でHIV感染が確認できている人よりも、HIVに感染していることを知らずにいるHIV陽性者の方がまだ多いかもしれません。

 だから、もっと検査の普及を急がねばという議論が出てくるときに、米国では陽性者の8割がもう検査を受けて感染を確認できていますよと得々と語り、それに引き替え日本はいかに遅れていることかと、何が嬉しいのか日本をけなして満足している人もいるようです。

 ただし、今回のCDCのサイトのような情報に接すると、なんだ、検査で感染が把握できたって、その後がこの状態じゃあ、日本の方がよっぽどましじゃないよと思いたくもなります・・・おっとっと、どっちがダメで、どっちがエラいといった話ではありませんね。日本には日本の課題があり、米国には米国の課題がある。それぞれの問題点を把握し、それを克服していく努力が必要です。

 米国の場合、検査の普及度はかなり高いけれど、感染が分かっても治療につながらない(あるいは、いったんつながっても続かない)人が多いことが大きな問題点となっています。これでは国連合同エイズ計画(UNAIDS)の90-90-90など夢のまた夢ですね。

 治療の進歩は素晴らしい。でも、30年を超えるHIV/エイズとの闘いで得られた教訓を無視して、治療だけで、あるいは医療の問題として対応するだけで、何とかなると思ったら大間違いであることは、あまりにも当たり前すぎて言うのも愚かな気がしないこともないけれど、こういうときには嫌がられるのを承知で言っておかないとだめでしょうね。

 明日12月1日は世界エイズデー。日本の国内啓発キャンペーンのテーマは「AIDS IS NOT OVER~まだ終わっていない~」です。米国向けにも発信しておきたい気分ですね。